StudyMed医師国家試験

「打つ場所」が命を分ける―アナフィラキシーのアドレナリンはなぜ太ももに筋注なのか

第109回医師国家試験 H問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第11問

アナフィラキシーショックにおけるアドレナリンの投与経路として適切なのはどれか。

  1. a.皮下
  2. b.皮内
  3. c.筋肉内
  4. d.骨髄内
  5. e.気管内

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアナフィラキシーショックの初期治療、その中でもアドレナリンを「どこから入れるか」を問う問題だ。薬の選択はもちろん大事だけれど、同じ薬でも投与経路によって効き始めの速さと安全性がまったく変わる。そこに注目して考えてみよう。
医学生医学生
ショックなら一番速いのは静脈内投与だと思うんですが、選択肢にはないですね。
ドクタードクター
鋭いね。たしかに静注は速いけれど、アドレナリンを静注すると血中濃度が急に上がって、致死的な不整脈や著しい血圧上昇を起こすことがある。しかも静脈路の確保には時間がかかることもある。だから心停止に至っていないアナフィラキシーでは、まず別の経路を選ぶんだ。
医学生医学生
薬理学の講義で、アドレナリンはα1、β1、β2の全部に作用すると習いました。アナフィラキシーにはそれが効くんですよね。
ドクタードクター
その通り。α1刺激で末梢血管を収縮させて血圧を上げ、喉頭や粘膜の浮腫を軽くする。β1刺激で心収縮力と心拍数を上げ、β2刺激で気管支を広げる。さらにマスト細胞からのメディエーター放出も抑える。複数の臓器で同時に起こる症状を一剤でまとめて立て直せるから、第一選択薬なんだ。では経路の話に戻ろう。昔はどこに打っていたと思う?
医学生医学生
皮下注射だったと聞いたことがあります。救急外来の実習で、年配の先生が「昔はボスミン皮下注だった」と話していました。
ドクタードクター
よく覚えているね。でも皮下注は今では推奨されない。皮下組織はもともと血流が少ないうえに、アドレナリン自身の血管収縮作用で局所の血流がさらに落ち、吸収が遅れてしまう。血中濃度が最大になるまで、筋注に比べてかなり時間がかかることが示されているんだ。
医学生医学生
薬の作用が自分の吸収を邪魔してしまうわけですね。それなら血流の多い場所に打てばいい、ということで筋肉内ですか。
ドクタードクター
正解。骨格筋は血流が豊富で吸収が速く、皮下より短時間で有効な血中濃度に達する。静注ほど急激ではないので副作用も起こりにくいし、静脈路を待たずにその場ですぐ打てる。部位は大腿前外側部の中央、つまり外側広筋が標準だ。
医学生医学生
皮内注射はどうでしょう。ツベルクリン反応や皮内テストで使う経路ですよね。
ドクタードクター
そう、皮内は表皮直下にごく少量を入れて局所の反応をみるための経路だ。全身への吸収は非常に遅く量も限られるから、全身作用を急いで得たい場面には向かない。
医学生医学生
骨髄内投与は、OSCEの前に小児の蘇生で習いました。静脈が取れないときの代わりでしたよね。
ドクタードクター
そうだね。骨髄腔の豊富な静脈叢を介して、静注とほぼ同等の効果が得られる。だからこそ扱いも静注と同じで、心停止や静脈路が確保できない重症の蘇生場面で使う経路なんだ。通常のアナフィラキシーショックで最初に選ぶものではない。気管内投与も同じく蘇生時の代替経路で、吸収が不確実なため多めの量が必要になり、現在のガイドラインでは静脈路や骨髄路が優先される。
医学生医学生
つまり、骨髄内と気管内は「心停止になったら」の経路で、ショックの初期対応では筋注、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。用量も押さえておこう。0.1%アドレナリンを0.01mg/kg、成人は最大0.5mg、小児は最大0.3mgを筋注し、改善が乏しければ5〜15分ごとに繰り返す。患者さんが携帯する自己注射薬も、太ももの外側に筋注する仕組みになっている。
医学生医学生
抗ヒスタミン薬やステロイドも一緒に使うと聞きますが、それだけで治療してはいけないんですか。
ドクタードクター
大事な質問だね。抗ヒスタミン薬は皮膚症状を和らげ、ステロイドは二相性反応の予防を期待して使われることがあるけれど、どちらも効果が出るまでに時間がかかり、血圧や気道を直接立て直す力はない。あくまで補助薬で、アドレナリンの代わりにはならない。ほかにも、仰臥位で下肢を挙上し、急に立たせたり座らせたりしないこと、高流量酸素と細胞外液の急速輸液を行うことも基本だ。
医学生医学生
β遮断薬を飲んでいる人はアドレナリンが効きにくいと聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通りで、その場合はグルカゴン静注が考慮される。それから、いったん良くなっても数時間後に再燃する二相性反応があるから、症状が落ち着いても一定時間は経過観察する。「迷ったら太ももに筋注、そして見守る」と覚えておこう。

