StudyMed医師国家試験

妊娠10週、腸はまだ臍帯の中に―生理的臍帯ヘルニアで読み解く腸の旅

第109回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第17問

妊娠10週の時点で臍帯内に存在する胎児臓器はどれか。

  1. a.肝臓
  2. b.小腸
  3. c.心臓
  4. d.腎臓
  5. e.脾臓

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は発生学の問題だ。妊娠10週という時期に、本来なら腹腔内にあるはずの臓器が一時的に臍帯の中へ出ている、という現象を知っているかがカギになる。まずは週数の数え方から整理しよう。妊娠10週は、受精から数えると何週くらいかな。
医学生医学生
妊娠週数は最終月経の初日から数えるので、受精からの胎齢だと2週引いて約8週でしょうか。
ドクタードクター
その通り。発生学の教科書は胎齢で書かれていることが多いから、産科の妊娠週数と混同しないことが大切だ。胎齢8週は胎芽期、つまり器官形成期の終盤にあたる。では臍帯内にある臓器は何だと思う?
医学生医学生
解剖学の講義で「生理的臍帯ヘルニア」という言葉を聞いた覚えがあります。腸が臍帯に出るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えていたね。正解は小腸だ。胎齢6週ころ、妊娠週数で8週ころから、中腸が急速に伸びる。中腸は上腸間膜動脈が栄養する腸管で、十二指腸の下部から横行結腸の右側3分の2までを指し、その大部分は小腸だ。ところがこの時期の腹腔はまだ狭く、収まりきらない腸のループが臍帯の基部へ押し出される。
医学生医学生
腹腔が狭いのは、単に胎児が小さいからですか。
ドクタードクター
それだけじゃない。この時期は肝臓が非常に大きいんだ。胎生期の肝臓は造血を担っているからね。さらに中腎という一時的な腎臓も腹腔の大部分を占めている。腸が伸びるのに、場所を大きな肝臓と中腎に取られている、というイメージだ。
医学生医学生
じゃあ肝臓も大きすぎて臍帯に出てしまう、ということはないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。肝臓は腸を押し出す原因の一つではあるけれど、正常発生で臍帯内に入ることはない。肝臓が臍帯内に見えるのは、大きな欠損を伴う病的な臍帯ヘルニアの場合だ。ほかの臓器も確認しよう。心臓はどうかな。
医学生医学生
心臓は胎齢3〜4週で心筒ができて、ループを作って胸腔に収まるので、臍帯とは無関係ですね。
ドクタードクター
そうだね。心臓が体外に出る異常として心臓逸所症があるけれど、これは体壁の閉鎖不全による先天異常で、生理的な現象ではない。腎臓は?
医学生医学生
永久腎になる後腎は骨盤内で発生して上昇していく後腹膜臓器なので、臍帯には入らないと思います。
ドクタードクター
その通り。腹膜の後ろにあるから臍帯内に出ようがない。むしろ、さっき話した中腎が退縮することが、腸を腹腔に戻すスペースを生む要因の一つになる。脾臓は背側胃間膜の間葉から生じて、胃の回転とともに左上腹部へ移動する腹腔内臓器で、これも臍帯には入らない。
医学生医学生
腸はいつお腹に戻るんですか。
ドクタードクター
胎齢10週ころ、妊娠12週ころに腹腔が広がり中腎が退縮すると、腸は腹腔内へ還納される。ここで大事なのが回転だ。臍帯内にいる間に、中腸ループは上腸間膜動脈を軸に反時計回りに90度回転し、還納時にさらに180度、合計270度回転して最終的な位置に落ち着く。
医学生医学生
その回転がうまくいかないと腸回転異常症になるんですね。小児外科の実習で、新生児の胆汁性嘔吐はまず中腸軸捻転を疑えと言われました。
ドクタードクター
まさにそこにつながる。回転が不完全だと中腸軸捻転やLadd靱帯による十二指腸の圧迫が起こりうる。緑色の嘔吐を見たら一刻を争う、というのは臨床で必ず覚えておきたい点だ。
医学生医学生
妊婦健診の超音波で、臍帯の付け根が膨らんで見えたら臍帯ヘルニアを心配してしまいそうです。
ドクタードクター
そこが臨床的に重要なポイントだ。妊娠8〜10週ころは正常でも臍帯付着部の膨らみとして見えることがあるから、その時期に病的な臍帯ヘルニアと判断することはできない。還納が終わる妊娠12週以降に評価する必要がある。ただし肝臓まで出ているなら生理的ヘルニアでは説明しにくいので、早い時期でも異常を疑う根拠になる。
医学生医学生
病的な臍帯ヘルニアと腹壁破裂の違いも整理しておきたいです。
ドクタードクター
臍帯ヘルニアは臓器が羊膜と腹膜からなる膜に覆われ、18トリソミーや13トリソミー、Beckwith-Wiedemann症候群、心奇形などの合併が多い。腹壁破裂は臍帯付着部の右側の欠損から腸が出てヘルニア嚢がなく、合併奇形は比較的少ないけれど、羊水にさらされた腸の炎症や癒着が問題になる。生理的臍帯ヘルニアは、ちょうど臍帯ヘルニアの「正常版」と考えると覚えやすいね。

