StudyMed医師国家試験

「長く眠る」「飲んで忘れる」は正解じゃない―こころの健康を公衆衛生から読み解く

第109回医師国家試験 C問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第15問

こころの健康について正しいのはどれか。

  1. a.睡眠時間は長いほど良い。
  2. b.ストレス対策として飲酒を勧める。
  3. c.自殺は50~60歳代の死因の1位を占める。
  4. d.健康日本21にその対策が位置付けられている。
  5. e.職場のメンタルヘルス不調の気付きは産業医に任せる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、こころの健康、つまりメンタルヘルスを公衆衛生の視点から問う問題だ。睡眠、ストレス対処、死因統計、国の健康施策、職場の対策と、幅広い知識が試される。選択肢の言い回しにも注目してみよう。まず全体を眺めて、どう感じたかな。
医学生医学生
「長いほど良い」「飲酒を勧める」「産業医に任せる」と、言い切りが強い選択肢が多い気がしました。
ドクタードクター
鋭いね。公衆衛生では、多面的な対策や周囲全体による支援が基本だから、極端な表現や一人に責任を押しつける表現には違和感を持つのが大事だ。正解は、こころの健康の対策が健康日本21に位置付けられている、という選択肢だよ。
医学生医学生
健康日本21は、健康増進法に基づく国民の健康づくり運動ですよね。
ドクタードクター
その通り。2000年に始まった第一次では9分野が設定され、その一つが「休養・こころの健康づくり」だった。ストレス対策、睡眠の確保、自殺者の減少が目標になっていたんだ。2013年からの第二次では「社会生活を営むために必要な機能の維持・向上」の中にこころの健康が入り、2024年からの第三次でも休養・睡眠や社会とのつながり・こころの健康が目標に含まれている。一貫して国の健康づくりの柱の一つなんだ。
医学生医学生
では睡眠についてですが、たくさん寝れば体にも心にも良いと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、必要な睡眠時間には個人差があり、年齢とともに短くなる傾向がある。観察研究では、成人の死亡リスクは7時間前後で最も低く、短すぎても長すぎても高くなるU字型の関係が知られている。高齢者が必要以上に長く床にいると、かえって眠りが浅く途切れやすくなるんだ。
医学生医学生
厚労省の睡眠ガイドでも、高齢者は床で過ごす時間が8時間以上にならないように、とあった気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。大切なのは時間の長さより、日中に眠気がなく休養感が得られているかどうかだ。次は飲酒。ストレス解消にお酒を勧めるのはどうだろう。
医学生医学生
寝酒は寝つきが良くなるとも聞きますが……。
ドクタードクター
寝つきは良く感じても、夜間後半の睡眠が浅くなり、中途覚醒が増えて睡眠の質は下がる。さらに耐性ができて量が増え、アルコール依存症につながりやすい。うつ病の悪化や衝動性の高まりを通じて、自殺の危険因子にもなるんだ。ストレス対処としては、睡眠・休養、適度な運動、趣味、人に相談することなどを勧めるよ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、アルコール依存症の患者さんが最初は眠るために飲み始めたと話していました。
ドクタードクター
典型的な経過だね。では死因統計。50〜60歳代の死因第1位は自殺だろうか。
医学生医学生
中高年男性の自殺が社会問題になっていると聞くので、迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいポイントだ。でも50〜60歳代の第1位は悪性新生物、第2位は心疾患だ。自殺が死因第1位になるのは若い世代で、近年の人口動態統計では10歳代から30歳代で第1位になっている。若者の死因の首位が自殺であることは、わが国の自殺対策の重要な課題なんだ。
医学生医学生
最後の職場のメンタルヘルスですが、不調に気付くのは専門家の産業医の役割ではないんですか。
ドクタードクター
産業医は大切な存在だけど、労働者と日常的に接する機会は限られる。厚労省の指針では、本人によるセルフケア、上司によるラインによるケア、産業医や保健師などの事業場内産業保健スタッフ等によるケア、外部機関を活用する事業場外資源によるケア、という4つのケアで取り組むとされている。早期の気付きには、本人や上司、同僚の目が欠かせないんだ。
医学生医学生
4つのケアで多層的に支えるわけですね。ストレスチェック制度もその一環でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。2015年から、常時50人以上の労働者を使用する事業場では年1回の実施が義務付けられている。目的は不調の未然防止、つまり一次予防で、高ストレス者は本人の申出により医師の面接指導を受けられる。それから自殺対策では、悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聴き、支援につなぐゲートキーパーの役割が重視されている。専門職に限らず誰でもなれるし、医療者はその中心を担う立場だ。
医学生医学生
外来で患者さんの元気のなさや睡眠の変化に気付いたら、一声かけることから始めたいと思います。

