StudyMed医師国家試験

呼吸の主役は誰だ?―横隔膜と呼吸補助筋の役割分担

第109回医師国家試験 E問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第12問

呼吸運動に最も関与するのはどれか。

  1. a.横隔膜
  2. b.広背筋
  3. c.前鋸筋
  4. d.肋間筋
  5. e.胸鎖乳突筋

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、呼吸運動をどの筋が担っているかを問う基礎的な問題だ。ポイントは「安静呼吸で働く主役の筋」と「苦しいときだけ動員される補助筋」を分けて考えること。まずは、息を吸うと肺がふくらむ仕組みから確認しよう。肺そのものは自分で膨らむ力を持っているかな。
医学生医学生
持っていないと生理学の講義で習いました。胸郭が広がって胸腔内圧がより陰圧になるから、肺が受動的に引き伸ばされるんですよね。
ドクタードクター
その通り。だから呼吸運動とは、呼吸筋が胸郭の容積を変える運動のことなんだ。では、その胸郭を広げる筋で一番働いているのはどれだと思う?
医学生医学生
肋骨を持ち上げる肋間筋のイメージが強いです。胸で息をしている感じがするので。
ドクタードクター
実感としてはそう思いやすいね。でも正解は横隔膜だ。横隔膜は胸腔と腹腔を隔てるドーム状の骨格筋で、収縮するとドームの天井が下がり、胸腔の上下径が広がる。安静時の1回換気量のおよそ2/3以上を横隔膜が担っているとされているんだ。
医学生医学生
そんなに大きいんですね。呼気のほうはどうなっているんですか。
ドクタードクター
安静時の呼気は、引き伸ばされた肺と胸壁が弾性で元に戻る受動的な過程で、横隔膜が弛緩して元の位置に戻るだけ。呼気に積極的に働く筋はほとんど要らない。つまり吸気も呼気も、安静呼吸は横隔膜の収縮と弛緩で成り立っていると言っていい。
医学生医学生
では肋間筋は呼吸にあまり関係ないんでしょうか。
ドクタードクター
いや、肋間筋も横隔膜とともに主要な呼吸筋に数えられる。外肋間筋は肋骨を引き上げて胸郭の前後径・左右径を広げ吸気に働き、内肋間筋は肋骨を引き下げて主に努力呼気で働く。ただ安静時の換気量を生み出す役割は横隔膜より小さく、胸郭を安定させて横隔膜の収縮を効率よく換気に結びつける役割が大きいんだ。「最も関与する」と問われれば横隔膜になる。
医学生医学生
胸鎖乳突筋は、臨床実習で呼吸器内科を回ったとき、喘息発作の患者さんで首の筋が浮き出ていたのを覚えています。
ドクタードクター
いい観察だね。胸鎖乳突筋は本来、頭部の回旋や屈曲に働く筋だけれど、頭が固定されると胸骨と鎖骨を引き上げて胸郭上部を広げる。これが努力吸気の代表的な補助筋だ。安静時には通常働かないから、収縮が目立つのは呼吸負荷が大きいサインになる。
医学生医学生
前鋸筋と広背筋は、解剖実習では肩甲骨や上腕を動かす筋として習いました。
ドクタードクター
そう、それが本来の作用だね。前鋸筋は肩甲骨を前に引き出して固定する筋だが、肩甲骨が固定されると肋骨を引き上げて努力吸気を助ける。広背筋は肩関節の伸展・内転・内旋に働き、強い咳や努力呼吸で胸郭下部を圧迫して呼気を補助するとされる。どちらも安静呼吸にはほとんど関与しない補助筋だ。
医学生医学生
整理すると、安静呼吸の主役は横隔膜、脇役が肋間筋、ほかは苦しいときの助っ人、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。努力呼気では腹筋群が腹圧を上げて横隔膜を押し上げる、というのも加えておこう。次に臨床との関連だ。横隔膜を支配する神経はわかるかな。
医学生医学生
横隔神経で、C3からC5です。「C3、4、5 keeps the diaphragm alive」と語呂で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だからC3〜C5より高位の頸髄損傷では自発呼吸が困難になり、人工呼吸管理が必要になる。一側の横隔神経麻痺では胸部X線で患側の横隔膜が挙上し、鼻をすするように素早く吸わせると患側が逆に上がる奇異性運動がみられる。両側麻痺では、臥位で腹部臓器が横隔膜を押し上げるため呼吸困難が増強するのが特徴だ。
医学生医学生
COPDの患者さんで補助筋を使っているのも、横隔膜がうまく働かないからですか。
ドクタードクター
その通り。COPDでは肺の過膨張で横隔膜が平低化し、ドームが下がりきった状態になって効率よく収縮できない。そのぶん胸鎖乳突筋や斜角筋への依存が強くなる。補助筋の使用、鎖骨上窩や肋間の陥没、口すぼめ呼吸は、診察室で呼吸不全の重さを見抜く大切な所見だから、OSCEの胸部診察でも視診で意識して見てほしい。

