StudyMed医師国家試験

尤度比は「確率」ではなく「オッズ」に掛ける―事前確率20%が50%に化ける計算のしくみ

第109回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第109回 F問題 第10問

事前確率が20%のときに尤度比4の所見があれば事後確率はどれか。

  1. a.5%
  2. b.16%
  3. c.24%
  4. d.50%
  5. e.80%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、事前確率と尤度比から事後確率を求める計算問題だ。ポイントは1つだけ。尤度比を何に掛けるか、だよ。ここを取り違えると、選択肢のどれかにきれいに引っかかるように作られている。まず、直感でどう解く?
医学生医学生
20%に4を掛けて80%、と一瞬思いました。でも何か落とし穴がありそうな気がします。
ドクタードクター
その違和感は大事にしてほしい。実は尤度比は確率ではなく、オッズに掛けるものなんだ。臨床で使うベイズの定理は「事後オッズ=事前オッズ×尤度比」という形になる。
医学生医学生
オッズって、疫学の講義でオッズ比を習ったときに出てきましたけど、確率との違いがいまいち曖昧です。
ドクタードクター
確率は「全体のうち起こる割合」、オッズは「起こる÷起こらない」の比だ。式で書けばオッズ=確率/(1-確率)。たとえば確率20%なら、起こる0.2に対して起こらない0.8だから、オッズは0.2/0.8で0.25、つまり1対4になる。
医学生医学生
なるほど。じゃあ事前オッズ0.25に尤度比4を掛けると、事後オッズは1ですね。
ドクタードクター
その通り。最後にオッズを確率に戻す。確率=オッズ/(1+オッズ)だから、1/(1+1)で50%。手順は「確率→オッズ→尤度比を掛ける→確率に戻す」の3段階だよ。
医学生医学生
50%ですか。20%から一気に上がるんですね。式だけだと実感がわかないので、具体的な人数で考えられませんか。
ドクタードクター
いい発想だ。100人の集団を想像しよう。事前確率20%なら疾患あり20人、疾患なし80人。陽性尤度比は「疾患ありで所見が出る割合(感度)」÷「疾患なしで所見が出る割合(1-特異度)」だ。仮に感度80%とすると、尤度比4なので1-特異度は20%になる。
医学生医学生
疾患ありで所見陽性は20人の80%で16人、疾患なしで所見陽性は80人の20%で16人……同数ですね!
ドクタードクター
そう。所見陽性の32人のうち本当に疾患があるのは16人だから、やはり50%。感度をいくつに置いても、疾患あり側と疾患なし側の陽性者は同数になる。計算と人数の両方で確かめられると安心だね。
医学生医学生
では80%はどこが違うんでしょう。直感的に選びそうになった答えです。
ドクタードクター
確率に尤度比をそのまま掛けた値だね。これがダメな理由は簡単で、事前確率が30%なら120%になってしまう。確率が100%を超えるはずがないから、この方法自体が誤りだとわかる。
医学生医学生
24%は20に4を足しただけ、5%は20を4で割った値ですね。
ドクタードクター
そうだね。尤度比は足すものでも割るものでもない。それに、尤度比が1より大きい所見は疾患の可能性を高める方向に働くから、事後確率が事前確率の20%を下回ることはありえない。5%や16%はその時点で除外できる。
医学生医学生
答えの大小関係から逆算して絞るのも、CBTの統計問題で使えそうですね。でも、確率とオッズの違いを毎回意識しないといけないのは面倒です。
ドクタードクター
実は確率がおおむね10%未満なら、オッズと確率はほぼ同じ値になる。だから有病率が低い状況では大ざっぱに確率へ掛けても大きくは外れない。ただ、今回のように20%となるとオッズは0.25で差が無視できず、変換を省くと誤答になる。
医学生医学生
感度・特異度との関係も整理しておきたいです。陰性のときは別の尤度比を使うんでしたよね。
ドクタードクター
そう。陽性尤度比は感度/(1-特異度)、陰性尤度比は(1-感度)/特異度。陽性尤度比が10以上、陰性尤度比が0.1以下なら診断を大きく動かす強い所見とされ、尤度比1の所見は診断に役立たない。もう一つ大事なのは、尤度比は感度と特異度から求まるので有病率の影響を受けないのに対し、陽性的中率、つまり陽性時の事後確率は有病率に左右されるという点だ。
医学生医学生
臨床実習で総合診療科を回ったとき、先生が問診しながら「この時点で何割くらいだと思う?」と聞いてきたのは、事前確率を見積もらせていたんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。同じ検査でも、事前確率が低い集団では事後確率が上がりにくく、偽陽性が多くなる。だから病歴や背景から事前確率をきちんと見積もることが、検査結果を正しく解釈する出発点なんだ。

