胃瘻は「締めすぎない・塩を入れない・薄めて使う」―バルーン型カテーテル管理の落とし穴
第109回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
バルーン型胃瘻カテーテルを用いた経皮的胃瘻造設術後について正しいのはどれか。
- a.1年に1回カテーテルを交換する。
- b.カテーテルを強く引いて腹壁に固定する。
- c.濃度30%の酢酸液をカテーテルに毎回注入する。
- d.バルーンには生理食塩液を注入する。
- e.留置中の不快感が経鼻胃管よりも少ない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胃瘻カテーテルは内部ストッパー(バルーン型・バンパー型)と外部ストッパー(ボタン型・チューブ型)の組み合わせで4種類に分けられます。バルーン型は交換が容易な一方で劣化しやすく、交換目安は概ね1〜2か月で、固定水には生理食塩液ではなく蒸留水を用います。外部ストッパーは1〜1.5cmほどの遊びを持たせて固定し、圧迫による潰瘍・壊死やバンパー埋没症候群を防ぎます。酢水ロックには食酢を約10倍に薄めた低濃度液を使い、高濃度の酢酸は粘膜壊死を招く危険があります。胃瘻は経鼻胃管に比べて留置中の不快感や自己抜去が少なく、長期の経腸栄養に適しているため、その利点と日常管理の要点を押さえることは在宅医療や病棟での実践に直結します。
解答・解説
正解はeです
本問は、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:percutaneous endoscopic gastrostomy)などで造設した胃瘻を、バルーン型カテーテルで管理する際の基本的な知識を問う一般問題である。 胃瘻カテーテルは、胃内側で抜けないようにする「内部ストッパー」と、体表側で固定する「外部ストッパー」からなる。内部ストッパーには、水で膨らませる「バルーン型」と、シリコン製の傘状・ドーム状の突起による「バンパー型」がある。外部ストッパーの形状により「ボタン型」「チューブ型」にも分けられ、組合せで4種類となる。 バルーン型の管理で押さえるべき点は、(1) バルーンは破損・劣化しやすいため交換間隔が短い(概ね1〜2か月)、(2) バルーンには生理食塩液ではなく蒸留水を用いる、(3) 外部ストッパーは締めすぎず適度な遊びを持たせる、(4) チューブ内腔の汚染・閉塞予防に用いる酢水は食酢を約10倍に薄めた低濃度のものである、の4点である。 また、胃瘻は経鼻胃管と比べて咽頭・鼻腔を通過するチューブがないため、患者の苦痛が少なく、誤嚥や自己抜去のリスクも相対的に低い。長期(おおむね4週間以上)の経腸栄養が必要な場合に胃瘻が選択される理由の一つである。
選択肢考察
- ×a. 1年に1回カテーテルを交換する。
誤り。バルーン型カテーテルは、バルーンの劣化・破裂や固定水の自然減少によって事故抜去が起こりうるため、概ね1〜2か月ごとの交換が目安とされる。より耐久性の高いバンパー型でも交換は4〜6か月ごとが目安であり、いずれの型でも「1年に1回」では間隔が長すぎる。
- ×b. カテーテルを強く引いて腹壁に固定する。
誤り。カテーテルを強く引いた状態で外部ストッパーを固定すると、内部ストッパーが胃壁を、外部ストッパーが皮膚を強く圧迫し、血流障害による瘻孔部の潰瘍・壊死、瘻孔の拡大や感染、内部ストッパーが胃壁内に埋没するバンパー埋没症候群などを招く。外部ストッパーと皮膚の間には1〜1.5cm程度の遊びを持たせ、カテーテルが軽く回転し上下に動く程度にゆとりを持たせて固定するのが原則である。
- ×c. 濃度30%の酢酸液をカテーテルに毎回注入する。
誤り。栄養剤注入後にチューブ内腔へ酢水を満たしておく方法(酢水ロック)は、内腔での細菌増殖や栄養剤のたんぱく質凝固による汚染・閉塞を防ぐ目的で行われる。用いるのは食酢(酢酸濃度約4〜5%)を約10倍に希釈した、酢酸濃度0.5%前後の低濃度液である。濃度30%もの酢酸液は強い組織傷害性をもち、誤って高濃度酢酸を注入したことで消化管粘膜の壊死をきたした医療事故も報告されている。患者に重大な害を及ぼす危険な操作であり、決して行ってはならない。
- ×d. バルーンには生理食塩液を注入する。
誤り。バルーン内に生理食塩液を入れると、時間の経過とともに水分が失われて塩の結晶が析出し、注入路(インフレーションルーメン)が詰まってバルーンを収縮できなくなり、交換・抜去が困難になるおそれがある。このためバルーンの固定水には蒸留水(滅菌蒸留水)を用いる。固定水は自然に減少していくため、定期的に量を確認し、必要に応じて補充する。
- ○e. 留置中の不快感が経鼻胃管よりも少ない。
正しい。経鼻胃管はチューブが鼻腔・咽頭・食道を通るため、違和感や咽頭痛、鼻翼の潰瘍、嚥下運動の妨げなどを生じやすく、患者の不快感が大きい。自己抜去や、チューブの先端位置異常・胃食道逆流による誤嚥性肺炎のリスクもある。胃瘻は腹壁から直接胃へ通じるため、顔面や咽頭に異物がなく不快感が少ない。嚥下訓練を並行して行いやすく、外見上も目立たないことから、長期の経管栄養では胃瘻が優れている。
胃瘻カテーテルの種類と特徴
・内部ストッパー バルーン型:蒸留水で膨らませる。交換が容易で痛みが少ないが、バルーン破損による事故抜去が起こりうる。交換目安は概ね1〜2か月。 バンパー型:傘状・ドーム状の硬い突起。抜けにくく耐久性が高いが、交換時に疼痛や圧迫感を伴いやすい。交換目安は4〜6か月。 ・外部ストッパー ボタン型:体表に出る部分が小さく目立たず、自己抜去されにくい。接続チューブが必要。 チューブ型:栄養剤の接続が容易だが、体表でチューブが邪魔になり自己抜去されやすい。
胃瘻の日常管理のポイント
・外部ストッパーは締めすぎない(1〜1.5cm程度の遊び、カテーテルが回転することを確認)。 ・瘻孔周囲は石けんと微温湯で洗浄し、清潔・乾燥を保つ。瘻孔が完成すれば入浴も可能である。 ・栄養剤注入後は白湯でフラッシュし、必要に応じて約10倍希釈した食酢でチューブ内をロックする。 ・バルーン型では定期的に固定水の量を確認し、蒸留水で補充する。
胃瘻の適応
嚥下障害(脳血管障害、神経筋疾患、認知症など)で経口摂取が困難だが消化管機能は保たれ、4週間以上の長期経腸栄養が見込まれる場合。経鼻胃管との比較では、不快感が少ない、自己抜去が少ない、嚥下訓練を妨げにくい、などの利点がある。
POINT
・バルーン型胃瘻カテーテルの交換目安は概ね1〜2か月(バンパー型は4〜6か月)。 ・バルーンの固定水は蒸留水(生理食塩液は結晶化してバルーンが収縮しなくなる)。 ・外部ストッパーは締めすぎず遊びを持たせる(圧迫壊死・バンパー埋没症候群の予防)。 ・酢水は食酢を約10倍に薄めたもの。高濃度酢酸の注入は重大な事故につながる。 ・胃瘻は経鼻胃管より留置中の不快感が少ない。