まとめ

こころの健康は、健康日本21の第一次から第三次まで一貫して国の健康づくりの柱に位置付けられ、休養・睡眠、ストレス対策、自殺対策などが目標に含まれてきました。睡眠は長いほど良いわけではなく、成人では7時間前後で死亡リスクが最も低いU字型の関係が知られ、量より休養感が重要です。飲酒はストレス対策にならず、睡眠の質の低下やアルコール依存症、うつ病・自殺の危険因子となります。自殺が死因第1位となるのは10〜30歳代で、50〜60歳代の第1位は悪性新生物です。職場ではセルフケア・ラインによるケアを含む4つのケアで不調に気付く体制をつくり、産業医任せにしないことが大切で、こうした多面的な支援の考え方は日常診療でのゲートキーパーとしての役割にもつながります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

こころの健康(メンタルヘルス)に関する公衆衛生の基本知識を問う一般問題である。確認すべき点は大きく4つある。 1. 睡眠と休養の適正な考え方(量だけでなく質や個人差が大切であること) 2. ストレスへの対処法として勧められるもの・勧められないもの(飲酒はアルコール依存やうつ病の悪化につながり得ること) 3. 年齢階級別の死因順位(自殺が上位となるのは若年層であり、中高年の第1位は悪性新生物であること) 4. 国の健康施策と職場のメンタルヘルス対策の枠組み(健康日本21、労働者の心の健康の保持増進のための指針)

考え方

「こころの健康」は、国民健康づくり運動である健康日本21の中で、休養・睡眠やストレス対策、うつ病・自殺対策とともに一つの対策領域として扱われてきた。これを知っていれば正解はすぐに選べる。ほかの選択肢には「長いほど良い」「飲酒を勧める」「産業医に任せる」といった極端な言い方や責任を一人に押しつける表現があり、公衆衛生の考え方(多面的な対策、周囲全体による支援)に合わない点から誤りと判断できる。死因順位は統計の知識が必要なので、年齢階級ごとの第1位を整理して覚えておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  睡眠時間は長いほど良い。

    誤り。必要な睡眠時間には個人差があり、年齢とともに短くなる傾向がある。観察研究では、成人の死亡リスクは睡眠時間がおよそ7時間前後で最も低く、短すぎても長すぎても高くなる(U字型の関係)ことが知られている。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、成人は6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することを勧める一方、高齢者では床の上で過ごす時間が8時間以上にならないよう注意を促している。必要以上に長く床にいると眠りが浅く途切れやすくなり、かえって睡眠の質が下がるためである。大切なのは時間の長さよりも、日中の眠気がなく休養感が得られているかどうかである。

  2. ×b.  ストレス対策として飲酒を勧める。

    誤り。ストレスを紛らわせるための飲酒(いわゆる寝酒・やけ酒)は、耐性の形成により飲酒量が増え、アルコール依存症につながりやすい。アルコールは寝つきを良くするように感じられても、夜間後半の睡眠を浅くし、中途覚醒を増やして睡眠の質を下げる。さらにうつ病の悪化や衝動性の高まりを通じて、自殺の危険因子にもなる。わが国では「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」を1日平均の純アルコール摂取量で男性40g以上、女性20g以上としており、飲酒を健康法として勧めることはしない。ストレス対処としては、十分な睡眠・休養、適度な運動、趣味、人に相談することなどが勧められる。

