隣り合う遺伝子がまとめて消える―隣接遺伝子症候群とPrader-Willi症候群
第109回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
隣接遺伝子症候群はどれか。
- a.Sotos症候群
- b.Down症候群
- c.Turner症候群
- d.Klinefelter症候群
- e.Prader-Willi症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
隣接遺伝子症候群は、染色体上で隣り合う複数の遺伝子が微細欠失・重複によって同時に障害される疾患群で、染色体異常と単一遺伝子疾患の中間に位置づけられます。Prader-Willi症候群は15q11-q13の父由来遺伝子群の欠失が原因の約7割を占める典型例で、新生児期の筋緊張低下と哺乳不良、幼児期以降の過食・肥満、性腺機能低下、知的障害を示します。Down症候群・Turner症候群・Klinefelter症候群は染色体の数的異常、Sotos症候群はNSD1のハプロ不全による単一遺伝子疾患として区別されます。同じ領域で母由来遺伝子が障害されるとAngelman症候群になるゲノムインプリンティングや、Williams症候群・22q11.2欠失症候群などの代表例もあわせて押さえましょう。微細欠失はG分染法で見逃されうるため、疾患の成り立ちを理解することは、FISH法やマイクロアレイなど適切な検査を選ぶ臨床判断にも直結します。
解答・解説
正解はeです
隣接遺伝子症候群(contiguous gene syndrome)は、染色体上で互いに隣り合って並ぶ複数の遺伝子が、同時に欠失(または重複)することで起こる疾患群である。欠ける範囲は通常の染色体検査(G分染法)では見えないほど小さいことが多いため、微細欠失症候群(微細欠失・重複症候群)とも呼ばれる。個々の遺伝子は機能的に無関係なこともある。複数の遺伝子がまとめて失われるため、知的障害・特徴的な顔貌・多臓器の奇形などが組み合わさった特有の症候群になる。 位置づけとしては、染色体異常(染色体の本数や大きな構造の異常)と単一遺伝子疾患(1つの遺伝子の変異)の中間にあたる。診断には、FISH法(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法)やマイクロアレイ染色体検査など、微小な欠失を検出できる方法が用いられる。 本問では、選択肢の疾患を原因で分類すればよい。染色体の数的異常(Down症候群・Turner症候群・Klinefelter症候群)、主に単一遺伝子の異常によるもの(Sotos症候群)、隣接遺伝子症候群(Prader-Willi症候群)に分けられる。
選択肢考察
- ×a. Sotos症候群
Sotos症候群は、5番染色体長腕(5q35)にあるNSD1遺伝子の機能が失われることで起こる過成長症候群である。胎児期からの過成長、大頭、長い顔や前額の突出などの特徴的な顔貌、骨年齢の促進、発達遅滞がみられる。症状はNSD1という1つの遺伝子の量が半分になること(ハプロ不全)で説明できるため、単一遺伝子疾患に分類される。日本人の患者ではNSD1を含む5q35の微細欠失が比較的多いが、その場合も症状の主体はNSD1の欠損によるものであり、典型的な隣接遺伝子症候群とはみなさない。
- ×b. Down症候群
Down症候群は21番染色体が1本多い(21トリソミー)ことで起こる、染色体の数的異常である。多くは減数分裂時の不分離による標準型トリソミーである。そのほか、転座型(多くはRobertson転座)やモザイク型がある。母体年齢が高くなるほど頻度が上がる。1本の染色体がまるごと過剰になる異常であり、隣接遺伝子症候群ではない。
- ×c. Turner症候群
Turner症候群は、女性で2本あるべきX染色体の1本が欠けるか、構造に異常があることで起こる性染色体異常である。代表的な核型は45,Xで、ほかに46,X,i(Xq)(X長腕の同腕染色体)やモザイク型がある。低身長、性腺形成不全による原発性無月経、翼状頸、外反肘、大動脈縮窄症などがみられる。染色体の数的・構造的異常であり、隣接遺伝子症候群ではない。
