StudyMed医師国家試験

数分で命をつなぐ一点―前頸部で探す「輪状甲状膜」

第110回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第110回 C問題 第2問

高度の呼吸困難を急速にきたした患者に,救命のため迅速に外科的気道確保を行うこととなった。前頸部の模式図を別に示す。  気道に入る最も適切な部位はどれか。

第110回 C問題 第2問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、上気道が急速に閉塞して一刻を争う場面で、どこから外科的に気道へ入るかを問う問題だ。模式図は喉頭と気管を前から見たもので、上から舌骨、盾のような甲状軟骨、リング状の輪状軟骨、気管軟骨が並んでいる。着眼点は「声門との上下関係」と「どれだけ速く安全に到達できるか」の2つだよ。
医学生医学生
外科的気道確保と聞くと、まず気管切開が思い浮かびます。一番下の気管軟骨の間でしょうか。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも「迅速に」という言葉がカギなんだ。気管切開を行う第2〜4気管軟骨あたりは、前面に甲状腺峡部や前頸静脈があり、皮膚から気管までも深い。峡部の処理や止血に時間がかかるから、長期の人工呼吸管理などの待機的な手技には向くけれど、数分で気道を開ける場面の第一選択ではないんだ。
医学生医学生
では、緊急時はもっと浅いところを狙うんですね。
ドクタードクター
その通り。条件を整理しよう。まず声門より下であること。上気道閉塞の多くは声門やそれより上で起こるから、その上に穴を開けても閉塞を迂回できない。次に皮膚から浅いこと、甲状腺や太い血管がなく出血しにくいこと、そして体表から触れて目印にできること。これを全部満たす場所はどこかな。
医学生医学生
甲状軟骨と輪状軟骨の間…輪状甲状膜ですか。解剖実習で、のどぼとけの下にくぼみがあると習いました。
ドクタードクター
正解。甲状軟骨下縁と輪状軟骨上縁の間に張る輪状甲状膜だ。声帯は甲状軟骨の高さにあるから、輪状甲状膜は声門のすぐ下に当たる。浅くて出血も少なく、指で簡単に触れられる。ここを穿刺または切開するのが輪状甲状膜穿刺・切開だよ。
医学生医学生
舌骨と甲状軟骨の間も、触れやすくて浅そうに見えます。そこではだめなんですか。
ドクタードクター
そこは甲状舌骨膜で、奥には喉頭蓋や喉頭前庭がある。つまり声門より上なんだ。声門の閉塞を越えられないし、近くを上喉頭神経や血管も走っている。舌骨のさらに上に見える喉頭蓋の高さも同じ理由で論外だ。
医学生医学生
声門より上か下か、という視点がまず大事なんですね。じゃあ輪状軟骨のすぐ下、第1気管軟骨との間はどうでしょう。声門より下ですし。
ドクタードクター
いい疑問だ。声門より下ではあるけれど、輪状軟骨に近いところを切ると軟骨膜炎や軟骨損傷を起こしやすく、あとで声門下狭窄の原因になる。輪状甲状膜より深く、甲状腺峡部にも近いから、緊急ルートとしては使わないんだ。
医学生医学生
輪状軟骨は気道で唯一全周を囲む軟骨だから、傷つけると狭窄が残りやすい、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう理解しておくといい。では、どんな場面で外科的気道確保が必要になるか分かるかな。
医学生医学生
麻酔科の実習で、挿管もマスク換気もできない「CICV」という言葉を聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。CICV、あるいはCICOが典型的な適応だ。顔面外傷による口腔内の大量出血、気道熱傷による浮腫、急性喉頭蓋炎、喉頭異物、アナフィラキシーによる喉頭浮腫などで起こりうる。ここで穿刺と切開の違いも押さえておこう。穿刺は太い留置針を刺して酸素を送り込む方法で最も速いけれど、換気量が足りず二酸化炭素がたまりやすい。あくまでつなぎの処置だ。切開はメスで開いてチューブを入れるので、有効な換気ができる。
医学生医学生
小児でも同じように切開していいんですか。
ドクタードクター
大事な注意点だね。おおむね12歳未満の小児では、輪状軟骨部が気道の最狭部で構造も小さく、切開後に声門下狭窄をきたしやすい。だから外科的切開は避けて穿刺を選ぶのが原則だ。それから、輪状甲状膜からの気道確保は一時的なもので、長期管理が必要なら、状態が落ち着いてから通常の気管切開へ切り替える。
医学生医学生
緊急は輪状甲状膜、長期は気管切開と、目的で部位を使い分けるんですね。いざというとき迷わないよう、自分の首でも触って確認しておきます。
ドクタードクター
それが一番の近道だ。のどぼとけから指を下ろして、最初のくぼみが輪状甲状膜。この感覚を手で覚えておけば、本番で必ず役に立つよ。

