利尿薬を飲み続けた腎臓―Bartter・Gitelmanから読み解く尿細管と電解質異常
第110回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
疾患と電解質異常の組合せで誤っているのはどれか。
- a.Fanconi症候群 ―― 低P血症
- b.Bartter症候群 ―― 低K血症
- c.Gitelman症候群 ―― 高K血症
- d.腎性尿崩症 ―― 高Na血症
- e.遠位尿細管性アシドーシス ―― 高Cl血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿細管疾患の電解質異常は、障害部位と輸送体から「何が失われるか」を追えば整理できます。近位尿細管のFanconi症候群では低P血症や腎性糖尿、Henle係蹄のBartter症候群と遠位曲尿細管のGitelman症候群ではRAA系亢進により低K血症と代謝性アルカローシスが生じ、高K血症にはなりません。両者はそれぞれループ利尿薬・サイアザイドの長期服用に似た病態で、高Ca尿か、低Ca尿と低Mg血症かで鑑別します。集合管の障害では、腎性尿崩症が飲水不足時に高Na血症を、遠位尿細管性アシドーシスが高Cl性代謝性アシドーシスをきたし、尿細管性アシドーシスで高K血症を伴うのは4型です。輸送体と利尿薬の作用部位を結びつけて理解しておくと、電解質異常の鑑別や薬剤による副作用の予測にも応用できます。
解答・解説
正解はcです
尿細管の各部位の機能障害と、その結果として生じる電解質異常の対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」と問われているため、組合せとして成り立たないものを選ぶ。 考え方の基本は、障害される部位と輸送体を思い浮かべ、「何が尿中に失われる(または保持される)か」を順に追うことである。 ・近位尿細管: ブドウ糖、アミノ酸、リン、重炭酸イオン(HCO3−)、尿酸などを大量に再吸収する部位である。ここが全般的に障害されるとFanconi症候群となり、これらが尿中へ失われる。 ・Henle係蹄上行脚(Bartter症候群)と遠位曲尿細管(Gitelman症候群): Naの再吸収が障害されると、より下流の集合管にNaと水が多く届き、さらに循環血液量の減少によりレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系が亢進する。集合管でのNa再吸収に引き換えにKとH+の分泌が増えるため、いずれも低K血症と代謝性アルカローシスを呈する。ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬を飲み続けている状態とほぼ同じ病態と考えるとわかりやすい。 ・集合管: 抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)に反応しない腎性尿崩症では水を再吸収できず、自由水が失われて高Na血症に傾く。また集合管の間在細胞からのH+分泌が障害される遠位尿細管性アシドーシスでは、アニオンギャップ正常(高Cl性)の代謝性アシドーシスとなる。 このように整理すると、Gitelman症候群に高K血症を組み合わせたものが誤りであるとわかる。
選択肢考察
- ×a. Fanconi症候群 ―― 低P血症
組合せとして正しい(よって本問の正解ではない)。Fanconi症候群は近位尿細管の再吸収機能が全般的に障害される病態で、リンの再吸収が低下するため尿中へのリン排泄が増え、低P血症をきたす。慢性化すると小児ではくる病、成人では骨軟化症の原因となる。ほかに腎性糖尿(血糖正常での尿糖)、汎アミノ酸尿、低尿酸血症、HCO3−の喪失による近位尿細管性アシドーシス(2型)を伴う。
- ×b. Bartter症候群 ―― 低K血症
組合せとして正しい。Bartter症候群はHenle係蹄の太い上行脚にあるNa+-K+-2Cl−共輸送体(NKCC2)やその働きを支えるイオンチャネル(ROMK、ClC-Kbなど)の遺伝子異常による常染色体劣性遺伝の疾患である。Naの再吸収障害による体液量減少からRAA系が亢進し(傍糸球体装置の過形成を伴う)、集合管でのK分泌が増えて低K血症と代謝性アルカローシスを呈する。高レニン・高アルドステロンでありながら血圧は正常〜低めであることが特徴で、尿中Ca排泄は増加しやすい。乳幼児期など早期に発症することが多い。
