StudyMed医師国家試験

症例数を増やせば消える誤差、消えない誤差―偶然誤差とバイアスを見分ける

第109回医師国家試験 G問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第5問

臨床試験において偶然誤差に関連するのはどれか。

  1. a.症例数
  2. b.プラセボ
  3. c.二重盲検法
  4. d.無作為割付
  5. e.intention to treat〈ITT〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臨床試験の「誤差」の問題だ。誤差には性質の違う2種類があって、それぞれ減らし方が違う。選択肢が「どちらの誤差への対策か」を仕分けられるかがポイントになるよ。
医学生医学生
偶然誤差と系統誤差ですよね。公衆衛生の講義で聞いた覚えはあるんですが、違いをうまく説明できる自信はありません。
ドクタードクター
じゃあイメージから。偶然誤差は、方向性を持たない「ばらつき」だ。試験に参加する患者は母集団のごく一部、つまり標本にすぎないから、誰が選ばれたかによって結果が上にも下にもぶれる。一方の系統誤差、つまりバイアスは、結果を一定の方向にずらしてしまう誤差なんだ。
医学生医学生
的当てで言うと、偶然誤差は矢が散らばること、バイアスは矢がまとまって的の中心から外れること、という感じですか。
ドクタードクター
うまいたとえだね。散らばりが小さいことを「精度が高い」、中心からずれていないことを「妥当性や正確度が高い」と言う。では、散らばりを小さくするにはどうしたらいいと思う?
医学生医学生
たくさん矢を射れば平均は真ん中に近づく…つまり人数を増やせばいいんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。症例数を増やすと、偶然のぶれは互いに打ち消し合って小さくなる。推定値の標準誤差はおよそ症例数の平方根に反比例して小さくなり、95%信頼区間も狭くなる。だから正解は症例数だ。
医学生医学生
でも、無作為割付も「偶然に任せる」方法なので、偶然誤差に関係していそうに見えて迷いました。
ドクタードクター
そこはよく引っかかるところだね。無作為割付は、患者をどちらの群に入れるかを偶然で決める方法だけど、目的は群間の偏りをなくすことにある。年齢や重症度のような既知の因子だけでなく、測っていない未知の交絡因子まで両群に均等に分布させることが期待できる。つまり選択バイアスや交絡という系統誤差への対策なんだ。
医学生医学生
なるほど、手段に「偶然」を使っているだけで、狙っているのはバイアスの排除なんですね。プラセボや二重盲検法はどうでしょう。
ドクタードクター
プラセボは外見や味を実薬とそろえた偽薬で、飲んでいるという意識だけで良くなるプラセボ効果や自然経過を、対照群にも同じように起こさせる。二重盲検法は、患者にも治療・評価する医療者にもどちらの群かを伏せて、期待や先入観による報告・判定の偏り、つまり情報バイアスを防ぐ。どちらも系統誤差への対策だね。
医学生医学生
臨床実習の抄読会で、オープンラベル試験だと主観的な評価項目が甘くなりやすいと指摘されていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそういうことだ。最後のITT解析は、途中で脱落したり服薬をやめたりした人も含めて、最初に割り付けた群のまま解析する方法。副作用で中止した人を除いて解析すると、残った集団に偏りが生じて、無作為化で得た比較可能性が崩れてしまう。ITTはそれを防ぐためのものだ。
医学生医学生
計画通りに治療を終えた人だけを解析するのはper protocol解析でしたよね。そちらは偏りが入りやすいと。
ドクタードクター
そう。per protocol解析は治療そのものの効能を見るのには向くけれど、除外によるバイアスが入りやすい。だからランダム化比較試験の主解析にはITTが標準的に使われる。ここまでで、症例数以外の4つは全部バイアス対策だと整理できたね。
医学生医学生
症例数を増やしてもバイアスは減らない、というのもポイントですか。
ドクタードクター
大事なポイントだよ。偏ったデザインのまま何万人集めても、ずれた方向に精密になるだけで真の値には近づかない。だからバイアスはデザインの段階で防ぐ必要があるんだ。発展として、偶然誤差は2種類の判断ミスにもつながる。本当は差がないのに差ありと判断する第1種の過誤αと、本当はある差を見逃す第2種の過誤β。1−βが検出力だ。
医学生医学生
症例数が少ないと、本当は効く薬なのに有意差が出ない、ということが起こるわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから臨床試験では、想定する効果の大きさ、有意水準α、検出力をもとに必要症例数をあらかじめ計算してから始める。論文を読むときも、有意差がなかったら「本当に差がないのか、症例数が足りないだけか」を信頼区間の幅で確かめる習慣をつけるといいよ。

まとめ

臨床試験の誤差は、方向性のないばらつきである偶然誤差と、一定方向へのずれである系統誤差(バイアス)に大別されます。偶然誤差は症例数を増やすことで小さくなり、標準誤差の縮小、信頼区間の狭まり、検出力の向上につながるため、本問で偶然誤差に関連するのは症例数です。無作為割付は選択バイアスと交絡、プラセボと二重盲検法は情報バイアス、ITT解析は脱落による偏りを防ぐ方法で、いずれも系統誤差への対策であり、症例数を増やしてもバイアスは減りません。必要症例数はα・検出力・想定効果から事前に設計されます。「精度」と「妥当性」を分けて考える視点は、臨床論文を批判的に読み、エビデンスを診療に生かすための基礎となります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

臨床試験の結果には真の値からのずれ(誤差)が必ず含まれる。誤差は性質の違いから「偶然誤差」と「系統誤差(バイアス)」の2つに大別され、それぞれ減らし方が異なる。本問は、各選択肢がどちらの誤差に対する手段なのかを区別できるかを問うている。