まとめ

上気道閉塞で迅速な外科的気道確保が必要なときは、甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状膜から気道に入ります。輪状甲状膜は声門のすぐ下にあって閉塞部を迂回でき、皮膚から浅く、甲状腺や太い血管がないため出血が少なく、体表から容易に触知できるという条件をすべて満たします。甲状舌骨膜や喉頭蓋の高さは声門より上で閉塞を越えられず、輪状軟骨直下は声門下狭窄の危険があり、第2〜4気管軟骨付近の気管切開は甲状腺峡部の処理などで時間を要する待機的手技です。穿刺はつなぎの処置、切開は有効な換気が可能で、小児では切開を避けて穿刺を選ぶのが原則です。挿管も換気もできない状況は突然訪れるため、前頸部の体表解剖を手で覚えておくことが救命に直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

上気道が閉塞し、急速に高度の呼吸困難に陥った患者に対して、救命目的で「迅速に」外科的気道確保を行う場面である。問題文に「緊急」という語はないが、急速な増悪と高度の呼吸困難から、数分単位で気道を開通させなければならない状況と読み取る。

部位選択の考え方

緊急の外科的気道確保に適した部位は、次の条件を満たす場所である。 1. 声門(声帯)より尾側(下方)であること:上気道閉塞の多くは声門やそれより上(咽頭・喉頭蓋・声門上部)で起こるため、声門より上に穴を開けても閉塞部を迂回できない。 2. 皮膚から気道内腔までの距離が短いこと:短時間で確実に到達できる。 3. 太い血管や甲状腺が前面になく、出血しにくいこと:視野が保たれ、合併症が少ない。 4. 体表から触れてわかる目印があること:甲状軟骨の隆起(のどぼとけ)と輪状軟骨の間のくぼみとして、皮膚の上から容易に触知できる。 これらをすべて満たすのが、甲状軟骨下縁と輪状軟骨上縁の間に張る輪状甲状膜(輪状甲状靱帯)である。ここを穿刺またはメスで切開して気道に入る手技を、輪状甲状膜穿刺・輪状甲状膜切開と呼ぶ。

模式図の読み方

図は喉頭と気管を前方から見たもので、上から舌骨(黄色)、甲状軟骨(盾状の大きな軟骨)、輪状軟骨(リング状の軟骨)、気管軟骨(気管輪)が並ぶ。①は舌骨の上方に見える喉頭蓋、②は舌骨と甲状軟骨の間(甲状舌骨膜)、③は甲状軟骨と輪状軟骨の間(輪状甲状膜)、④は輪状軟骨と第1気管軟骨の間(輪状気管靱帯)、⑤はさらに下方の気管軟骨同士の間(気管輪の間の輪状靱帯)を示している。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    舌骨の上方に突出している喉頭蓋を指している。喉頭蓋は声門より口側(上方)に位置するうえ、前方からは舌骨や舌根に覆われて到達しにくい。声門より上で気道に入っても声門部・声門上部の閉塞を迂回できないため、外科的気道確保の部位にはならない。

  2. ×b.  ②

    舌骨と甲状軟骨の間に張る甲状舌骨膜である。その奥には喉頭蓋や喉頭前庭(声門上部)があり、声門より上方である。ここから入っても声門の閉塞を越えられないうえ、上喉頭神経・血管も近くを通るため、気道確保の部位として不適切である。