- ×d. Klinefelter症候群
Klinefelter症候群は、男性でX染色体が過剰になる性染色体の数的異常であり、代表的な核型は47,XXYである。小さく硬い精巣、無精子症による男性不妊、高身長(四肢が長い体型)、女性化乳房がみられる。検査ではゴナドトロピン高値とテストステロン低値(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を示す。染色体の数的異常であり、隣接遺伝子症候群ではない。
- ○e. Prader-Willi症候群
Prader-Willi症候群は、15番染色体長腕の15q11-q13領域で、父親由来の遺伝子群が働かなくなることで起こる。この領域には、父由来の染色体からしか発現しない遺伝子(SNRPN、SNORD116などの一群)が隣り合って並んでいる。原因として最も多い(約70%)のは父由来染色体のこの領域の微細欠失で、複数の遺伝子が同時に失われる。これが隣接遺伝子症候群の典型にあたる。ほかに、母性片親性ダイソミー(2本とも母由来)が約25%、インプリンティング異常がごく一部を占める。臨床的には、新生児期の筋緊張低下と哺乳不良に始まる。幼児期以降は過食による肥満、低身長、性腺機能低下、知的障害、アーモンド形の眼などの特徴がみられる。
代表的な隣接遺伝子症候群(微細欠失症候群)
・Prader-Willi症候群:15q11-q13(父由来の欠失)。筋緊張低下、過食・肥満、性腺機能低下。 ・Angelman症候群:15q11-q13(母由来の欠失、原因遺伝子UBE3A)。重度の知的障害、てんかん、失調性歩行、よく笑う。Prader-Willi症候群と同じ領域の異常だが、どちらの親由来かで病型が変わる(ゲノムインプリンティング)。 ・Williams症候群:7q11.23(ELN遺伝子を含む)。妖精様顔貌、大動脈弁上狭窄、高カルシウム血症、人なつこい性格。 ・22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群):22q11.2(TBX1を含む)。先天性心疾患(円錐動脈幹異常)、胸腺低形成による免疫不全、副甲状腺機能低下による低カルシウム血症、口蓋裂。 ・Smith-Magenis症候群:17p11.2。睡眠障害、自傷行為。 ・Langer-Giedion症候群:8q24。多発性外骨腫、毛髪・鼻・指節の異常。 ・Miller-Dieker症候群:17p13.3。滑脳症。 ・Rubinstein-Taybi症候群:16p13.3(CREBBP)。幅広い母指・母趾。多くはCREBBP遺伝子の点変異だが、微細欠失例もあり、隣接遺伝子症候群の例として挙げられることがある。
ゲノムインプリンティングとの関係
15q11-q13領域では、親の性別によって発現する遺伝子が異なる。父由来の遺伝子群が働かなければPrader-Willi症候群、母由来のUBE3Aが働かなければAngelman症候群になる。欠失以外にも、片親性ダイソミー(2本とも同じ親に由来)やインプリンティング異常が原因になる点が重要である。
診断法
G分染法では検出できない微細欠失の診断には、FISH法、マイクロアレイ染色体検査、MLPA法などが用いられる。Prader-Willi症候群ではメチル化解析が、欠失・片親性ダイソミー・インプリンティング異常のいずれの場合も検出できるため有用である。
POINT
・隣接遺伝子症候群とは、染色体上で隣り合う複数の遺伝子が微細欠失・重複によって同時に障害される疾患であり、染色体異常と単一遺伝子疾患の中間に位置づけられる。 ・代表例は、Prader-Willi症候群、Angelman症候群、Williams症候群、22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群)、Smith-Magenis症候群などである。 ・Down症候群(21トリソミー)、Turner症候群(45,X)、Klinefelter症候群(47,XXY)は染色体の数的異常である。 ・Sotos症候群はNSD1遺伝子の異常による過成長症候群である。
