StudyMed医師国家試験

真っ白な一瞬の後に何が見える?―嚥下内視鏡で誤嚥を見抜く

第110回医師国家試験 D問題 第6問

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第110回 D問題 第6問

誤嚥を疑う嚥下内視鏡検査の所見はどれか。

  1. a.声帯麻痺
  2. b.食塊の喉頭侵入
  3. c.鼻咽腔閉鎖不全
  4. d.ホワイトアウト
  5. e.喉頭蓋谷への食塊貯留

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、嚥下内視鏡検査で「誤嚥を疑う所見」を選ぶ問題だ。ポイントは、誤嚥しやすくなる原因の所見、嚥下障害を示す所見、そして食塊が実際に気道側へ入ったことを示す所見を区別することだよ。
医学生医学生
嚥下内視鏡は、鼻からファイバーを入れて飲み込みを上から見る検査ですよね。
ドクタードクター
そう。細い軟性内視鏡を鼻腔から入れて咽頭と喉頭を観察しながら、着色水やゼリーを飲み込んでもらう。ベッドサイドでできて被曝がなく、実際の食事で繰り返し評価できるのが強みだ。ただし弱点が一つある。嚥下の瞬間、何が起こるか知っているかな。
医学生医学生
それがホワイトアウトですか。画面が白くなるのは、何か異常が起きているのかと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。嚥下反射の瞬間に咽頭が収縮して、内視鏡の先端が粘膜に接するから視野が一瞬白く飛ぶ。つまりホワイトアウトは、正常に嚥下反射と咽頭収縮が起きている証拠なんだ。むしろ嚥下を指示してもホワイトアウトが起こらないほうが、嚥下反射の惹起不全や咽頭収縮力の低下を疑う異常所見になる。
医学生医学生
逆に考えるんですね。でも、そうすると誤嚥の瞬間そのものは見えないことになりませんか。
ドクタードクター
鋭いね。そこが嚥下造影検査との大きな違いだ。造影検査なら透視で口腔から食道まで全過程を側面から追えるから、誤嚥の瞬間も確認できる。内視鏡では、嚥下の前後に喉頭の中へ食塊が入り込んでいるかどうかから誤嚥を推定するんだ。
医学生医学生
それで、食塊の喉頭侵入が正解ということですね。
ドクタードクター
その通り。正常な嚥下では、喉頭挙上、喉頭蓋の反転、声門閉鎖で喉頭の入口が塞がれ、食塊は喉頭に入らない。喉頭内に食塊があるのは気道防御が破綻しているということで、そのまま声門を越えて気管に入る危険が高い。だから選択肢の中では誤嚥を最も直接的に示唆する所見になる。
医学生医学生
生理学の講義で、喉頭侵入と誤嚥は言葉が違うと習った気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。厳密には、食塊が声門より上の喉頭前庭にとどまるのが喉頭侵入、声門を越えて気管へ入るのが誤嚥だ。用語の区別は押さえつつ、内視鏡では喉頭内の食塊を誤嚥の手がかりとして扱う、と理解しておこう。
医学生医学生
声帯麻痺も、声門が閉じなければ誤嚥につながるので正解に見えてしまいました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。声帯麻痺では声門閉鎖が不完全になり誤嚥しやすい状態になるから、観察すべき重要な所見ではある。でもそれは危険因子であって、食塊が気道に入ったことを示すものではない。声帯麻痺があっても誤嚥しない人は多いんだ。
医学生医学生
鼻咽腔閉鎖不全は、食べ物が鼻に逆流する所見ですよね。
ドクタードクター
そう。軟口蓋が挙上して鼻咽腔を閉じられないと、食塊や水分が鼻腔へ逆流し、嚥下圧が十分に作れず咽頭残留の一因にもなる。軟口蓋麻痺や口蓋裂でみられるけれど、食塊の行き先は鼻腔であって気道ではない。
医学生医学生
喉頭蓋谷への貯留は、あふれれば喉頭に流れ込みそうなので、かなり怪しく感じます。
ドクタードクター
その感覚は臨床的には正しいよ。喉頭蓋谷や梨状陥凹の残留は、嚥下反射の遅れや舌根の後退不良、咽頭収縮力低下を示す嚥下障害の所見で、多量なら後に誤嚥につながりうる。ただ、それ自体はまだ咽頭に残っている状態で、健常者でも少量の残留はみられることがある。誤嚥をより直接示すのは、やはり喉頭内の食塊だ。
医学生医学生
原因、残留、侵入と段階を分けて考えると整理しやすいですね。
ドクタードクター
そうだね。最後に臨床で大事な点を一つ。咽頭や喉頭の知覚が落ちていると、誤嚥してもむせない不顕性誤嚥が起こる。高齢者や脳卒中後の患者に多く、誤嚥性肺炎の重要な原因だ。内視鏡で喉頭内に食塊があるのに咳反射が出なければ、それに気づける。
医学生医学生
リハビリテーション科の実習で、むせないから安全とは限らないと言われたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
その通り。だから内視鏡では先端で喉頭に触れて知覚を確かめることもある。むせの有無だけでなく、食塊がどこにあるかを見る習慣をつけておこう。

