StudyMed医師国家試験

どんなに興奮していても奪えないもの―精神科の行動制限と「絶対的禁止事項」

第119回医師国家試験 F問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第119回 F問題 第24問

精神運動興奮状態の患者に対して,精神保健指定医が行うことのできる行動の制限で誤っているのはどれか。

  1. a.隔離
  2. b.身体拘束
  3. c.退院の制限
  4. d.面会の制限
  5. e.処遇改善請求の制限

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神保健福祉法の行動制限の問題だ。ポイントは、行動制限を「誰の判断ならできるか」と「誰であってもできないか」で3段階に整理できるかどうか。精神運動興奮状態で危険が迫っていても、なお守られる患者の権利があるんだ。まず、精神保健指定医とはどんな医師か知っているかな。
医学生医学生
一定の臨床経験と研修を経て、厚生労働大臣が指定する精神科医ですよね。措置入院の判定をする医師、という印象です。
ドクタードクター
その通り。措置入院の判定は指定医2名以上の一致が必要だし、医療保護入院の要否判定や、強い行動制限の判断も指定医の仕事だ。では、行動制限の3段階を整理しよう。一番上が「いかなる場合も、指定医でも行えない制限」、次が「指定医が必要と認めた場合にだけ行える制限」、一番下が「指定医でない医師の判断でも行える制限」だ。
医学生医学生
隔離は指定医が判断する、と精神科の実習で聞きました。
ドクタードクター
正確には時間で分かれる。12時間以内の隔離なら指定医でない医師でも判断できるけれど、12時間を超える隔離は指定医の判断が必要になる。隔離とは、患者本人の意思では内側から出られない部屋に一人で入ってもらい、他の患者から遮断することだ。本人や周囲への危険が著しく高く、他の方法では避けられない場合に限って行う。いずれにせよ指定医なら行える制限だね。
医学生医学生
身体拘束はもっと制限の程度が強いので、時間に関係なく指定医の判断が要るんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。身体的拘束は時間にかかわらず指定医が必要と認めた場合に限られる。深部静脈血栓症や肺塞栓症といった合併症のリスクもあるから、常時の観察が求められ、代わりの方法が見つかり次第すみやかに解除しなければならない。
医学生医学生
退院の制限は、人権的にかなり重いので、指定医でもできないような気がしたのですが……。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だけど、これは指定医が行える。措置入院や医療保護入院では、指定医の診察で入院継続が必要と判断されれば、本人が望んでも入院は続く。任意入院の患者が退院を申し出た場合でも、指定医が入院継続を必要と認めれば72時間に限り退院を制限できる。緊急やむを得ない場合は特定医師の診察で12時間に限って制限できる仕組みもある。
医学生医学生
面会の制限はどうでしょう。家族の面会で患者さんが不安定になるケースを病棟で見たことがあります。
ドクタードクター
まさにそういう場合だね。家族や知人との面会・電話は、病状悪化など合理的な理由があれば、医療や保護に欠かせない限度で制限できる。これは指定医でなくても医師の判断で可能だ。ただし例外がある。都道府県などの行政機関の職員や、患者の代理人である弁護士との面会・電話は、誰であっても制限できない。
医学生医学生
なるほど。それで処遇改善請求の制限が、指定医でもできないものということですね。
ドクタードクター
正解。入院中の患者や家族等は、都道府県知事に退院請求や処遇改善請求ができ、精神医療審査会が審査する。これは不当な拘束や処遇から患者を守り、人身の自由を担保する仕組みだから、どんな病状でも妨げてはならない。絶対的禁止事項としては、信書の発信・受信の制限、行政機関職員や弁護士との電話・面会の制限、そしてこれらの請求の妨害をセットで覚えよう。
医学生医学生
外へ助けを求める手段を断ってしまうと、人権を守る仕組みが機能しなくなるから、という理屈ですね。
ドクタードクター
その理解が一番大事だ。理屈が分かっていれば、細かい条文を丸暗記しなくても選択肢を判断できる。信書についても補足しておくと、刃物や薬物などの異物が同封されていると考えられる場合は、患者に開封してもらうか、職員が患者の面前で開封して異物を取り除くことは認められている。それでも手紙そのものは必ず本人に渡す。
医学生医学生
精神医療審査会はどんなメンバーで構成されているんですか。
ドクタードクター
都道府県や指定都市に置かれ、精神医療の学識経験者である指定医、法律の学識経験者、精神障害者の保健福祉に関する学識経験者で構成される。退院請求や処遇改善請求のほか、医療保護入院の届出や定期病状報告の審査も担っている。
医学生医学生
実際に隔離や拘束をするときに、記録で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
大事な視点だね。患者に制限の理由を知らせるよう努め、開始日時・理由・解除日時を診療録に記載する。隔離中は定期的な会話などで観察し、身体的拘束中は常時観察、医師も頻回に診察する。行動制限は治療のための最小限の手段であって、罰ではない。その意識を臨床でも持ち続けてほしい。

まとめ

精神保健福祉法では、精神科病院の管理者は医療・保護に欠かせない限度で入院患者の行動を制限できますが、その程度に応じて判断できる者が定められています。12時間以内の隔離や家族・知人との面会制限は一般の医師でも可能で、12時間を超える隔離、身体的拘束、任意入院患者の72時間の退院制限には精神保健指定医の判断が必要です。一方、信書の発受の制限、行政機関職員や代理人弁護士との面会・電話の制限、退院請求・処遇改善請求の妨害は、指定医であっても、患者がどのような病状であっても行えません。これらは患者が外部に助けを求め、精神医療審査会による審査を受けるための権利保障の要だからです。行動制限の3段階を人権保障の理屈とともに理解しておくことは、国試対策だけでなく精神科臨床の倫理的基盤としても重要です。

