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患者に上限がないのはなぜ?―放射線防護の三原則と「年1mSv」の意味

第109回医師国家試験 G問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第25問

放射線の防護・管理について正しいのはどれか。

  1. a.臨床検査技師は医師の指示により人体に放射線を照射することができる。
  2. b.妊娠している診療放射線技師は放射線業務に就くことができない。
  3. c.放射線診療で患者が受ける被ばくにも線量限度が定められている。
  4. d.放射線診療における行為の正当化は診療放射線技師が判断する。
  5. e.公衆被ばくの線量限度は職業被ばくの線量限度より低い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線防護と管理のルールを問う問題だ。押さえるべき軸は2つ。1つは放射線防護の三原則、もう1つは「誰が受ける被ばくか」による区分だ。まず三原則は言えるかな。
医学生医学生
正当化、最適化、線量限度ですよね。放射線医学の講義で、ICRPの勧告に基づいていると習いました。
ドクタードクター
完璧だ。正当化は「便益がリスクを上回るときだけ放射線を使う」、最適化は「合理的に達成できる限り被ばくを低くする」、いわゆるALARAの原則。そして線量限度は「個人の被ばくに上限を設ける」ことだね。次に被ばくの区分。放射線業務従事者が仕事で受ける職業被ばく、患者が診療で受ける医療被ばく、それ以外の一般の人が受ける公衆被ばくの3つがある。
医学生医学生
三原則は全部の区分に当てはまるんですか。
ドクタードクター
そこが今回の核心なんだ。線量限度が適用されるのは職業被ばくと公衆被ばくだけで、医療被ばくには線量限度がない。だから「患者の被ばくにも線量限度が定められている」という選択肢は誤りになる。
医学生医学生
え、患者さんこそ守るべきなのに上限がないのは意外です。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。でも考えてみて。放射線治療ではがんに数十Gyを照射する。もし上限を決めたら、必要な治療ができなくなってしまう。患者は検査や治療の利益を直接受ける立場だから、上限で縛るのではなく、正当化と最適化で管理するんだ。最適化の目安として診断参考レベルが設けられているけれど、これは個々の患者の上限ではないよ。
医学生医学生
放射線科の実習で、技師さんが小児のCTでは撮影条件を下げていたのを思い出しました。あれが最適化ですね。
ドクタードクター
いい例だね。では正解を見よう。公衆被ばくの線量限度は実効線量で年1mSv。職業被ばくは5年間で100mSvかつ任意の1年で50mSvだから、公衆のほうがはるかに低い。これが正しい選択肢だ。
医学生医学生
公衆のほうが厳しいのは、子どもや妊婦さんも含まれるからですか。
ドクタードクター
それに加えて、一般の人は被ばくを自ら選んだわけではなく、教育訓練や健康診断、個人線量計による管理も受けていない。だから職業人より厳しい限度にしているんだ。ちなみにどちらの限度にも、自然放射線と医療被ばくは含まれない。次は正当化を誰が判断するか。
医学生医学生
実際に撮影するのは診療放射線技師なので、技師さんが判断するのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
ひっかかりやすいポイントだね。その検査や治療がその患者に本当に必要か、つまり便益がリスクを上回るかは、診断・治療方針を決める医師または歯科医師が判断する。技師は撮影条件の工夫などで最適化に大きく貢献するけれど、行為の要否そのものを決める立場ではないんだ。
医学生医学生
照射できる職種についても聞かれていますね。臨床検査技師も医師の指示があればできそうな気がしますが。
ドクタードクター
できないんだ。人体に放射線を照射できるのは医師・歯科医師と、その指示を受けた診療放射線技師だけ。臨床検査技師が医師の指示で行えるのは超音波検査や心電図、MRIなどの生理学的検査で、これらは電離放射線を使わないから制限の対象外なんだ。看護師も照射はできないよ。
医学生医学生
妊娠している技師さんは放射線業務に就けない、というのも違うんですね。
ドクタードクター
その通り。法令上、就業は禁止されていない。ただし妊娠の診断から出産までは、腹部表面の等価線量2mSv、内部被ばくの実効線量1mSvという厳しい限度で管理される。妊娠の可能性がある女性にも3か月で5mSvという限度がある。現場では透視業務から外す、腹部の線量を測るといった配慮がなされるよ。
医学生医学生
医療被ばくは正当化と最適化で、職業と公衆は線量限度も加えて管理する。そして公衆が一番厳しい、と整理できました。
ドクタードクター
いいまとめだ。最後に臨床での注意点。外部被ばくの防護は時間・距離・遮蔽の三原則で、線量は距離の2乗に反比例するから、透視中に一歩下がるだけでもかなり違う。それから2021年の法令改正で眼の水晶体の等価線量限度が5年で100mSvかつ年50mSvに引き下げられた。IVRなどに携わる医師は防護眼鏡も意識してほしい。そして医師として一番大事なのは、正当化の責任を負っていること。「念のためCT」が本当に必要か、常に考える習慣をつけよう。

