圧排するのは石か憩室か―胆道疾患の「原因」を正しく結びつける
第109回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
疾患とその原因の組合せで正しいのはどれか。
- a.膵管癌 ―― 原発性硬化性胆管炎
- b.胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症
- c.Rotor症候群 ―― 胆嚢炎
- d.Mirizzi症候群 ―― 十二指腸傍乳頭部憩室
- e.Lemmel症候群 ―― 胆嚢結石
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胆道癌の代表的な危険因子は膵胆管合流異常で、先天性胆道拡張症はほぼ全例でこれを伴い、膵液の胆道内逆流による慢性的な上皮障害から胆管癌・胆嚢癌が高率に発生するため、拡張胆管切除と胆道再建が原則となります。原発性硬化性胆管炎が発生母地となるのは胆管癌であり、膵管癌の確立した原因とはされていません。Rotor症候群はOATP1B1/1B3の欠損による常染色体劣性遺伝の直接ビリルビン優位の体質性黄疸で、胆嚢炎とは無関係です。Mirizzi症候群は胆嚢頸部・胆嚢管結石による総肝管の圧排、Lemmel症候群は十二指腸傍乳頭部憩室による乳頭部の圧排・機能障害で、原因の取り違えに注意が必要です。疾患名から「何が、どこで、どう悪さをするか」を具体的にイメージする習慣が、組合せ問題だけでなく臨床での病態把握の確かさにつながります。
解答・解説
正解はbです
本問は、胆道・膵・肝に関連する疾患や症候群について、その成因(原因となる疾患・病態)を正しく対応づけられるかを問う一般問題である。 解くうえでは、各疾患名から「何が、どこで、どのように悪さをするのか」を思い浮かべることが大切である。 ・胆道癌の危険因子として代表的なのは、膵胆管合流異常(およびそれを高頻度に伴う先天性胆道拡張症)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、肝内結石症などである。 ・Mirizzi症候群とLemmel症候群はいずれも「外からの圧排で胆管が狭くなり黄疸をきたす」病態だが、圧排の原因が異なる。前者は胆嚢頸部・胆嚢管の結石、後者は十二指腸乳頭近くの憩室である。 ・Rotor症候群は遺伝性の体質性黄疸であり、炎症などの後天的原因では生じない。 このように整理すると、原因と疾患が正しく対応しているのは「胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症」のみとなる。選択肢d・eは原因が入れ替えて示されている点にも注意したい。
選択肢考察
- ×a. 膵管癌 ―― 原発性硬化性胆管炎
誤り。原発性硬化性胆管炎(PSC:肝内外の胆管に多発性の線維性狭窄を生じる原因不明の慢性炎症性疾患)で問題となる悪性腫瘍は胆管癌であり、PSC患者の生涯で約1割前後に胆管癌が発生するとされる。胆嚢癌や、合併しやすい潰瘍性大腸炎を背景とした大腸癌のリスクも高い。一方、膵管癌(通常型膵癌)の原因としてPSCが挙げられることはない。膵癌の危険因子として知られているのは、家族歴、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などである。
- ○b. 胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症
正しい。先天性胆道拡張症(総胆管を含む肝外胆管が嚢状・紡錘状に拡張する先天異常)では、ほぼ全例に膵胆管合流異常を伴う。膵胆管合流異常では膵管と胆管が十二指腸壁外で合流するため、Oddi括約筋による逆流防止機構が働かず、膵液が胆道内へ逆流する。胆汁と混ざって活性化された膵酵素などによって胆道上皮が慢性的な炎症・障害にさらされ、過形成から異形成を経て癌が発生しやすくなる。このため胆道拡張症を伴う場合は胆管癌・胆嚢癌の両方が、伴わない場合は特に胆嚢癌が高率に発生する。発癌予防のため、診断されれば拡張胆管の切除と胆道再建(分流手術)が原則となる。
