子どもを守る「最後の砦」―一時保護から読み解く児童相談所の役割と行政の分担
第109回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
児童相談所の業務はどれか。
- a.乳児健康診査の実施
- b.就学時健康診断の通知
- c.保護者に定期予防接種を通知
- d.被虐待児に対し家庭からの一時保護
- e.小児慢性特定疾患に関する医療費助成
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
児童相談所は児童福祉法に基づき都道府県と指定都市に設置が義務づけられた機関で、相談・調査・判定、一時保護、児童福祉施設への入所措置や里親委託などを担います。とくに被虐待児の一時保護は、子どもの安全確保が優先される場合には保護者の同意がなくても実施でき、原則2か月以内で、親権者の意に反する延長には家庭裁判所の承認が必要です。一方、乳児健診や定期予防接種は市町村、就学時健康診断は市町村教育委員会、小児慢性特定疾病の医療費助成は都道府県・指定都市・中核市が担います。また、虐待を受けたと思われる児童を発見した者には通告義務があり、確証は不要で医師の守秘義務より優先されます。業務ごとの根拠法と実施主体を整理しておくことは、試験対策だけでなく、臨床で虐待を疑った際に適切な機関へ速やかにつなぐための基礎となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、子どもに関わる行政サービスのうち、どれが児童相談所の担当業務かを見分ける問題である。子どもの保健・福祉・教育に関わる業務は、根拠となる法律ごとに実施主体が決まっている。「どの法律に基づく業務か」→「その法律で誰が実施主体とされているか」の順に考えると整理しやすい。 児童相談所は児童福祉法に基づいて設置される行政機関で、子どもの福祉に関する専門的な相談・判定・措置を担う。業務の柱は、(1) 相談(養護・障害・非行・育成など)、(2) 調査・診断・判定(児童福祉司による社会診断、児童心理司による心理診断、医師による医学診断など)、(3) 一時保護、(4) 措置(児童福祉施設への入所、里親委託など)である。とくに児童虐待への対応では、通告を受けて安全確認を行い、必要なら子どもを家庭から離して一時保護する。この強い権限をもつことが児童相談所の大きな特徴である。 一方、健康診査や予防接種のように住民へ広く提供する母子保健サービスは、住民に最も身近な市町村が実施する。学校保健に関する業務は教育委員会が担う。医療費助成のように財政面の比重が大きい事業は、都道府県・指定都市・中核市が担当することが多い。このように実施主体を法律ごとに振り分けていけば、本問の選択肢のうち児童相談所の業務に当たるのは「被虐待児の一時保護」のみであるとわかる。
選択肢考察
- ×a. 乳児健康診査の実施
誤り。乳児(1歳未満の子ども)の健康診査は、母子保健法に基づいて市町村が実施する。平成9年(1997年)の母子保健法改正で、健康診査や保健指導などの基本的な母子保健サービスは都道府県(保健所)から市町村へ移された。現在は市町村保健センターなどが、乳児健診のほか、1歳6か月児健康診査・3歳児健康診査(この2つは同法で市町村に実施が義務づけられている)を行っている。児童相談所の業務ではない。
- ×b. 就学時健康診断の通知
誤り。就学時健康診断は学校保健安全法に規定された健診で、小学校入学前年度に市町村の教育委員会が実施する。対象の子どもの保護者への通知も教育委員会が行う。就学に備えて疾病や異常を早期に見つけ、治療の勧告や就学先に関する助言につなげることが目的である。教育行政の業務であり、児童相談所は関与しない。
- ×c. 保護者に定期予防接種を通知
誤り。予防接種法に基づく定期予防接種の実施主体は市町村(市町村長)である。対象者や保護者への個別通知・接種勧奨も、実施主体である市町村が行う。児童相談所の業務ではない。
- ○d. 被虐待児に対し家庭からの一時保護
