手術から2年、再びかすむ視界―徹照像に浮かぶ「真珠」が示す後発白内障
第110回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
白内障手術後,2年経過して術眼の霧視を訴える患者の細隙灯顕微鏡写真(徹照像)を別に示す。 認められるのはどれか。

- a.角膜白斑
- b.角膜後面沈着物
- c.前房蓄膿
- d.後発白内障
- e.硝子体混濁
対話形式の解説
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ドクターまとめ
白内障手術から数か月〜数年後に痛みのない霧視・視力低下が出現した場合、まず後発白内障を考えます。これは水晶体囊内に残った上皮細胞が増殖して後囊を混濁させるもので、徹照像では眼底からの橙色の反射を背景に、眼内レンズ後方の泡状のエルシュニッヒ真珠や膜状の混濁が影として描出されます。角膜白斑は角膜、角膜後面沈着物は角膜内皮面、前房蓄膿は前房下方、硝子体混濁はさらに奥と、混濁の位置で鑑別できます。治療はNd:YAGレーザー後囊切開術で外来で行えますが、眼圧上昇などの合併症にも注意が必要です。術後の時期と混濁の層に着目する考え方は、白内障術後の視力低下を鑑別する際の基本となります。
解答・解説
正解はdです
臨床情報の整理
・白内障手術(通常は水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)から2年後 ・術眼の霧視(かすんで見える)が徐々に出現 手術直後ではなく、術後数か月〜数年たってから視機能が再び低下してくる経過は、後発白内障の典型である。
画像の読み方
徹照像とは、細隙灯の光を瞳孔から眼内に入れ、眼底(網膜・脈絡膜)で反射して戻ってくる橙赤色の光(徹照、レッドリフレックス)を背景として、その手前にある中間透光体(角膜・前房・水晶体・眼内レンズ・後囊など)の混濁を影絵のように浮かび上がらせる撮影法である。混濁は明るい橙色の背景の中に、光を遮る影や凹凸として描出される。 本例では散瞳した瞳孔領全体に橙色の眼底反射が得られているが、瞳孔領のほぼ全域に、大小の泡状・顆粒状の構造が敷き詰められたような不整な混濁が認められる。円形の眼内レンズの縁が透見され、混濁はその位置(眼内レンズ光学部の後方の水晶体後囊)に一致している。この泡状の混濁は、残存した水晶体上皮細胞が増殖して形成されるエルシュニッヒ真珠(Elschnig pearls)と呼ばれる像である。一方、角膜は透明で、前房にも異常な貯留物はみられない。
診断
白内障術後数年の経過で霧視が出現し、眼内レンズ後方の後囊に泡状の混濁を認めることから、後発白内障と診断できる。治療はNd:YAGレーザーによる後囊切開であり、外来で短時間に行え、視力は速やかに回復する。
選択肢考察
- ×a. 角膜白斑
誤り。角膜白斑は角膜炎や外傷などの後に角膜実質が瘢痕化して生じる白色の混濁で、細隙灯顕微鏡では眼の最表層(角膜)に位置する白い濁りとして見える。本例では角膜は透明であり、混濁は角膜よりずっと奥の眼内レンズ後方に存在するため該当しない。
- ×b. 角膜後面沈着物
誤り。角膜後面沈着物(KP:keratic precipitates)は、ぶどう膜炎などで前房内に出た炎症細胞が角膜内皮面(角膜の裏側)に付着したもので、白色〜色素を伴う点状・粒状の沈着として観察される。角膜下方に三角形状に分布することが多い。本例では角膜後面に沈着物はなく、混濁の主座は眼内レンズの後方である。
- ×c. 前房蓄膿
誤り。前房蓄膿は前房内に好中球などの白血球が多量に滲出し、重力によって前房の下方に貯留して水平面(ニボー)を形成した状態である。Behçet病の眼発作や細菌性眼内炎、重症の角膜潰瘍などでみられる。本例では前房下方に白色の貯留はみられない。なお、白内障術後に前房蓄膿を伴う場合は術後眼内炎を疑うが、術後2年という時期と画像所見からは否定的である。
- ○d. 後発白内障
正しい。白内障手術では水晶体囊を袋として残し、その中に眼内レンズを固定する。術後に囊内に残存した水晶体上皮細胞が増殖・化生し、後囊に泡状の細胞塊(エルシュニッヒ真珠)や線維性の混濁を形成すると、光の通過が妨げられ霧視や視力低下をきたす。本例は術後2年での霧視と、徹照像で眼内レンズ後方の後囊に泡状の混濁が認められることから後発白内障である。治療はNd:YAGレーザー後囊切開術で、混濁した後囊の中央に孔を開けて光路を確保する。
- ×e. 硝子体混濁
誤り。硝子体混濁は硝子体出血、ぶどう膜炎、星状硝子体症などで硝子体内に生じる混濁で、眼底の観察が困難になる。本例の混濁は眼内レンズのすぐ後方の後囊に位置し、膜状の面に沿って泡状構造が広がっている。また瞳孔領全体から橙色の眼底反射が明瞭に返ってきており、少なくとも高度な硝子体混濁は考えにくい。
後発白内障とは
・白内障術後に、残存した水晶体上皮細胞が増殖して水晶体囊(主に後囊)が混濁する状態。白内障の「再発」ではなく、水晶体そのものは摘出されている。 ・術後数か月〜数年で生じ、術後の視力低下の原因として最も頻度が高いものの一つである。若年者や、ぶどう膜炎・糖尿病などの合併例で起こりやすい。 ・混濁の型:上皮細胞が膨化した泡状の「エルシュニッヒ真珠型」と、線維化による膜状・しわ状の「線維化型」がある。 ・症状:霧視、視力低下、羞明(まぶしさ)。痛みや充血は伴わない。 ・治療:Nd:YAGレーザー後囊切開術。切開を伴わず外来で施行可能。合併症として一過性の眼圧上昇、眼内レンズの損傷、まれに網膜剝離や嚢胞様黄斑浮腫がある。 ・予防:眼内レンズの光学部の縁を鋭角(シャープエッジ)にして上皮細胞の後囊中央への移動を阻むなどの工夫がなされている。
徹照法(徹照像)
眼底からの反射光を背景にして中間透光体を観察する方法。混濁は背景の橙赤色の中に暗い影として浮かび上がるため、後囊混濁や初期の白内障(皮質の楔状混濁など)、虹彩の萎縮・欠損などの検出に有用である。
白内障術後の視力低下の鑑別
・後発白内障(数か月〜数年後、最多) ・術後眼内炎(多くは術後数日〜1週程度。疼痛・充血・前房蓄膿を伴い緊急対応が必要) ・嚢胞様黄斑浮腫(Irvine-Gass症候群、術後数週〜数か月) ・眼内レンズの偏位・脱臼、網膜剝離、緑内障など
POINT
・白内障術後、数か月〜数年して霧視・視力低下が出現したら後発白内障をまず考える。 ・後発白内障は、残存した水晶体上皮細胞の増殖による水晶体後囊の混濁である(泡状のエルシュニッヒ真珠など)。 ・徹照像では眼底からの橙色の反射を背景に、眼内レンズ後方の混濁が影として描出される。 ・治療はNd:YAGレーザー後囊切開術。 ・前房蓄膿はBehçet病や眼内炎、角膜後面沈着物はぶどう膜炎でみられる所見で、混濁の位置(角膜・前房・後囊・硝子体)で区別する。
