StudyMed医師国家試験

「CHADS2」に脂質は入らない―心房細動の脳塞栓リスクを正しく数える

第109回医師国家試験 D問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第7問

心房細動の患者において心原性脳塞栓症のリスクファクターでないのはどれか。

  1. a.糖尿病
  2. b.心不全
  3. c.高血圧症
  4. d.75歳以上
  5. e.脂質異常症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心房細動の患者さんで心原性脳塞栓症のリスクを評価する問題だ。選択肢はどれも「脳梗塞の危険因子」として聞き覚えがあるものばかりだけれど、問われているのは心房細動に特有の塞栓リスクのほう。その違いに気づけるかが着眼点だよ。まず、心房細動でなぜ脳梗塞が起きるのか説明できるかな。
医学生医学生
心房がきちんと収縮しないので血液がよどんで、血栓ができるからですよね。
ドクタードクター
そうだね。特に左心耳という、左心房から突き出した袋状の部分で血流が滞りやすい。そこでできた血栓がはがれて脳動脈に飛び、突然詰まらせるのが心原性脳塞栓症だ。ただ、心房細動の人全員が同じように塞栓を起こすわけではない。そこで、誰に抗凝固療法をすべきかを判断するために、リスクを点数化する指標が作られた。
医学生医学生
循環器内科の実習で、指導医の先生がカルテに「CHADS2 2点」と書いていたのを覚えています。
ドクタードクター
まさにそれが代表的な指標だ。中身を言えるかな。
医学生医学生
Cが心不全、Hが高血圧、Aが年齢、Dが糖尿病、Sが脳卒中です。でも年齢は65歳以上だったか75歳以上だったか、あいまいです。
ドクタードクター
CHADS2では75歳以上で1点だ。C・H・A・Dがそれぞれ1点、S2は脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往で2点、合計0〜6点になる。点数が高いほど年間の脳梗塞発症率が上がっていくんだ。
医学生医学生
そうすると、糖尿病、心不全、高血圧、75歳以上はすべてスコアに入っていて、残る脂質異常症が「リスクファクターでないもの」ですね。
ドクタードクター
その通り、正解は脂質異常症だ。それぞれの項目がなぜリスクになるのかも理屈で押さえておこう。心不全では心拍出量が落ちて左房が拡大し、心房内のうっ滞がさらに強まる。高血圧は左室肥大と拡張障害を介して左房圧を上げ、やはり左房拡大を招く。
医学生医学生
糖尿病はどういう仕組みなんでしょうか。血栓と直接結びつくイメージがあまりなくて。
ドクタードクター
高血糖による血管内皮障害や凝固能の亢進が関係していると考えられていて、大規模研究でも心房細動患者の塞栓リスクを高めることが示されている。心房の構造変化を通じて心房細動そのものも起こしやすくする。加齢も同じで、心房の線維化や機能低下が進むから塞栓が増えるんだ。
医学生医学生
でも脂質異常症も動脈硬化の危険因子なので、脳梗塞には関係ありそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。脂質異常症は確かにアテローム血栓性脳梗塞や冠動脈疾患の重要な危険因子だ。ただそれは頸動脈や脳の太い動脈に粥状硬化ができて詰まる仕組み。心原性脳塞栓症は心房内の血流うっ滞から血栓ができる仕組みだから、発症機序がまったく違う。「脳梗塞の危険因子」と「心房細動患者の塞栓リスク評価項目」は別物として整理しよう。
医学生医学生
神経内科の講義で習った脳梗塞の病型分類とつながりました。病型ごとに原因が違うから、評価する項目も違うんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。ついでに心原性脳塞栓症の臨床像も押さえておこう。心臓でできた大きめの血栓が突然詰まるので、発症は突発的で日中の活動時に多い。側副血行路が発達する時間がないから皮質を含む広い梗塞になりやすく、重症化しやすい。再開通すると出血性梗塞を起こすこともあるよ。
医学生医学生
より細かいCHA2DS2-VAScスコアというのもありましたよね。そちらには脂質異常症は入っていないんですか。
ドクタードクター
入っていない。CHA2DS2-VAScでは75歳以上が2点に格上げされ、血管疾患、65〜74歳、女性がそれぞれ1点で加わる。血管疾患というのは心筋梗塞の既往や末梢動脈疾患、大動脈プラークのことで、動脈硬化がすでに病気として現れていれば加点されるけれど、脂質異常症そのものは項目にない。なお欧州のガイドラインは最新版で性別の項目を外している。わが国のガイドラインは、非弁膜症性心房細動の抗凝固療法の判断に引き続きCHADS2スコアを用いていて、1点以上で直接経口抗凝固薬、つまりDOACを推奨している。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症や機械弁の人も同じように考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。そこは別扱いで、スコアにかかわらずワルファリンの適応になり、DOACは使わない。それから臨床では、抗凝固療法による出血リスクもHAS-BLEDスコアなどで評価する。ただ出血リスクが高いことだけを理由に抗凝固をやめるのではなく、是正できる因子に対処することが大事だ。適応があるのに投与されていない人や、自己中断してしまう人も少なくないから、服薬継続の支援も医師の重要な役割だよ。

