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抗体なき溶血―PNHでCoombs試験が陰性になる理由

第109回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第11問

発作性夜間ヘモグロビン尿症でみられないのはどれか。

  1. a.血清LD高値
  2. b.直接Coombs試験陽性
  3. c.GPIアンカー蛋白の欠損
  4. d.血清間接ビリルビン高値
  5. e.血清ハプトグロビン低値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発作性夜間ヘモグロビン尿症、いわゆるPNHの検査所見について「みられないもの」を選ぶ問題だ。ポイントは、PNHの溶血が「何によって」起こるのかを理解しているかどうか。まずは病態から確認しよう。PNHの根本的な異常は何だったかな。
医学生医学生
GPIアンカーの欠損だったと思います。血液内科の講義で、PIG-A遺伝子の変異と習いました。
ドクタードクター
その通り。造血幹細胞のPIG-A遺伝子に後天的な変異が起こり、その異常クローンが増えることで発症する。GPIアンカーは、いろいろな蛋白を細胞膜につなぎとめる「留め具」のようなものだ。これが作れないと、GPIアンカー型の膜蛋白がまとめて細胞表面から消えてしまう。
医学生医学生
その中に、補体を抑える蛋白が含まれているんですよね。
ドクタードクター
そう。CD55(崩壊促進因子)とCD59(膜侵襲複合体阻止因子)だ。普段、私たちの赤血球はこの2つで自分の補体の攻撃から身を守っている。これを失ったPNHの赤血球は補体に対して無防備になり、膜侵襲複合体に穴を開けられて血管の中で壊れる。補体介在性の血管内溶血だね。だからGPIアンカー蛋白の欠損は、PNHの本質そのものだ。
医学生医学生
では、溶血の一般的な所見はどれも出てくるはずですね。LDが上がって、間接ビリルビンも上がって。
ドクタードクター
うん。LDは赤血球内に豊富だから、壊れれば血中に漏れ出して上昇する。特に血管内溶血では著明に上がりやすく、治療効果の指標にも使われる。間接ビリルビンは、壊れた赤血球のヘムが代謝されてできる非抱合型ビリルビンが、肝臓の処理能力を上回って増えたものだ。これは血管内でも血管外でも共通の所見だね。
医学生医学生
ハプトグロビンはどうでしょう。溶血すると下がる、とCBTの勉強で丸暗記しました。
ドクタードクター
丸暗記から一歩進めよう。ハプトグロビンは肝臓で作られ、血中に出てきた遊離ヘモグロビンと結合して、マクロファージに回収させる蛋白だ。溶血で遊離ヘモグロビンが増えると、どんどん消費されて低値になる。血管内溶血では測定感度以下まで下がることも多い。使い切ってしまうと、結合しきれないヘモグロビンが腎臓から尿へ出ていく。
医学生医学生
それがヘモグロビン尿になるんですね。病名とつながりました。
ドクタードクター
そういうこと。では残る直接Coombs試験はどうだろう。PNHは補体で赤血球が壊れる病気だから、陽性になりそうに思えないかな。
医学生医学生
確かに……直接Coombsって、赤血球についた補体のC3dも検出しますよね。補体が関わるなら陽性になりそうな気がしてきました。
ドクタードクター
いいところで迷ってくれたね。直接Coombs試験は、赤血球表面に結合したIgGや補体成分を検出する検査で、自己免疫性溶血性貧血のように抗体が赤血球に結合して補体を呼び込む病態で陽性になる。PNHでは赤血球に対する自己抗体は存在しない。問題は赤血球の側にあって、補体を止める防御因子が欠けているだけなんだ。しかも補体に狙われた異常赤血球は速やかに壊されて血中から消えるので、補体が付着した状態の赤血球として検出されることも通常はない。だから直接Coombs試験は陰性、これが正解だよ。
医学生医学生
抗体の病気ではなく、膜の防御の病気だから陰性なんですね。AIHAとの鑑別点になるわけだ。
ドクタードクター
その通り。溶血性貧血をCoombs試験で分ける整理もしておこう。陽性になるのは温式・冷式のAIHA、薬剤性の免疫性溶血、不適合輸血、新生児溶血性疾患。陰性になるのはPNHのほか、遺伝性球状赤血球症、赤血球酵素異常症、TTPやHUSのような微小血管障害性溶血だ。
医学生医学生
診断はどうやってつけるんですか。昔はHam試験というのがあったと教科書で見ました。
ドクタードクター
今はフローサイトメトリーで、赤血球や顆粒球のCD55・CD59が欠けた細胞を検出するのが標準だ。ちなみに好中球アルカリホスファターゼもGPIアンカー型蛋白なので、NAPスコアが低下するのも特徴的だよ。
医学生医学生
臨床的にはどんな症状に注意すればいいでしょう。
ドクタードクター
PNHの柱は3つ。溶血、血栓症、骨髄不全だ。溶血では早朝尿が褐色になることが有名だけど、実際には発作は時間帯を問わず起こりうる。血栓症は肝静脈のBudd-Chiari症候群や門脈、脳静脈など、普段は起こりにくい部位にできやすく、主要な死因にもなる。さらに再生不良性貧血との合併や移行が多い。慢性の血管内溶血でヘモジデリン尿が続くと、鉄が失われて鉄欠乏を合併することもある。
医学生医学生
治療は補体を止める薬ですか。
ドクタードクター
そう。補体C5に対するモノクローナル抗体のエクリズマブやラブリズマブが血管内溶血を強力に抑える。ただし髄膜炎菌感染症のリスクが高まるので、髄膜炎菌ワクチンの接種が欠かせない。近年は補体のより上流を抑える薬も使われるようになってきた。骨髄不全が主体なら免疫抑制療法、根治を目指すなら造血幹細胞移植も選択肢になる。
医学生医学生
溶血を見たら、まず血管内か血管外か、そして抗体が関わるかどうかを考える、という順番で整理します。
ドクタードクター
それが溶血性貧血の診断の基本形だね。

