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「正常なら否定できる」はどの検査?―肺血栓塞栓症で学ぶ感度と除外診断

第110回医師国家試験 D問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第13問

異常がなければ高い確率で肺血栓塞栓症を否定できる検査はどれか。2つ選べ。

  1. a.心電図
  2. b.血清LD値
  3. c.血中Dダイマー
  4. d.胸部エックス線撮影
  5. e.肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肺血栓塞栓症を題材に、検査の「感度」と「特異度」の使い分けを問う問題だ。ポイントは問題文の「異常がなければ高い確率で否定できる」という言い回し。これがどんな性質の検査を指しているか、まず考えてみよう。
医学生医学生
正常なら否定できる……ということは、特異度が高い検査でしょうか。
ドクタードクター
そこは多くの人が引っかかるところだね。感度は「病気がある人のうち検査が陽性になる割合」、特異度は「病気がない人のうち陰性になる割合」だ。感度が高い検査は、病気があればほぼ必ず異常が出る。だから逆に異常が出なければ、病気がある可能性は低い。つまり除外に使えるのは感度の高い検査なんだ。
医学生医学生
あ、疫学の講義で習ったSnNoutですね。感度(Sn)の高い検査が陰性(N)なら除外(out)。特異度が高くて陽性なら確定に近づくのがSpPinでした。
ドクタードクター
その通り。ではこれを肺血栓塞栓症の病態に当てはめよう。多くは下肢や骨盤の深部静脈にできた血栓が飛んで肺動脈を詰まらせる病気だ。体内に血栓があると何が起こるかな。
医学生医学生
血栓ができると同時に、それを溶かそうとする線溶も働くはずです。だからフィブリンの分解産物が増えて……Dダイマーが上がりますね。
ドクタードクター
正解。血栓があればほぼ必ず線溶が動くから、Dダイマーは感度がとても高い。臨床的にそれほど疑わしくない患者でDダイマーが正常なら、肺血栓塞栓症は高い確率で否定でき、造影CTを省略できる。ただし手術後や外傷、悪性腫瘍、感染症、妊娠、高齢者、DICなど上がる場面が多すぎて、特異度は低い。陽性だけでは診断できない点に注意しよう。
医学生医学生
救急外来の実習で、Dダイマーが高いだけで研修医の先生がCTを迷っていたのはそういうことだったんですね。もう一つの正解はどれでしょう。
ドクタードクター
肺胞気-動脈血酸素分圧較差、A-aDO2だ。肺動脈が詰まると、換気はあるのに血流が来ない死腔ができ、残りの肺に血流が集中して換気血流比の不均衡が起こる。その結果、ガス交換が障害されてA-aDO2が開く。
医学生医学生
でも低酸素ならPaO2を見るだけで十分じゃないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。肺血栓塞栓症では過換気になってPaCO2が下がるから、計算上の肺胞気酸素分圧が上がり、PaO2の低下が目立たないことがある。A-aDO2はその両方を加味するので、PaO2単独より鋭敏にガス交換障害を捉えられる。この病気の大部分で開大するため、感度の高い指標とされているんだ。ただ、実臨床ではA-aDO2が正常範囲の症例も報告されているから、単独で除外に使うのは慎重にしたい。
医学生医学生
室内気ならPAO2はおよそ150からPaCO2を0.8で割った値を引いて求める、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。正常はおおむね10mmHg以下で、加齢とともに大きくなる。では残りの選択肢だ。心電図はどうだろう。
医学生医学生
SⅠQⅢTⅢが有名なので、心電図は大事な検査だと思っていました。
ドクタードクター
有名だけど、実際に一番多いのは洞性頻脈で、SⅠQⅢTⅢや右脚ブロック、右側胸部誘導の陰性T波といった右心負荷所見は、大きな塞栓で右心負荷が強いときに出やすい。小さな塞栓では正常のことも多く、感度が低いから正常でも否定できない。むしろ急性冠症候群など他の胸痛疾患の鑑別に役立つ検査だね。
医学生医学生
胸部エックス線もWestermark徴候やナックルサインを習いましたが、同じ理由で除外には使えないということですか。
ドクタードクター
そう。胸部エックス線は正常のことが少なくなく、所見があっても頻度が低く非特異的だ。むしろ「強い低酸素血症があるのに胸部エックス線がほぼ正常」という乖離が、肺血栓塞栓症を疑うきっかけになる。気胸や肺炎を見分けるのにも有用だよ。血清LDはどうかな。
医学生医学生
LDはいろいろな臓器に含まれているので、特異度が低そうです。肺血栓塞栓症で必ず上がるわけでもなさそうですね。
ドクタードクター
その通り。塞栓の先の肺組織が壊死する肺梗塞を伴えば上がることもあるけれど、肺梗塞は一部の症例にしか起こらない。しかも溶血や肝疾患、心筋梗塞、悪性腫瘍でも上がる。感度も特異度も低いから、正常でも否定の根拠にはならない。
医学生医学生
まとめると、Dダイマーは除外のための検査で、確定には別の検査が必要ということですね。
ドクタードクター
そこが臨床で一番大事な点だ。実際の流れは、まずWellsスコアなどで臨床的確率を見積もる。低〜中等度ならDダイマーを測り、正常なら除外、異常なら造影CTへ進む。臨床的確率が高い場合やショックの場合はDダイマーを待たずに画像検査、不安定ならベッドサイドの心エコーで右心負荷を評価する。確定診断は造影CTで肺動脈内の造影欠損を示すことが基本で、肺換気血流シンチグラフィも使われる。
医学生医学生
術後の初回歩行や長時間の座位のあとに急な呼吸困難が出たら、まず疑うべき病気ですね。
ドクタードクター
そうだね。血流のうっ滞、血管内皮障害、凝固能亢進というVirchowの三徴を思い出して、危険因子のある患者では常に頭の片隅に置いておこう。治療は抗凝固療法が基本で、ショックを伴う重症例では血栓溶解療法やカテーテル治療、PCPSなども検討される。

