閉経後の出血、その先にある選択―子宮体癌はなぜ「まず手術」なのか
第118回医師国家試験 A問題 第41問
国試問題にチャレンジ
53歳の女性(2妊1産)。51歳で閉経。不正性器出血を主訴に来院した。約3か月前から少量の不正性器出血を自覚していた。2週間前から出血が増量したため受診した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。身長161cm,体重65kg。体温36.2℃。脈拍84/分,整。血圧140/78mmHg。内診で子宮はやや腫大するも可動性は良好で,付属器は触知しない。血液所見:赤血球320万,Hb 9.9g/dL,Ht 31%,白血球6,300,血小板21万,PT-INR 1.0(基準0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL,アルブミン3.7g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 18U/L,ALT 16U/L,LD 186U/L(基準124~222),γ-GT 32U/L(基準9~32),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,CEA 3.2ng/mL(基準5以下),CA19-9 28U/mL(基準37以下),CA125 52U/mL(基準35以下)。CRP 1.0mg/dL。子宮内膜細胞診は陽性。子宮内膜組織診で類内膜癌が検出された。頸部~骨盤部造影CTで明らかなリンパ節腫大および遠隔転移を認めない。骨盤部単純MRIのT2強調矢状断像を示す。 この患者に行う治療はどれか。

- a.手術療法
- b.抗菌薬投与
- c.動注化学療法
- d.化学放射線療法
- e.密封小線源治療
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
閉経後の不正性器出血では子宮体癌をまず疑い、子宮内膜細胞診・組織診で確定診断します。診断後はCTでリンパ節転移や遠隔転移を、MRIで筋層浸潤や頸部間質浸潤を評価し、手術可能であれば子宮全摘出術と両側付属器摘出術(±リンパ節郭清、腹腔細胞診)が初回治療の原則です。子宮体癌は放射線や薬物への反応性がそれほど高くなく、しかも摘出標本で進行期を決める手術進行期分類を用いるため、手術は治療と病期診断を兼ねます。術後は再発リスクに応じて化学療法や放射線療法を追加し、放射線療法は手術不能例などで用いられます。放射線感受性が高く同時化学放射線療法が標準となる子宮頸癌との対比で整理すると、婦人科腫瘍の治療選択の考え方が身につきます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・53歳、閉経後2年の女性。3か月前から続き、2週間前から増量した不正性器出血。閉経後の性器出血は、子宮体癌をはじめとする悪性腫瘍をまず除外すべき重要な症状である。 ・身長161cm、体重65kg(BMI約25)、血圧140/78mmHgと、子宮体癌の危険因子である肥満・高血圧の傾向がわずかにある。 ・Hb 9.9g/dLの軽度貧血は、持続する出血によるものと考えられる。血小板数、PT-INR、肝機能は正常で、出血傾向による出血ではない。 ・体温は平熱、白血球は正常、CRPは1.0mg/dLとごく軽度の上昇にとどまり、子宮内の細菌感染(子宮留膿腫など)を示す所見に乏しい。 ・CA125が52U/mLと軽度上昇。子宮体癌でも上昇することがある。 ・内診で子宮はやや腫大するが可動性は良好で、付属器は触知しない。周囲への固着がなく、骨盤内への広がりを示す所見はない。 ・子宮内膜細胞診陽性、内膜組織診で類内膜癌:子宮体癌(子宮内膜癌)の確定診断が得られている。 ・造影CTでリンパ節腫大や遠隔転移はなく、MRIのT2強調像では腫大した子宮体部の内腔に腫瘍を認めるが、子宮外への進展は明らかでない。
治療方針の考え方
子宮体癌の診断がついた後は、画像検査で病変の広がりを評価して治療を決める。CTではリンパ節転移や遠隔転移を、MRIでは子宮筋層への浸潤の深さや頸部間質への進展を推定する。本例は画像上、子宮に限局した病変と考えられ、全身状態にも手術を妨げる要因はない。 子宮体癌は子宮頸癌に比べて放射線の感受性が低く、卵巣癌ほど抗癌剤もよく効かないため、治療の中心は手術である。しかも進行期は手術で摘出した標本の病理所見に基づいて決定する(手術進行期分類)ため、手術は治療であると同時に正確な病期診断の手段にもなる。したがって、本例に行う治療は手術療法である。術後は病理所見から再発リスクを評価し、必要に応じて化学療法や放射線療法を追加する。
選択肢考察
- ○a. 手術療法