- ○c. Gitelman症候群 ―― 高K血症
誤った組合せであり、これが正解である。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のサイアザイド感受性Na+-Cl−共輸送体(NCC、遺伝子SLC12A3)の機能喪失による常染色体劣性遺伝の疾患である。Bartter症候群と同様にRAA系が亢進し、集合管でのK分泌が増加するため、生じるのは高K血症ではなく低K血症である。代謝性アルカローシスを伴い、さらに低Mg血症と低Ca尿症(尿中Ca排泄の低下)を示す点がBartter症候群との鑑別に役立つ。学童期〜成人で、脱力、テタニー、こむら返りなどを契機に見つかることが多い。
- ×d. 腎性尿崩症 ―― 高Na血症
組合せとして正しい。腎性尿崩症は、集合管がADHに反応しないため(先天性ではバソプレシンV2受容体やアクアポリン2の遺伝子異常、後天性ではリチウム製剤、高Ca血症、低K血症などが原因)、水を再吸収できず大量の低張尿が出る病態である。口渇に応じて十分に飲水できれば血清Naは正常範囲に保たれることも多いが、乳幼児・高齢者・意識障害などで飲水が不足すると自由水の喪失が上回り、高Na血症をきたす。
- ×e. 遠位尿細管性アシドーシス ―― 高Cl血症
組合せとして正しい。遠位尿細管性アシドーシス(1型)は集合管からのH+分泌が障害され、酸を尿中に排泄できない病態である。HCO3−が低下した分を補うようにCl−が増加するため、アニオンギャップ正常の高Cl性代謝性アシドーシスとなる。アシドーシスがあっても尿pHを5.5未満に下げられないこと、低K血症、高Ca尿症による腎石灰化・尿路結石を伴いやすいことが特徴である。
尿細管障害と電解質異常の整理
・近位尿細管: Fanconi症候群 → 低P血症、低尿酸血症、腎性糖尿、アミノ酸尿、近位尿細管性アシドーシス(2型)。原因として先天性(シスチン症、Wilson病など)のほか、多発性骨髄腫(軽鎖)、薬剤(イホスファミド、テノホビルなど)、重金属(カドミウムなど)がある。 ・Henle係蹄太い上行脚: Bartter症候群 → 低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン、正常血圧、尿中Ca排泄増加。ループ利尿薬(NKCC2阻害)の長期使用に類似する。 ・遠位曲尿細管: Gitelman症候群 → 低K血症、代謝性アルカローシス、低Mg血症、低Ca尿症、正常血圧。サイアザイド系利尿薬(NCC阻害)の長期使用に類似する。 ・集合管: 腎性尿崩症 → 低張多尿、高Na血症(飲水不足時)。遠位尿細管性アシドーシス(1型)→ 高Cl性代謝性アシドーシス、低K血症、尿pH 5.5以上、腎石灰化。
尿細管性アシドーシス(RTA)の型
・1型(遠位型): H+分泌障害。低K血症、尿pH 5.5以上、腎石灰化・結石。 ・2型(近位型): HCO3−再吸収障害。低K血症。Fanconi症候群に伴うことが多い。 ・4型: 低アルドステロン症またはアルドステロン抵抗性。高K血症を伴う(糖尿病性腎症などでみられる)。 いずれもアニオンギャップ正常の高Cl性代謝性アシドーシスである。
低K血症+代謝性アルカローシスの鑑別
血圧が高ければ原発性アルドステロン症などのミネラルコルチコイド過剰を、血圧が正常〜低ければ嘔吐、利尿薬、Bartter症候群、Gitelman症候群を考える。Bartter症候群とGitelman症候群は尿中Ca排泄(Bartterで多く、Gitelmanで少ない)と血清Mg(Gitelmanで低下が目立つ)で見分ける。
POINT
・Bartter症候群とGitelman症候群はいずれも低K血症+代謝性アルカローシス+RAA系亢進(血圧は正常)。高K血症にはならない。 ・Bartter=ループ利尿薬類似(NKCC2、高Ca尿)、Gitelman=サイアザイド類似(NCC、低Mg血症・低Ca尿)。 ・Fanconi症候群は近位尿細管障害で低P血症(くる病・骨軟化症)。 ・腎性尿崩症は自由水喪失で高Na血症をきたしうる。 ・尿細管性アシドーシスはアニオンギャップ正常の高Cl性代謝性アシドーシス。高K血症を伴うのは4型。
