菌を除けば病気が退く?―ピロリ除菌が「効く病気」と「効かない病気」の見分け方
第110回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
Helicobacter pylori除菌治療の適応となるのはどれか。2つ選べ。
- a.胃潰瘍
- b.胃GIST
- c.3型胃癌
- d.逆流性食道炎
- e.胃MALTリンパ腫
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
Helicobacter pyloriは慢性活動性胃炎を起こし、それを土台に消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌などが生じます。除菌の適応は「菌を除くことで病気が治る、または再発が減るか」で判断でき、再発が著しく減る胃潰瘍と、ピロリ抗原に依存して増殖するため除菌で退縮しやすい胃MALTリンパ腫が代表です。一方、KIT/PDGFRA変異によるGIST、すでに完成した進行胃癌、除菌後の胃酸分泌回復でかえって悪化しうる逆流性食道炎は除菌の対象になりません。保険適用にはITPや早期胃癌の内視鏡治療後の胃、ピロリ感染胃炎も含まれ、除菌後も胃癌リスクが残るため内視鏡による経過観察が重要です。病態と菌の関わりから適応を考える姿勢は、日常診療で除菌の意義を患者に説明する際にも役立ちます。
解答・解説
正解はa, eです
Helicobacter pylori(H. pylori、ピロリ菌)は胃粘膜に持続感染するらせん状のグラム陰性桿菌である。ウレアーゼで尿素からアンモニアを作り、胃酸を中和しながら粘膜に定着して慢性活動性胃炎を起こす。この慢性炎症を土台として、消化性潰瘍、萎縮性胃炎・腸上皮化生、胃癌、胃MALTリンパ腫などが生じる。 除菌治療の適応を考えるときは、「その病気の発生や再発にH. pylori感染が直接関わっていて、菌を除くことで病気が治る、または再発が減るか」を基準にするとよい。 ・胃潰瘍・十二指腸潰瘍:除菌すると潰瘍の再発が大きく減る。 ・胃MALTリンパ腫:H. pyloriへの免疫反応がリンパ腫の増殖を支えているため、除菌だけで退縮することが多い。 この2つはいずれも除菌の適応である。 一方、H. pyloriと関係のない腫瘍(GIST)、すでに完成した進行癌そのもの(3型胃癌)、除菌によってかえって悪化しうる病態(逆流性食道炎)は、除菌治療の対象にならない。
選択肢考察
- ○a. 胃潰瘍
H. pyloriは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と並ぶ消化性潰瘍の二大原因である。酸分泌抑制薬だけで潰瘍が治っても、感染が残っていると高い率で再発する。除菌に成功すると再発率が著しく下がるため、H. pylori陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍は除菌の代表的な適応であり、保険診療でも認められている。
- ×b. 胃GIST
GIST(gastrointestinal stromal tumor、消化管間質腫瘍)は、消化管の筋層にあるカハール介在細胞に由来する間葉系腫瘍である。KIT遺伝子やPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異で生じ、H. pylori感染とは関係がない。治療の基本は外科的切除で、切除できない例や再発例ではイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬を用いる。除菌治療の適応ではない。
- ×c. 3型胃癌
3型(潰瘍浸潤型)は肉眼型分類で進行癌に当たる。H. pylori感染は胃癌の発生リスクを高めるが、除菌しても完成した進行癌が治るわけではない。治療は病期に応じて、リンパ節郭清を伴う胃切除術や化学療法などを行う。除菌によって胃癌の発生が減ることが示されているのは、慢性胃炎の段階や、早期胃癌を内視鏡的に切除した後の残存胃(異時性の多発癌の予防)であり、いずれも癌そのものの治療ではない。
- ×d. 逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流して起こる食道粘膜の傷害である。H. pyloriによる胃体部の胃炎・萎縮が強い人では胃酸分泌が低くなっている。除菌すると胃体部の炎症が治まって胃酸分泌が回復するため、逆流性食道炎が新たに出たり悪化したりすることがある。治療の中心はプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬と生活習慣の改善であり、逆流性食道炎そのものは除菌の適応ではない。
- ○e. 胃MALTリンパ腫
MALT(mucosa-associated lymphoid tissue、粘膜関連リンパ組織)リンパ腫は、節外性辺縁帯B細胞リンパ腫に分類される低悪性度のリンパ腫である。正常な胃にはリンパ組織がほとんどないが、H. pylori感染による慢性炎症でリンパ組織ができ、そこから発生する。腫瘍細胞の増殖はH. pylori抗原で刺激されたT細胞に依存しているため、H. pylori陽性で限局期の胃MALTリンパ腫は除菌が第一選択の治療となり、多くの例で退縮する。なお、t(11;18)(API2-MALT1融合遺伝子)をもつ例やH. pylori陰性例では除菌が効きにくく、放射線療法などを考える。
日本でH. pylori除菌が保険適用となる疾患・病態
・胃潰瘍・十二指腸潰瘍 ・胃MALTリンパ腫 ・特発性血小板減少性紫斑病(ITP) ・早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃 ・内視鏡検査で確認されたH. pylori感染胃炎(2013年から追加) いずれも、H. pylori感染が検査で確認されていることが前提となる。
感染の診断法
・内視鏡を使う方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織での菌の確認)、培養法 ・内視鏡を使わない方法:尿素呼気試験、血清・尿中の抗H. pylori抗体、便中H. pylori抗原 除菌が成功したかの判定には、尿素呼気試験や便中抗原検査がよく使われる。PPIを飲んでいると偽陰性になりやすいので注意する。
除菌のレジメン
・一次除菌:酸分泌抑制薬(PPIまたはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーのボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンを7日間内服する。 ・二次除菌:クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。 クラリスロマイシン耐性菌が増えていることが一次除菌失敗の主な原因である。
除菌の副作用・注意点
・下痢や軟便、味覚異常、薬疹などがある。 ・除菌後に胃酸分泌が回復し、逆流性食道炎が出たり悪化したりすることがある。 ・除菌に成功しても胃癌のリスクはゼロにならないため、特に萎縮が強い例では定期的な内視鏡検査を続ける。
POINT
・除菌の適応:胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌の内視鏡治療後の胃、H. pylori感染胃炎。 ・胃MALTリンパ腫(H. pylori陽性・限局期)は除菌が第一選択。 ・除菌は胃癌の「発生予防」にはなるが、進行胃癌の「治療」ではない。 ・GISTはH. pyloriと関係がない(KIT/PDGFRA変異)。 ・除菌後は胃酸分泌が回復し、逆流性食道炎が悪化することがある。