まとめ

「異常がなければ否定できる」検査とは感度の高い検査のことで、陰性なら疾患を除外できます(SnNout)。肺血栓塞栓症では、血栓に伴う線溶でDダイマーがほぼ必ず上昇し、換気血流比の不均衡でA-aDO2が開大するため、これらが感度の高い指標となります。一方、Dダイマーは手術後や悪性腫瘍、妊娠などでも上昇し特異度が低いため、陽性だけでは診断できず、造影CTなどで血栓を直接証明する必要があります。心電図、胸部エックス線、血清LDは感度・特異度ともに低く、正常でも肺血栓塞栓症は否定できません。臨床的確率の評価からDダイマー、画像検査へと進む診断の流れは、感度と特異度の使い分けを実践的に理解するうえでの格好の題材です。

解答・解説

正解はc, eです

「異常がなければ高い確率で否定できる検査」とは、疾患がある人のほとんどで異常を示す検査、すなわち感度が高い検査のことである。感度の高い検査が陰性(正常)であれば、偽陰性が少ないので疾患を除外できる(陰性的中率が高い)。逆に、異常が出たときに診断を確定しやすいのは特異度の高い検査であり、両者を区別して考えることが本問の要点である。

肺血栓塞栓症の病態から考える

急性肺血栓塞栓症(PTE)の多くは、下肢や骨盤内の深部静脈にできた血栓(深部静脈血栓症:DVT)が遊離し、肺動脈を閉塞することで起こる。 ・血栓が存在する以上、体内では凝固とそれを溶かす線溶が同時に進み、フィブリンの分解産物であるDダイマーがほぼ必ず上昇する。したがってDダイマーは感度が高い。 ・肺動脈が詰まると、換気はあるのに血流がない肺胞(死腔)が生じ、残りの肺に血流が集中して換気血流比の不均衡が起こる。その結果、低酸素血症とともに肺胞気−動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大する。PTEの大部分でA-aDO2の開大がみられるため、これも感度の高い指標である。 ・一方、心電図・胸部エックス線・血清LDは、異常が出るのは一部の症例に限られ(感度が低い)、所見があっても他疾患でもみられる(特異度も低い)。正常であってもPTEは否定できない。 なお、Dダイマーやガス分析の異常だけで確定診断はできない。臨床的にPTEが疑われれば、造影CT(肺動脈CTアンギオグラフィー)などの画像検査で血栓を直接証明する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  心電図

    PTEでは洞性頻脈が最も多い所見で、その他に右心負荷を反映した所見(右軸偏位、右脚ブロック、V1〜V3の陰性T波、SⅠQⅢTⅢパターン、肺性P波など)がみられることがある。しかしこれらは大きな塞栓で右心負荷が強い場合に出やすい所見であり、小〜中等度の塞栓では心電図が正常のことも多い。感度が低いため、正常でもPTEは否定できない。心電図は、急性冠症候群など胸痛・呼吸困難をきたす他疾患の鑑別には有用である。

  2. ×b.  血清LD値

    LD(乳酸脱水素酵素)は全身の多くの組織に存在し、組織が傷害されると血中に漏れ出る酵素である。PTEでは肺梗塞(塞栓の先の肺組織の壊死)を伴った場合などに上昇することがあるが、肺梗塞はPTEの一部にしか起こらず、上昇しない症例が多い。さらに溶血、肝疾患、心筋梗塞、悪性腫瘍など多くの病態で上昇するため特異度も低い。正常値であってもPTEを否定する根拠にはならない。