まとめ

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、造血幹細胞のPIG-A遺伝子の後天的変異によりGPIアンカー蛋白が欠損し、補体制御因子CD55・CD59を失った赤血球が補体によって血管内で破壊される疾患です。溶血に共通するLD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下に加え、ヘモグロビン尿やヘモジデリン尿がみられます。一方、赤血球に対する自己抗体は関与しないため直接Coombs試験は陰性であり、自己免疫性溶血性貧血との重要な鑑別点となります。臨床的には溶血・血栓症・骨髄不全が三本柱で、診断はフローサイトメトリーによるCD55・CD59欠損血球の検出、治療の中心は髄膜炎菌ワクチン接種を前提とした抗C5抗体です。溶血を「血管内か血管外か」「抗体が関わるか」で整理する視点は、溶血性貧血全般の鑑別に役立ちます。

解答・解説

正解はbです

本問は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)の病態と検査所見を理解しているかを問う一般問題であり、「みられない」ものを選ぶ否定形の設問である。 PNHは、造血幹細胞にPIG-A遺伝子(GPIアンカー合成に必須の酵素をコードするX染色体上の遺伝子)の後天的な体細胞変異が起こり、その異常クローンが増えることで発症する。GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)アンカーは、さまざまな蛋白を細胞膜につなぎとめる「留め具」であり、これが作れないと、GPIアンカー型の膜蛋白がすべて細胞表面から失われる。その中に、補体の活性化を抑える制御因子であるCD55(DAF:崩壊促進因子)とCD59(MIRL:膜侵襲複合体阻止因子)が含まれる。この2つを欠く赤血球は、自身の補体の攻撃を防げず、膜侵襲複合体によって血管内で破壊される(補体介在性の血管内溶血)。 したがってPNHでは、溶血性貧血に共通する所見(LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加)に加え、血管内溶血を反映するヘモグロビン尿やヘモジデリン尿がみられる。 一方、溶血の原因は赤血球自体の膜異常(補体制御因子の欠如)であり、赤血球に対する自己抗体は関与しない。そのため、赤血球表面に結合した抗体や補体を検出する直接Coombs試験は陰性となる。これが自己免疫性溶血性貧血(AIHA)との重要な鑑別点である。

選択肢考察

  1. ×a.  血清LD高値

    PNHでみられる所見である。LD(乳酸脱水素酵素)は赤血球内に豊富に含まれるため、赤血球が壊れると血中に逸脱して上昇する。PNHのように血管内で赤血球が直接破壊される病態では、LDは著明に上昇しやすく、溶血の程度や治療効果の指標としても用いられる。

  2. ○b.  直接Coombs試験陽性

    PNHでみられない所見であり、これが正解である。直接Coombs試験は、患者赤血球の表面に結合したIgGや補体成分(C3d)を検出する検査で、AIHAなど抗体が関与する免疫性溶血で陽性となる。PNHの溶血は、GPIアンカー型補体制御因子(CD55、CD59)の欠損によって赤血球が補体に対して無防備になることで生じ、赤血球に対する自己抗体は存在しない。このため直接Coombs試験は陰性である。PNHでは溶血しやすい異常赤血球ほど早く壊されて血中から除かれるため、赤血球表面に補体成分が付着した状態で検出されることも通常はない。

