StudyMed医師国家試験

「やめられません」は禁句―臨床試験の同意で守るべき被験者の権利

第109回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第2問

新たな治療法の臨床試験への参加を打診する場合の医師の発言として適切でないのはどれか。

  1. a.「ご家族と相談されても結構です」
  2. b.「参加されるかされないかは自由意思です」
  3. c.「参加後は途中でやめることはできません」
  4. d.「十分理解し,納得されてから参加してください」
  5. e.「参加されなくても不利益が生じることはありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、臨床試験への参加を患者さんに打診するときの医師の言葉づかいを問う問題だ。「適切でない」ものを選ぶ形式なので、インフォームド・コンセントの原則に照らして、被験者の権利を損なう発言を探せばいい。まず、インフォームド・コンセントの要素を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
十分な説明を受けて、理解したうえで同意する、ということですよね。あとは自由意思であることでしょうか。
ドクタードクター
いいスタートだ。もう少し分解すると、目的や方法、予測される利益と危険、他の治療選択肢をわかりやすく説明すること、理解し納得したうえで同意すること、強制や誘導がないこと、断っても不利益を受けないこと、いつでも同意を撤回できること、考える時間や相談の機会があること。このあたりがそろって初めて有効な同意といえる。
医学生医学生
そう並べると、途中でやめることはできない、という発言だけが明らかに原則に反していますね。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。被験者はいったん同意した後でも、いつでも理由を述べることなく同意を撤回して参加をやめられる。ヘルシンキ宣言や研究倫理指針、GCPで明確に保障された権利で、説明文書にも必ず記載すべき事項なんだ。
医学生医学生
でも、途中でやめる人が増えるとデータが集まらなくて試験が成り立たない気もします。研究者側としては困らないんでしょうか。
ドクタードクター
研究者の気持ちとしてはわかるよ。でもヘルシンキ宣言は、被験者の福利を科学的・社会的利益より優先すると定めている。研究の都合で被験者の自己決定権を縛ることは許されない。それに、「やめられない」と告げることは事実に反するうえ、同意の自発性そのものを損なってしまう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、ヘルシンキ宣言は戦時中の非倫理的な人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領の流れをくむと習いました。だから被験者保護がこんなに重視されるんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。歴史を知ると原則の重みがわかる。では残りの発言も確認しよう。家族と相談してもよい、という発言はどうかな。
医学生医学生
その場で即答を迫らずに、持ち帰って考える時間をあげるということなので適切だと思います。
ドクタードクター
そうだね。参加は本人にとって重要な判断だから、家族に限らず友人やかかりつけ医など、信頼する人と話し合ってもらうことで疑問点がはっきりし、納得した意思決定につながる。次に、参加は自由意思だ、という発言。
医学生医学生
当たり前のことを言っているようですが、わざわざ伝える意味はあるんですか。
ドクタードクター
大いにある。医師と患者の間には立場の差があって、患者は「断ったら主治医に悪い」「診てもらえなくなるかも」と感じやすい。だからこそ任意であることを明確に言葉にする必要があるんだ。参加しなくても不利益はない、という発言も同じ理由で欠かせない。断っても、途中で撤回しても、通常の標準治療は引き続き受けられる。
医学生医学生
臨床実習で腫瘍内科を回ったとき、治験の説明に同席しました。治験コーディネーターの方が「今日決めなくて大丈夫です、断っても治療は変わりません」と繰り返していたのを覚えています。
ドクタードクター
いい経験をしたね。治験コーディネーターは、被験者が安心して判断できるよう支える重要な役割を担っている。最後に、十分理解し納得してから参加してください、という発言。これも理解が前提になっているから適切だ。理解を伴わない署名だけの同意は、インフォームド・コンセントとはいえない。
医学生医学生
つまり、説明、理解、自由意思、撤回の自由、不利益がないこと、考える時間、という要素を一つでも否定する発言があれば不適切、と判断すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。発展として、関連する規範も押さえておこう。治験にはGCP省令が適用され、治験審査委員会の審査と文書による同意取得が義務づけられている。治験以外の臨床研究には「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が、未承認・適応外の医薬品等を用いる研究などには臨床研究法が関わってくる。
医学生医学生
同意能力が十分でない人、たとえば小児が対象のときはどうするんですか。
ドクタードクター
親権者などの代諾者から同意を得るとともに、本人にも理解力に応じた説明をして、可能な範囲で本人の賛意、つまりインフォームド・アセントを得ることが求められる。臨床で同意を取るときは、「この人は本当に断れる状況にあるか」を常に意識してほしい。

まとめ

臨床試験への参加を打診する際には、研究の目的・方法・利益と危険・代替治療などを十分に説明し、理解と納得に基づく自由意思による同意(インフォームド・コンセント)を得る必要があります。被験者はいつでも理由を問わず同意を撤回して参加をやめることができ、参加を断っても撤回しても診療上の不利益を受けないため、「途中でやめられない」という発言は不適切です。家族など信頼できる人への相談を認めることや、任意であること・不利益がないことを明言することは、医師と患者の立場の差から生じる心理的圧力を和らげるうえで重要です。根拠となる規範にはヘルシンキ宣言、GCP省令、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針、臨床研究法があり、同意能力が不十分な場合は代諾者の同意に加えて本人のインフォームド・アセントを得ます。被験者の自己決定権を守る姿勢は、研究だけでなく日常診療での説明と同意のあらゆる場面に通じる基本です。

