インスリンの「相棒」を測れ―Cペプチドで読み解く糖代謝の評価法
第109回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
糖代謝の臨床的評価で正しいのはどれか。
- a.ケトン体は蛋白分解の亢進で増加する。
- b.血糖値は静脈血の方が毛細血管より高い。
- c.尿糖は血糖150 mg/dLを超えると陽性を示す。
- d.インスリン分泌能は尿中Cペプチド排泄量で評価する。
- e.インスリン抵抗性はBMI〈Body Mass Index〉で評価する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
インスリン分泌能は、インスリンと等モルで分泌され、肝臓でほとんど分解されずに尿中へ排泄されるCペプチドで評価でき、24時間尿中Cペプチドは1日の内因性インスリン分泌量を反映し、インスリン治療中でも測定できます。ケトン体は主に脂肪分解とβ酸化の亢進で増加し、血糖値は組織での取り込みにより動脈血>毛細血管血>静脈血となります。尿糖は腎の糖排泄閾値である血糖約160〜180 mg/dLを超えると陽性となり、インスリン抵抗性はBMIではなくHOMA-IRやグルコースクランプ法で評価します。尿中Cペプチド20 μg/日以下や空腹時血中Cペプチド0.6 ng/mL未満はインスリン依存状態を示唆します。各指標が「何を、なぜ反映するのか」を理解しておくことは、病態の把握やインスリン導入・薬剤選択といった糖尿病診療の判断の基盤になります。
解答・解説
正解はdです
糖尿病診療で用いる検査指標について、その意味と正しい使い方を問う問題である。各選択肢は次のテーマに対応している。 ・ケトン体の産生源(脂肪分解とβ酸化) ・採血部位による血糖値の違い(動脈血・毛細血管血・静脈血) ・尿糖が出現する血糖値(腎臓でのブドウ糖排泄閾値) ・インスリン分泌能の指標(Cペプチド) ・インスリン抵抗性の指標(HOMA-IRなど) 考え方の軸は以下の通りである。 1. ケトン体はインスリン作用が不足したときに脂肪組織から放出された脂肪酸が、肝臓でβ酸化されて作られる。 2. 血液中のブドウ糖は、毛細血管を通過する間に末梢組織へ取り込まれるため、動脈側から静脈側へ行くほど濃度が下がる。 3. 糸球体で濾過されたブドウ糖は近位尿細管で再吸収されるが、その能力には上限があり、血糖値がおよそ160〜180 mg/dLを超えると尿中に漏れ出る。 4. Cペプチドはインスリンと同じ分子(プロインスリン)から等モル切り出されるので、自前のインスリン分泌量を反映する。 5. インスリン抵抗性は、空腹時の血糖値とインスリン値から計算するHOMA-IRなどで評価する。BMIは肥満度の指標であり、抵抗性そのものを測る指標ではない。 以上より、正しいのは「インスリン分泌能は尿中Cペプチド排泄量で評価する」である。
選択肢考察
- ×a. ケトン体は蛋白分解の亢進で増加する。
誤り。ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸〈β-ヒドロキシ酪酸〉、アセトン)は、主に脂肪分解の亢進で増加する。インスリン作用が不足したり、飢餓でグルカゴンが優位になったりすると、脂肪組織のトリグリセリドが分解されて遊離脂肪酸が肝臓へ流入する。肝臓で脂肪酸がβ酸化されて生じたアセチルCoAが、TCA回路で処理しきれずにケトン体へ変換される。ロイシンやリシンなどのケト原性アミノ酸からもケトン体は作られうるが、臨床的に問題となるケトーシス(糖尿病ケトアシドーシス、飢餓など)の主因は脂肪分解であり、蛋白分解の亢進でケトン体が増加するという記述は適切でない。
- ×b. 血糖値は静脈血の方が毛細血管より高い。
誤り。血液が毛細血管を通過する間にブドウ糖が組織に取り込まれるため、血糖値は一般に動脈血>毛細血管血>静脈血の順となる。指先穿刺で測る毛細血管血(簡易血糖測定器)は動脈血に近い値を示し、静脈血より高めに出る。この差は空腹時には小さいが、食後やブドウ糖負荷後など組織への取り込みが盛んなときに大きくなる。なお、同じ検体でも赤血球を含む全血より血漿の方が血糖値は高い。
- ×c. 尿糖は血糖150 mg/dLを超えると陽性を示す。