まとめ

呼吸運動に最も関与する筋は横隔膜で、収縮して下降することで胸腔の上下径を広げ、安静時換気の大部分(約2/3以上)を担います。安静呼気は肺と胸壁の弾性収縮による受動的な過程で、横隔膜の弛緩により起こります。肋間筋も主要な呼吸筋ですが、外肋間筋は吸気、内肋間筋は主に努力呼気に働き、換気量への寄与は横隔膜に及びません。胸鎖乳突筋・斜角筋・前鋸筋は努力吸気、腹筋群・広背筋は努力呼気の補助筋で、これらの使用は呼吸負荷増大のサインです。横隔神経(C3〜C5)の支配や、COPDでの横隔膜平低化と補助筋依存を併せて理解しておくと、頸髄損傷や呼吸不全の病態把握に直結します。

解答・解説

正解はaです

テーマ

呼吸運動は、呼吸筋の働きで胸郭の容積を変え、胸腔内圧を変化させることで肺に空気を出し入れする運動である。呼吸筋は、安静時から働く主要な呼吸筋(横隔膜、肋間筋)と、努力呼吸のときに動員される呼吸補助筋に分けて理解する。

考え方

安静時の吸気では、横隔膜が収縮してドーム状の天井が下がり、胸腔の上下径が広がる。これにより胸腔内圧がさらに陰圧となり、肺が受動的に膨らんで空気が入る。安静時の1回換気量の大部分(およそ2/3〜3/4)はこの横隔膜の働きによってまかなわれる。 一方、安静時の呼気は、吸気で引き伸ばされた肺と胸壁が弾性によって元に戻る受動的な過程であり、横隔膜が弛緩して元の位置に戻ることで起こる。つまり呼気に積極的に働く筋はほとんど必要ない。 したがって、吸気・呼気の両方を通じて呼吸運動に最も深く関わる筋は横隔膜である。両側の横隔神経が麻痺すると高度の呼吸障害をきたすことからも、その重要性がわかる。

選択肢考察

  1. ○a.  横隔膜

    横隔膜は胸腔と腹腔を隔てるドーム状の骨格筋で、頸神経(C3〜C5)由来の横隔神経に支配される。収縮すると下方へ移動して胸腔を上下方向に拡大させ、吸気を起こす。安静呼吸での移動は1〜2 cm程度だが、深呼吸では数cm以上下降し、安静時の換気の大部分を単独で担う最も重要な吸気筋である。安静呼気はその弛緩と肺・胸壁の弾性収縮による。

  2. ×b.  広背筋

    広背筋は胸腰部の背部から起こり上腕骨に停止する筋で、主な作用は肩関節の伸展・内転・内旋(腕を後ろへ引く動作)である。強い咳や努力呼吸の際に胸郭下部を圧迫して呼気を補助するとされる呼吸補助筋であり、安静呼吸にはほとんど関与しない。

