泣き叫ぶ乳児は「水が足りない脳」のサイン―高張性脱水を細胞内外の水の動きで読み解く
第110回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
乳児における高張性脱水の特徴はどれか。
- a.口腔粘膜湿潤
- b.大泉門膨隆
- c.腱反射減弱
- d.徐脈
- e.興奮
対話形式の解説
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医学生まとめ
脱水は血清Na濃度により高張性・等張性・低張性に分類され、高張性脱水では細胞外液の浸透圧上昇によって水が細胞内から細胞外へ移動し、細胞内脱水が主体となります。そのため脳細胞の脱水による興奮、易刺激性、甲高い泣き声、腱反射亢進、けいれんが特徴で、強い口渇、粘膜の著明な乾燥、ねり粉様皮膚、発熱も伴います。一方で循環血漿量は比較的保たれるため循環不全は軽く、脱水の程度を過小評価しやすい点に注意が必要です。低張性脱水では循環不全と無欲・傾眠・腱反射減弱が主体となり、いずれの型でも大泉門は陥凹し脈は頻脈となります。治療では脳浮腫を避けるため血清Naをゆっくり下げることが重要であり、水の移動という病態から症状と治療をつなげて理解することが、小児の輸液管理の基本になります。
解答・解説
正解はeです
問われているテーマ
脱水症は、失われる水とナトリウム(Na)の割合によって、血清Na濃度を指標に3つの型に分類される。 ・高張性(水欠乏性)脱水:水の喪失がNaの喪失を上回る。血清Naはおおむね150mEq/L以上。 ・等張性脱水:水とNaがほぼ同じ割合で失われる。血清Naは正常範囲。小児の脱水で最も多い。 ・低張性(Na欠乏性)脱水:Naの喪失が水の喪失を上回る。血清Naはおおむね130mEq/L未満。
病態から症状を考える
症状の違いは、水が細胞内・細胞外のどちらから失われるかで説明できる。 高張性脱水では細胞外液の浸透圧が上昇するため、水が細胞内から細胞外へ移動する。その結果、細胞外液量(循環血漿量)は比較的保たれ、末梢循環不全やショックは起こりにくい一方、細胞内脱水が強くなる。特に脳細胞の脱水により、興奮、易刺激性、甲高い泣き声、腱反射亢進、けいれんなどの中枢神経症状が目立つ。強い口渇、粘膜の著明な乾燥、発熱(脱水熱)もみられ、皮膚はねり粉様(doughy)の独特な感触となる。循環が保たれるため、臨床的に脱水の程度が過小評価されやすい点に注意が必要である。 反対に低張性脱水では、水が細胞外から細胞内へ移動するため細胞外液量の減少が強く、早期から頻脈・血圧低下・末梢冷感などの循環不全をきたしやすい。神経症状としては無欲・傾眠などの意識レベル低下が主体となる。 乳児は体重に占める水分の割合が大きく、不感蒸泄が多く、腎の濃縮力が未熟で、口渇を自ら訴えて水分を摂ることもできないため、脱水に陥りやすい。設問の選択肢のうち、高張性脱水の特徴に当てはまるのは「興奮」である。
選択肢考察
- ×a. 口腔粘膜湿潤
高張性脱水では水の不足が主体となるため、強い口渇とともに口腔粘膜は著明に乾燥する。口腔粘膜の乾燥は脱水の型を問わず重要な所見であり、湿潤していることは脱水の存在をむしろ否定的にする。低張性脱水では高張性に比べて粘膜の乾燥が目立ちにくいことがあるが、高張性脱水の特徴として「湿潤」は誤りである。
- ×b. 大泉門膨隆
大泉門は生後おおむね1歳半ごろまで開いており、頭蓋内の状態を反映する。脱水では体液量の減少により大泉門は陥凹(陥没)する。大泉門の膨隆は、髄膜炎、脳炎、水頭症、頭蓋内出血など頭蓋内圧が亢進した状態でみられる所見である。なお、高張性脱水を急速に補液で是正すると脳浮腫をきたし大泉門が膨隆することがあるが、これは治療に伴う合併症であり脱水自体の特徴ではない。
- ×c. 腱反射減弱
高張性脱水では細胞内脱水により神経の興奮性が高まり、腱反射は亢進し、筋緊張の亢進やけいれんもみられうる。腱反射の減弱は、無欲・傾眠を伴う低張性脱水や等張性脱水で認められることが多い所見である。
- ×d. 徐脈
脱水では循環血漿量の減少を代償するために交感神経が働き、頻脈となるのが原則である。高張性脱水では細胞内から細胞外へ水が移動して循環血漿量が比較的保たれるため、頻脈や末梢循環不全の程度は低張性脱水より軽いが、徐脈になるわけではない。脱水で徐脈がみられる場合は、ショックの末期など極めて重篤な状態を考える必要がある。
- ○e. 興奮
高張性脱水では細胞外液の浸透圧上昇により細胞内の水が細胞外へ引き出され、脳細胞も脱水状態になる。その結果、神経の興奮性が高まり、不機嫌、易刺激性、甲高い泣き声、腱反射亢進、けいれんなどが出現する。こうした興奮性の中枢神経症状は、意識レベルが低下しやすい低張性脱水と対照的な、高張性脱水の特徴的な所見である。重症例では脳の急激な縮小により架橋静脈が引き伸ばされ、頭蓋内出血をきたすこともある。
脱水の型による症状の比較
・血清Na:高張性 150mEq/L以上/等張性 130〜150mEq/L/低張性 130mEq/L未満 ・主な原因:高張性は発熱・発汗・過呼吸による水分喪失、水分摂取不足、高張な人工乳の誤調乳、尿崩症など。低張性は下痢・嘔吐で失った分を低張な水分(水、お茶など)のみで補った場合、副腎不全など。 ・口渇:高張性で著明、低張性では軽度 ・皮膚:高張性はねり粉様で、ツルゴール(皮膚の張り)の低下は目立ちにくい。低張性はツルゴール低下が著明で冷たい。 ・粘膜:高張性で著明に乾燥 ・循環(脈拍・血圧):高張性は比較的保たれる。低張性は早期から頻脈・血圧低下・ショックに陥りやすい。 ・神経症状:高張性は興奮、易刺激性、腱反射亢進、けいれん。低張性は無欲、傾眠、腱反射減弱、昏睡。 ・体温:高張性では発熱しやすい。
脱水の程度の評価
乳児では体重減少率で評価することが多く、おおむね5%未満を軽度、5〜10%を中等度、10%以上を重度とする。大泉門陥凹、眼窩の陥凹、涙の減少、尿量減少、毛細血管再充満時間(capillary refill time:CRT)の延長なども重症度判定に用いる。
高張性脱水の治療上の注意
血清Naを急速に下げると、脳細胞内に蓄積していた浸透圧物質のため水が脳細胞内へ流入し、脳浮腫やけいれんを起こす。そのため、補液は時間をかけて行い、血清Naの低下速度は1日あたり10〜12mEq/L程度以内にとどめるのが一般的である。
POINT
・高張性脱水では細胞内から細胞外へ水が移動し、細胞内脱水が主体となる。 ・循環血漿量は比較的保たれるため循環不全は軽く、脱水の程度を過小評価しやすい。 ・中枢神経症状は興奮、易刺激性、腱反射亢進、けいれんが特徴で、強い口渇、粘膜の著明な乾燥、ねり粉様皮膚、発熱を伴う。 ・低張性脱水は循環不全を起こしやすく、無欲・傾眠・腱反射減弱が主体となる。 ・脱水では大泉門は陥凹し、脈は頻脈となる。