まとめ

嚥下内視鏡検査は鼻から挿入したファイバーで咽頭・喉頭を観察しながら実際に飲み込んでもらう検査で、ベッドサイドで被曝なく繰り返し行えますが、嚥下の瞬間はホワイトアウトで観察できません。そのため、本来入るはずのない喉頭内に食塊を認めることが、誤嚥を最も直接的に示唆する所見となります。ホワイトアウトは正常な嚥下反射の証拠であり、声帯麻痺は誤嚥の危険因子、鼻咽腔閉鎖不全は鼻腔逆流の原因、喉頭蓋谷の残留は咽頭残留を示す所見で、いずれも誤嚥そのものではありません。喉頭侵入と誤嚥の用語の区別や、むせを伴わない不顕性誤嚥の存在も押さえておくべき重要事項です。原因・残留・侵入を段階的に区別して所見を読む力は、誤嚥性肺炎の予防や食事形態の判断に直結します。

解答・解説

正解はbです

嚥下内視鏡検査とは

嚥下内視鏡検査(VE:videoendoscopic evaluation of swallowing、FEESとも呼ばれる)は、細径の軟性内視鏡を鼻腔から挿入し、上咽頭・中咽頭・下咽頭・喉頭を上方から観察しながら、実際に着色水やゼリーなどを飲み込んでもらって嚥下機能を評価する検査である。ベッドサイドで施行でき、被曝がなく、実際の食事を用いて繰り返し評価できるのが利点である。一方、嚥下反射が起こる瞬間は咽頭が収縮して内視鏡先端が粘膜に接し、視野が一瞬真っ白になる(ホワイトアウト)ため、嚥下の最中に食塊が気道へ入る瞬間そのものは観察できない。この点が、嚥下の全過程を側面から透視で追える嚥下造影検査(VF:videofluoroscopic examination of swallowing)との大きな違いである。

誤嚥をどう推定するか

用語を整理しておくと、食塊が喉頭前庭(喉頭の入口から声帯の上まで)に入ることを喉頭侵入(penetration)、声帯を越えて声門下・気管へ入ることを誤嚥(aspiration)という。VEでは嚥下の瞬間が見えないため、嚥下前後に喉頭内(喉頭前庭や声門付近)に食塊が入り込んでいる、あるいは嚥下後に声門下・気管内に着色した食塊が残っているといった所見から誤嚥を推定する。つまり、本来は入ってはならない喉頭内に食塊を認めることが、誤嚥を最も直接的に示唆する所見となる。

設問の考え方

選択肢には「誤嚥しやすくなる背景(原因)となる所見」や「嚥下障害を示唆するが誤嚥そのものではない所見」が混ざっている。誤嚥の有無を問う設問では、食塊が気道側に入り込んでいることを示す所見を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  声帯麻痺

    嚥下時には声門が閉鎖して気道を守る。声帯麻痺(反回神経麻痺など)では声門閉鎖が不完全になるため誤嚥を起こしやすい状態にあり、VEで観察すべき重要な所見の一つである。しかしこれは誤嚥の危険因子(原因)を示す所見であって、食塊が実際に気道に入ったことを示すものではない。声帯麻痺があっても誤嚥しない例は多く、声帯麻痺そのものを「誤嚥を疑う所見」とはいえない。

  2. ○b.  食塊の喉頭侵入

    正常な嚥下では、喉頭挙上・喉頭蓋の反転・声門閉鎖によって喉頭の入口が塞がれ、食塊が喉頭内に入ることはない。食塊が喉頭内に入り込んでいる所見は気道防御が破綻していることを意味し、嚥下前に直接流れ込む場合も、嚥下後に梨状陥凹などの残留物があふれて流入する場合も、そのまま声門を越えて気管に入る(誤嚥)危険が高い。VEでは嚥下の瞬間がホワイトアウトで見えないため、喉頭内の食塊は誤嚥を推定する最も直接的な手がかりとなる。厳密には声門上にとどまれば喉頭侵入、声門を越えれば誤嚥と区別されるが、選択肢の中で誤嚥を最も強く疑わせる所見はこれである。

