StudyMed医師国家試験

「治す」より「生きる」を支える―リハビリテーションの原則を見直す

第120回医師国家試験 C問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第19問

リハビリテーションの原則で誤っているのはどれか。

  1. a.発症早期から開始する。
  2. b.患者自身の意思を尊重する。
  3. c.患者のQOLの向上を目的とする。
  4. d.障害の軽減より疾患の治癒を優先する。
  5. e.ゴールは患者,家族,専門家からなるチームで共有する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はリハビリテーションの原則を問う問題で、誤っているものを選ぶ形式だ。カギになるのは、リハビリテーションが何を対象とする医療なのかという視点。まず、リハビリテーションと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
理学療法士さんと一緒に歩行訓練をしたり、筋力トレーニングをしたりするイメージです。
ドクタードクター
多くの人がそう思うけれど、それは一部にすぎない。リハビリテーションという言葉はラテン語のre(再び)とhabilis(ふさわしい)に由来していて、「全人間的復権」と訳されることもある。障害のある人が身体的・心理的・社会的・職業的に最大限の能力を発揮し、社会に参加できるよう支援する過程全体を指すんだ。
医学生医学生
運動の訓練だけでなく、その人の生活や社会復帰まで含むということですね。
ドクタードクター
その通り。ここで大事なのが「疾患モデル」と「障害モデル」の違いだ。一般的な医学は病気の原因を診断して治癒させることを目標にする。一方、リハビリテーション医学は病気の結果として生じた生活上の困難、つまり障害に目を向けて、それを軽減し、生活と社会参加を立て直すことを目標にする。
医学生医学生
そうすると、「障害の軽減より疾患の治癒を優先する」というのは疾患モデルの考え方で、リハビリテーションの原則とは逆になりますね。
ドクタードクター
正解。これが誤っている記述だ。リハビリテーションは、疾患が治らない場合や後遺症が残る場合でも、障害を軽減して生活機能を高めることを目指す。疾患の治療と並行して行うもので、治癒を待ってから始めるものではないんだ。
医学生医学生
でも、病気の治療を後回しにしていいわけではないですよね。急性期に無理に動かすのは危ない気もします。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。訓練を安全に行うには全身状態の安定とリスク管理が前提で、疾患治療を軽視するわけではない。ただ、原則として治癒を障害の軽減より優先するという考え方は、リハビリテーションの理念とは相いれない。では、発症早期から開始するという原則はなぜ大切だと思う?
医学生医学生
臨床実習で脳卒中の患者さんが入院翌日からベッドサイドで関節を動かしてもらっていました。寝たきりで体が弱るのを防ぐためでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。安静臥床が続くと、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、心肺機能の低下、せん妄などの廃用症候群が起こる。これは本来の病気とは別の二次的な障害で、回復を大きく妨げてしまう。だから全身状態を確認しながら、急性期から体位変換や関節可動域訓練、座位・離床を進めるんだ。
医学生医学生
患者さん自身の意思を尊重するのも、OSCEの医療面接で習った患者中心の医療と同じ考え方ですね。
ドクタードクター
そうだね。リハビリテーションの目標は、本人がどんな生活を送りたいかで決まる。それに訓練の効果は本人の主体的な取り組みに大きく左右されるから、納得してもらって意欲を引き出すことが欠かせない。そして最終目的はQOLの向上だ。機能障害そのものの改善には限界があっても、補装具や福祉用具、代償的な動作、住環境の整備、社会資源の活用でADLや社会参加は高められる。
医学生医学生
チームで目標を共有するという点では、患者さんや家族もチームの一員に入るんですね。
ドクタードクター
その通り。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員などの多職種に、患者と家族が加わってカンファレンスで評価と目標を共有する。退院先まで見据えて一貫した支援ができるわけだ。
医学生医学生
障害の捉え方として、公衆衛生の講義でICFという分類を習いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。以前の国際障害分類(ICIDH)は、機能障害、能力障害、社会的不利という病気の結果のマイナス面に注目していた。2001年の国際生活機能分類(ICF)では、生活機能を心身機能・身体構造、活動、参加の3つの次元で捉え、環境因子と個人因子という背景因子との相互作用で考える。できることにも目を向けた中立的なモデルなんだ。
医学生医学生
病期によって、リハビリテーションの役割も変わりますか。
ドクタードクター
変わるよ。急性期は廃用の予防と早期離床、回復期は回復期リハビリテーション病棟などでADLの集中的な改善と在宅復帰、生活期は介護保険の通所・訪問リハビリテーションなどで機能の維持と社会参加の継続が中心になる。どの段階でも、その人らしい生活を支えるという軸は変わらない。

まとめ

リハビリテーションは疾患の治癒を目標とする疾患モデルとは異なり、病気の結果として生じた障害に目を向け、それを軽減して生活と社会参加を再建することを目指す障害モデルの医療です。原則は、廃用症候群を防ぐための早期開始、本人の意思の尊重、QOLの向上という最終目的、そして患者・家族を含む多職種チームでの目標共有であり、「障害の軽減より疾患の治癒を優先する」という考え方はこの理念と逆です。リハビリテーションは疾患の治療と並行して行い、全身状態の安定とリスク管理を前提としつつ、治癒を待たずに始めます。障害の捉え方はICFで心身機能・身体構造、活動、参加と背景因子の相互作用として整理されています。病期を問わず、その人らしい生活を支えるという視点は、どの診療科の医師にとっても患者を診る基本となります。