まとめ

尤度比は確率ではなくオッズに掛けるもので、「事後オッズ=事前オッズ×尤度比」を使い、確率→オッズ→尤度比を掛ける→確率に戻す、の手順で計算します。本問では事前オッズ0.2/0.8=0.25に尤度比4を掛けて事後オッズ1となり、事後確率は1/(1+1)=50%です。確率に直接掛ける(80%)、足す(24%)、割る(5%)といった誤りに注意し、尤度比>1なら事後確率は必ず事前確率より上がることも検算に使えます。陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度で、尤度比は有病率に左右されない一方、事後確率は事前確率に大きく依存します。病歴から事前確率を見積もり、所見ごとに確率を更新していく考え方は、日常診療での検査選択や結果解釈の基盤となります。

解答・解説

正解はdです

ベイズの定理を臨床で使う形、すなわち「事後オッズ=事前オッズ×尤度比」を用いて解く問題である。尤度比は確率ではなくオッズに掛けるものなので、確率をいったんオッズに変換し、計算後に確率へ戻すという手順を踏む。

解法1:オッズを使う

(1) 事前確率をオッズに変換する。オッズ=確率/(1-確率) なので、  事前オッズ=0.2/(1-0.2)=0.2/0.8=1/4(0.25) (2) 尤度比を掛ける。  事後オッズ=1/4 × 4=1 (3) オッズを確率に戻す。確率=オッズ/(1+オッズ) なので、  事後確率=1/(1+1)=0.5=50%

解法2:仮想集団で考える

100人の集団を想定すると、事前確率20%より疾患あり20人、疾患なし80人である。陽性尤度比は「疾患ありの人でその所見が出る割合(感度)」÷「疾患なしの人でその所見が出る割合(1-特異度)」である。疾患ありのうち所見陽性の割合をp、疾患なしのうち所見陽性の割合をqとすると p/q=4。所見陽性となる人数は、疾患あり20p人、疾患なし80q人=80×(p/4)=20p人となり、両者は同数になる。したがって所見陽性者のうち本当に疾患がある人の割合(事後確率)は 20p/(20p+20p)=50%である。 例えば感度80%なら1-特異度は20%となり、陽性者は疾患あり16人・疾患なし16人で、やはり50%となる。

選択肢考察

  1. ×a.  5%

    事前確率20%を尤度比4で割った値である。尤度比が1より大きい所見は疾患の可能性を高める方向に働くので、事後確率が事前確率(20%)より低くなることはあり得ない。

  2. ×b.  16%

    事前確率20%より低い値であり、尤度比4(>1)の所見が得られたときの事後確率としては不適切である。尤度比>1の所見があれば事後確率は必ず事前確率より上昇する。

  3. ×c.  24%

    20%に4を足しただけの値である。尤度比は確率に加算するものではなく、オッズに乗じるものである。正しく計算すると事後オッズは1となり、事後確率は24%よりはるかに高くなる。

  4. ○d.  50%

    事前オッズ=0.2/0.8=0.25、事後オッズ=0.25×4=1、事後確率=1/(1+1)=50%となる。仮想集団で考えても、所見陽性者のうち疾患ありと疾患なしが同数になるため50%となり、計算結果と一致する。

  5. ×e.  80%

    事前確率20%に尤度比4をそのまま掛けた値である。尤度比を確率に直接掛けるのは誤りで、この方法では例えば事前確率30%なら120%となり、確率として成り立たない。尤度比はオッズに掛ける必要がある。

確率とオッズ

・オッズ=確率/(1-確率)、確率=オッズ/(1+オッズ) ・確率が小さいとき(おおむね10%未満)はオッズと確率はほぼ等しいが、確率が大きくなるほど両者の差は大きくなる。本問のように事前確率20%ではオッズは0.25となり、変換を省くと誤答につながる。

尤度比(LR:likelihood ratio)

・陽性尤度比(LR+)=感度/(1-特異度):検査陽性(所見あり)のとき疾患のオッズを何倍にするか ・陰性尤度比(LR-)=(1-感度)/特異度:検査陰性(所見なし)のとき疾患のオッズを何倍にするか ・LR=1の所見は診断に役立たない。LR+が10以上、LR-が0.1以下なら診断を大きく動かす強い所見とされる。 ・尤度比は感度と特異度から求められるため、有病率(事前確率)の影響を受けない。一方、陽性的中率(=陽性時の事後確率)は有病率の影響を受ける。

事前確率・事後確率

・事前確率:検査や所見を得る前の、その患者が疾患をもつ確率(病歴・背景から見積もる。集団全体なら有病率) ・事後確率:所見を得た後の疾患の確率。所見陽性のときの事後確率は陽性的中率に相当する。 ・同じ検査でも、事前確率が低い集団では事後確率が上がりにくく、偽陽性が多くなる。

POINT

・事後オッズ=事前オッズ×尤度比(確率に直接掛けない) ・手順は「確率→オッズ→尤度比を掛ける→確率に戻す」 ・本問:0.2/0.8=0.25 → ×4=1 → 1/(1+1)=50% ・陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度 ・尤度比>1なら事後確率は事前確率より上がり、<1なら下がる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。