  3. ×c.  鼻咽腔閉鎖不全

    嚥下時には軟口蓋が挙上して咽頭後壁と接し、鼻咽腔(上咽頭)を閉鎖する。これが不十分だと食塊や水分が鼻腔へ逆流し(鼻咽腔逆流)、また口腔・咽頭で十分な嚥下圧を作れないため咽頭残留の一因にもなる。軟口蓋麻痺や口蓋裂などでみられる。嚥下障害の所見ではあるが、食塊が向かう先は鼻腔であり、誤嚥を直接示す所見ではない。

  4. ×d.  ホワイトアウト

    ホワイトアウトは、嚥下反射の瞬間に咽頭筋が収縮して咽頭腔が狭くなり、内視鏡の先端が粘膜に接して視野が一瞬白く飛ぶ現象で、正常な嚥下反射と咽頭収縮が起きていることを示す所見である。したがって誤嚥を疑う所見ではない。逆に、嚥下を指示してもホワイトアウトが起こらない、あるいは不十分な場合は、嚥下反射の惹起不全や咽頭収縮力の低下が疑われる。

  5. ×e.  喉頭蓋谷への食塊貯留

    喉頭蓋谷は舌根と喉頭蓋の間のくぼみで、梨状陥凹とともに嚥下後の食塊が残留しやすい部位である。嚥下反射の惹起遅延、舌根の後退不良、咽頭収縮力の低下、咽頭知覚の低下などがあると残留が増え、嚥下障害を示唆する。多量の残留は後であふれて喉頭へ流れ込み、誤嚥につながる可能性があるが、それ自体は咽頭に食塊が残っている状態にすぎず、気道に入ったことを示すものではない。また健常者でも少量の残留はみられることがある。誤嚥をより直接的に示すのはbである。

嚥下の過程と気道防御

嚥下は一般に、先行期(認知)、準備期(咀嚼・食塊形成)、口腔期(咽頭への送り込み)、咽頭期(嚥下反射)、食道期の5期に分けて考えられる。咽頭期には、軟口蓋の挙上による鼻咽腔閉鎖、舌骨・喉頭の挙上、喉頭蓋の反転、声門閉鎖、咽頭収縮、食道入口部(輪状咽頭筋)の弛緩がほぼ同時に起こり、食塊は気道を避けて食道へ送られる。これらのいずれかが破綻すると誤嚥や咽頭残留が生じる。

VEで観察する主な項目

・安静時:鼻咽腔閉鎖、声帯の動き(麻痺の有無)、唾液や分泌物の貯留、咽頭・喉頭の知覚(内視鏡先端で触れて反射をみる)、器質的病変の有無 ・嚥下時:嚥下反射の惹起のタイミング、ホワイトアウトの有無 ・嚥下後:喉頭蓋谷・梨状陥凹の残留、喉頭侵入・誤嚥の有無、むせ(咳反射)の有無

VEとVFの比較

・VE:ベッドサイドで可能、被曝なし、実際の食物を使用可能、咽頭・喉頭の粘膜や声帯運動・分泌物が直接見える。ただし嚥下の瞬間(ホワイトアウト中)や口腔期・食道期は観察できない。 ・VF:造影剤入りの検査食を用いてX線透視下で口腔から食道まで嚥下の全過程を観察でき、誤嚥の瞬間も確認できる。ただし被曝があり、透視室への移動が必要である。

不顕性誤嚥

咽頭・喉頭の知覚が低下していると、誤嚥してもむせない(不顕性誤嚥、silent aspiration)。高齢者や脳血管障害後の患者に多く、誤嚥性肺炎の重要な原因である。VEでは喉頭内に食塊があるのに咳反射が出ないことで気づかれる。

POINT

・嚥下内視鏡検査(VE)で誤嚥を疑う所見は、食塊の喉頭内への侵入(および声門下・気管内の食塊)である。 ・ホワイトアウトは正常な嚥下反射・咽頭収縮を示す所見で、これがないことが異常である。 ・声帯麻痺は誤嚥の危険因子、鼻咽腔閉鎖不全は鼻腔逆流の原因、喉頭蓋谷・梨状陥凹の残留は咽頭残留を示す所見であり、いずれも誤嚥そのものの所見ではない。 ・喉頭侵入(声門上まで)と誤嚥(声門を越える)の用語の区別も押さえておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。