手術までの「つなぎ」に何を使う?―エストロゲン依存性腫瘍・子宮筋腫の術前管理
第109回医師国家試験 I問題 第58問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。2回経妊2回経産婦。月経痛を主訴に来院した。5年前から子宮筋腫を指摘されている。最近,月経時の下腹部痛が強くなったため受診した。月経周期は26日型,整。持続10日間。血液所見:赤血球340万,Hb 6.0 g/dL,Ht 26%,白血球4,200,血小板33万。骨盤部MRIのT2強調矢状断像を別に示す。子宮摘出手術を行うこととした。 それまでの管理として投与すべきでないのはどれか。

- a.鉄剤
- b.止血薬
- c.鎮痛薬
- d.エストロゲン
- e.GnRHアゴニスト
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮筋腫は子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、エストロゲン依存性に増大し、閉経後は縮小します。過多月経・過長月経による慢性的な失血から小球性低色素性の鉄欠乏性貧血をきたすことが多く、MRIのT2強調像では境界明瞭な低信号腫瘤として描出されます。子宮摘出術までの管理では、鉄剤で貧血を改善し、トラネキサム酸などの止血薬やNSAIDsで症状を和らげ、GnRHアゴニストやアンタゴニストによる偽閉経療法で筋腫の縮小と止血を図ります。一方、エストロゲンの投与は筋腫の増大と出血の悪化を招き、血栓症リスクもあるため避けるべきです。GnRHアゴニストは骨量減少のため投与期間が原則6か月以内であることも含め、ホルモン依存性腫瘍の病態から治療方針を組み立てる考え方は婦人科診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・48歳の女性、2経妊2経産。5年前から子宮筋腫を指摘されており、最近になって月経時の下腹部痛(月経困難症)が強くなった。 ・月経周期は26日型で整だが、持続が10日間と長い(月経持続期間の正常は3〜7日で、8日以上は過長月経)。経血量も多い(過多月経)ことが推測される。 ・Hb 6.0 g/dL、Ht 26%と高度の貧血がある。平均赤血球容積(MCV)=Ht÷赤血球数×10=26÷340×1,000≒76 fL、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)=Hb÷Ht×100≒23%で、小球性低色素性貧血である。過多月経・過長月経による慢性的な失血が原因の鉄欠乏性貧血と考えられる。 ・骨盤部MRIのT2強調矢状断像では、子宮が著明に腫大し、膀胱の頭側から背側にかけて境界明瞭な低信号主体の大きな腫瘤(内部に一部高信号域が混在)を認める。平滑筋からなる子宮筋腫はT2強調像で低信号を示すのが特徴で、内部の高信号は変性を反映する。
病態と方針
子宮筋腫による過多月経・月経困難症と、それに伴う高度の鉄欠乏性貧血であり、子宮摘出術(根治手術)が予定されている。設問は、手術までの期間にどのような管理を行うか、その中で投与すべきでない薬剤を問うている。 手術までの管理の目標は、①貧血を改善して手術に備えること、②過多月経による出血を減らすこと、③疼痛を和らげること、④可能なら筋腫を縮小させて手術を容易にし、出血量を減らすこと、である。 子宮筋腫はエストロゲン(およびプロゲステロン)に依存して増大する良性腫瘍である。したがって、エストロゲンを補えば筋腫の増大や出血の増加を招き、管理目標に逆行する。一方、鉄剤・止血薬・鎮痛薬は症状に対する対症療法として、GnRHアゴニストはエストロゲンを低下させて筋腫を縮小させる術前療法として、いずれも理にかなっている。
選択肢考察
- ×a. 鉄剤
本例は過多月経・過長月経による小球性低色素性の鉄欠乏性貧血(Hb 6.0 g/dL)をきたしており、手術に向けて貧血を改善しておく必要がある。鉄剤の投与は原因に即した適切な治療であり、投与してよい。経口鉄剤が基本で、消化器症状で内服できない場合や急いで補充したい場合は静注鉄剤も選択肢となる。
- ×b. 止血薬
貧血の原因は筋腫に伴う過多月経であり、月経時の出血量を減らすことは貧血の進行を防ぐうえで有用である。トラネキサム酸などの抗線溶薬を中心とする止血薬は、過多月経に対する対症療法として用いられ、投与してよい。