子宮体癌の初回治療は、手術が可能であれば手術が原則である。基本術式は子宮全摘出術と両側付属器(卵巣・卵管)摘出術で、腹腔細胞診を行い、再発リスクに応じて骨盤リンパ節郭清・傍大動脈リンパ節郭清(または生検)を加える。摘出標本の病理診断で手術進行期と組織学的悪性度、筋層浸潤の深さ、脈管侵襲などを確定し、術後の追加治療の要否を決める。本例は画像上子宮に限局しており、手術による根治が十分に期待できる。
- ×b. 抗菌薬投与
閉経後の性器出血をきたす疾患には、子宮腔内に膿がたまる子宮留膿腫もあるが、その場合は発熱や下腹部痛、膿性帯下を伴うことが多い。本例は平熱で白血球は正常、CRPもごく軽度の上昇にとどまり、感染を示す所見は乏しい。組織診で類内膜癌が確定しており、出血の原因は癌であるため、抗菌薬は治療にならない。
- ×c. 動注化学療法
動注化学療法は、腫瘍を栄養する動脈にカテーテルを入れて抗癌剤を直接注入する方法で、肝細胞癌や一部の頭頸部癌などで用いられる。子宮体癌に対する標準治療ではなく、手術可能な限局性病変である本例に選ぶ理由はない。子宮体癌で薬物療法を行う場合は、静脈内投与による全身化学療法(カルボプラチン+パクリタキセルなど)が基本である。
- ×d. 化学放射線療法
抗癌剤と放射線を同時に用いる同時化学放射線療法(CCRT)は、局所進行子宮頸癌の標準治療である。子宮体癌では、合併症などで手術ができない場合や進行・再発例で放射線療法が選択されることはあるが、手術可能な早期例の初回治療として化学放射線療法を選ぶことはない。本例は手術が第一選択である。
- ×e. 密封小線源治療
密封小線源治療は、放射線源を子宮腔内や腟内に置いて病巣に近い距離から照射する方法(腔内照射)で、病巣に高線量を集中させやすい。外照射と組み合わせた子宮頸癌の根治的放射線治療で中心的な役割を担う。子宮体癌でも、高齢・重い合併症などで手術ができない場合や、術後の腟断端再発の予防・治療に用いられることはあるが、手術可能な本例の初回治療としては選択しない。
子宮体癌の概要
子宮内膜から発生する癌で、50〜60歳代の閉経前後の女性に多く、主症状は不正性器出血である。近年、国内で増加している。 ・タイプ1(エストロゲン依存性):類内膜癌(特に悪性度の低いもの)が中心。子宮内膜増殖症を経て発生し、比較的予後良好。危険因子は、肥満、未経産、遅い閉経、エストロゲン単独のホルモン補充療法、多嚢胞性卵巣症候群、タモキシフェン内服、糖尿病、高血圧など、エストロゲンへの長期曝露に関わるもの ・タイプ2(エストロゲン非依存性):漿液性癌、明細胞癌など。萎縮内膜を背景に高齢者に多く、悪性度が高い ・遺伝性:Lynch症候群(ミスマッチ修復遺伝子の異常)では大腸癌とともに子宮体癌のリスクが高い
診断の流れ
・子宮内膜細胞診→子宮内膜組織診(内膜生検、必要に応じて内膜全面掻爬)で確定診断。性成熟期の女性では事前に妊娠を除外する ・経腟超音波で内膜の肥厚を評価 ・MRI:筋層浸潤の深さ(2分の1未満か以上か)、頸部間質浸潤の評価。T2強調像で、低信号の接合帯(junctional zone)が保たれているかが目安となる ・CT:リンパ節転移、遠隔転移の評価 ・腫瘍マーカー:CA125、CA19-9などが上昇することがある
進行期分類
手術で摘出した標本の病理所見に基づく手術進行期分類(FIGO分類)を用いる。概略は、I期:子宮体部に限局、II期:頸部間質に浸潤、III期:子宮外へ広がるが骨盤内にとどまる、またはリンパ節転移、IV期:膀胱・腸管粘膜への浸潤や遠隔転移。なお、FIGO 2023改訂では組織型や分子分類も加味された細分類が導入されている。
治療
・初回治療:手術(子宮全摘出術+両側付属器摘出術±リンパ節郭清、腹腔細胞診) ・術後:病理所見から再発リスクを低・中・高リスクに分類し、中・高リスクでは補助療法を行う。日本では術後補助化学療法が主に行われ、骨盤内再発の予防を目的に放射線療法を用いることもある ・手術不能例(重い合併症など):放射線療法(外照射+腔内照射) ・進行・再発例:化学療法、免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法 ・妊孕性温存を強く希望する若年者で、高分化型類内膜癌が内膜に限局すると推定される場合には、高用量黄体ホルモン療法(酢酸メドロキシプロゲステロン)が選択肢となる
子宮頸癌との比較
子宮頸癌は放射線感受性が高く、局所進行例では同時化学放射線療法が標準治療となる。子宮体癌は放射線・薬物への反応性がそれほど高くないため、手術が治療の中心である点が対照的である。
POINT
・閉経後の不正性器出血では、まず子宮体癌を疑い子宮内膜細胞診・組織診を行う ・子宮体癌の治療の基本は手術(子宮全摘出術+両側付属器摘出術±リンパ節郭清) ・進行期は手術標本の病理所見で決める(手術進行期分類) ・術後は再発リスクに応じて化学療法や放射線療法を追加する ・放射線療法は手術不能例などで用いる。同時化学放射線療法は子宮頸癌の標準治療 ・危険因子:肥満、未経産、遅い閉経、エストロゲン単独のホルモン補充療法、糖尿病、高血圧、Lynch症候群