まとめ

放射線防護はICRP勧告に基づく正当化・最適化・線量限度の三原則で成り立ち、被ばくは職業被ばく・医療被ばく・公衆被ばくに区分されます。線量限度は職業被ばくと公衆被ばくにのみ適用され、公衆は年1mSvと、職業被ばくの5年100mSvかつ年50mSvよりはるかに低く設定されています。医療被ばくには線量限度がなく、医師による正当化と、線量を必要最小限にする最適化で管理されます。人体への照射は医師・歯科医師・診療放射線技師に限られ、妊娠中の従事者も就業は可能ですが、腹部表面2mSvなどの厳しい限度で管理されます。検査をオーダーする医師こそが正当化の責任者であることを意識し、これらのルールを理解しておくことが、患者と医療者双方を守る放射線診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

本問は放射線防護の基本的な枠組みと、日本の医療現場における放射線業務の法的ルールを問う問題である。 放射線防護は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき、次の三原則で組み立てられている。 (1) 正当化:放射線を使う行為は、それによる便益が害(リスク)を上回る場合にのみ行う。 (2) 最適化:正当化された行為でも、被ばくは経済的・社会的要因を考慮して合理的に達成できる限り低く抑える(ALARA:as low as reasonably achievable の原則)。 (3) 線量限度:個人が受ける被ばくに上限を設け、それを超えないようにする。 また被ばくは、受ける立場によって「職業被ばく(放射線業務従事者が仕事で受ける被ばく)」「医療被ばく(患者が診断・治療のために受ける被ばく)」「公衆被ばく(それ以外の一般の人が受ける被ばく)」の3つに区分される。三原則のうち線量限度は職業被ばくと公衆被ばくに適用され、医療被ばくには適用されない。これは、患者自身が放射線診療による利益を直接受ける立場であり、上限を設けると必要な検査や治療(例:がんの放射線治療)が行えなくなるおそれがあるためである。 線量限度の値を比べると、公衆被ばくは実効線量で年1mSvであり、職業被ばくの年50mSvかつ5年間で100mSv(5年平均で年20mSv)より大幅に低い。放射線業務従事者は教育訓練・健康診断・個人線量測定などの管理下で、仕事として放射線を扱うことを受け入れているのに対し、一般公衆は子どもや妊婦を含む多様な集団であり、自ら選んで被ばくするわけではないため、より厳しい限度が設定されている。 これらの原則と、人体への放射線照射を行える職種(医師・歯科医師・診療放射線技師)を押さえていれば、正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  臨床検査技師は医師の指示により人体に放射線を照射することができる。

    誤り。人体に放射線を照射することは、医師・歯科医師と、医師・歯科医師の指示を受けた診療放射線技師にのみ認められた業務である(診療放射線技師法)。臨床検査技師は医師の指示があっても放射線を照射することはできない。 なお、臨床検査技師は医師の指示のもとで超音波検査、心電図、脳波、MRI検査などの生理学的検査を行うことができる。超音波やMRIは電離放射線を用いないため、この制限の対象外である。

  2. ×b.  妊娠している診療放射線技師は放射線業務に就くことができない。

    誤り。妊娠中であっても放射線業務に就くことは法令上禁止されていない。ただし胎児を守るため、妊娠と診断されたときから出産までの間について、通常より厳しい線量限度が設けられている。日本の法令では、腹部表面の等価線量で2mSv、内部被ばくの実効線量で1mSvを超えないよう管理することとされる。 また、妊娠の可能性がある女性の放射線業務従事者についても、実効線量で3か月あたり5mSvという限度が別に定められている。実際の現場では、透視業務などから外す、個人線量計で腹部の線量を管理するといった配慮がなされる。

