まぶたの裏の石垣―かゆみと視力低下が語る春季カタル
第114回医師国家試験 A問題 第47問
国試問題にチャレンジ
14歳の男子。1か月前からの両眼の瘙痒感と1週前からの左眼視力低下を主訴に来院した。矯正視力は右1.0,左0.4。左上眼瞼を翻転した写真を別に示す。 診断はどれか。

- a.霰粒腫
- b.麦粒腫
- c.春季カタル
- d.流行性角結膜炎
- e.クラミジア結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
学童期の男児が両眼の強いかゆみを訴え、上眼瞼結膜に石垣状の巨大乳頭と粘稠な眼脂を認めれば、結膜に増殖性変化を伴う重症アレルギー性結膜疾患である春季カタルを考えます。重症例では点状表層角膜症からシールド潰瘍、角膜プラークへと進み、矯正しても改善しない視力低下の原因となります。乳頭はアレルギー、濾胞は流行性角結膜炎やクラミジア結膜炎などの感染、限局したしこりは霰粒腫や麦粒腫というように、隆起の形と部位から鑑別を進めます。治療は抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬が中心で、ステロイド点眼を用いる際は眼圧上昇に注意が必要です。かゆみを訴える子どもでまぶたを翻転して観察する習慣が、視力を守る早期診断につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・14歳の男子(学童〜思春期の男子)。 ・1か月前から両眼の瘙痒感(かゆみ)が続いている。両眼性で強いかゆみは、アレルギー性結膜疾患を示唆する最も重要な症状である。 ・1週前から左眼の視力低下があり、矯正視力は左0.4に低下している。眼鏡で矯正しても視力が出ないことから、屈折異常ではなく、角膜など透光体の病変を考える。 ・左上眼瞼を翻転した写真では、上眼瞼結膜(瞼結膜)に大小の扁平な隆起が密に並ぶ石垣状の巨大乳頭増殖がみられ、粘稠な眼脂を伴っている。
診断へのプロセス
①両眼の強いかゆみ→アレルギー性結膜疾患をまず考える。 ②上眼瞼結膜の巨大乳頭(石垣状乳頭増殖)→結膜に増殖性変化を伴う重症のアレルギー性結膜疾患、すなわち春季カタルに特徴的な所見である。通常のアレルギー性結膜炎では巨大乳頭はみられない。 ③若年男子という患者背景も、春季カタルの好発層(アトピー素因をもつ学童期の男児)に一致する。 ④視力低下は、巨大乳頭が瞬目のたびに角膜をこすることや、好酸球由来の組織傷害性物質による角膜上皮障害(点状表層角膜症)、さらに進行して生じる角膜の上皮欠損(シールド潰瘍)や角膜プラーク(落屑物が沈着した混濁)によると考えられる。これは春季カタル重症例でみられる合併症で、本例でも角膜病変が瞳孔領に及んでいると推測される。
設問の考え方
本問は「上眼瞼を翻転した写真」が鍵である。瞼結膜の隆起性病変は、乳頭(中心に血管をもつ隆起。アレルギーで生じる)と濾胞(リンパ球の集簇で、中心に血管がない半球状の隆起。ウイルスやクラミジア感染で生じる)を区別して考える。かゆみ+上眼瞼の巨大乳頭であれば春季カタル、濾胞が主体であれば流行性角結膜炎やクラミジア結膜炎、眼瞼の限局した腫瘤であれば霰粒腫・麦粒腫というように、所見の形と部位から鑑別する。
選択肢考察
- ×a. 霰粒腫
霰粒腫は、瞼板腺(マイボーム腺)の出口が詰まり、分泌物が貯留して周囲に慢性肉芽腫性炎症を生じたもので、眼瞼に無痛性で弾性硬の腫瘤(しこり)として触れる。通常は片眼性で、感染を伴わない限り痛みや発赤は乏しく、かゆみもない(細菌感染を合併すると急性霰粒腫として発赤・疼痛を伴う)。本例のような両眼のかゆみや、上眼瞼結膜全体に広がる石垣状乳頭増殖はきたさない。
- ×b. 麦粒腫
麦粒腫(いわゆる「ものもらい」)は、眼瞼の腺(睫毛根部のツァイス腺・モル腺:外麦粒腫、マイボーム腺:内麦粒腫)の急性化膿性炎症で、主に黄色ブドウ球菌が原因である。眼瞼の限局した発赤・腫脹・圧痛を示し、やがて膿点を形成する。片眼性に急性発症することが多く、かゆみが主症状となることはない。結膜の乳頭増殖もきたさない。
- ○c. 春季カタル