まとめ

アナフィラキシーショックの第一選択薬はアドレナリンで、α1・β1・β2作用により血圧低下、粘膜浮腫、気管支攣縮をまとめて改善します。投与経路は大腿前外側部への筋肉内注射が標準で、0.01mg/kg(成人最大0.5mg、小児最大0.3mg)を投与し、必要に応じて5〜15分ごとに反復します。皮下注は自らの血管収縮作用で吸収が遅れるため推奨されず、皮内は局所反応をみる検査用の経路、骨髄内・気管内は心停止時など静脈路が取れない場合の代替経路です。抗ヒスタミン薬やステロイドは補助薬にすぎず、体位管理・酸素・輸液と二相性反応への経過観察もあわせて行います。投与経路ごとの吸収特性を理解しておくことは、救急現場でためらわず正しく初期対応するための基礎になります。

解答・解説

正解はcです

アナフィラキシーは、アレルゲンなどの曝露後に急速に発症し、皮膚・粘膜、呼吸器、循環器、消化器など複数の臓器に症状が出る、生命を脅かしうる全身性の過敏反応である。血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックと呼ぶ。 治療の第一選択薬はアドレナリンであり、診断したら(あるいは強く疑ったら)ためらわずに直ちに投与する。アドレナリンは、α1受容体刺激による末梢血管収縮で血圧を上げ、粘膜浮腫を軽減する。β1受容体刺激で心収縮力と心拍数を高め、β2受容体刺激で気管支を拡張させる。さらにマスト細胞(肥満細胞)からのメディエーター放出を抑える作用もある。 投与経路として推奨されるのは筋肉内注射であり、部位は大腿前外側部(外側広筋)が標準である。骨格筋は血流が豊富なため吸収が速く、皮下注射よりも短時間で血中濃度が最大に達する。皮下組織では、アドレナリン自身の血管収縮作用によって局所の血流が低下し、吸収がかえって遅くなる。また、静脈内投与と比べると不整脈や過度の血圧上昇などの重篤な副作用が起こりにくく、静脈路の確保を待たずにその場ですぐ投与できる点も利点である。 本問では、ショック状態であっても心停止に至っていない段階での初期投与経路を問うており、筋肉内が適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  皮下

    かつてはアドレナリンの皮下注射が行われていたが、皮下投与では血中濃度が最大になるまでに30分前後かかり、筋肉内投与(10分弱)より明らかに遅いことが示されている。皮下組織はもともと血流が少ないうえ、アドレナリンの血管収縮作用で局所の吸収がさらに遅れるためである。急速に進行するアナフィラキシーには不適切であり、現在は推奨されない。

  2. ×b.  皮内

    皮内注射は、ツベルクリン反応や薬剤アレルギーの皮内テストなど、ごく少量を表皮直下に注入して局所反応をみる目的で用いる経路である。全身への吸収は非常に遅く、量も限られるため、全身作用を急いで得たいアナフィラキシーの治療には用いない。