偶然誤差と系統誤差

・偶然誤差(random error): 方向性をもたず、偶然によって生じるばらつきである。試験に組み入れる対象者は母集団の一部(標本)にすぎないため、標本の取り方によって結果が上下にぶれる。測定を繰り返したり対象者数を増やしたりすると互いに打ち消し合って小さくなる。偶然誤差が小さいことを「精度(precision)が高い」という。 ・系統誤差(systematic error、バイアス): 一定の方向に結果をずらす誤差である。群間で背景因子が偏っている、評価者が治療内容を知っていて判定が甘くなる、といった原因で生じる。症例数をいくら増やしても小さくならず、研究のデザインや実施方法の工夫によって防ぐ必要がある。系統誤差が小さいことを「妥当性(validity)・正確度(accuracy)が高い」という。

考え方

選択肢のうち、症例数だけが「ばらつきの大きさ」に直接関わる要素である。プラセボ、二重盲検法、無作為割付、ITT解析は、いずれも比較の公平性を保ち結果の偏りを防ぐための方法であり、系統誤差への対策に当たる。

選択肢考察

  1. ○a.  症例数

    症例数(標本の大きさ)が大きくなるほど、推定値の標準誤差は小さくなり(およそ症例数の平方根に反比例する)、偶然によるばらつきが減る。その結果、95%信頼区間が狭くなり、本当に存在する差を統計学的に検出できる確率(検出力)も高まる。逆に症例数が少ないと、偶然の偏りで差が出たり、真の差を見逃したりしやすい。このため臨床試験では、あらかじめ想定される効果の大きさ、有意水準、検出力をもとに必要症例数を算出してから試験を始める。偶然誤差に直接関連するのは症例数である。

  2. ×b.  プラセボ

    プラセボ(偽薬)は、有効成分を含まないが外観や味などを実薬とそろえた対照薬である。「薬を飲んでいる」という意識だけで症状が改善するプラセボ効果や、自然経過による改善を対照群でも同じように生じさせることで、実薬の真の効果を偏りなく評価できる。また盲検化を成り立たせる手段にもなる。これは系統誤差を防ぐための工夫であり、偶然誤差とは関係しない。

  3. ×c.  二重盲検法

    二重盲検法は、被験者と、治療や評価を行う医療者の双方に、どちらの群に割り付けられたかを知らせない方法である。被験者の期待による症状報告の偏りや、医療者の先入観による治療・判定の偏り(観察者バイアス、情報バイアス)を防ぐことができる。系統誤差への対策であり、偶然誤差を小さくするものではない。

  4. ×d.  無作為割付

    無作為割付(ランダム化)は、対象者を介入群と対照群に偶然に任せて振り分ける方法である。年齢や重症度など、既知の因子だけでなく測定されていない未知の交絡因子も両群に均等に分布させることが期待でき、選択バイアスや交絡による系統誤差を防ぐ。どちらの群に入るかは偶然で決まるが、目的は群間の偏り(系統誤差)の排除であり、偶然誤差を減らす手段ではない。

  5. ×e.  intention to treat〈ITT〉

    ITT解析は、試験途中での脱落、服薬の中断、他治療への切り替えなどがあっても、すべての対象者を最初に割り付けられた群のまま解析する方法である。副作用で中止した人や治療に反応しなかった人を除外して解析すると、残った集団に偏りが生じ、無作為化で得られた群間の比較可能性が失われる。ITT解析は無作為化の効果を保ち、こうした系統誤差を防ぐ。また、実際の診療で治療方針を選んだときの効果を反映した結果が得られる。偶然誤差を小さくする方法ではない。

誤差の整理

・偶然誤差: 方向性なし。症例数の増加、測定回数の増加で減少する。評価指標は信頼区間の幅やP値。精度(precision)にかかわる。 ・系統誤差(バイアス): 一定方向へのずれ。症例数を増やしても減らない。研究デザインで予防する。妥当性・正確度(validity、accuracy)にかかわる。

主なバイアスと対策

・選択バイアス(対象者の選び方・群への振り分けの偏り): 無作為割付、割付の隠蔵(次にどちらの群になるかを事前にわからなくすること)。 ・情報バイアス(測定・評価の偏り): 盲検化、プラセボの使用、評価方法の標準化。 ・交絡(結果に影響する第3の因子による見かけの関連): 研究計画段階では無作為化、限定、マッチング。解析段階では層別解析、多変量解析。 ・脱落・中止による偏り: ITT解析。

ITT解析とper protocol解析

per protocol解析は、計画どおりに治療を完遂した人だけを解析する方法で、治療そのものの効果(効能)を見るのに向くが、除外によって偏りが入りやすい。ITT解析は割付どおりに全員を解析するため偏りが少なく、ランダム化比較試験の主解析として標準的に用いられる。

第1種・第2種の過誤

偶然誤差によって、本当は差がないのに差があると判断する誤り(第1種の過誤、α)と、本当は差があるのに見逃す誤り(第2種の過誤、β)が生じる。1−βを検出力といい、症例数を増やすと検出力が高まる。

POINT

・偶然誤差は方向性のないばらつきで、症例数を増やすと小さくなる(精度の問題)。 ・系統誤差(バイアス)は一定方向のずれで、症例数を増やしても減らない(妥当性の問題)。 ・プラセボ、二重盲検法、無作為割付、ITT解析は、いずれも系統誤差を防ぐための方法である。 ・必要症例数は効果の大きさ、有意水準α、検出力(1−β)から事前に設計する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。