「やればいい」ではないがん検診―死亡率を下げる検査だけが選ばれる理由
第110回医師国家試験 C問題 第3問
国試問題にチャレンジ
がん検診に用いられる検査と対象疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.尿沈渣 ―― 膀胱癌
- b.胸部CT ―― 乳癌
- c.擦過細胞診 ―― 卵巣癌
- d.腹部超音波検査 ―― 胃癌
- e.免疫学的便潜血検査 ―― 大腸癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
わが国の対策型がん検診は、死亡率減少効果が科学的に示された胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がんの5つに限られ、大腸がんは40歳以上に年1回の免疫学的便潜血検査で行います。免疫法はヒトヘモグロビンに特異的で食事制限が不要であり、2日法で1日でも陽性なら全大腸内視鏡検査で精査します。胃がんは胃部エックス線または胃内視鏡、乳がんはマンモグラフィ、肺がんは胸部エックス線(重喫煙者には喀痰細胞診を併用)、子宮頸がんは擦過細胞診(HPV検査単独法も選択可)が用いられ、膀胱癌や卵巣癌には有効性の確立した検診はありません。腹部超音波・胸部CT・腫瘍マーカーなどは任意型検診で用いられることがあっても、対策型検診の方法ではない点を区別しましょう。「早く見つけること」ではなく「集団の死亡率を下げること」が検診の目的だと理解することが、検査の選択や受診者への利益・不利益の説明の土台になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
わが国で行われているがん検診について、対象となるがんと、それに用いる検査(スクリーニング法)の組合せを問う問題である。
考え方
がん検診は、症状のない人の集団に対して行い、その集団のがんによる死亡率を下げることを目的とする。このため検診に採用される検査には、(1) 死亡率減少効果が科学的に示されていること、(2) 安全で負担が少ないこと、(3) 多人数に安価に実施できること、が求められる。厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」で市区町村が行う検診(対策型検診)として定められているのは、胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がんの5つである。 したがって、まず「選択肢の対象疾患がこの5つに含まれるか」を確認し、含まれる場合は「その検診で用いる検査が選択肢の検査と一致するか」を確認すればよい。 ・膀胱癌、卵巣癌:指針に定められた検診の対象ではなく、有効性の示されたスクリーニング法もない。 ・乳癌:検査はマンモグラフィ(乳房エックス線検査)であり、胸部CTではない。 ・胃癌:検査は胃部エックス線検査または胃内視鏡検査であり、腹部超音波検査ではない。 ・大腸癌:検査は免疫学的便潜血検査であり、組合せが一致する。
選択肢考察
- ×a. 尿沈渣 ―― 膀胱癌
膀胱癌は対策型検診の対象ではない。尿沈渣(尿を遠心分離して得た沈殿物を顕微鏡で観察する検査)で赤血球を認めれば血尿の存在はわかるが、血尿は結石・腎炎・感染症などでも生じ、膀胱癌に特異的ではない。膀胱癌を疑った場合の診断には、尿中の異型細胞を調べる尿細胞診や膀胱鏡検査が必要であり、尿沈渣はがん検診の検査として位置づけられていない。
- ×b. 胸部CT ―― 乳癌
乳癌検診で用いる検査はマンモグラフィ(乳房エックス線検査)であり、胸部CTは用いない。胸部CTは被曝量が多く、乳腺の微細な石灰化などの評価にも適さない。対策型の乳がん検診は40歳以上の女性を対象に2年に1回、問診とマンモグラフィで行われる。かつては視触診も検診項目に含まれていたが、単独での有効性が示されないことなどから、現在は推奨されていない。
- ×c. 擦過細胞診 ―― 卵巣癌