  3. ×c.  前鋸筋

    前鋸筋は第1〜第8(9)肋骨の側面から起こり肩甲骨の内側縁に停止する筋で、本来の作用は肩甲骨を前方へ引き出し固定することである。肩甲骨が固定された状態では肋骨を引き上げて胸郭を広げるため、努力吸気を助ける呼吸補助筋として働く。安静呼吸での関与は小さい。

  4. ×d.  肋間筋

    肋間筋は肋骨と肋骨の間を結ぶ筋で、肋間神経に支配される。外肋間筋は肋骨を引き上げて胸郭の前後径・左右径を広げ吸気に働き、内肋間筋(主に骨間部)は肋骨を引き下げて呼気に働く。横隔膜とともに主要な呼吸筋に数えられるが、安静時に換気量を生み出す役割は横隔膜に比べて小さく、むしろ胸郭を安定させて横隔膜の収縮を効率よく換気に結びつける役割が大きい。内肋間筋は主に努力呼気時に活動する。「最も関与する」筋としては横隔膜に及ばない。

  5. ×e.  胸鎖乳突筋

    胸鎖乳突筋は胸骨と鎖骨から起こり側頭骨の乳様突起に停止する頸部の筋で、副神経に支配される。本来は頭部の回旋・屈曲に働くが、頭部が固定されると胸骨と鎖骨を引き上げて胸郭上部を広げ、努力吸気を助ける代表的な呼吸補助筋となる。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪や気管支喘息発作などで呼吸仕事量が増えるとこの筋の収縮が目立ち、呼吸困難の重症度を示す身体所見となる。安静呼吸には通常関与しない。

呼吸筋の整理

・安静吸気: 横隔膜(主役)、外肋間筋(および傍胸骨部の内肋間筋) ・努力吸気(補助筋): 胸鎖乳突筋、斜角筋群、僧帽筋、大胸筋・小胸筋、前鋸筋など ・安静呼気: 原則として筋活動を必要としない(肺と胸壁の弾性収縮による受動的な過程) ・努力呼気(補助筋): 内肋間筋、腹筋群(腹直筋、内・外腹斜筋、腹横筋)、広背筋など。腹筋は腹圧を高めて横隔膜を押し上げ、強く息を吐き出したり咳をしたりするのに働く。

胸郭の動き

・横隔膜の下降: 胸腔の上下径を拡大する。 ・上部肋骨の挙上: 胸骨が前上方へ動き前後径が増す(ポンプの柄の動き:pump-handle motion)。 ・下部肋骨の挙上: 肋骨が外側へ開き左右径が増す(バケツの取っ手の動き:bucket-handle motion)。

臨床との関連

・横隔神経はC3〜C5から出るため、それより高位の頸髄損傷では自発呼吸が困難となり人工呼吸管理が必要となる。 ・一側の横隔神経麻痺では胸部X線写真で患側横隔膜が挙上し、吸気時に患側横隔膜が逆に上昇する奇異性運動がみられる(sniff test)。両側の麻痺では臥位で呼吸困難が増強する。 ・呼吸補助筋の使用、鎖骨上窩や肋間の陥没(陥没呼吸)、口すぼめ呼吸は、呼吸負荷が増大していることを示す所見である。COPDでは肺の過膨張により横隔膜が平低化して効率よく収縮できなくなるため、補助筋への依存が強くなる。

POINT

・呼吸運動に最も関与する筋は横隔膜であり、安静時換気の大部分(約2/3以上)を担う。 ・横隔膜の支配神経は横隔神経(C3〜C5)。 ・外肋間筋は吸気、内肋間筋は呼気に働く。 ・安静呼気は肺・胸壁の弾性収縮による受動的過程で、筋活動はほとんど不要。 ・胸鎖乳突筋、斜角筋、前鋸筋などは努力吸気の補助筋、腹筋群・広背筋などは努力呼気の補助筋。 ・呼吸補助筋の使用は呼吸不全・呼吸負荷増大のサイン。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。