解答・解説

正解はdです

リハビリテーションとは

リハビリテーション(rehabilitation)は、ラテン語の re(再び)と habilis(ふさわしい、適した)に由来する語で、「人間らしく生きる権利の回復(全人間的復権)」と訳されることもある。単に運動機能を訓練することではない。疾病や外傷によって生じた障害をもつ人が、身体的・心理的・社会的・職業的に、その人にとって最大限の能力を発揮し、社会に参加できるよう支援する過程全体を指す。

疾患モデルと障害モデル

・一般的な医学(疾患モデル):病気の原因を診断し、治癒させることを目標とする。 ・リハビリテーション医学(障害モデル):病気の結果として生じた生活上の困難(障害)に目を向け、それを軽減し、生活と社会参加を再建することを目標とする。 障害の捉え方は、WHOの国際生活機能分類(ICF)で整理されている。心身機能・身体構造、活動、参加の3つの次元と、これらに影響する背景因子(環境因子・個人因子)から成る。

原則から考える

リハビリテーションの原則は次のようにまとめられる。 ・早期から開始する。 ・本人の意思と個別性を尊重する。 ・最終目的はQOL(生活の質)の向上である。 ・多職種チームと患者・家族で目標を共有する。 「疾患の治癒を障害の軽減より優先する」という考え方は、疾患モデルの発想である。治癒を待ってから障害に取り組む、あるいは治癒しなければ意味がない、という考え方はリハビリテーションの理念と相いれない。したがって誤っている記述は「障害の軽減より疾患の治癒を優先する」である。

選択肢考察

  1. ×a.  発症早期から開始する。

    正しい記述である。安静臥床が続くと、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、心肺機能の低下、せん妄・認知機能低下などの廃用症候群(生活不活発病)が生じる。これらは本来の疾患とは別に生じる二次的な障害で、回復を大きく妨げる。脳卒中や大腿骨近位部骨折、集中治療中の患者などでは、全身状態の安定を確認しながら急性期から体位変換、関節可動域訓練、座位・離床を始める。これにより合併症が減り、機能予後が改善する。

  2. ×b.  患者自身の意思を尊重する。

    正しい記述である。リハビリテーションの目標は、本人がどのような生活を送りたいかによって決まる。そのため、本人の価値観・希望・生活歴をふまえて目標を設定し、自己決定を尊重する。訓練の効果は本人の主体的な取り組みに大きく左右されるので、意欲を引き出し、納得のうえで協働して進めることが不可欠である。

  3. ×c.  患者のQOLの向上を目的とする。

    正しい記述である。機能障害そのものの改善には限界があることが多い。それでも、補装具・福祉用具の活用、代償的な動作の習得、住環境の整備、社会資源の利用などによって、日常生活動作(ADL)や社会参加は高めることができる。機能の数値だけでなく、その人がその人らしく生活できること、すなわちQOLの向上が最終目的である。

  4. ○d.  障害の軽減より疾患の治癒を優先する。

    誤っているので、これが正解である。リハビリテーションは障害を対象とする医療であり、疾患が治癒しない場合や後遺症が残る場合にも、障害を軽減して生活機能を高めることを目指す。疾患の治療と並行して早期から行うのが原則で、治癒を待ってから始めるものではない。もちろん、訓練を安全に行うためには全身状態の安定やリスク管理が前提となり、疾患治療を軽視するわけではない。しかし、原則として「治癒を障害の軽減より優先する」とするのは、リハビリテーションの理念と逆である。

  5. ×e.  ゴールは患者,家族,専門家からなるチームで共有する。

    正しい記述である。リハビリテーションは、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー(MSW)、管理栄養士、介護支援専門員などの多職種によるチーム医療で行われる。患者と家族もチームの一員であり、カンファレンスなどで評価と目標(短期目標・長期目標、退院先など)を共有する。そうすることで一貫した支援ができ、在宅復帰後の生活にもつながる。

障害の分類の変遷

・国際障害分類(ICIDH, 1980年):障害を「機能障害 → 能力障害(能力低下) → 社会的不利」の3つの階層で捉えた。病気の結果としてのマイナス面に注目するモデルである。 ・国際生活機能分類(ICF, 2001年):生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元で捉え、それぞれが妨げられた状態を機能障害・活動制限・参加制約とよぶ。これらは健康状態や背景因子(環境因子・個人因子)と相互に影響し合う。できることにも目を向けた中立的なモデルである。

リハビリテーションの4つの分野

医学的リハビリテーション、教育的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、社会的リハビリテーション。

病期によるリハビリテーションの流れ

・急性期:廃用の予防と早期離床。 ・回復期:回復期リハビリテーション病棟などで、ADLの集中的な改善と在宅復帰を目指す。 ・生活期(維持期):介護保険サービス(通所・訪問リハビリテーション)などで、獲得した機能を維持し、社会参加を続ける。

その他の原則

個別性の重視、障害の階層性をふまえた介入(機能そのものへのアプローチと、代償・環境調整へのアプローチ)、ADLを意識した訓練、運動学習理論にもとづく反復練習などが挙げられる。

POINT

・リハビリテーションは障害(生活機能の低下)を対象とし、QOLの向上と社会参加を目指す。疾患の治癒を目標とする医学とは視点が異なる。 ・原則は、早期開始(廃用症候群の予防)、本人の意思の尊重、多職種チームと患者・家族による目標の共有である。 ・疾患の治療と並行して行い、治癒を待ってから始めるものではない。 ・ICF:心身機能・身体構造、活動、参加と、背景因子(環境・個人)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。