解答・解説

正解はcです

臨床試験への参加を患者に打診する場面では、インフォームド・コンセント(informed consent:十分な説明を受け、理解したうえでの自由な意思に基づく同意)を適切に得ることが求められる。その根本にあるのは、ヘルシンキ宣言(世界医師会が定めた、人を対象とする医学研究の倫理原則)や、わが国の研究倫理指針・GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)に共通する「被験者の自己決定権の尊重」という考え方である。 具体的には、次のような要素がそろっていなければならない。 1. 研究の目的・方法・予測される利益と危険(副作用など)・他の治療選択肢などについて、わかりやすく十分に説明すること 2. 説明を理解し、納得したうえで同意すること 3. 参加は完全に自由意思によるもので、強制や誘導がないこと 4. 参加を断っても、また参加後に同意を撤回しても、診療上の不利益を受けないこと 5. 同意はいつでも理由を問わず撤回でき、途中で参加をやめられること 6. 考える時間が与えられ、家族など信頼できる人に相談できること 本問は「適切でない」発言を選ぶ問題である。上記の原則に反する発言、すなわち被験者の撤回の権利を否定する発言を探せばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  「ご家族と相談されても結構です」

    適切な発言である。臨床試験への参加は患者本人にとって重要な判断であり、その場で即答を求めず、持ち帰って検討する時間を与えることが望ましい。相談相手は家族に限らず、友人やかかりつけ医など本人が信頼する誰であってもよい。周囲と話し合うことで疑問点が明らかになり、より納得した意思決定につながる。

  2. ×b.  「参加されるかされないかは自由意思です」

    適切な発言である。インフォームド・コンセントの本質は、強制・威圧・不当な誘導のない自発的な同意にある。医師と患者の間には立場の差があり、患者は「断ると主治医に悪い」と感じやすいため、参加が任意であることを明確に伝えることがとくに重要である。

  3. ○c.  「参加後は途中でやめることはできません」

    適切でない発言であり、これが正解である。被験者はいったん同意した後でも、いつでも理由を述べることなく同意を撤回し、試験への参加を取りやめることができる。これはヘルシンキ宣言や研究倫理指針、GCPで明確に保障された権利であり、説明文書にも必ず記載すべき事項である。また、撤回によって以後の診療で不利益を受けることもない。「途中でやめられない」と告げることは事実に反するうえ、被験者の自己決定権を侵害し、同意の自発性を損なう。

  4. ×d.  「十分理解し,納得されてから参加してください」

    適切な発言である。同意が有効であるためには、研究の目的・方法・期待される効果・予測される副作用や危険・代替治療の有無などについて、専門用語を避けたわかりやすい説明を受け、本人がその内容を理解していることが前提となる。理解を伴わない形式的な同意(署名だけの同意)はインフォームド・コンセントとはいえない。

  5. ×e.  「参加されなくても不利益が生じることはありません」

    適切な発言である。参加を断った場合や途中で同意を撤回した場合でも、それを理由に診療上不利な扱いをしてはならない。患者は通常の標準治療を引き続き受けることができる。この点を明示することは、患者が心理的な圧力を感じずに自由に判断するために欠かせない。

臨床研究・治験に関する主な規範

・ヘルシンキ宣言:1964年に世界医師会が採択した、人を対象とする医学研究の倫理原則。被験者の福利を科学的・社会的利益より優先すること、インフォームド・コンセント、倫理委員会による審査などを定めている。第二次世界大戦中の非倫理的な人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領(1947年)の流れをくむ。 ・GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令):医薬品などの承認申請を目的とする臨床試験(治験)に適用される基準。治験審査委員会(IRB)の審査、文書による同意取得などを義務づけている。 ・人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針:治験以外の臨床研究に適用される国の指針。2014年の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が、ヒトゲノム・遺伝子解析研究の指針と統合され、2021年から現行の名称となった。研究計画書の作成、倫理審査委員会での審査、研究機関の長の責務、個人情報の保護、重篤な有害事象への対応などが定められている。 ・臨床研究法(2018年施行):未承認・適応外の医薬品等を用いる臨床研究や、製薬企業から資金提供を受ける医薬品等の臨床研究(特定臨床研究)について、認定臨床研究審査委員会の審査などを義務づけている。

説明文書に記載すべき主な事項

研究の目的と方法、研究期間、予測される利益と危険・不快、他の治療法の有無とその内容、参加は任意であり拒否しても不利益を受けないこと、同意はいつでも撤回できること、個人情報の保護、健康被害が生じた場合の補償・治療、費用負担、問い合わせ先など。

同意能力が不十分な場合

未成年者や判断能力が低下した人が対象となる場合は、代諾者(親権者や家族など)の同意を得るとともに、本人にも理解力に応じた説明を行い、可能な範囲で本人の賛意(インフォームド・アセント)を得ることが求められる。

POINT

・臨床試験への参加には、十分な説明と理解に基づく自由意思による同意(インフォームド・コンセント)が必要である。 ・被験者はいつでも理由を問わず同意を撤回し、参加を取りやめることができる。 ・参加を断っても、途中で撤回しても、診療上の不利益を受けない。 ・考える時間を与え、家族など信頼できる人への相談を認める。 ・根拠となる規範:ヘルシンキ宣言、GCP、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針、臨床研究法。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。