腹腔動脈は三つ又に分かれる―上腹部の脈管を立体で理解する
第109回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
上腹部の脈管の解剖で正しいのはどれか。
- a.Glisson鞘には肝動脈,肝静脈および胆管が存在する。
- b.総肝動脈と総胆管とは伴走する。
- c.脾動脈は腹腔動脈から分岐する。
- d.上腸間膜静脈と下腸間膜静脈とが合流して門脈を形成する。
- e.上腸間膜動脈は十二指腸水平部から上行部の背側を走行する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹腔動脈は前腸由来の臓器を栄養し、短い幹から左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3本に分岐するため、脾動脈は腹腔動脈の枝です。総胆管・門脈とともに肝十二指腸間膜を走るのは総肝動脈ではなく、胃十二指腸動脈分岐後の固有肝動脈です。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈の合流で形成され、Glisson鞘には肝動脈・門脈・胆管の肝三つ組が入り、肝静脈は含まれません。上腸間膜動脈は十二指腸水平部の腹側を走り、大動脈との間隙の狭小化は上腸間膜動脈症候群やナットクラッカー現象の原因となります。名前の似た血管の取り違えに注意しつつ立体的な位置関係で理解することが、画像診断や手術、門脈圧亢進症などの病態理解の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
上腹部の主要な動脈(腹腔動脈・上腸間膜動脈)と静脈系(門脈系)、および肝内の脈管構築についての基本的な解剖知識を問う問題である。
動脈系の整理
腹部大動脈から前方に出る不対の枝は、上から順に腹腔動脈(第12胸椎〜第1腰椎の高さ)、上腸間膜動脈(第1腰椎付近)、下腸間膜動脈(第3腰椎付近)である。腹腔動脈は前腸由来の臓器(胃、十二指腸の近位部、肝、胆、膵の一部、脾)を栄養し、短い幹からすぐに左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3本に分かれる。総肝動脈は胃十二指腸動脈を出したあと固有肝動脈となり、肝十二指腸間膜の中を総胆管・門脈と並んで肝門へ向かう。
静脈系(門脈)の整理
門脈は膵頸部の背側で上腸間膜静脈と脾静脈が合流して形成される。下腸間膜静脈は門脈本幹に直接は合流せず、脾静脈、上腸間膜静脈、あるいは両者の合流部のいずれかに注ぐ。
肝内の構造
肝小葉の辺縁にあるGlisson鞘(門脈域)には、小葉間動脈(肝動脈の枝)、小葉間静脈(門脈の枝)、小葉間胆管の3つ(肝三つ組)が含まれる。肝静脈はこれと別系統で、小葉の中心静脈から集まって下大静脈へ流出する。 これらを押さえれば、腹腔動脈の分枝を正しく述べている選択肢が正解と判断できる。
選択肢考察
- ×a. Glisson鞘には肝動脈,肝静脈および胆管が存在する。
誤り。Glisson鞘に含まれるのは肝動脈・門脈・胆管の3つであり、肝静脈は含まれない。門脈と肝動脈から流入した血液は類洞を通って小葉中心の中心静脈に集まり、これが合流して肝静脈となり下大静脈へ注ぐ。つまり流入系(門脈・肝動脈)と胆汁の排出路(胆管)はGlisson鞘の中を一緒に走るが、流出系の肝静脈はGlisson鞘とは交互に配置される別の経路をとる。肝区域の境界を肝静脈が走ることもこの配置による。
- ×b. 総肝動脈と総胆管とは伴走する。
