心室の「回復の遅れ」が招くねじれ―QT延長とトルサード・ド・ポアント
第110回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
QT延長のある患者で注意すべき不整脈はどれか。
- a.洞停止
- b.心房細動
- c.心房粗動
- d.多形性心室頻拍
- e.発作性上室性頻拍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
QT時間は心室の脱分極から再分極までを表し、QT延長は心室の再分極遅延を意味します。再分極が長引くと早期後脱分極が期外収縮の引き金となり、再分極の不均一性を足場にリエントリーが成立して、QRSの極性と振幅がねじれるように変化する多形性心室頻拍(トルサード・ド・ポアント)が生じます。TdPは失神の原因となり、心室細動に移行すれば突然死に至るため、QT延長患者で最も警戒すべき不整脈です。臨床では先天性よりも、抗菌薬・抗精神病薬・抗不整脈薬などの薬剤、低K・低Mg血症、徐脈による後天性QT延長が多く、治療は硫酸マグネシウム静注、電解質補正、原因薬剤の中止、必要時の電気的除細動が柱です。薬を処方する前に心電図と電解質を確認する習慣は、TdPを未然に防ぐうえで欠かせません。
解答・解説
正解はdです
問われていること
心電図でQT時間が延長している患者に起こりやすく、かつ生命に関わるため特に警戒すべき不整脈は何かを問う問題である。
QT時間とは
QT時間は心電図のQRS波の始まりからT波の終わりまでの時間で、心室筋が興奮(脱分極)してから回復(再分極)するまでの時間を表す。心拍数によって変化するため、補正QT時間(QTc)で評価する。代表的な補正式はBazettの式(QTc=QT/√RR、RRは秒)で、おおむね0.44〜0.46秒を超えるとQT延長と判断し、0.50秒を超えると危険性が高いとされる。
QT延長から不整脈が起こる機序
QT延長は心室筋の再分極が遅れている状態である。再分極が長引くと、活動電位の再分極途中(第2〜3相)に異常な脱分極が生じやすくなる。これを早期後脱分極(EAD:early afterdepolarization)と呼び、これが引き金(トリガー)となって心室性期外収縮が出現する。さらに、心室の部位ごとに再分極の時間がばらつく(再分極の不均一性)ため、期外収縮をきっかけにリエントリー(興奮の旋回)が成立し、多形性心室頻拍が発生する。 QT延長に伴う多形性心室頻拍は、QRS波の向き(極性)と振幅が基線を軸に数拍ごとにねじれるように変化する特徴的な波形を示し、トルサード・ド・ポアント(torsade de pointes:TdP、「棘のねじれ」の意)と呼ばれる。TdPは自然に停止して失神発作にとどまることもあるが、持続すると心室細動に移行し突然死の原因となる。
結論
したがって、QT延長のある患者で最も注意すべき不整脈は多形性心室頻拍(TdP)である。洞停止や上室性の頻脈性不整脈は、QT延長と直接の因果関係をもつ不整脈ではない。
選択肢考察
- ×a. 洞停止
誤り。洞停止は洞結節からの興奮発生が一時的に途絶え、P波もそれに続くQRS波も出現しない状態で、洞不全症候群や迷走神経緊張、薬剤(β遮断薬など)が原因となる。QT延長(心室の再分極遅延)とは発生機序が異なり、QT延長の結果として注意すべき不整脈ではない。なお、徐脈になるとQT時間はさらに延長しTdPが誘発されやすくなるため、QT延長患者にとって徐脈は増悪因子ではあるが、問われている不整脈そのものではない。
- ×b. 心房細動
誤り。心房細動は心房内で無秩序な興奮が高頻度に起こり、心房がまとまった収縮をしなくなる上室性不整脈で、心電図ではP波が消失し細かく不規則な細動波(f波)とRR間隔の不整を認める。加齢、高血圧、弁膜症、甲状腺機能亢進症などが背景となり、心原性脳塞栓症の原因として重要であるが、心室の再分極遅延であるQT延長から直接生じる不整脈ではない。
- ×c. 心房粗動
誤り。心房粗動は主に右心房の三尖弁輪を旋回する大きなリエントリーによる上室性頻拍で、心電図では鋸歯状の粗動波(F波)を認め、2:1や4:1などの比率で心室に伝導する。発生の場は心房であり、QT延長とは機序が異なる。なお、心房粗動の治療に用いる一部の抗不整脈薬(Ⅰa群やⅢ群など)はQTを延長させTdPを誘発しうる点には注意が必要である。
