「押され続ける皮膚」を救うのは薬ではなく手―褥瘡予防の原点は体位変換
第109回医師国家試験 E問題 第18問
国試問題にチャレンジ
要介護高齢者の褥瘡予防に最も有効なのはどれか。
- a.消毒
- b.体位変換
- c.抗菌薬投与
- d.血糖コントロール
- e.ビタミンD製剤投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
褥瘡は、骨突出部に圧迫やずれが持続的に加わり、皮膚や皮下組織が阻血性に壊死することで生じます。したがって予防の中心は除圧であり、2時間を超えない間隔を目安とした体位変換と体圧分散寝具の使用が基本で、30°側臥位や頭側挙上30°以下といった工夫でずれも防ぎます。消毒や抗菌薬の予防投与は圧迫の解除につながらず、血糖コントロールやビタミンD製剤も褥瘡予防の主役ではありませんが、皮膚の清潔・乾燥保持と蛋白質・エネルギーの補給による低栄養改善は重要な補助策です。押しても消えない発赤を早期に見つけて除圧し、ブレーデンスケールなどでリスクを評価する姿勢は、在宅や病棟で高齢者を診るすべての医師に求められる基本です。
解答・解説
正解はbです
褥瘡(pressure ulcer、いわゆる床ずれ)は、体の一部に圧迫やずれの力が持続的に加わることで、皮膚や皮下組織の血流が途絶え、組織が阻血性に壊死した状態である。要介護高齢者、特に寝たきりで自力で寝返りが打てない人に起こりやすい。
褥瘡の発生要因
・局所要因(直接の原因):持続的な圧迫、ずれ(剪断力)、摩擦、尿便失禁や発汗による皮膚の湿潤 ・全身要因(発生しやすさを高める要因):低栄養(低アルブミン血症)、るい痩による骨突出、活動性・可動性の低下、知覚低下、浮腫、糖尿病などの基礎疾患
好発部位
仰臥位では仙骨部・尾骨部・踵部・後頭部、側臥位では大転子部・腸骨稜・外果部など、皮下脂肪が薄く骨が突出している部位に生じやすい。
考え方
褥瘡の根本原因は「同じ部位に圧がかかり続けること」であるから、予防の中心はその圧を取り除く、あるいは分散させることである。具体的には定期的な体位変換と、体圧分散寝具(エアマットレスなど)の使用が基本となる。これに皮膚の清潔・乾燥の保持、栄養状態の改善を組み合わせる。選択肢のうち、圧迫そのものを解除する手段は体位変換だけである。
選択肢考察
- ×a. 消毒
消毒は細菌数を減らすための処置であり、圧迫による阻血という褥瘡の発生機序には作用しない。予防の段階では、洗浄などで皮膚を清潔に保ち、乾燥した状態を維持すれば十分で、消毒は不要である。また、既にできた褥瘡でも、消毒薬は創傷治癒に必要な細胞を傷害しうるため、明らかな感染がなければ消毒よりも生理食塩水や水道水による十分な洗浄が推奨されている。
- ○b. 体位変換
褥瘡は同じ部位への持続的な圧迫による血流障害が原因であるため、定期的に体の向きを変えて圧のかかる部位を移動させることが予防の基本であり、最も有効である。一般には2時間を超えない間隔での体位変換が目安とされ、体圧分散マットレスを併用する場合は間隔を延ばせる(4時間程度まで)とされる。側臥位では体を約30°傾ける姿勢(30°側臥位)で大転子部などの骨突出部への圧集中を避け、ずれを防ぐためギャッチアップ(頭側挙上)は30°以下にとどめるなどの工夫を行う。
- ×c. 抗菌薬投与
抗菌薬は細菌感染症の治療薬であり、圧迫による組織障害を防ぐ作用はない。褥瘡が感染を起こした場合(発赤・腫脹・熱感・膿の排出、さらに蜂窩織炎や骨髄炎、敗血症を合併した場合)には適応となるが、予防目的で投与することはない。不必要な投与は耐性菌の出現や副作用の原因となる。
- ×d. 血糖コントロール
糖尿病は末梢循環障害や神経障害(知覚低下)、創傷治癒の遅延を通じて褥瘡のリスクや難治化に関わる全身要因の一つであり、糖尿病患者では血糖管理が重要であることに変わりはない。しかし血糖コントロールは褥瘡の直接の原因である圧迫を取り除くものではなく、要介護高齢者全般に対する褥瘡予防策として最も有効なものではない。
- ×e. ビタミンD製剤投与
ビタミンD製剤は骨粗鬆症や副甲状腺機能低下症、慢性腎臓病に伴うミネラル代謝異常などに用いられる薬であり、褥瘡の予防に有効であるという根拠はない。褥瘡予防に関わる栄養面の対策は、エネルギーと蛋白質を十分に補給して低栄養を改善することである。
褥瘡予防の主な柱
1. 除圧・体圧分散:体位変換、体圧分散寝具(エアマットレス、ウレタンフォームマットレスなど)、車椅子用クッションの使用。座位でも同一部位(坐骨結節部など)に圧がかかるため、座位保持時間や姿勢の調整が必要である。 2. ずれ・摩擦の防止:ギャッチアップ後の背抜き、移乗時に体を引きずらない介助。 3. スキンケア:尿便失禁や発汗による湿潤を避け、皮膚を清潔・乾燥に保つ。骨突出部を強くマッサージすると組織を損傷するおそれがあるため行わない。 4. 栄養管理:低栄養(低アルブミン血症、体重減少)は褥瘡の発生と治癒遅延の重要な要因であり、エネルギー・蛋白質の補給を行う。
リスク評価
ブレーデンスケール(Braden scale:知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で評価し、点数が低いほど高リスク)や、日本で作成されたOHスケール(自力体位変換能力、病的骨突出、浮腫、関節拘縮で評価)などを用いて、褥瘡のできやすさを評価し予防策を講じる。
早期発見
褥瘡の最初の徴候は、骨突出部の消退しない発赤(指で押しても白くならない発赤)である。この段階で発見したら、その部位の除圧を徹底する。
重症度評価
発生した褥瘡の評価には、日本褥瘡学会のDESIGN-R(深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットを評価する)や、NPIAP分類(ステージ分類)が用いられる。
POINT
・褥瘡の本質は持続的な圧迫による局所の阻血性壊死であり、予防の基本は除圧(体位変換)と体圧分散寝具である。 ・体位変換は2時間を超えない間隔が目安で、体圧分散マットレスを用いれば間隔を延ばせる。 ・好発部位は仙骨部、大転子部、踵部など骨突出部。 ・清潔・乾燥の保持と栄養改善も予防に重要だが、消毒や抗菌薬の予防投与は行わない。
