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食べないと何が増える?―インスリンが下がると燃え始めるケトン体の仕組み

第110回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第18問

摂食量の低下が持続した際に血液中の濃度が上昇するのはどれか。

  1. a.尿素窒素
  2. b.ケトン体
  3. c.インスリン
  4. d.アルブミン
  5. e.トリグリセリド

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事が十分にとれない状態が続いたとき、体の代謝がどう切り替わるかを問う問題だ。カギは「インスリンが下がると何が起こるか」。ここを起点に考えれば選択肢はすっきり整理できるよ。まず、食べる量が減ったとき最初に起こることは何かな。
医学生医学生
血糖が下がり気味になるので、インスリン分泌が減って、グルカゴンが増えると思います。
ドクタードクター
その通り。グルカゴンのほか、カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモンといったインスリン拮抗ホルモンが優位になる。最初の1日ほどは肝臓のグリコーゲンを分解して血糖を保つけれど、肝グリコーゲンはおよそ1日でほぼ使い切ってしまう。そのあとはどうなると思う?
医学生医学生
生化学の講義で習った糖新生ですね。アミノ酸や乳酸、グリセロールからブドウ糖を作るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。そしてもう一つ大事なのが脂肪の分解。インスリンが下がると脂肪組織のホルモン感受性リパーゼが働き出し、中性脂肪が遊離脂肪酸とグリセロールに分解される。遊離脂肪酸は肝臓でβ酸化を受けてアセチルCoAになるけれど、処理しきれない分からケトン体が作られて血中に出ていくんだ。
医学生医学生
ということは、上昇するのはケトン体ですね。
ドクタードクター
正解。アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの3つがケトン体で、数日の絶食で血中濃度は著明に上がり、尿ケトン体も陽性になる。脳や心筋、骨格筋がこれをエネルギー源として使うんだ。ほかの選択肢も確認しよう。インスリンはどうかな。
医学生医学生
血糖が下がれば分泌も減るので、低下ですね。むしろインスリン低下がケトン体産生の引き金になっている、という関係でしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。因果関係で理解しておくと応用が利く。では尿素窒素はどうだろう。
医学生医学生
筋蛋白を分解して糖新生に回すなら、尿素が増えて上がりそうな気がします。
ドクタードクター
鋭い引っかかりだね。実際、飢餓の初期には筋蛋白分解で尿素産生が一時的に増えることもある。でも飢餓が長引くと、脳もケトン体を燃料として使えるようになり、ブドウ糖の需要が減る。その結果、筋蛋白の分解が抑えられて蛋白が温存されるんだ。加えて蛋白摂取そのものが減るので、持続的な摂食低下では尿素窒素はむしろ低下する方向に向かう。
医学生医学生
ケトン体には蛋白を守る役割もあるんですね。脱水や消化管出血でBUNが上がる、と腎臓内科の実習で教わったので、そちらと区別が必要そうです。
ドクタードクター
その視点は臨床でとても大事だよ。次にアルブミン。これは肝臓で作られる血漿蛋白で、材料が不足すれば低下する。ただ半減期が約3週間と長いので、短期の変化は反映しにくい。
医学生医学生
NSTの回診で、短期の栄養評価にはプレアルブミンを見ると聞きました。
ドクタードクター
そう、プレアルブミン(トランスサイレチン)やトランスフェリン、レチノール結合蛋白といった急速代謝回転蛋白が短期の評価に向いている。アルブミンは炎症や肝疾患、ネフローゼでも下がるから、解釈には注意が必要だね。最後にトリグリセリドは?
医学生医学生
脂肪分解が進むなら上がりそうにも思えますが…。
ドクタードクター
そこが落とし穴。脂肪組織で分解されて増えるのは遊離脂肪酸のほうで、血中のトリグリセリドは食事由来のカイロミクロンや肝臓で作られるVLDLに含まれるものだ。摂食が減ればカイロミクロンは減り、インスリン低下で肝臓での脂肪合成も減るので、低下する方向に向かう。「分解される側」と「分解されてできる側」を区別しよう。
医学生医学生
増えるのは遊離脂肪酸とケトン体、減るのはインスリン、トリグリセリド、アルブミン、尿素窒素と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、ケトン体が増える病態も押さえておこう。糖尿病ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、小児のアセトン血性嘔吐症、それにSGLT2阻害薬使用時の正常血糖ケトアシドーシス。血糖が高くなくてもケトアシドーシスになりうる点は臨床で見落とされやすい。それから尿試験紙はアセト酢酸とアセトンを検出し、3-ヒドロキシ酪酸は拾わないことも覚えておきたい。
医学生医学生
長く食べられていなかった患者さんに栄養を再開するときも注意が必要でしたよね。
ドクタードクター
そう、リフィーディング症候群だ。急に栄養を入れるとインスリン分泌が再開し、リン・カリウム・マグネシウムが細胞内に移動して、低リン血症から心不全や不整脈、意識障害を起こすことがある。低栄養の患者さんには少量から慎重に始めて、電解質をこまめに確認することが大切だ。