- ×c. Rotor症候群 ―― 胆嚢炎
誤り。Rotor症候群は常染色体劣性遺伝の体質性黄疸で、肝細胞が血中の抱合型ビリルビンなどを再取り込みする輸送体(OATP1B1とOATP1B3)が両方とも欠損することによって、直接(抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症を呈する。肝機能はほぼ正常で予後は良好であり、特別な治療は要しない。遺伝子異常による疾患であり、胆嚢炎が原因となることはない。
- ×d. Mirizzi症候群 ―― 十二指腸傍乳頭部憩室
誤り。Mirizzi症候群は、胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓した結石そのものによる圧排や、それに伴う炎症によって総肝管(総胆管)が狭窄し、閉塞性黄疸や胆管炎をきたす病態である。原因は胆嚢結石であり、十二指腸傍乳頭部憩室ではない。進行すると胆嚢と胆管の間に瘻孔を形成することもある。十二指腸傍乳頭部憩室を原因とするのはLemmel症候群であり、本選択肢は選択肢eと原因が入れ替わっている。
- ×e. Lemmel症候群 ―― 胆嚢結石
誤り。Lemmel症候群は、十二指腸乳頭のそばにできた憩室(傍乳頭部憩室)が、胆管・膵管の十二指腸開口部やその末端を圧排したり、憩室内の食物残渣や炎症の影響で乳頭機能が障害されたりすることで、胆汁や膵液の流出が妨げられる病態である。その結果、胆汁うっ滞、閉塞性黄疸、胆管炎、膵炎などを生じる。原因は十二指腸傍乳頭部憩室であり、胆嚢結石ではない(胆嚢結石が原因となるのはMirizzi症候群である)。
膵胆管合流異常と先天性胆道拡張症
・膵胆管合流異常:解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天異常。共通管が長くなり、Oddi括約筋の作用が合流部に及ばないため、膵液と胆汁が相互に逆流する。 ・先天性胆道拡張症:総胆管を含む肝外胆管の限局性拡張。膵胆管合流異常をほぼ全例に合併する。女性・アジア人に多く、小児期には腹痛・黄疸・腹部腫瘤で見つかることがある。 ・膵液の胆道内逆流は、胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)の発生母地となる。胆汁の膵管内逆流は、膵炎の原因となりうる。 ・治療:胆道拡張を伴う例では拡張胆管切除+胆道再建(肝管空腸吻合など)、胆道拡張を伴わない例では予防的胆嚢摘出術が一般的である。
胆道癌の主な危険因子
膵胆管合流異常(先天性胆道拡張症)、原発性硬化性胆管炎、肝内結石症、胆嚢結石(胆嚢癌)、肝吸虫感染、印刷業などでのジクロロメタン・1,2-ジクロロプロパン曝露(職業性胆管癌)など。
胆管を外から狭窄させる病態の比較
・Mirizzi症候群:胆嚢頸部・胆嚢管結石の嵌頓 → 総肝管の圧排・炎症性狭窄 ・Lemmel症候群:十二指腸傍乳頭部憩室 → 乳頭部胆管・膵管の圧排、乳頭機能障害
体質性黄疸の整理
・間接ビリルビン優位:Gilbert症候群、Crigler-Najjar症候群(いずれもUDP-グルクロン酸転移酵素の活性低下) ・直接ビリルビン優位:Dubin-Johnson症候群(毛細胆管側の輸送体MRP2の異常、肝に黒色色素沈着)、Rotor症候群(OATP1B1/1B3の欠損、色素沈着なし)
POINT
・先天性胆道拡張症はほぼ全例で膵胆管合流異常を伴い、膵液の胆道内逆流により胆道癌を高率に発生する。 ・原発性硬化性胆管炎が発生母地となるのは胆管癌であり、膵癌ではない。 ・Mirizzi症候群の原因は胆嚢頸部・胆嚢管の結石、Lemmel症候群の原因は十二指腸傍乳頭部憩室(両者の取り違えに注意)。 ・Rotor症候群は常染色体劣性遺伝の直接ビリルビン優位の体質性黄疸で、炎症性疾患とは無関係である。