- ○d. 多形性心室頻拍
正しい。QT延長では心室筋の再分極が遅れ、早期後脱分極による期外収縮と、心室内の再分極時間のばらつきによるリエントリーが生じやすくなる。その結果、QRS波の極性と振幅が周期的にねじれるように変化する多形性心室頻拍、すなわちトルサード・ド・ポアント(TdP)が発生する。TdPは失神の原因となり、心室細動に移行すれば突然死に至るため、QT延長患者で最も警戒すべき不整脈である。
- ×e. 発作性上室性頻拍
誤り。発作性上室性頻拍(PSVT)は、房室結節リエントリー性頻拍や副伝導路を介する房室回帰性頻拍などにより、突然始まり突然止まる規則的な頻拍である。通常はQRS幅の狭い頻拍で、迷走神経刺激やATP(アデノシン三リン酸)の静注で停止することが多い。発生機序は房室結節や副伝導路を含む回路であり、QT延長とは関係しない。
QT延長症候群(LQTS)の分類
1.先天性QT延長症候群 ・心筋のイオンチャネル(K⁺チャネル、Na⁺チャネルなど)の遺伝子変異による。代表的な病型は以下の3つ。 LQT1(KCNQ1:遅延整流K⁺電流IKsの低下):運動、特に水泳中に発作を起こしやすい。 LQT2(KCNH2:遅延整流K⁺電流IKrの低下):目覚まし時計の音などの突然の音刺激や情動ストレスで発作を起こしやすい。 LQT3(SCN5A:Na⁺電流の増加):睡眠中・安静時など徐脈時に発作を起こしやすい。 ・Romano-Ward症候群(常染色体顕性〈優性〉遺伝、聴力正常)と、Jervell and Lange-Nielsen症候群(常染色体潜性〈劣性〉遺伝、先天性感音難聴を伴う)が知られる。 ・若年者の原因不明の失神、けいれん、突然死の家族歴がある場合に疑う。 2.二次性(後天性)QT延長 ・実地臨床ではこちらのほうが頻度が高い。 ・薬剤:抗不整脈薬(Ⅰa群のキニジン・ジソピラミド、Ⅲ群のソタロール・アミオダロンなど)、マクロライド系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、抗真菌薬、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬の一部など。 ・電解質異常:低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症。 ・徐脈(完全房室ブロックなど)、急性心筋梗塞、くも膜下出血などの頭蓋内疾患、甲状腺機能低下症、神経性やせ症などの低栄養など。 ・複数の要因(例:利尿薬による低カリウム血症+QT延長作用のある薬剤)が重なるとTdPのリスクが高まる。
トルサード・ド・ポアント(TdP)への対応
・持続して血行動態が破綻している場合、または心室細動に移行した場合は、直ちに電気的除細動を行う。 ・硫酸マグネシウムの静注が第一選択の薬物治療である(血清Mg値が正常でも有効)。 ・低カリウム血症などの電解質異常を補正し、原因薬剤を中止する。 ・後天性で徐脈依存性の場合は、一時的ペーシングやイソプロテレノールで心拍数を上げてQT時間を短縮させる(先天性、特にLQT1・LQT2では交感神経刺激が発作を誘発しうるためイソプロテレノールは用いない)。
先天性LQTSの長期管理
・β遮断薬が基本(特にLQT1・LQT2で有効)。 ・QT延長作用のある薬剤を避ける。 ・心停止の既往がある高リスク例には植込み型除細動器(ICD)を考慮する。
POINT
・QT延長は心室の再分極遅延であり、早期後脱分極と再分極の不均一性から多形性心室頻拍(トルサード・ド・ポアント:TdP)を起こす。 ・TdPはQRS波の極性と振幅が基線を軸にねじれるように変化する。失神の原因となり、心室細動に移行すれば突然死に至る。 ・QT延長の原因は先天性(イオンチャネル遺伝子異常)と後天性(薬剤、低K・低Mg・低Ca血症、徐脈など)に分けられ、臨床では後天性が多い。 ・TdPの急性期治療:硫酸マグネシウム静注、電解質補正、原因薬剤の中止、持続・心室細動移行時は電気的除細動。