誤り。糸球体で濾過されたブドウ糖は、近位尿細管のナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT2・SGLT1)によってほぼ全量再吸収される。しかし再吸収能には上限(尿細管最大輸送量)があり、健常者では血糖値がおよそ160〜180 mg/dLを超えると再吸収しきれずに尿糖が陽性となる。この値を腎の糖排泄閾値という。閾値は個人差が大きく、妊娠や腎性糖尿では低下し、高齢者や腎機能低下者では上昇しやすい。またSGLT2阻害薬の服用中は、血糖値が正常でも尿糖が陽性になる。一般的な閾値として150 mg/dLは低すぎる。
- ○d. インスリン分泌能は尿中Cペプチド排泄量で評価する。
正しい。膵β細胞内でプロインスリンが切断されると、インスリンとCペプチドが1:1(等モル)で生じ、両者は同時に分泌される。インスリンは肝臓を最初に通過する際に約半分が分解されるのに対し、Cペプチドは肝臓でほとんど分解されず、主に腎臓から尿中へ排泄される。そのため、24時間蓄尿中のCペプチド排泄量は1日の内因性インスリン分泌量をよく反映する。さらに、注射製剤のインスリンにはCペプチドが含まれないため、インスリン治療中の患者や、インスリン抗体があって血中インスリン値を正確に測れない患者でも自己分泌能を評価できる利点がある。目安として尿中Cペプチドが20 μg/日以下ならインスリン依存状態が疑われる。ただし腎機能が低下していると値が変動するため注意を要する。
- ×e. インスリン抵抗性はBMI〈Body Mass Index〉で評価する。
誤り。BMI(体重kg÷身長mの2乗)は肥満度を表す指標である。肥満、特に内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性と関連するが、BMIがインスリン抵抗性そのものを示すわけではない。インスリン抵抗性の簡便な指標としてはHOMA-IR=空腹時インスリン値(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)÷405が用いられ、1.6以下で正常、2.5以上でインスリン抵抗性ありと判断する(空腹時血糖値が140 mg/dL程度以下の場合に有用)。より厳密にはグルコースクランプ法(正常血糖高インスリンクランプ法)で評価する。
インスリン分泌能の指標
・空腹時血中Cペプチド(CPR):0.6 ng/mL未満ならインスリン依存状態が疑われる。 ・24時間尿中Cペプチド:20 μg/日以下ならインスリン依存状態が疑われる。 ・グルカゴン負荷試験:グルカゴン1 mg静注前後の血中Cペプチド上昇量で評価する。 ・インスリン分泌指数(insulinogenic index):75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で、負荷後30分のインスリン増加量(μU/mL)÷血糖増加量(mg/dL)。0.4未満は初期分泌低下を示し、糖尿病への進展リスクが高い。 ・HOMA-β:空腹時インスリン値×360÷(空腹時血糖値−63)。
インスリン抵抗性の指標
・HOMA-IR:空腹時インスリン値×空腹時血糖値÷405。1.6以下で正常、2.5以上で抵抗性あり。 ・空腹時インスリン値:15 μU/mL以上なら明らかなインスリン抵抗性が疑われる。 ・グルコースクランプ法:インスリンを一定速度で注入しつつ血糖を正常域に保つのに必要なブドウ糖注入量で評価する標準法。
Cペプチドが有用な理由
プロインスリン → インスリン+Cペプチド(等モル)。インスリンは門脈を経て肝臓で約50%が取り込まれるが、Cペプチドは肝臓でほとんど代謝されず腎から排泄される。外因性インスリンにはCペプチドが含まれない。これらの性質から、Cペプチドは内因性インスリン分泌の指標となる。
ケトン体産生の流れ
インスリン作用不足(+グルカゴン・カテコラミンなどの増加)→ 脂肪組織でホルモン感受性リパーゼが活性化 → 遊離脂肪酸が肝臓へ → β酸化でアセチルCoA → 3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)経由でアセト酢酸 → 3-ヒドロキシ酪酸・アセトン。
POINT
・インスリン分泌能は血中・尿中Cペプチドで評価(インスリン治療中でも有用)。尿中CPR 20 μg/日以下、空腹時血中CPR 0.6 ng/mL未満はインスリン依存状態。 ・インスリン抵抗性はHOMA-IR(空腹時IRI×FPG÷405、2.5以上で抵抗性あり)で評価。BMIではない。 ・血糖値は動脈血>毛細血管血>静脈血、血漿>全血。 ・尿糖は血糖値約160〜180 mg/dL(腎の糖排泄閾値)を超えると陽性。 ・ケトン体は脂肪分解(脂肪酸のβ酸化)亢進で増加する。