- ×c. 鎮痛薬
本例の主訴は月経痛の増悪であり、手術までの期間の症状緩和として鎮痛薬(主に非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉。子宮収縮や痛みに関与するプロスタグランジンの産生を抑える)を用いるのは適切である。
- ○d. エストロゲン
子宮筋腫は子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、エストロゲンに依存して増大する(性成熟期に増大し、閉経後は縮小する)。エストロゲンを投与すると筋腫の増大や過多月経の悪化を招き、貧血の改善や術前の筋腫縮小という管理目標に逆行する。また本例は48歳と比較的高齢で、エストロゲン製剤には血栓症のリスクもあり、術前の投与は避けるべきである。したがって、エストロゲンは投与すべきでない。
- ×e. GnRHアゴニスト
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストを持続的に投与すると、一時的なゴナドトロピン分泌の増加(フレアアップ)の後、下垂体のGnRH受容体がダウンレギュレーションされてLH・FSHの分泌が抑制され、卵巣からのエストロゲン分泌が低下する(偽閉経療法)。これにより筋腫は縮小し、月経が止まるため出血が止まって貧血の改善も期待できる。手術前に用いると、筋腫の縮小による手術の容易化や術中出血量の減少、術前の貧血改善が得られるため、術前療法として適切である。ただし、低エストロゲン状態による骨量減少やほてりなどの更年期様症状があるため、投与期間は原則6か月以内に限られる。
子宮筋腫の概要
・子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、性成熟期女性の2〜3割程度にみられる最も頻度の高い婦人科腫瘍である。エストロゲン・プロゲステロン依存性に増大し、閉経後は縮小する。 ・発生部位による分類:粘膜下筋腫(子宮内腔へ突出。小さくても過多月経・不正出血をきたしやすい)、筋層内筋腫(最も多い)、漿膜下筋腫(症状が出にくく、有茎性では茎捻転を起こすことがある)。 ・症状:過多月経・過長月経とそれに伴う鉄欠乏性貧血、月経困難症、下腹部腫瘤感、圧迫症状(頻尿、便秘、腰痛)、不妊・流早産の原因となることがある。 ・画像:MRI T2強調像で境界明瞭な低信号の腫瘤として描出される。変性(硝子化・嚢胞変性・赤色変性など)があると内部の信号が不均一になる。子宮腺筋症は境界不明瞭な筋層のびまん性肥厚として描出され、筋腫との鑑別に有用である。子宮肉腫との鑑別も重要である。
治療
・無症状で小さいものは経過観察とする。 ・対症療法:鉄剤(貧血)、止血薬(トラネキサム酸など)、鎮痛薬(NSAIDs)。 ・ホルモン療法(偽閉経療法):GnRHアゴニスト(リュープロレリンなど、注射・点鼻)や、GnRHアンタゴニスト(経口薬のレルゴリクスなど。フレアアップがなく速やかにエストロゲンを低下させる)。筋腫を縮小させ、過多月経・貧血・疼痛を改善するが、中止すると数か月で元の大きさに戻るため、術前療法や閉経までの「逃げ込み療法」として用いられる。骨量減少のため投与期間に制限がある。 ・手術療法:根治的には子宮全摘術。妊孕性温存を希望する場合は子宮筋腫核出術、粘膜下筋腫では子宮鏡下手術も選択される。 ・その他:子宮動脈塞栓術、集束超音波療法など。
エストロゲン・プロゲスチン製剤との関係
月経困難症に用いられる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は、子宮筋腫の患者でも用いられることがあるが、筋腫を縮小させる効果は期待できず、40歳以上では血栓症リスクに注意が必要である。エストロゲン単独の投与は筋腫の増大をもたらすため、子宮筋腫の治療・術前管理として用いることはない。
POINT
・子宮筋腫はエストロゲン依存性腫瘍→エストロゲン投与は筋腫を増大させるため避ける。 ・過多月経・過長月経による小球性低色素性貧血(鉄欠乏性貧血)が子宮筋腫の代表的な合併症。 ・術前管理:鉄剤で貧血を改善、止血薬・鎮痛薬で対症療法、GnRHアゴニスト(またはアンタゴニスト)で偽閉経として筋腫縮小・止血を図る。 ・GnRHアゴニストは骨量減少のため投与期間が原則6か月以内。 ・MRI T2強調像で子宮筋腫は境界明瞭な低信号腫瘤。
