呼吸は自分で、気道は空気で支える―睡眠時無呼吸にCPAPが効く理由
第110回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
睡眠時無呼吸症候群に行う在宅人工換気療法はどれか。
- a.高頻度換気
- b.間欠的陽圧換気
- c.持続的陽圧換気
- d.間欠的強制換気
- e.持続的気道陽圧法
対話形式の解説
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ドクターまとめ
睡眠時無呼吸症候群の大部分を占める閉塞性睡眠時無呼吸は、自発呼吸は保たれたまま、睡眠中に舌根や軟口蓋が落ち込んで上気道が閉塞する病態です。そのため在宅治療では、換気を代行する人工呼吸ではなく、鼻マスクで吸気・呼気を通じて一定の陽圧をかけ、気道を内側から支える持続的気道陽圧法(CPAP)が中等症〜重症の第一選択となります。名称の似た持続的陽圧換気はPEEPを加えた強制換気、間欠的強制換気はウィーニング、高頻度換気は新生児などの集中治療で用いる方法で、「自発呼吸か強制換気か」「陽圧は吸気時のみか持続的か」の2軸で整理すると区別できます。閉塞性睡眠時無呼吸は高血圧や心房細動、脳卒中、交通事故のリスクにも関わるため、病態に即した治療選択とともに減量などの生活指導や治療継続の支援が重要です。
解答・解説
正解はeです
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の大部分は閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)である。睡眠中は咽頭周囲の筋の緊張が低下し、舌根や軟口蓋が後方へ落ち込んで上気道が狭くなる。肥満による咽頭周囲の脂肪沈着、小顎、扁桃肥大などがあると、この狭窄が閉塞にまで進み、無呼吸・低呼吸を繰り返す。 OSA 患者は自発呼吸そのものは保たれており、問題は「空気の通り道が睡眠中につぶれること」にある。したがって治療に必要なのは、呼吸を機械が肩代わりする換気ではなく、上気道を内側から押し広げて開いたままに保つことである。鼻(または鼻口)マスクを通して吸気・呼気の両相で一定の陽圧をかけ続ける方法、すなわち持続的気道陽圧法(continuous positive airway pressure:CPAP)がこれにあたり、在宅で毎晩使用する標準治療となっている。 本問の選択肢は名称が似ているため、(1) 自発呼吸を前提とするか、機械が強制的に換気するか、(2) 陽圧を吸気時だけにかけるか、呼気時も含めて持続的にかけるか、という 2 つの軸で整理すると区別しやすい。
選択肢考察
- ×a. 高頻度換気
高頻度換気(high-frequency ventilation:HFV)は、生理的な呼吸数をはるかに超える高い頻度で、死腔量程度かそれ以下の小さな 1 回換気量を送り込む人工呼吸法である。代表は高頻度振動換気(HFOV)で、肺胞の過伸展による肺損傷を抑える目的で、新生児呼吸窮迫症候群や重症の急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)などに集中治療室で用いられる。なお成人 ARDS では有効性が示されず、現在はルーチンには推奨されていない。いずれにせよ気管挿管下の専門的な管理を要し、在宅で SAS に用いるものではない。
- ×b. 間欠的陽圧換気
間欠的陽圧換気(intermittent positive pressure ventilation:IPPV)は、吸気相にだけ気道へ陽圧をかけて肺に空気を送り込み、呼気相は大気圧に戻して肺と胸郭の弾性で受動的に呼出させる、人工呼吸の基本形式である。自発呼吸がない、あるいは不十分な患者の換気を機械が代行する方法であり、自発呼吸が保たれ上気道の開存だけが問題となる SAS の治療目的には合わない。
- ×c. 持続的陽圧換気
持続的陽圧換気(continuous positive pressure ventilation:CPPV)は、IPPV に呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)を加え、呼気相でも気道内圧を大気圧より高く保つ方式である。PEEP により肺胞の虚脱を防いで酸素化を改善する。ただし換気自体は機械による強制換気であり、自発呼吸がない患者を気管挿管下で管理する際などに用いる。名称が CPAP と似ているが、CPAP は自発呼吸に対して陽圧を加えるだけで換気を代行しない点が根本的に異なる。
- ×d. 間欠的強制換気
