妊娠10週、腸はまだ臍帯の中に―生理的臍帯ヘルニアで読み解く腸の旅
第109回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
妊娠10週の時点で臍帯内に存在する胎児臓器はどれか。
- a.肝臓
- b.小腸
- c.心臓
- d.腎臓
- e.脾臓
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠8〜10週ころ(胎齢6〜8週ころ)、急速に伸長する中腸は、大きな肝臓と中腎に占められた狭い腹腔に収まりきらず、臍帯の基部へ一時的に脱出します。これが生理的臍帯ヘルニアであり、妊娠10週の時点で臍帯内にある臓器は中腸の主体である小腸です。腸管は上腸間膜動脈を軸に反時計回りに計270度回転しながら妊娠12週ころまでに腹腔内へ戻り、この回転の異常は新生児期の中腸軸捻転などの原因となります。肝臓・心臓・腎臓・脾臓は正常発生で臍帯内に入ることはなく、肝臓の脱出は病的な臍帯ヘルニアを示唆します。妊娠週数と胎齢の違いを押さえ、病的な臍帯ヘルニアの判定は還納完了後に行うことを理解しておくと、発生学の知識を出生前診断や小児外科の臨床に結びつけられます。
解答・解説
正解はbです
本問は、胎児の腸管が発生の途中で一時的に臍帯の中へ出る現象、すなわち「生理的臍帯ヘルニア(physiological midgut herniation)」を知っているかを問うものである。
妊娠週数と胎齢の関係
産科でいう妊娠週数は最終月経の初日から数えるため、受精からの日数(胎齢)より約2週長い。妊娠10週は胎齢でおよそ8週に相当し、胎芽期(器官形成期)の終盤にあたる。
生理的臍帯ヘルニアの経過
胎齢6週ころ(妊娠8週ころ)、中腸(上腸間膜動脈が栄養する腸管で、将来の十二指腸下部から横行結腸の右側2/3まで)は急速に伸長する。一方で腹腔はまだ狭く、しかも大きな肝臓と中腎(一時的に存在する腎臓)が腹腔の大部分を占めている。このため収まりきらない中腸ループが臍帯の基部(臍帯内の胚外体腔)へ押し出される。これが生理的臍帯ヘルニアである。 ヘルニアの間に中腸ループは上腸間膜動脈を軸として反時計回りに90°回転する。その後、胎齢10週ころ(妊娠12週ころ)に腹腔が拡大し中腎が退縮すると、腸管は腹腔内へ戻り(還納)、このとき反時計回りにさらに180°回転して、合計270°の回転を完了する。 したがって妊娠10週の時点では、小腸を主体とする中腸がまだ臍帯内にある。超音波検査でも妊娠8〜10週ころに臍帯付着部の膨らみとしてしばしば観察され、正常所見として扱われる。
考え方
選択肢の臓器のうち、正常な発生過程で臍帯内に入るのは腸管だけである。他の臓器は胸腔・腹腔・後腹膜腔にとどまっている、と整理すれば正解は小腸に定まる。
選択肢考察
- ×a. 肝臓
肝臓は前腸の内胚葉から生じた肝芽が横中隔の中へ伸びて形成される腹腔内臓器である。胎生期には造血を担うため非常に大きく、腹腔の大部分を占めて腸管が臍帯へ押し出される原因の一つとなる。しかし肝臓自体は正常発生で臍帯内に入ることはない。肝臓が臍帯内に見られるのは、病的な臍帯ヘルニア(特に大きな欠損を伴うもの)の場合である。
- ○b. 小腸
中腸は胎齢6週ころ(妊娠8週ころ)から急速に伸長し、狭い腹腔に収まりきらないため臍帯内へ脱出する(生理的臍帯ヘルニア)。中腸の大部分は小腸(十二指腸下部・空腸・回腸)であり、妊娠10週の時点ではまだ臍帯内にある。腸管は妊娠12週ころまでに回転を伴って腹腔内へ還納される。
- ×c. 心臓
心臓は胎齢3〜4週ころに心筒として形成され、屈曲(ループ形成)と中隔形成を経て胸腔内に位置する。妊娠10週の時点でも胸腔内にあり、臍帯内に存在することはない。心臓が体外に出る異常として心臓逸所症(ectopia cordis)があるが、これは胸壁や体壁の閉鎖不全による先天異常であり、生理的な現象ではない。
- ×d. 腎臓
永久腎となる後腎は胎齢5週ころに骨盤内で発生し、その後腰部へ上昇していく後腹膜臓器である。腹膜の後ろに位置するため臍帯内に入ることはない。なお、この時期に腹腔の大部分を占める中腎は一時的な腎臓であり、その退縮が腸管の腹腔内還納を可能にする要因の一つとなる。
- ×e. 脾臓
脾臓は胎齢5週ころに背側胃間膜の中の間葉組織から生じ、胃の回転に伴って左上腹部へ移動する腹腔内臓器である。臍帯内に入ることはない。
生理的臍帯ヘルニアと病的な臍帯ヘルニア・腹壁破裂
・生理的臍帯ヘルニア:妊娠8〜12週ころに見られる正常な現象。中腸が臍帯基部に脱出し、妊娠12週ころまでに腹腔内に戻る。 ・臍帯ヘルニア(omphalocele):腸管の腹腔内還納が障害され、出生後も臓器が臍帯内(羊膜と腹膜からなる膜に覆われた袋)に残る先天異常。大きなものでは腸管だけでなく胃や肝臓も脱出する。染色体異常(18トリソミー、13トリソミーなど)、Beckwith-Wiedemann症候群、心奇形などの合併が多い。 ・腹壁破裂(gastroschisis):臍帯付着部の右側の腹壁欠損から腸管が脱出し、ヘルニア嚢をもたない。合併奇形は比較的少ないが、羊水に曝露された腸管の炎症・癒着が問題となる。
出生前診断への影響
妊娠10週ころまでは正常でも腸管が臍帯内にあるため、この時期に超音波で臍帯付着部の膨らみを見ても臍帯ヘルニアと診断することはできない。病的な臍帯ヘルニアの判断は、還納が完了する妊娠12週以降に行う必要がある。ただし、肝臓が脱出している場合は生理的ヘルニアでは説明できないため、それより早期でも異常を疑う根拠となる。
腸回転の異常
還納時の回転が不完全だと腸回転異常症となり、中腸軸捻転(新生児期の胆汁性嘔吐で発症)や十二指腸を圧迫するLadd靱帯の原因となる。
POINT
・妊娠8〜10週ころ、中腸(主に小腸)は臍帯内に一時的に脱出している(生理的臍帯ヘルニア)。 ・腸管は妊娠12週ころまでに反時計回りに計270°回転しながら腹腔内へ戻る。 ・脱出の原因は、中腸の急速な伸長に対し、大きな肝臓と中腎が腹腔を占めて腹腔が相対的に狭いこと。 ・妊娠週数は胎齢より約2週長い(妊娠10週 ≒ 胎齢8週)。 ・病的な臍帯ヘルニアの診断は還納完了後(妊娠12週以降)に行う。