擦過細胞診(ブラシやへらで粘膜表面をこすって細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査)は、子宮頸がん検診で用いる検査である。卵巣は腹腔内にあり、表面を直接こすって細胞を採ることはできない。卵巣癌については、超音波検査や腫瘍マーカー(CA125)などで死亡率減少効果が示されておらず、対策型検診は行われていない。卵巣癌は早期発見が難しく、進行した状態で見つかることが多い。
- ×d. 腹部超音波検査 ―― 胃癌
胃癌検診で用いる検査は胃部エックス線検査(バリウムを用いた造影検査)または胃内視鏡検査である。胃は内部に空気を含むため超音波が通りにくく、粘膜に発生する早期胃癌を腹部超音波検査で見つけることはできない。腹部超音波検査は肝臓・胆嚢・膵臓・腎臓などの実質臓器の評価に用いられる。
- ○e. 免疫学的便潜血検査 ―― 大腸癌
大腸癌検診の一次スクリーニングには免疫学的便潜血検査を用いる。これはヒトヘモグロビンに対する抗体を使って便中の微量な血液を検出する方法で、食事中の肉や野菜の影響を受けず、上部消化管からの出血(ヘモグロビンが胃酸や消化酵素で変性する)も拾いにくいため、大腸からの出血に比較的特異的である。2日分の便を採取する2日法が標準で、1日でも陽性であれば要精密検査となり、全大腸内視鏡検査を行う。便潜血検査による検診は大腸癌死亡率を減少させることが科学的に示されている。
指針に基づく対策型がん検診(厚生労働省)
・胃がん:50歳以上、2年に1回。問診に加え、胃部エックス線検査または胃内視鏡検査のいずれか。胃部エックス線検査は当分の間40歳以上に年1回実施してもよいとされている。 ・子宮頸がん:20歳以上の女性、2年に1回。問診・視診・子宮頸部の細胞診(擦過細胞診)・内診。さらに近年、30〜60歳を対象にHPV(ヒトパピローマウイルス)検査単独法(陰性なら5年に1回)も選択肢として加えられた。 ・肺がん:40歳以上、年1回。問診・胸部エックス線検査。50歳以上で喫煙指数(1日の本数×喫煙年数)が600以上の重喫煙者には喀痰細胞診を併用する。 ・乳がん:40歳以上の女性、2年に1回。問診・マンモグラフィ。 ・大腸がん:40歳以上、年1回。問診・便潜血検査(免疫法)。
対策型検診と任意型検診
対策型検診は、集団全体の死亡率を下げることを目的として市区町村などが公共政策として行うもので、有効性が確立した方法に限られる。一方、任意型検診(人間ドックなど)は個人の死亡リスクを下げることを目的に個人が選択して受けるもので、腹部超音波検査、腫瘍マーカー、PET、胸部CTなど多様な検査が含まれる。
便潜血検査の化学法と免疫法
化学法(グアヤック法など)はヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を利用するため、食事中の動物の血液や一部の野菜、鉄剤などの影響を受け、検査前の食事制限が必要である。免疫法はヒトヘモグロビンに特異的で食事制限が不要であり、現在のわが国の検診では免疫法が用いられている。
がん検診の評価に関する用語
感度(がんがある人を陽性と判定する割合)、特異度(がんがない人を陰性と判定する割合)、偽陽性・偽陰性、過剰診断(生命に影響しないがんを見つけてしまうこと)などのバランスを考慮して、検診の利益と不利益が評価される。
POINT
・指針に基づくがん検診の対象は胃・子宮頸・肺・乳・大腸の5つ。 ・胃癌:胃部エックス線検査または胃内視鏡検査(50歳以上、2年に1回)。 ・子宮頸癌:子宮頸部擦過細胞診(20歳以上、2年に1回)。HPV検査単独法も選択可。 ・肺癌:胸部エックス線検査(40歳以上、年1回)、重喫煙者には喀痰細胞診を併用。 ・乳癌:マンモグラフィ(40歳以上、2年に1回)。視触診は推奨されない。 ・大腸癌:免疫学的便潜血検査(40歳以上、年1回)、陽性なら全大腸内視鏡検査。 ・膀胱癌・卵巣癌には有効性の確立した検診はない。