  3. ×c.  放射線診療で患者が受ける被ばくにも線量限度が定められている。

    誤り。患者が受ける医療被ばくには線量限度は定められていない。患者は検査や治療から直接の利益を受ける立場であり、限度を設けると、必要な診断や放射線治療(数十Gyの照射を要する)が実施できなくなるからである。 その代わり、医療被ばくは「正当化(その検査・治療が本当に必要か)」と「最適化(必要な画質や治療効果を保ちながら線量を最小限にする)」によって管理される。最適化の目安として、検査ごとの典型的な線量の目安である診断参考レベル(DRL:diagnostic reference level)が設定されているが、これは個々の患者の上限値ではない。

  4. ×d.  放射線診療における行為の正当化は診療放射線技師が判断する。

    誤り。ある患者に放射線を用いた検査や治療を行うべきかどうか、すなわち利益がリスクを上回るかを判断する「正当化」は、診断・治療方針を決定する医師(または歯科医師)の責任で行われる。診療放射線技師は医師の指示に基づいて照射を行う職種であり、撮影条件の調整などによる線量の最適化には大きな役割を果たすが、行為の要否そのものを判断する立場ではない。

  5. ○e.  公衆被ばくの線量限度は職業被ばくの線量限度より低い。

    正しい。公衆被ばくの線量限度は実効線量で年1mSvである。一方、職業被ばくの線量限度(実効線量)は、5年間で100mSv(5年平均で年20mSv)かつ任意の1年で50mSvを超えないこととされている。したがって公衆被ばくの限度のほうがはるかに低い。 一般公衆には子どもや妊婦など放射線感受性の高い人が含まれ、被ばくを自ら選択しておらず、職業人のような線量管理や健康管理も受けていないため、より厳しい基準が適用されている。なお、いずれの線量限度にも自然放射線による被ばくと医療被ばくは含まれない。

被ばくの3区分と線量限度の適用

・職業被ばく:放射線業務従事者が業務で受ける被ばく。線量限度あり。 ・公衆被ばく:一般の人が受ける被ばく(医療・職業以外)。線量限度あり。 ・医療被ばく:患者が診療で受ける被ばく。線量限度なし(正当化と最適化で管理)。介助者・付添者の被ばくや、医学研究の志願者の被ばくも医療被ばくとして扱われる。

主な線量限度(日本の法令、ICRP勧告に準拠)

職業被ばく ・実効線量:5年間で100mSv、かつ1年間で50mSv ・妊娠の可能性のある女性:3か月で5mSv ・妊娠中の女性(妊娠の診断から出産まで):内部被ばくの実効線量1mSv、腹部表面の等価線量2mSv ・眼の水晶体の等価線量:5年間で100mSv、かつ1年間で50mSv(2021年施行の改正で引き下げ) ・皮膚の等価線量:1年間で500mSv 公衆被ばく ・実効線量:1年間で1mSv

放射線防護の三原則

正当化・最適化・線量限度。医療被ばくでは線量限度を適用せず、正当化と最適化によって管理する。

外部被ばく防護の三原則

時間(被ばく時間を短くする)、距離(線源から離れる。線量は距離の2乗に反比例する)、遮蔽(鉛エプロンや鉛ガラスなどで遮る)。

放射線を人体に照射できる職種

医師、歯科医師、診療放射線技師(医師・歯科医師の指示が必要)。臨床検査技師、看護師は照射できない。

POINT

・医療被ばくには線量限度がない(正当化と最適化で管理する)。 ・公衆被ばくの線量限度は年1mSv、職業被ばくは5年で100mSvかつ年50mSv。公衆のほうが低い。 ・放射線防護の三原則は正当化・最適化・線量限度。正当化は医師が判断する。 ・人体に放射線を照射できるのは医師・歯科医師・診療放射線技師のみ。 ・妊娠中の放射線業務従事者も就業は可能だが、腹部表面2mSv・内部被ばく1mSvの限度で管理される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。