  3. ×c.  GPIアンカー蛋白の欠損

    PNHでみられる所見であり、本症の本質的な異常である。造血幹細胞のPIG-A遺伝子の後天的変異によりGPIアンカーが合成できず、その幹細胞に由来する赤血球・顆粒球・血小板など全血球系でGPIアンカー型蛋白(CD55、CD59、好中球アルカリホスファターゼなど)が欠損する。現在の確定診断は、フローサイトメトリーで赤血球や顆粒球のCD55・CD59などの発現欠損細胞(PNHタイプ血球)を検出することで行う。

  4. ×d.  血清間接ビリルビン高値

    PNHでみられる所見である。破壊された赤血球から放出されたヘモグロビンはヘムを経てビリルビン(非抱合型=間接ビリルビン)に代謝される。溶血によってビリルビンの産生量が肝臓での抱合処理能力を上回ると、血清間接ビリルビンが上昇する。これは血管内溶血・血管外溶血のいずれにも共通する所見である。

  5. ×e.  血清ハプトグロビン低値

    PNHでみられる所見である。ハプトグロビンは肝臓で産生される血漿蛋白で、血中に遊離したヘモグロビンと結合し、その複合体はマクロファージ(単球・マクロファージ系)に受容体を介して取り込まれて速やかに処理される。溶血によって遊離ヘモグロビンが増えるとハプトグロビンが消費されて低値となる。特に血管内溶血では著しく低下し、しばしば測定感度以下となる。ハプトグロビンが使い果たされると、結合しきれない遊離ヘモグロビンが腎から排泄され、ヘモグロビン尿となる。

PNHの概要

・病因:造血幹細胞のPIG-A遺伝子の後天的体細胞変異 → GPIアンカー欠損 → CD55・CD59欠損 → 補体介在性の血管内溶血。 ・三大症状:(1) 溶血(ヘモグロビン尿、特に早朝尿が褐色〜赤褐色になる)、(2) 血栓症(肝静脈〈Budd-Chiari症候群〉、門脈、脳静脈など、通常と異なる部位の静脈血栓が特徴的)、(3) 骨髄不全(再生不良性貧血との合併・移行が多い)。 ・早朝のヘモグロビン尿は、睡眠中の軽度の呼吸性アシドーシスで補体が活性化されやすくなるためと古典的に説明されてきたが、実際には発作は時間帯を問わず起こりうる。 ・まれに骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病へ移行する。

主な検査所見

・溶血所見:網赤血球増加、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下 ・血管内溶血の所見:ヘモグロビン尿、尿中ヘモジデリン陽性(慢性に続くと鉄が尿中に失われ、鉄欠乏を合併しうる) ・直接Coombs試験:陰性 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア:低下(NAPもGPIアンカー型蛋白のため) ・診断:フローサイトメトリーによるCD55・CD59欠損血球の検出(かつてはHam試験〈酸性化血清溶血試験〉や砂糖水試験が用いられた)

治療

・補体C5に対するモノクローナル抗体(エクリズマブ、ラブリズマブ)で血管内溶血を強力に抑制する。髄膜炎菌感染症のリスクが高まるため、髄膜炎菌ワクチン接種が必要である。 ・近年はC3阻害薬や、補体第二経路の因子B・D阻害薬なども用いられる。 ・骨髄不全が主体の場合は免疫抑制療法、根治療法として造血幹細胞移植がある。

溶血性貧血の直接Coombs試験

・陽性:AIHA(温式・冷式)、薬剤起因性免疫性溶血、不適合輸血、新生児溶血性疾患 ・陰性:PNH、遺伝性球状赤血球症、赤血球酵素異常症、微小血管障害性溶血性貧血(TTP、HUSなど)

POINT

・PNHは造血幹細胞のPIG-A遺伝子の後天的変異によるGPIアンカー蛋白(CD55、CD59)欠損で、補体介在性の血管内溶血を起こす。 ・自己抗体は関与しないため直接Coombs試験は陰性(AIHAとの鑑別点)。 ・溶血の共通所見(LD↑、間接ビリルビン↑、ハプトグロビン↓、網赤血球↑)に加え、ヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿がみられる。 ・溶血・血栓症・骨髄不全の3つが臨床的な柱。診断はフローサイトメトリー、治療の中心は抗C5抗体。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。