まとめ

心房細動では左心耳を中心とした血流うっ滞により血栓ができ、心原性脳塞栓症を起こします。そのリスク評価にはCHADS2スコア(心不全・高血圧・75歳以上・糖尿病が各1点、脳梗塞/TIA既往が2点)が用いられ、わが国では1点以上でDOACによる抗凝固療法が推奨されます。脂質異常症はアテローム血栓性脳梗塞の重要な危険因子ですが、CHADS2にもCHA2DS2-VAScにも含まれず、心房内のうっ滞による塞栓とは発症機序が異なります。「脳梗塞の危険因子」と「心房細動の塞栓リスク評価項目」を病型と機序に基づいて区別することは、抗凝固療法の適応判断という日常診療の要になる考え方です。

解答・解説

正解はeです

心房細動(atrial fibrillation:AF)では心房が規則的に収縮せず、特に左心耳(左心房から突き出た袋状の部分)で血流がよどんで血栓ができやすい。この血栓がはがれて脳動脈に流れ込み、血管を突然閉塞するのが心原性脳塞栓症である。AF患者すべてが同じ程度に脳塞栓を起こすわけではないため、どの患者に抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)を行うべきかを判断する目的で、塞栓症の起こりやすさを点数化する指標が作られている。その代表がCHADS2スコアである。 CHADS2スコアは、次の5項目の頭文字から名付けられている。 C:Congestive heart failure(心不全)1点 H:Hypertension(高血圧症)1点 A:Age(75歳以上)1点 D:Diabetes mellitus(糖尿病)1点 S2:Stroke/TIA(脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往)2点 合計0〜6点で、点数が高いほど年間の脳梗塞発症率が上昇する。 本問は「リスクファクターでないもの」を選ぶ問題である。糖尿病、心不全、高血圧症、75歳以上はいずれもCHADS2スコアの構成項目であり、AF患者における心原性脳塞栓症の確立したリスク因子である。一方、脂質異常症はCHADS2スコアにも、より詳細なCHA2DS2-VAScスコアにも独立した項目として含まれていない。したがって正解はeである。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病

    リスクファクターである。CHADS2スコアの「D(Diabetes mellitus)」に当たり1点が加算される。高血糖は血管内皮障害や凝固能亢進をもたらし、AF患者の塞栓症リスクを高めることが大規模研究で示されている。また糖尿病は心房のリモデリング(構造変化)を介してAFそのものの発症リスクも高める。

  2. ×b.  心不全

    リスクファクターである。CHADS2スコアの「C(Congestive heart failure)」に当たり1点である。心不全では心拍出量が低下し、左心房が拡大して心房内の血流うっ滞がさらに強まるため、血栓が形成されやすい。左室駆出率が低下した左室機能不全もこれに含めて評価する。

  3. ×c.  高血圧症

    リスクファクターである。CHADS2スコアの「H(Hypertension)」に当たり1点である。高血圧は左室肥大と左室拡張障害を介して左房圧を上昇させ、左房拡大と血流うっ滞を招く。さらに高血圧はAFの発症・持続の最も頻度の高い基礎疾患の一つでもある。

  4. ×d.  75歳以上

    リスクファクターである。CHADS2スコアの「A(Age)」に当たり、75歳以上で1点である。加齢に伴って心房の線維化や左房機能低下が進み、血栓形成と塞栓症の頻度が増す。なおCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点、65〜74歳を1点として、年齢の重みをより大きく扱っている。

  5. ○e.  脂質異常症

    リスクファクターとして扱われていない。脂質異常症はCHADS2スコアにもCHA2DS2-VAScスコアにも独立した項目として含まれておらず、AF患者の心原性脳塞栓症リスクを評価する指標とはされていない。脂質異常症は動脈硬化を進め、アテローム血栓性脳梗塞(頸動脈や脳主幹動脈の粥状硬化を原因とする脳梗塞)や冠動脈疾患の重要な危険因子であるが、心房内の血流うっ滞に起因する心原性塞栓とは発症機序が異なる。「脳梗塞の危険因子」と「AF患者の塞栓リスク評価項目」を混同しないことが問われている。