まとめ

妊娠8〜10週ころ(胎齢6〜8週ころ)、急速に伸長する中腸は、大きな肝臓と中腎に占められた狭い腹腔に収まりきらず、臍帯の基部へ一時的に脱出します。これが生理的臍帯ヘルニアであり、妊娠10週の時点で臍帯内にある臓器は中腸の主体である小腸です。腸管は上腸間膜動脈を軸に反時計回りに計270度回転しながら妊娠12週ころまでに腹腔内へ戻り、この回転の異常は新生児期の中腸軸捻転などの原因となります。肝臓・心臓・腎臓・脾臓は正常発生で臍帯内に入ることはなく、肝臓の脱出は病的な臍帯ヘルニアを示唆します。妊娠週数と胎齢の違いを押さえ、病的な臍帯ヘルニアの判定は還納完了後に行うことを理解しておくと、発生学の知識を出生前診断や小児外科の臨床に結びつけられます。

解答・解説

正解はbです

本問は、胎児の腸管が発生の途中で一時的に臍帯の中へ出る現象、すなわち「生理的臍帯ヘルニア(physiological midgut herniation)」を知っているかを問うものである。

妊娠週数と胎齢の関係

産科でいう妊娠週数は最終月経の初日から数えるため、受精からの日数(胎齢)より約2週長い。妊娠10週は胎齢でおよそ8週に相当し、胎芽期(器官形成期)の終盤にあたる。

生理的臍帯ヘルニアの経過

胎齢6週ころ(妊娠8週ころ)、中腸(上腸間膜動脈が栄養する腸管で、将来の十二指腸下部から横行結腸の右側2/3まで)は急速に伸長する。一方で腹腔はまだ狭く、しかも大きな肝臓と中腎(一時的に存在する腎臓)が腹腔の大部分を占めている。このため収まりきらない中腸ループが臍帯の基部(臍帯内の胚外体腔)へ押し出される。これが生理的臍帯ヘルニアである。 ヘルニアの間に中腸ループは上腸間膜動脈を軸として反時計回りに90°回転する。その後、胎齢10週ころ(妊娠12週ころ)に腹腔が拡大し中腎が退縮すると、腸管は腹腔内へ戻り(還納)、このとき反時計回りにさらに180°回転して、合計270°の回転を完了する。 したがって妊娠10週の時点では、小腸を主体とする中腸がまだ臍帯内にある。超音波検査でも妊娠8〜10週ころに臍帯付着部の膨らみとしてしばしば観察され、正常所見として扱われる。

考え方

選択肢の臓器のうち、正常な発生過程で臍帯内に入るのは腸管だけである。他の臓器は胸腔・腹腔・後腹膜腔にとどまっている、と整理すれば正解は小腸に定まる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝臓

    肝臓は前腸の内胚葉から生じた肝芽が横中隔の中へ伸びて形成される腹腔内臓器である。胎生期には造血を担うため非常に大きく、腹腔の大部分を占めて腸管が臍帯へ押し出される原因の一つとなる。しかし肝臓自体は正常発生で臍帯内に入ることはない。肝臓が臍帯内に見られるのは、病的な臍帯ヘルニア(特に大きな欠損を伴うもの)の場合である。

  2. ○b.  小腸

    中腸は胎齢6週ころ(妊娠8週ころ)から急速に伸長し、狭い腹腔に収まりきらないため臍帯内へ脱出する(生理的臍帯ヘルニア)。中腸の大部分は小腸(十二指腸下部・空腸・回腸)であり、妊娠10週の時点ではまだ臍帯内にある。腸管は妊娠12週ころまでに回転を伴って腹腔内へ還納される。

  3. ×c.  心臓

    心臓は胎齢3〜4週ころに心筒として形成され、屈曲(ループ形成)と中隔形成を経て胸腔内に位置する。妊娠10週の時点でも胸腔内にあり、臍帯内に存在することはない。心臓が体外に出る異常として心臓逸所症(ectopia cordis)があるが、これは胸壁や体壁の閉鎖不全による先天異常であり、生理的な現象ではない。

  4. ×d.  腎臓

    永久腎となる後腎は胎齢5週ころに骨盤内で発生し、その後腰部へ上昇していく後腹膜臓器である。腹膜の後ろに位置するため臍帯内に入ることはない。なお、この時期に腹腔の大部分を占める中腎は一時的な腎臓であり、その退縮が腸管の腹腔内還納を可能にする要因の一つとなる。

  5. ×e.  脾臓

    脾臓は胎齢5週ころに背側胃間膜の中の間葉組織から生じ、胃の回転に伴って左上腹部へ移動する腹腔内臓器である。臍帯内に入ることはない。

生理的臍帯ヘルニアと病的な臍帯ヘルニア・腹壁破裂

・生理的臍帯ヘルニア:妊娠8〜12週ころに見られる正常な現象。中腸が臍帯基部に脱出し、妊娠12週ころまでに腹腔内に戻る。 ・臍帯ヘルニア(omphalocele):腸管の腹腔内還納が障害され、出生後も臓器が臍帯内(羊膜と腹膜からなる膜に覆われた袋)に残る先天異常。大きなものでは腸管だけでなく胃や肝臓も脱出する。染色体異常(18トリソミー、13トリソミーなど)、Beckwith-Wiedemann症候群、心奇形などの合併が多い。 ・腹壁破裂(gastroschisis):臍帯付着部の右側の腹壁欠損から腸管が脱出し、ヘルニア嚢をもたない。合併奇形は比較的少ないが、羊水に曝露された腸管の炎症・癒着が問題となる。

出生前診断への影響

妊娠10週ころまでは正常でも腸管が臍帯内にあるため、この時期に超音波で臍帯付着部の膨らみを見ても臍帯ヘルニアと診断することはできない。病的な臍帯ヘルニアの判断は、還納が完了する妊娠12週以降に行う必要がある。ただし、肝臓が脱出している場合は生理的ヘルニアでは説明できないため、それより早期でも異常を疑う根拠となる。

腸回転の異常

還納時の回転が不完全だと腸回転異常症となり、中腸軸捻転(新生児期の胆汁性嘔吐で発症)や十二指腸を圧迫するLadd靱帯の原因となる。

POINT

・妊娠8〜10週ころ、中腸(主に小腸)は臍帯内に一時的に脱出している(生理的臍帯ヘルニア)。 ・腸管は妊娠12週ころまでに反時計回りに計270°回転しながら腹腔内へ戻る。 ・脱出の原因は、中腸の急速な伸長に対し、大きな肝臓と中腎が腹腔を占めて腹腔が相対的に狭いこと。 ・妊娠週数は胎齢より約2週長い(妊娠10週 ≒ 胎齢8週)。 ・病的な臍帯ヘルニアの診断は還納完了後(妊娠12週以降)に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。