まとめ

摂食量の低下が続くと、血糖低下によりインスリン分泌が減少し、グルカゴンやカテコラミンなどのインスリン拮抗ホルモンが優位になります。その結果、脂肪組織で中性脂肪が分解されて遊離脂肪酸が放出され、肝臓でのβ酸化を経てケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が産生されて血中濃度が上昇します。一方、インスリンは低下し、トリグリセリド、アルブミン、尿素窒素は摂取低下や蛋白温存の適応により低下する方向に向かい、アルブミンは半減期が長いため短期評価にはプレアルブミンなどが適します。ケトン体上昇は糖尿病ケトアシドーシスやSGLT2阻害薬による正常血糖ケトアシドーシスなどでもみられ、低栄養患者への栄養再開ではリフィーディング症候群に注意が必要です。インスリンを軸に飢餓時の代謝の切り替えを理解しておくことは、栄養管理や代謝性疾患の診療の基礎となります。

解答・解説

正解はbです

摂食量が減った状態(飢餓・低栄養)で体内の代謝がどう切り替わるかを問う問題である。

飢餓時の代謝の流れ

①食事からの糖が入らなくなると血糖が下がり、膵β細胞からのインスリン分泌が低下する。代わりにグルカゴン、カテコラミン(アドレナリンなど)、コルチゾール、成長ホルモンといったインスリン拮抗ホルモンが優位になる。 ②初期(絶食後およそ1日以内)は、肝臓に蓄えたグリコーゲンを分解して血糖を保つ。肝グリコーゲンは1日程度でほぼ枯渇する。 ③その後は肝臓での糖新生が主となる。原料は筋蛋白の分解で生じるアミノ酸(主にアラニン)、脂肪分解で生じるグリセロール、乳酸である。 ④インスリン低下とグルカゴン・カテコラミン上昇によって脂肪組織のホルモン感受性リパーゼが活性化し、中性脂肪(トリグリセリド)が遊離脂肪酸とグリセロールに分解される。遊離脂肪酸は肝臓に運ばれてβ酸化を受け、生じたアセチルCoAからケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸〔β-ヒドロキシ酪酸〕、アセトン)が合成される。 ⑤飢餓が長引くと、脳もケトン体をエネルギー源として利用するようになり、ブドウ糖の需要が減る。その結果、糖新生のための筋蛋白分解が抑えられ、生命維持に必要な蛋白質が温存される。 したがって、摂食量の低下が持続すると血中濃度が明らかに上昇するのはケトン体である。インスリンは低下し、蛋白質・脂質の摂取低下を反映して尿素窒素、アルブミン、トリグリセリドは低下する方向に向かう。

選択肢考察

  1. ×a.  尿素窒素

    血中尿素窒素(BUN)は、蛋白質(アミノ酸)が代謝されて肝臓の尿素回路で作られる尿素に含まれる窒素量を表す。蛋白質の摂取量に大きく左右され、高蛋白食で上昇し、蛋白摂取が減れば低下する。飢餓の初期には糖新生のための筋蛋白分解で尿素の産生が一時的に増えることもあるが、飢餓が持続すると前述の蛋白温存の適応が働き、尿素の産生はむしろ減る。したがって摂食量低下の持続で上昇する指標とはいえない。なお、脱水や消化管出血、腎機能低下ではBUNが上昇するため、評価時にはそれらの影響を区別する必要がある。