正しい。児童福祉法第33条により、児童相談所長(または都道府県知事等)は必要と認めるとき、子どもを一時保護できる。保護先は児童相談所に付設された一時保護所のほか、適当な者(児童福祉施設、里親、医療機関など)に委託することもできる。一時保護は、虐待などから子どもの安全をすぐに確保する必要がある場合や、子どもの状況を把握して援助方針を決める必要がある場合に行われる。原則として保護者や子どもの同意を得て行うが、子どもの安全確保が優先される場合には同意がなくても実施できる。期間は原則2か月以内で、親権者の意に反して延長するときは家庭裁判所の承認が必要である。また令和4年(2022年)の児童福祉法改正で、一時保護の開始時に裁判官が必要性を判断する司法審査(一時保護状)が導入された。
- ×e. 小児慢性特定疾患に関する医療費助成
誤り。小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法に基づく制度で、実施主体は都道府県・指定都市・中核市(平成28年度からは児童相談所設置市も含む)である。なお、平成27年(2015年)1月の児童福祉法改正で制度が法律に位置づけられ、名称は「小児慢性特定疾患」から「小児慢性特定疾病」に改められた。このとき対象疾患は514疾患から704疾病に拡大され、その後も対象は追加されている。申請の窓口は保健所などであり、児童相談所の業務ではない。
児童相談所の概要
・根拠法:児童福祉法。 ・設置:都道府県と指定都市には設置義務がある。中核市や特別区(東京23区)など、政令で定める市・区も設置できる(児童相談所設置市)。 ・主な職員:児童福祉司(ソーシャルワーク担当)、児童心理司(心理判定・心理支援担当)、医師(精神科医・小児科医)、保健師、弁護士(配置または準ずる措置が求められている)など。 ・主な業務:子どもに関する家庭などからの相談への対応(養護相談、障害相談、非行相談、育成相談など)。調査・診断・判定。一時保護。児童福祉施設への入所措置や里親委託。市町村への助言・支援。親権喪失・親権停止の審判請求など。
児童虐待への対応
・児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)では、虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者すべてに、市町村・福祉事務所・児童相談所への通告義務がある。虐待の確証は不要であり、医師などの守秘義務より通告が優先される。 ・児童相談所は通告を受けると、原則48時間以内に子どもを直接目で見て安全を確認する(目視確認)。保護者が調査を拒む場合は、出頭要求・再出頭要求を経て、裁判所の許可状に基づく臨検・捜索ができる。 ・児童虐待の相談対応件数では、心理的虐待が最も多い。面前DV(子どもの前での配偶者への暴力)も心理的虐待に含まれる。
子どもに関わる主な行政業務と実施主体
・乳幼児健康診査、妊娠届の受理と母子健康手帳の交付、新生児訪問、乳児家庭全戸訪問:市町村(母子保健法・児童福祉法)。 ・定期予防接種:市町村(予防接種法)。 ・就学時健康診断:市町村教育委員会(学校保健安全法)。 ・児童・生徒・職員の定期健康診断:学校の設置者・校長(学校保健安全法)。 ・小児慢性特定疾病の医療費助成、未熟児養育医療:前者は都道府県・指定都市・中核市、後者は現在は市町村(平成25年度に権限が移された)。 ・被虐待児の一時保護、施設入所措置:児童相談所(都道府県等)。
関連機関
・福祉事務所:社会福祉法に基づく。生活保護など福祉六法に関する業務を行い、家庭児童相談室を置くことが多い。 ・こども家庭センター:令和4年の児童福祉法改正により、令和6年度から市町村に設置の努力義務が課された。母子保健と児童福祉の相談支援を一体的に行う。
POINT
・児童相談所は児童福祉法に基づく機関で、都道府県と指定都市に設置義務がある。 ・児童相談所の主な業務は、相談・判定、一時保護、施設入所措置・里親委託である。 ・一時保護は原則2か月以内。親権者の意に反して延長するときは家庭裁判所の承認が必要である。 ・乳幼児健診と定期予防接種は市町村、就学時健康診断は市町村教育委員会が行う。 ・小児慢性特定疾病の医療費助成は都道府県・指定都市・中核市が行う。 ・児童虐待は、虐待を受けたと「思われる」段階で通告義務が生じる。