間欠的強制換気(intermittent mandatory ventilation:IMV)は、患者の自発呼吸を残したまま、あらかじめ設定した回数と 1 回換気量で強制換気を加える方式である。強制換気は自発呼吸のタイミングとは無関係に送られるため、自発呼吸と重なるとファイティング(患者と人工呼吸器の非同調)が起こりうる。これを改善したのが自発呼吸に同期させる同期式間欠的強制換気(SIMV)で、主に人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)の過程で用いられる。SAS の在宅治療法ではない。
- ○e. 持続的気道陽圧法
持続的気道陽圧法(CPAP)は、自発呼吸をしている患者に対し、吸気・呼気を通じて気道内を一定の陽圧に保つ方法である。この陽圧が空気の添え木(pneumatic splint)として働き、睡眠中に舌根沈下や軟口蓋の落ち込みで閉塞しようとする上気道を内側から押し広げる。その結果、無呼吸・低呼吸、いびき、それに伴う低酸素血症や睡眠の分断が改善し、日中の過度の眠気も軽減する。鼻マスクを用いて非侵襲的に自宅で毎晩使用でき、中等症〜重症の OSA に対する第一選択の治療である。
閉塞性睡眠時無呼吸の概要
・睡眠中に上気道の閉塞を繰り返し、10 秒以上の呼吸停止(無呼吸)や換気の著しい低下(低呼吸)が生じる。 ・重症度は 1 時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数である無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)で評価し、成人では 5 以上 15 未満を軽症、15 以上 30 未満を中等症、30 以上を重症とする。 ・症状:大きないびき、家族に指摘される睡眠中の呼吸停止、日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿など。 ・合併症:高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、心房細動などの不整脈、脳卒中、虚血性心疾患、2 型糖尿病のリスクが高まる。眠気による交通事故も問題となる。 ・診断:確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)で行い、スクリーニングには簡易検査(携帯型モニター)も用いられる。
OSA の治療
・生活習慣の改善:減量、飲酒(特に就寝前)や睡眠薬の回避、側臥位での睡眠。 ・CPAP:中等症〜重症 OSA の第一選択。わが国の保険診療では、PSG で AHI 20 以上、または簡易検査で AHI 40 以上で、日中の眠気などの症状がある場合に適用される。 ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前方に保持して気道を広げる。軽症〜中等症や CPAP 不耐例に用いる。 ・外科治療:小児の扁桃肥大・アデノイド増殖症では扁桃摘出術・アデノイド切除術が第一選択。成人でも解剖学的異常があれば口蓋垂軟口蓋咽頭形成術などを考慮する。 ・CPAP を使えない例では舌下神経刺激療法が選択肢となる場合がある。
中枢性睡眠時無呼吸との違い
中枢性睡眠時無呼吸では呼吸中枢からの指令そのものが途絶えるため、呼吸努力(胸郭・腹壁の動き)も消失する。心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸が代表である。治療には原疾患の治療に加え、CPAP や適応補助換気(adaptive servo-ventilation:ASV)などが検討される。
人工呼吸関連用語の整理
・IPPV:吸気時のみ陽圧をかける強制換気。 ・CPPV:IPPV+PEEP。呼気時も陽圧を保つ強制換気。 ・IMV/SIMV:自発呼吸に設定回数の強制換気を加える。ウィーニングに用いる。 ・HFV(HFOV):高頻度・小換気量で肺保護を図る。新生児や重症呼吸不全に用いる。 ・CPAP:自発呼吸下で吸気・呼気とも一定の陽圧を保つ。換気そのものは代行しない。 ・在宅で換気補助が必要な慢性呼吸不全(COPD の高二酸化炭素血症、神経筋疾患、肥満低換気症候群など)では、マスクを用いた非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)が用いられる。
POINT
・OSA は自発呼吸が保たれ、睡眠中の上気道閉塞が病態の中心である。 ・中等症〜重症 OSA の在宅治療の第一選択は CPAP(持続的気道陽圧法)で、陽圧によって上気道を開いた状態に保つ。 ・CPAP は自発呼吸下で陽圧をかけるだけで換気を代行しない。名称の似た CPPV(IPPV+PEEP の強制換気)と混同しない。 ・IMV/SIMV はウィーニング、HFV は新生児や重症呼吸不全に用いる換気法である。