  2. ○b.  ケトン体

    摂食量が減るとインスリンが低下し、グルカゴンやカテコラミンが優位となって脂肪組織での脂肪分解が亢進する。放出された遊離脂肪酸は肝臓でβ酸化され、生じたアセチルCoAが処理しきれない分、ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が合成されて血中に放出される。インスリン低下は肝臓のβ酸化・ケトン体産生を促進する方向にも働く。数日間の絶食で血中ケトン体は著明に上昇し、尿ケトン体も陽性となる。ケトン体は脳・心筋・骨格筋のエネルギー源として利用され、飢餓時の重要な代替燃料となる。

  3. ×c.  インスリン

    インスリンは主に血糖の上昇に反応して膵β細胞から分泌されるホルモンである。摂食量が減って血糖が低下傾向になると、インスリン分泌は抑制されて血中濃度は低下する。このインスリンの低下こそが、脂肪分解やケトン体産生を進める引き金となる。

  4. ×d.  アルブミン

    アルブミンは肝臓で合成される主要な血漿蛋白であり、栄養状態の指標として用いられる。摂食量低下(特に蛋白質・エネルギーの不足)が続くと、合成の材料不足により血中濃度は低下する。ただし半減期が約3週間と長いため、短期間の栄養状態の変化は反映しにくい。短期の評価にはプレアルブミン(トランスサイレチン、半減期約2日)、トランスフェリン(約7日)、レチノール結合蛋白(約0.5日)などの急速代謝回転蛋白(RTP)が用いられる。また炎症・肝疾患・ネフローゼ症候群などでも低下するため、解釈には注意を要する。

  5. ×e.  トリグリセリド

    血中トリグリセリド(中性脂肪)は、食事由来の脂肪を運ぶカイロミクロンと、肝臓で合成されるVLDL(超低比重リポ蛋白)に含まれる。脂肪や糖質の摂取で上昇し、摂食量が減ればカイロミクロンは減少し、インスリン低下に伴い肝臓での脂肪合成も減るため、低栄養が持続すると血中濃度は低下する方向に向かう。飢餓時に増えるのはトリグリセリドではなく、脂肪組織からトリグリセリドが分解されて放出される遊離脂肪酸である。

ケトン体の基礎

・構成:アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトン。アセトンは揮発性で呼気に出るため、ケトーシスでは果実様の呼気臭がみられる。 ・産生:肝臓のミトコンドリアで、脂肪酸のβ酸化により生じたアセチルCoAから合成される。肝臓自体は3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼを欠くため、ケトン体を利用できない。 ・利用:脳、心筋、骨格筋、腎臓などでアセチルCoAに戻され、TCA回路でエネルギーとなる。 ・尿試験紙(ニトロプルシド反応)はアセト酢酸とアセトンを検出し、3-ヒドロキシ酪酸は検出しない。

ケトン体が上昇する主な病態

・飢餓・絶食、低炭水化物食(生理的ケトーシス) ・糖尿病ケトアシドーシス(インスリンの絶対的欠乏) ・アルコール性ケトアシドーシス ・小児のアセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐症) ・SGLT2阻害薬使用時(血糖が高くないままケトアシドーシスに至る「正常血糖ケトアシドーシス」に注意)

飢餓時のホルモンと代謝の変化のまとめ

・低下:インスリン、血糖(軽度)、トリグリセリド、アルブミン(長期)、甲状腺ホルモンのT3(低T3症候群) ・上昇:グルカゴン、カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモン、遊離脂肪酸、ケトン体 ・エネルギー源の移行:グリコーゲン(約1日)→ 糖新生(アミノ酸・グリセロール・乳酸)→ 脂肪酸・ケトン体中心(蛋白質は温存)

関連:リフィーディング症候群

長期の低栄養状態の患者に急に栄養を投与すると、インスリン分泌の再開により細胞内へリン・カリウム・マグネシウムが移動し、低リン血症などから心不全・不整脈・意識障害を起こすことがある。低栄養患者への栄養再開は少量から慎重に行う。

POINT

・摂食量低下 → インスリン低下・グルカゴン上昇 → 脂肪分解亢進 → 遊離脂肪酸のβ酸化 → ケトン体上昇。 ・飢餓時に上昇:ケトン体、遊離脂肪酸、グルカゴン、カテコラミン、コルチゾール。 ・飢餓時に低下:インスリン、トリグリセリド、アルブミン、尿素窒素(蛋白摂取低下)。 ・長期飢餓では脳もケトン体を利用し、筋蛋白の分解が抑えられる。 ・アルブミンは半減期約3週間で、短期の栄養評価にはRTP(プレアルブミンなど)が適する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。