  3. ○c.  血中Dダイマー

    Dダイマーは、血栓を形成した安定化フィブリンがプラスミンにより分解されたときに生じる産物である。DVT・PTEでは体内に血栓があるため線溶が働き、ほぼ全例でDダイマーが上昇する(感度が高い)。そのため、臨床的確率(ウェルズスコアなどで評価)が低〜中等度の患者でDダイマーが正常であれば、PTEは高い確率で否定でき、造影CTを省略できる。ただし、手術後、外傷、悪性腫瘍、感染症、妊娠、高齢者、播種性血管内凝固(DIC)などでも上昇するため特異度は低く、陽性だけではPTEと診断できない。また臨床的確率が高い場合はDダイマーの結果にかかわらず画像検査に進む。

  4. ×d.  胸部エックス線撮影

    PTEの胸部エックス線像は正常であることが少なくない。所見がある場合も、閉塞部より末梢の肺血管影の減少による透過性亢進(ウェスターマーク徴候)、中枢肺動脈の拡張と急な途絶(ナックルサイン)、肺梗塞による胸膜側の楔状陰影(ハンプトンこぶ)、心陰影拡大、少量の胸水など、頻度が低く非特異的なものにとどまる。感度が低いため除外には使えない。むしろ「強い低酸素血症があるのに胸部エックス線が比較的正常」という乖離がPTEを疑う手がかりとなる。気胸や肺炎など他疾患の鑑別に役立つ検査である。

  5. ○e.  肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉

    A-aDO2は、計算で求めた肺胞気の酸素分圧(PAO2)と実測した動脈血酸素分圧(PaO2)の差であり、肺でのガス交換障害の程度を表す。室内気吸入時、PAO2 ≒ 150 − PaCO2/0.8 で求められ、正常は概ね10mmHg以下(加齢で増大し、高齢者では20mmHg程度まで)である。PTEでは換気血流比の不均衡によってPaO2が低下するとともに、過換気でPaCO2も低下する。PaO2が低下しても過換気でPAO2が上がるため、A-aDO2はPaO2単独よりも鋭敏にガス交換障害を反映し、PTEの大部分で開大する。このため正常であればPTEの可能性は低いと判断できる。

感度・特異度と除外・確定

・感度:疾患がある人のうち検査が陽性になる割合。感度の高い検査が陰性なら疾患を除外できる(SnNout)。 ・特異度:疾患がない人のうち検査が陰性になる割合。特異度の高い検査が陽性なら疾患を確定しやすい(SpPin)。

急性肺血栓塞栓症の概要

・原因:大部分が下肢・骨盤内の深部静脈血栓症に由来する。 ・危険因子(ウィルヒョウの三徴):血流のうっ滞(長期臥床、長時間の座位、肥満、妊娠)、血管内皮障害(手術、外傷、カテーテル)、凝固能亢進(悪性腫瘍、経口避妊薬・エストロゲン製剤、抗リン脂質抗体症候群、先天性血栓性素因など)。 ・症状:突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、失神、血痰など。安静解除後の初回歩行・排便・排尿時の発症が典型的である。 ・検査所見:低酸素血症、低二酸化炭素血症(呼吸性アルカローシス)、A-aDO2開大、Dダイマー上昇。心エコーでは右室拡大・右心負荷所見がみられることがある。

診断の流れ

1. ウェルズスコアやジュネーブスコアで臨床的確率を評価する。 2. 臨床的確率が低〜中等度ならDダイマーを測定し、正常ならPTEを除外する。異常なら造影CTへ進む。 3. 臨床的確率が高い、あるいはショックなど重症の場合は、Dダイマーを待たずに造影CT(不安定ならベッドサイドの心エコー)で評価する。 4. 確定診断:造影CT(肺動脈内の造影欠損)、肺換気血流シンチグラフィ(換気が保たれた部位の血流欠損)、肺動脈造影。下肢静脈エコーでDVTの検索も行う。

治療

抗凝固療法(ヘパリン、直接経口抗凝固薬〔DOAC〕、ワルファリン)が基本で、ショックを伴う重症例では血栓溶解療法、カテーテル治療、外科的血栓摘除術、経皮的心肺補助(PCPS)などを考慮する。

POINT

・「正常なら否定できる」=感度の高い検査である。 ・Dダイマーは感度が高く陰性的中率に優れるが、特異度は低い(陽性だけでは診断できない)。 ・PTEでは換気血流比不均衡によりA-aDO2が開大し、低酸素血症と過換気による低CO2血症がみられる。 ・心電図(洞性頻脈、SⅠQⅢTⅢ、右心負荷所見)、胸部エックス線(ウェスターマーク徴候、ナックルサイン)、LDは感度・特異度とも低く、正常でも否定できない。 ・確定診断は造影CTなどで血栓を直接証明する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。