「ピロリ陽性」と言われたら、まず胃の中を見る―除菌の前にやるべきこと
第109回医師国家試験 D問題 第34問
国試問題にチャレンジ
46歳の男性。精査を希望して来院した。2週前に人間ドックの血液検査でHelicobacter pylori感染を指摘された。明確な自覚症状はない。2年前の胃がん検診での上部消化管造影で異常を指摘されていない。 次に行うのはどれか。
- a.除菌治療
- b.尿素呼気試験
- c.血中ペプシノゲン測定
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.便中Helicobacter pylori抗原測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ピロリ菌感染は慢性胃炎から萎縮性胃炎・腸上皮化生を経て胃癌の発生母地となり、消化性潰瘍や胃MALTリンパ腫の原因にもなるため、感染を指摘されたら無症状でもまず上部消化管内視鏡検査で胃癌・潰瘍・萎縮の有無を評価します。過去の造影検査で異常がなくても現在の病変は否定できず、わが国ではピロリ菌感染胃炎の除菌治療に内視鏡での胃炎確認が保険適用の条件とされています。尿素呼気試験や便中抗原は現感染の診断と除菌判定に、ペプシノゲンは萎縮の程度による胃癌リスクの推定に使いますが、いずれも病変の有無はわかりません。流れは「内視鏡で病変評価→感染診断→除菌治療→4週以上あけて除菌判定」であり、除菌後も胃癌リスクは残るため定期的な内視鏡が勧められます。検査と治療の順序を理由とともに押さえることは、外来での適切な説明と胃癌の早期発見につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・46歳男性。人間ドックの血液検査(血清Helicobacter pylori抗体)で感染を指摘され、精査を希望して受診した。 ・自覚症状は明らかでない。 ・2年前の胃がん検診(上部消化管造影、いわゆるバリウム検査)では異常を指摘されていない。
考え方
Helicobacter pylori(以下ピロリ菌)は胃粘膜に持続感染し、慢性活動性胃炎を起こす。その上に萎縮性胃炎・腸上皮化生が進み、胃癌の発生母地となる。また胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫などの原因にもなる。したがって、ピロリ菌感染を指摘された人に対しては、まず「胃にどのような病変があるか」を確かめることが最優先である。 ・胃癌や消化性潰瘍は無症状のことが多く、2年前の造影検査で異常がなくても現在の病変は否定できない。造影検査は内視鏡に比べて早期の平坦な病変や粘膜の萎縮の評価で劣る。 ・内視鏡では、胃炎の有無と程度(萎縮の範囲など)、潰瘍、癌の有無を直接観察でき、必要に応じて生検で組織診断ができる。同じ機会に生検組織を用いた迅速ウレアーゼ試験や鏡検法でピロリ菌の感染を確認することもできる。 ・わが国の保険診療では、ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療を行うには、内視鏡検査で胃炎を確認していることが前提となっている。 以上から、次に行うのは上部消化管内視鏡検査である。その後、感染診断(現感染の確認)を行ったうえで除菌治療に進み、除菌後は判定検査を行う、という流れになる。
選択肢考察
- ×a. 除菌治療
除菌治療(プロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーに、アモキシシリンとクラリスロマイシンを組み合わせる一次除菌など)は最終的に行うべき治療ではあるが、「次に」行うものではない。除菌の前に内視鏡で胃炎・潰瘍・癌などの病変を確認することが必要であり、保険診療上もピロリ菌感染胃炎に対する除菌は内視鏡で胃炎を確認していることが条件である。胃癌が存在すれば治療方針そのものが変わるため、病変の評価を飛ばして除菌を先行すべきではない。
- ×b. 尿素呼気試験
尿素呼気試験は、13C標識尿素を内服させ、ピロリ菌のウレアーゼで分解されて生じた13CO2を呼気中で測定する検査である。非侵襲的で精度が高く、胃全体の感染状態を反映するため、現感染の診断や除菌判定に有用である。しかし本例でまず必要なのは胃病変の有無の確認であり、内視鏡検査より先に行う検査ではない。
- ×c. 血中ペプシノゲン測定
血清ペプシノゲン(PG)IとIIの値およびI/II比から、胃粘膜の萎縮の程度を推定できる。萎縮が進むとPG Iと I/II比が低下し、胃癌のリスクが高いと判断される。ピロリ菌抗体と組み合わせた胃癌リスク層別化(いわゆるABC検診)にも使われる。しかしあくまで間接的なリスク評価であり、現に胃癌や潰瘍があるかは判定できない。すでに感染が指摘されている本例では、直接観察できる内視鏡検査を優先する。
- ○d. 上部消化管内視鏡検査
ピロリ菌感染者は胃癌・消化性潰瘍などのリスクが高く、無症状でも病変が潜んでいる可能性がある。2年前の造影検査で異常がなくても、その後の発生や見落としは否定できない。内視鏡では萎縮性胃炎の範囲、潰瘍、早期癌を含む腫瘍性病変を直接観察し、生検による組織診断が可能である。また生検組織で迅速ウレアーゼ試験や鏡検法、培養法を行えば、同時に現感染の確認もできる。保険診療でも除菌治療の前に内視鏡で胃炎を確認することが求められており、次に行うべき検査である。
- ×e. 便中Helicobacter pylori抗原測定
便中抗原測定は、便中に排出されたピロリ菌の抗原をモノクローナル抗体で検出する非侵襲的検査で、現感染の診断や除菌判定に有用である。ただし尿素呼気試験と同様、感染の有無を調べる検査にすぎず、胃病変の有無はわからない。まず内視鏡で病変を評価することが優先される。
ピロリ菌の感染診断法
・内視鏡(生検組織)を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織学的検査)、培養法(薬剤感受性も調べられる)。 ・内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定。 ・抗体測定は過去の感染や除菌後にも陽性が続くことがあり、現感染の確認や除菌直後の判定には適さない。検査キットによっては偽陰性・偽陽性もある。 ・プロトンポンプ阻害薬などの内服中は菌量が減少し、尿素呼気試験・迅速ウレアーゼ試験・便中抗原などで偽陰性となりうる。 ・除菌判定は除菌治療終了後4週以上あけて、尿素呼気試験や便中抗原測定などで行う。
除菌治療の保険適用
胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、免疫性血小板減少症(ITP)、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃、内視鏡で確認されたピロリ菌感染胃炎。
一次除菌の例
酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬またはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間。失敗した場合の二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。
ピロリ菌と疾患
慢性活動性胃炎 → 萎縮性胃炎 → 腸上皮化生 → 分化型胃癌、という流れが代表的である。未分化型胃癌、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、ITPなどとも関連する。除菌により胃癌の発生リスクは低下するが、ゼロにはならないため、除菌後も定期的な内視鏡検査が推奨される。
POINT
・ピロリ菌感染を指摘されたら、まず上部消化管内視鏡で胃癌・潰瘍・萎縮性胃炎の有無を評価する。 ・流れは「内視鏡で病変評価 → 感染診断 → 除菌治療 → 4週以上あけて除菌判定」。 ・ピロリ菌感染胃炎の除菌治療は内視鏡で胃炎を確認していることが保険適用の条件。 ・尿素呼気試験・便中抗原は現感染の診断と除菌判定に、抗体は既感染でも陽性となる。 ・ペプシノゲンは萎縮の程度(胃癌リスク)の推定に用い、病変の有無は判定できない。
