300日の入院と高齢化する病棟―統計で読む日本の精神科医療
第109回医師国家試験 G問題 第6問
国試問題にチャレンジ
最近5年間における精神障害者の医療の実態について正しいのはどれか。
- a.精神病床の平均在院日数は約90日である。
- b.精神病床数は人口千人当たり約1床である。
- c.精神病床入院患者は65歳以上が約半数を占める。
- d.精神病床入院患者は統合失調症より認知症が多い。
- e.精神科外来患者は気分障害より統合失調症が多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の精神科医療は、人口千人当たり約2.6〜2.7床と国際的に多い精神病床と、300日前後(近年は270日台)という極端に長い平均在院日数が特徴です。長期入院した統合失調症患者の加齢と認知症入院の増加により、精神病床入院患者の約半数(現在は過半数)が65歳以上を占めています。入院患者で最も多いのは今も統合失調症で認知症を上回る一方、外来では気分障害が統合失調症を上回るという対比が重要です。社会的入院の解消に向けて「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針のもと地域移行が進められており、こうした統計の傾向を理解することは、患者の退院支援や地域連携を考える土台となります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
日本の精神科医療の現状を、統計データ(主に厚生労働省の患者調査、医療施設調査、病院報告)に基づいて理解しているかを問う問題である。出題当時(第109回)の「最近5年間」は、おおむね平成20年代前半のデータを指す。
日本の精神科医療の特徴
日本の精神科医療は、諸外国と比べて次のような特徴をもつ。 ・人口当たりの精神病床数が非常に多い。 ・精神病床の平均在院日数が極端に長い(一般病床が2週間余りであるのに対し、精神病床は300日前後)。 ・入院患者の中心は統合失調症であり、数十年にわたる長期入院例も多い。症状は落ち着いていても、住まいや支援者がいないために退院できない「社会的入院」が問題とされてきた。 ・長期入院患者が年を重ねた結果、入院患者の高齢化が進んでいる。 ・一方、外来では精神科受診への抵抗感が薄れたこともあり、うつ病などの気分障害の受診者が増え、統合失調症を上回っている。 こうした「入院は長期・高齢化・統合失調症中心、外来は気分障害が増加」という大まかな傾向を押さえておけば、細かな数値を覚えていなくても選択肢を判断できる。
注記
本問は特定の時期の統計数値に依存する出題であり、現在の国試対策としての有用性は高くない。数値そのものよりも、上に挙げた傾向を理解しておくことが重要である。
選択肢考察
- ×a. 精神病床の平均在院日数は約90日である。
精神病床の平均在院日数は年々短くなってはいるものの、平成23年に初めて300日を下回り、平成25年でも約285日であった。約90日という値とはかけ離れている。その後も緩やかな短縮が続いているが、近年も270日台で推移しており、一般病床(2週間余り)と比べて桁違いに長い状況は変わっていない。
- ×b. 精神病床数は人口千人当たり約1床である。
精神病床数は全国で約34万床(平成23年)であり、人口10万人当たりでは約270床、人口千人当たりに換算すると約2.6〜2.7床となる。約1床ではない。病床数は絶対数・人口当たりともに減少傾向にあるが、日本は今なお国際的にみて人口当たりの精神病床数が際立って多い国である。
- ○c. 精神病床入院患者は65歳以上が約半数を占める。
精神病床入院患者のうち65歳以上の割合は、平成20年に約48%、平成23年に約50%と、ほぼ半数を占めていた。若い頃に入院した統合失調症患者が長期入院のまま高齢化したことに加え、認知症による入院も加わって、入院患者の高齢化が進んでいる。患者本人だけでなく家族も高齢となり、受け入れ先がなく退院がいっそう難しくなっていることも課題である。その後も高齢化は進み、近年では65歳以上が過半数を占めている。
- ×d. 精神病床入院患者は統合失調症より認知症が多い。
精神病床入院患者で最も多い疾患は統合失調症(統合失調症型障害・妄想性障害を含む)である。平成23年の患者調査では統合失調症が約17万人であったのに対し、Alzheimer型認知症が約2.8万人、血管性認知症が約2.6万人で、両者を合わせても統合失調症の3分の1程度にとどまる。認知症による入院は増加しているが、統合失調症を上回ってはいない。
- ×e. 精神科外来患者は気分障害より統合失調症が多い。
外来では2000年代前半から気分障害(うつ病、双極性障害など)の患者数が統合失調症を上回っている。平成23年の患者調査(調査日1日当たりの推計外来患者数)では、気分障害が約7.5万人、統合失調症が約6.1万人であった。精神科受診への心理的抵抗が減り、比較的軽症のうつ病でも受診するようになったことが背景にある。入院では統合失調症、外来では気分障害が多いという対比を押さえておく。
精神保健医療福祉の改革の流れ
日本では長く入院中心の精神科医療が続いてきたが、2004年(平成16年)の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針が示され、受け入れ条件が整えば退院可能な、いわゆる社会的入院患者の地域移行が目標とされた。その後も、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築が進められ、退院後の住まい、障害福祉サービス、訪問支援などを地域で整える取り組みが続いている。
入院形態
精神保健福祉法に基づく主な入院形態には、本人の同意による任意入院、精神保健指定医の診察と家族等の同意による医療保護入院、自傷他害のおそれがある場合に都道府県知事の権限で行う措置入院などがある。入院患者の約半数が任意入院、残りの大部分が医療保護入院である。
統計の読み方
患者調査は3年ごとに行われ、調査日1日に医療機関を受診・入院していた患者数を推計するものである。総患者数(継続的に治療を受けている人の推計数)とは別の数値であるため、文献によって数値が大きく異なることがある。
POINT
・精神病床の平均在院日数は300日前後と極めて長い(一般病床は2週間余り)。 ・精神病床数は人口千人当たり約2.6〜2.7床と、国際的にみて多い。 ・精神病床入院患者の約半数(現在は過半数)が65歳以上で、高齢化が進んでいる。 ・入院患者は統合失調症が最多、外来患者は気分障害が統合失調症を上回る。 ・政策の方向性は「入院医療中心から地域生活中心へ」。