  3. ○c.  筋肉内

    アナフィラキシーに対するアドレナリンの第一選択の投与経路である。骨格筋は血流が豊富で吸収が速く、皮下投与よりも速やかに有効な血中濃度に達する。部位は大腿前外側部の中央が推奨され、0.1%(1 mg/mL)アドレナリンを0.01 mg/kg(成人の最大量0.5 mg、小児の最大量0.3 mg)投与する。効果が不十分なら5〜15分ごとに反復する。医療機関外では、患者が携帯するアドレナリン自己注射薬(エピペン)も大腿外側に筋注する仕組みになっている。

  4. ×d.  骨髄内

    骨髄内投与は、骨髄腔の豊富な静脈叢を介して静脈内投与とほぼ同等の効果が得られる経路で、心肺蘇生時や重症ショックで静脈路の確保が困難な場合(特に小児)に用いられる。心停止に至ったアナフィラキシーでは、静脈内または骨髄内からアドレナリンを投与することになるが、通常のアナフィラキシーショックの初期対応として最初に選ぶ経路ではない。

  5. ×e.  気管内

    気管内投与は、気管挿管済みで静脈路も骨髄路も確保できない心肺蘇生時に、代替経路として用いられてきた方法である。吸収が不確実なため、静脈内投与の2〜2.5倍程度の量が必要とされ、現在の蘇生ガイドラインでは静脈路・骨髄路を優先し、気管内投与は推奨度の低い手段とされている。アナフィラキシーショックの初期治療には用いない。

アナフィラキシーの初期対応

1. 助けを呼び、バイタルサイン(意識、呼吸、循環、皮膚)を評価する。原因と考えられる薬剤の投与などは直ちに中止する。 2. アドレナリン0.01 mg/kgを大腿前外側部に筋注する(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)。改善がなければ5〜15分ごとに反復する。 3. 体位: 仰臥位にして下肢を挙上する。呼吸困難が強い場合は楽な姿勢(上体を起こすなど)とし、嘔吐がある場合は回復体位とする。急に立たせたり座らせたりしない(循環血液量が急に減って心停止を招くことがある)。 4. 高流量酸素投与、静脈路確保と細胞外液(生理食塩水など)の急速輸液を行う。 5. 補助的治療: 抗ヒスタミン薬(皮膚症状の緩和)、β2刺激薬吸入(気管支攣縮)、副腎皮質ステロイド(二相性反応の予防を期待して用いられることがあるが、効果の根拠は限られる)。いずれもアドレナリンの代わりにはならない。 6. 二相性反応(いったん改善したあと数時間後に症状が再燃すること)があるため、一定時間の経過観察を行う。

特殊な状況

・β遮断薬内服中の患者はアドレナリンが効きにくいことがあり、グルカゴン静注が考慮される。 ・アドレナリンの静脈内投与(持続投与など)は、筋注と輸液で改善しない難治例に、心電図・血圧モニター下で慣れた医師が行う。不整脈や高血圧などの副作用に注意する。 ・心停止に至った場合は通常の心肺蘇生のアルゴリズムに従い、アドレナリンを静脈内または骨髄内投与する(1 mgを3〜5分ごと)。

投与経路の比較

・筋肉内: アナフィラキシーの第一選択。吸収が速く、安全で、すぐ実施できる。 ・皮下: 吸収が遅く、現在は推奨されない。 ・静脈内/骨髄内: 心停止や難治性ショックで用いる。 ・気管内: 蘇生時の代替経路(推奨度は低い)。

POINT

・アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンで、投与経路は筋肉内(大腿前外側部)。 ・用量は0.1%アドレナリン0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg、5〜15分ごとに反復可。 ・皮下注は吸収が遅いため現在は推奨されない(かつての方法)。 ・骨髄内・気管内は心肺蘇生時に静脈路が取れない場合の代替経路。 ・抗ヒスタミン薬・ステロイドは補助薬であり、アドレナリンの代わりにはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。