  3. ×c.  自殺は50~60歳代の死因の1位を占める。

    誤り。50~60歳代の死因第1位は悪性新生物(がん)であり、第2位は心疾患である。第3位は年齢によって異なり、50歳代前半では自殺、それより上の年齢では脳血管疾患などとなる。自殺が死因の第1位となるのは若い世代であり、近年の人口動態統計では10歳代から30歳代(5歳階級ごとにみて10~39歳)で第1位となっている。若年者の死因の首位が自殺であることは、わが国の自殺対策の重要な課題とされている。

  4. ○d.  健康日本21にその対策が位置付けられている。

    正しい。健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)は、健康増進法に基づいて国が定める国民の健康づくりの基本方針である。2000年に始まった第一次では、栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がんの9分野が設定され、「休養・こころの健康づくり」の中でストレス対策、睡眠の確保、自殺者の減少が目標とされた。2013年からの第二次では「社会生活を営むために必要な機能の維持・向上」の中にこころの健康(自殺者の減少、気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の減少、メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合の増加など)が位置付けられた。2024年からの第三次でも、休養・睡眠や社会とのつながり・こころの健康の維持向上が目標に含まれており、こころの健康は一貫して国の健康づくりの柱の一つである。

  5. ×e.  職場のメンタルヘルス不調の気付きは産業医に任せる。

    誤り。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、職場のメンタルヘルス対策を4つのケアで進めることとしている。すなわち、労働者自身がストレスに気付いて対処する「セルフケア」、管理監督者が部下の様子の変化に気付き、職場環境の改善や相談対応を行う「ラインによるケア」、産業医・衛生管理者・保健師などによる「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、外部の医療機関や相談機関を活用する「事業場外資源によるケア」である。産業医が労働者と日常的に接する機会は限られるため、不調の早期発見には本人・上司・同僚の気付きが欠かせない。自殺対策でも、身近な人が変化に気付き、声をかけ、話を聴き、専門家につなぐ「ゲートキーパー」の役割が重視されている。

健康日本21の変遷

・第一次(2000~2012年):9分野の数値目標を設定。「休養・こころの健康づくり」が一分野として含まれていた。 ・第二次(2013~2023年):健康寿命の延伸と健康格差の縮小を最上位の目標とし、こころの健康は「社会生活を営むために必要な機能の維持・向上」に位置付けられた。 ・第三次(2024年~):「誰一人取り残さない健康づくり」を掲げ、休養・睡眠(睡眠で休養がとれている者の増加、適正な睡眠時間の確保など)や、社会とのつながり・こころの健康の維持向上が目標に含まれる。

年齢階級別の死因(近年の人口動態統計の傾向)

・10~39歳:自殺が第1位 ・40歳代以降:悪性新生物が第1位 ・高齢になるほど心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎などの比重が大きくなる

職場のメンタルヘルス対策

・4つのケア:セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア ・ストレスチェック制度:2015年から、常時50人以上の労働者を使用する事業場に年1回の実施が義務付けられている。目的は一次予防(不調の未然防止)であり、高ストレス者は本人の申出により医師の面接指導を受けられる。

自殺対策

・自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正)と自殺総合対策大綱に基づいて進められている。 ・ゲートキーパー:悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る人のことで、専門職に限らず誰でもなり得る。

POINT

・こころの健康(休養・睡眠、ストレス、自殺対策)は健康日本21の対策領域の一つである。 ・睡眠は長ければ良いわけではない。成人は6時間以上を目安とし、高齢者は床上時間が8時間以上にならないよう注意する。 ・飲酒はストレス対策にならず、依存症・睡眠障害・うつ病・自殺の危険因子となる。 ・自殺が死因第1位なのは10~39歳であり、50~60歳代の第1位は悪性新生物である。 ・職場のメンタルヘルス不調の早期発見は、セルフケアとラインによるケアを含む4つのケアで取り組み、産業医任せにしない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。