解答・解説

正解はeです

問われていること

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)では、精神科病院の管理者は、入院中の患者に対して医療または保護に欠くことのできない限度で行動の制限を行うことができると定めている(第36条)。一方で、患者の人権を守るため、どのような場合でも制限してはならない行為(絶対的禁止事項)と、精神保健指定医(一定の臨床経験と研修を経て厚生労働大臣が指定する医師。以下、指定医)の判断がなければ行えない行為が定められている。本問は「指定医であっても行えない制限」を選ばせる問題であり、正解は選択肢中の誤った記述にあたるものである。

行動制限の3つの段階

1)いかなる場合も行えない制限(指定医でも不可) ・信書(手紙)の発信・受信の制限 ・都道府県その他の行政機関の職員、患者の代理人である弁護士(または弁護士になろうとする者)との電話・面会の制限 ・退院請求や処遇改善請求といった、精神医療審査会への請求を妨げること 2)指定医が必要と認めた場合にのみ行える制限 ・12時間を超える隔離 ・身体的拘束 3)医師(指定医でなくてよい)の判断で行える制限 ・12時間以内の隔離 ・上記以外の者(家族・知人など)との面会や電話の、合理的理由がある場合の制限 患者が精神運動興奮状態にあって自傷他害のおそれが強い場合でも、1)の制限は許されない。これらは患者が外部へ助けを求め、不当な入院や処遇を是正するための手段であり、制限してしまうと人権保障の仕組みそのものが機能しなくなるからである。

選択肢考察

  1. ×a.  隔離

    記述として正しい(指定医が行える制限である)。隔離とは、内側から患者本人の意思では出られない部屋に一人だけ入室させ、他の患者から遮断する行動制限である。本人や周囲に危険が及ぶ可能性が著しく高く、他の方法ではその危険を回避することが難しい場合に行う。12時間を超える隔離には指定医の判断が必要であるが、12時間以内であれば指定医でない医師の判断でも行える。したがって指定医が隔離を行えることは当然である。

  2. ×b.  身体拘束

    記述として正しい(指定医が行える制限である)。身体的拘束は、衣類や綿入り帯などを用いて一時的に患者の身体を拘束し、運動を抑制する行動制限で、制限の程度が強く、深部静脈血栓症・肺塞栓症などの合併症の危険もある。そのため時間にかかわらず指定医が必要と認めた場合に限って行うことができ、代替手段がみつかり次第すみやかに解除しなければならない。

  3. ×c.  退院の制限

    記述として正しい(指定医が行える制限である)。措置入院や医療保護入院では、入院の継続が必要かどうかは指定医の診察に基づいて判断され、必要と判断されれば本人が退院を望んでも入院が継続される。また任意入院患者が退院を申し出た場合でも、指定医の診察の結果、医療および保護のために入院継続が必要と認められれば、72時間に限り退院を制限できる(緊急その他やむを得ない場合は特定医師の診察により12時間に限り可能)。

  4. ×d.  面会の制限

    記述として正しい(指定医が行える制限である)。家族や知人などとの面会・電話は、病状を悪化させる、治療効果を損なうといった合理的な理由がある場合に、医療または保護に欠くことのできない限度で制限できる。これは指定医でなくても医師の判断で行える。ただし、都道府県や地方法務局などの人権擁護にかかわる行政機関の職員、患者の代理人である弁護士との面会・電話は、指定医であっても制限できない点に注意する。

  5. ○e.  処遇改善請求の制限

    これが誤りであり正解である。入院中の患者またはその家族等は、都道府県知事に対して退院請求や処遇改善請求を行うことができ、請求は精神医療審査会で審査される。これは不当な拘束や不適切な処遇から患者を守り、憲法が保障する人身の自由を担保するための制度であるため、患者がどのような病状であっても、指定医を含め誰もこれを妨げることはできない。請求を行うための電話や面会、手紙の発信もあわせて保障される。

精神保健指定医の主な職務

・措置入院・緊急措置入院の要否の判定(措置入院は指定医2名以上の一致した判断が必要) ・医療保護入院・応急入院の要否の判定 ・任意入院患者の退院制限(72時間まで)の判定 ・12時間を超える隔離、身体的拘束の要否の判定 ・措置入院者の定期病状報告に関する診察、措置解除の判定

信書についての補足

手紙の発受は制限できないが、刃物や薬物など危険な異物が同封されていると判断される場合には、患者に開封させる、あるいは職員が患者の面前で開封して異物を取り除くことは認められている。この場合も手紙そのものは患者に渡さなければならない。

行動制限に関する手続き

隔離や身体的拘束を行う際には、患者にその理由を知らせるよう努めるとともに、制限を開始した日時・理由・解除した日時を診療録に記載しなければならない。隔離中は定期的な会話などによる観察、身体的拘束中は常時の臨床的観察が求められ、医師は頻回に診察を行う。

精神医療審査会

都道府県(指定都市)に置かれ、精神医療の学識経験者(指定医)、法律の学識経験者、精神障害者の保健福祉に関する学識経験者で構成される。医療保護入院の届出や措置入院・医療保護入院の定期病状報告の審査、退院請求・処遇改善請求の審査を行う。

POINT

・指定医でも行えない制限:信書の発受の制限、行政機関職員・弁護士との面会・電話の制限、退院請求・処遇改善請求の妨害。 ・指定医の判断が必要:12時間を超える隔離、身体的拘束、任意入院患者の退院制限(72時間まで)。 ・一般の医師でも可能:12時間以内の隔離、家族・知人との面会・電話の制限(合理的理由がある場合)。 ・退院請求・処遇改善請求は都道府県知事に行い、精神医療審査会が審査する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。