春季カタルは、結膜に増殖性変化を伴う重症のアレルギー性結膜疾患で、アトピー素因をもつ学童期の男児に好発する。強い両眼のかゆみ、粘稠な糸を引く眼脂を呈し、上眼瞼結膜の石垣状巨大乳頭(眼瞼型)や、角膜輪部の堤防状隆起・トランタス斑(輪部型)が特徴的所見である。重症になると角膜上皮障害、シールド潰瘍、角膜プラークを生じて視力が低下する。本例は若年男子、1か月続く両眼の強いかゆみ、上眼瞼結膜の巨大乳頭と粘稠な眼脂、角膜病変を示唆する視力低下がそろっており、春季カタルと診断できる。
- ×d. 流行性角結膜炎
流行性角結膜炎はアデノウイルス(主に8・19・37型など)による急性の濾胞性結膜炎で、感染力が強い。潜伏期間は1〜2週間程度で、急性の充血、流涙、漿液性〜線維素性の眼脂、眼瞼腫脹、耳前リンパ節の腫脹・圧痛を伴い、下眼瞼結膜を中心に濾胞が形成される。発症1〜2週後に角膜上皮下混濁を生じ、これが瞳孔領にかかると視力低下の原因となる。かゆみは主症状ではなく、乳頭ではなく濾胞が主体であり、本例の上眼瞼の巨大乳頭とは合致しない。
- ×e. クラミジア結膜炎
クラミジア結膜炎(封入体結膜炎)はクラミジア・トラコマティス(性器クラミジア感染症と同じ血清型)による濾胞性結膜炎で、性的活動期の若年成人に多く、新生児では産道感染で生じる。成人では下眼瞼結膜の円蓋部に大型の濾胞が堤防状に並ぶ所見や、粘液膿性の眼脂、耳前リンパ節腫脹が特徴である。新生児では偽膜を伴う乳頭性結膜炎となることもあるが、本例のような強いかゆみと上眼瞼の石垣状巨大乳頭はみられない。
アレルギー性結膜疾患の分類
・アレルギー性結膜炎(季節性:花粉など、通年性:ハウスダスト・ダニなど):結膜に増殖性変化を伴わない。 ・アトピー性角結膜炎:アトピー性皮膚炎に合併する慢性の角結膜炎。 ・春季カタル:結膜に増殖性変化(巨大乳頭・輪部の増殖)を伴う重症型。 ・巨大乳頭結膜炎:コンタクトレンズや義眼、手術縫合糸などの機械的刺激で上眼瞼結膜に巨大乳頭を生じる。
春季カタル(vernal keratoconjunctivitis)
・好発:アトピー素因(アトピー性皮膚炎、気管支喘息など)をもつ学童期の男児。思春期以降に軽快することが多い。 ・病態:I型アレルギー(IgE、肥満細胞)に加え、Th2細胞と好酸球が関与する慢性炎症。好酸球の顆粒蛋白(主要塩基性蛋白:MBPなど)が角膜上皮を傷害する。 ・症状:強いかゆみ、異物感、羞明、粘稠で糸を引く眼脂。症状は春〜夏に増悪しやすいが、通年性のことも多い。 ・所見: 眼瞼型:上眼瞼結膜の石垣状巨大乳頭 輪部型:角膜輪部の堤防状隆起、トランタス斑(輪部の白色点状の好酸球の集簇) 角膜病変:点状表層角膜症→シールド潰瘍(上方〜中央の楕円形の上皮欠損)→角膜プラーク(潰瘍底に沈着した混濁) ・検査:結膜擦過物(眼脂)中の好酸球の証明、涙液中総IgEの測定などが診断の補助となる。 ・治療:抗アレルギー点眼薬(ケミカルメディエーター遊離抑制薬、抗ヒスタミン薬)を基本とし、増殖性病変には免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)を用いる。重症例ではステロイド点眼を併用するが、眼圧上昇(ステロイド緑内障)に注意する。巨大乳頭の外科的切除、角膜プラークの除去を行うこともある。
乳頭と濾胞の違い
・乳頭:結膜上皮の増殖性隆起で、中心に血管束をもつ。アレルギー性結膜疾患、細菌性結膜炎、コンタクトレンズ装用などでみられる。 ・濾胞:結膜下のリンパ球集簇による半透明・半球状の隆起で、血管は周囲を取り巻く。アデノウイルス、クラミジア感染でみられる。
POINT
・学童期の男児+両眼の強いかゆみ+上眼瞼結膜の石垣状巨大乳頭→春季カタル。 ・春季カタルの角膜合併症(点状表層角膜症、シールド潰瘍、角膜プラーク)は視力低下の原因となる。 ・治療は抗アレルギー点眼薬+免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)。ステロイド点眼では眼圧上昇に注意。 ・乳頭=アレルギー、濾胞=ウイルス(流行性角結膜炎)・クラミジア。 ・霰粒腫=無痛性のしこり、麦粒腫=急性化膿性炎症(発赤・圧痛)で、いずれもかゆみや乳頭増殖はきたさない。