心原性脳塞栓症の特徴

心臓内でできた比較的大きな血栓が脳動脈を突然閉塞するため、発症は突発的で、日中の活動時に起こることが多い。側副血行路が発達する時間がないため梗塞巣は大きく、皮質を含む広範な梗塞となりやすく、重症で予後不良のことが多い。いったん詰まった血栓が溶けて再開通すると出血性梗塞を起こすことがある。脳梗塞全体の約3割を占め、その原因の大半はAFである。

CHADS2スコアと抗凝固療法(わが国のガイドライン)

CHADS2スコアが高いほど年間脳梗塞発症率は段階的に上昇する。日本循環器学会/日本不整脈心電学会(JCS/JHRS)の不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)は、非弁膜症性AF(リウマチ性僧帽弁狭窄症や機械弁置換後を除くAF)の抗凝固療法の適応判断に、CHA2DS2-VAScスコアではなくCHADS2スコアを引き続き用いている。CHADS2スコア1点で直接経口抗凝固薬(DOAC:direct oral anticoagulant。かつてはNOAC=新規経口抗凝固薬と呼ばれた)を推奨し、2点以上でDOACまたはワルファリンを推奨する。CHADS2スコア0点でも、心筋症、65〜74歳、血管疾患(心筋梗塞の既往、大動脈プラーク、末梢動脈疾患)があれば抗凝固療法を考慮してよいとされ、持続性・永続性AF、腎機能障害、低体重(50kg以下)、左房径拡大なども考慮しうる因子として挙げられている。女性であることは、わが国のデータで独立した危険因子と確認されていないとして採用されていない。なお僧帽弁狭窄症や機械弁を有する患者では、スコアにかかわらずワルファリンの適応となる(DOACは用いない)。

CHA2DS2-VAScスコア(欧米のガイドライン)

CHADS2スコア0点の「低リスク」患者の中にも塞栓症を起こす例があるため、より細かく層別化する目的で考案された。 C:心不全 1点 H:高血圧 1点 A2:75歳以上 2点 D:糖尿病 1点 S2:脳梗塞・TIA・血栓塞栓症の既往 2点 V:Vascular disease(心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患、大動脈プラーク)1点 A:65〜74歳 1点 Sc:Sex category(女性)1点 欧米のガイドラインはこのスコアを主軸とし、男性2点以上・女性3点以上で抗凝固療法を推奨、男性1点・女性2点で考慮するとしてきた(欧州心臓病学会2020年版など)。欧州心臓病学会の2024年版では性別の項目を除いたCHA2DS2-VAスコアに改められ、2点以上で推奨、1点で考慮とされている。いずれのスコアでも脂質異常症そのものは項目に入っていない(動脈硬化性の血管疾患が既にあればVとして加点される)。

出血リスクとの兼ね合い

抗凝固療法は出血合併症を増やすため、HAS-BLEDスコア(高血圧、腎・肝機能障害、脳卒中、出血歴、不安定なINR、高齢、薬剤・アルコール)などで出血リスクも評価する。ただし出血リスクが高いことは、それだけで抗凝固療法を控える理由とはならず、是正可能な出血リスク因子への対処が重視される。

実臨床の課題

抗凝固療法の有効性は確立しているにもかかわらず、適応があるのに投与されていない患者や、服薬の自己中断・飲み忘れ、副作用による中止などが少なくない。ワルファリンはPT-INRによる用量調整や食事(ビタミンKを多く含む納豆など)・薬物相互作用への注意が必要であり、DOACは用量調整の手間が少ない一方で腎機能に応じた減量や服薬継続の支援が課題となる。

POINT

・AF患者の心原性脳塞栓症リスク評価にはCHADS2スコアを用いる。 ・C:心不全、H:高血圧、A:75歳以上、D:糖尿病(各1点)、S2:脳梗塞/TIA既往(2点)。 ・脂質異常症、喫煙はCHADS2・CHA2DS2-VAScの項目に含まれない(アテローム血栓性脳梗塞の危険因子と区別する)。 ・CHA2DS2-VAScでは血管疾患、65〜74歳、女性が加わり、75歳以上は2点となる。 ・わが国のガイドライン(JCS/JHRS 2020年版)では、非弁膜症性AFでCHADS2スコア1点以上ならDOACを推奨する(2点以上はDOACまたはワルファリン)。欧米ではCHA2DS2-VAScスコア(男性2点以上・女性3点以上で推奨)が主に用いられてきた。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。