誤り。総肝動脈は腹腔動脈から右方へ向かい、膵上縁に沿って走行したのち胃十二指腸動脈を分岐する。そこから先が固有肝動脈であり、肝十二指腸間膜の中で総胆管(右前方)・門脈(後方)とともに肝門へ向かう。したがって総胆管と並走するのは総肝動脈ではなく固有肝動脈である。肝十二指腸間膜内で、総胆管が右側、固有肝動脈が左側、門脈がその背側に位置する配置も覚えておきたい。
- ○c. 脾動脈は腹腔動脈から分岐する。
正しい。腹腔動脈は大動脈から出てすぐに左胃動脈、総肝動脈、脾動脈の3本に分岐する(典型例では左胃動脈が最初に上方へ出て、残りが左右に分かれて脾動脈と総肝動脈になる)。脾動脈は腹腔動脈の最大の枝で、膵上縁を蛇行しながら左方へ走り、途中で膵枝、短胃動脈、左胃大網動脈などを出して脾門に達する。
- ×d. 上腸間膜静脈と下腸間膜静脈とが合流して門脈を形成する。
誤り。門脈は膵頸部の背側で上腸間膜静脈と脾静脈が合流して形成される。下腸間膜静脈は脾静脈に注ぐことが多いが、上腸間膜静脈や両者の合流部に注ぐ例もあり、いずれにしても門脈を構成する2本の主幹は上腸間膜静脈と脾静脈である。
- ×e. 上腸間膜動脈は十二指腸水平部から上行部の背側を走行する。
誤り。上腸間膜動脈は腹部大動脈から前方へ分岐し、膵頸部の背側から前下方に出て、十二指腸水平部(第3部)の腹側を越えて腸間膜根へ入る。すなわち十二指腸水平部は腹部大動脈(背側)と上腸間膜動脈(腹側)に挟まれる位置にある。この両者のなす角が急峻になると十二指腸水平部が圧迫され、上腸間膜動脈症候群を起こす。同様に左腎静脈も両動脈の間を通り、圧迫されるとナットクラッカー現象となる。
腹部大動脈の主な枝
・腹腔動脈:左胃動脈、総肝動脈、脾動脈に分岐。総肝動脈→胃十二指腸動脈+固有肝動脈。固有肝動脈→右肝動脈・左肝動脈(右胃動脈は固有肝動脈や総肝動脈から出ることが多い)。胃十二指腸動脈→右胃大網動脈・上膵十二指腸動脈。 ・上腸間膜動脈:下膵十二指腸動脈、空腸・回腸動脈、回結腸動脈、右結腸動脈、中結腸動脈。中腸由来の小腸〜横行結腸の口側約2/3を栄養する。 ・下腸間膜動脈:左結腸動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈。後腸由来の横行結腸肛門側〜直腸上部を栄養する。
門脈系
門脈=上腸間膜静脈+脾静脈。下腸間膜静脈は脾静脈・上腸間膜静脈・合流部のいずれかに注ぐ(変異が多い)。左胃静脈(胃冠状静脈)は門脈または脾静脈に注ぎ、門脈圧亢進症では食道静脈瘤の主要な供血路となる。
肝十二指腸間膜(小網の右縁)
総胆管(右前)、固有肝動脈(左前)、門脈(後)の3つが走行する。この背側にWinslow孔(網嚢孔)があり、肝切除時の血流遮断(Pringle法)はこの間膜を一括で遮断する手技である。
肝小葉
小葉辺縁のGlisson鞘(門脈域)に小葉間動脈・小葉間静脈(門脈枝)・小葉間胆管(肝三つ組)。血液は類洞を通って中心静脈へ、胆汁は逆方向に毛細胆管から小葉間胆管へ流れる。
臨床との関連
・上腸間膜動脈症候群:大動脈と上腸間膜動脈の間で十二指腸水平部が圧迫され、急激なやせなどで起こる。 ・ナットクラッカー現象:同じ間隙で左腎静脈が圧迫され、血尿などを生じる。
POINT
・腹腔動脈の3分枝:左胃動脈・総肝動脈・脾動脈。 ・総胆管と伴走するのは固有肝動脈(総肝動脈ではない)。 ・門脈=上腸間膜静脈+脾静脈。 ・Glisson鞘=肝動脈・門脈・胆管(肝静脈は含まない)。 ・十二指腸水平部は大動脈(背側)と上腸間膜動脈(腹側)の間を通る。