  3. ○c.  ③

    甲状軟骨下縁と輪状軟骨上縁の間に張る輪状甲状膜(輪状甲状靱帯)である。声門のすぐ尾側に位置するため上気道閉塞を迂回でき、皮膚から気道内腔までが浅く、前面に甲状腺や太い血管がないので出血も少ない。体表から甲状軟骨と輪状軟骨の間のくぼみとして容易に触れられ、短時間で確実に到達できる。このため緊急の外科的気道確保(輪状甲状膜穿刺・切開)の部位として最も適切である。

  4. ×d.  ④

    輪状軟骨と第1気管軟骨の間(輪状気管靱帯)である。声門より下ではあるが、輪状軟骨に近接した部位を切開・穿刺すると輪状軟骨の軟骨膜炎や軟骨損傷を起こしやすく、その後の声門下狭窄の原因となる。また輪状甲状膜より深く、甲状腺峡部にも近いため、緊急時のルートとしては用いない。

  5. ×e.  ⑤

    第2〜3気管軟骨付近の気管軟骨同士の間(輪状靱帯)で、通常の気管切開(外科的気管切開・経皮的気管切開)の部位である。前面に甲状腺峡部や前頸静脈などがあり、皮膚から気管までの距離も長い。そのため峡部の処理や止血が必要になり、手技に時間がかかる。長期の気道管理を目的とした待機的な手技には適するが、一刻を争う救命の場面で最初に選ぶ部位ではない。

外科的気道確保の適応

気管挿管も、バッグバルブマスクなどによる換気もできない状況(CICV:cannot intubate, cannot ventilate、あるいはCICO:cannot intubate, cannot oxygenate)が典型的な適応である。具体例として、全身麻酔導入時の予期せぬ挿管困難、顔面外傷による口腔内の大量出血や高度の変形、顔面・気道熱傷による浮腫、急性喉頭蓋炎、喉頭の異物・腫瘍、アナフィラキシーによる喉頭浮腫などが挙げられる。

輪状甲状膜穿刺と輪状甲状膜切開

・輪状甲状膜穿刺:太い留置針(カテーテル)などを輪状甲状膜から刺入して気道に到達し、酸素を送り込む。最も素早く行えるが、換気量は不十分で二酸化炭素が蓄積しやすく、根本的な気道確保までのつなぎの処置である。 ・輪状甲状膜切開:皮膚と輪状甲状膜をメスで切開し、気管チューブなどを挿入する。有効な換気が可能である。小児(おおむね12歳未満)では輪状軟骨部が気道の最狭部で構造も小さく、切開後の声門下狭窄をきたしやすいため、外科的切開は避け、穿刺を選ぶのが原則である。 ・輪状甲状膜からの気道確保は一時的なものであり、長期の管理が必要な場合は、状態が安定した後に通常の気管切開へ切り替える。

気管切開との比較

気管切開は第2〜4気管軟骨のあたりで行うことが多い。前面に甲状腺峡部があり、気管も深い位置にあるため、時間と止血操作を要する。長期人工呼吸管理などの待機的な気道確保に用いられ、緊急時の第一選択にはならない。

前頸部の体表の目印(上から順に)

舌骨 → 甲状舌骨膜 → 甲状軟骨(喉頭隆起) → 輪状甲状膜 → 輪状軟骨 → 気管軟骨(甲状腺峡部はおおむね第2〜4気管軟骨の前面)。声帯は甲状軟骨の高さにあり、輪状甲状膜は声門のすぐ下に相当する。

POINT

・緊急の外科的気道確保は、甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状膜(輪状甲状靱帯)で行う。 ・理由:声門より下で上気道閉塞を迂回できる、皮膚から浅い、甲状腺や太い血管がなく出血が少ない、体表から触知しやすい。 ・甲状舌骨膜や喉頭蓋の高さは声門より上なので不適。 ・輪状軟骨直下は軟骨膜炎・声門下狭窄の危険があり用いない。 ・気管切開(第2〜4気管軟骨付近)は待機的な手技で、緊急時の第一選択ではない。 ・小児では輪状甲状膜切開を避け、穿刺を選ぶ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。