StudyMed医師国家試験

同じ答えを繰り返す患者―「保続」が教える脳の器質的障害

第109回医師国家試験 B問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第11問

器質性精神障害に特徴的なのはどれか。

  1. a.保続
  2. b.観念奔逸
  3. c.思考制止
  4. d.自生思考
  5. e.情動麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、精神症状とそれが典型的にみられる疾患とを結びつける問題だ。カギになるのは、精神障害を「外因(器質)性・内因性・心因性」の3つに分けて整理する伝統的な枠組み。まず、器質性精神障害とはどんなものか説明できるかな。
医学生医学生
脳そのものに病変があって起こる精神障害、ですよね。脳血管障害や頭部外傷、脳炎、認知症などが原因になるものだと習いました。
ドクタードクター
その通り。脳に形態的・病理的な変化があり、それが原因で精神症状が出るものを器質性という。一方、統合失調症や気分障害は明らかな構造的病変を指摘できない「内因性」、PTSDのように心理的体験が発症に関わるものは「心因性」として扱われてきた。選択肢の症状をこの3つに振り分けていくと、答えが見えてくるよ。
医学生医学生
正直、観念奔逸と思考制止は「思考の障害」なので、なんとなく脳の問題っぽく見えて迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。思考の異常はどの群にも出るから、「どの疾患に典型的か」で考える必要がある。観念奔逸は、考えが次々と湧いて、音の響きや表面的な連想で話題がどんどん移り、最終的な目標にたどり着かない状態。躁状態の代表的な症状だ。
医学生医学生
連想でつながっているなら、統合失調症の連合弛緩とはどう違うんですか。
ドクタードクター
いい質問。観念奔逸では一つひとつの考えの間に連想上のつながりが保たれているんだ。聞き手も「ああ、その言葉から飛んだのか」と追える。連合弛緩ではそのつながり自体がゆるみ、話の筋が追えなくなる。ここは区別しておこう。
医学生医学生
思考制止はその逆で、うつ状態ですね。精神科の臨床実習で、うつ病の患者さんが「頭が働かない」「考えがまとまらない」と話していたのを覚えています。
ドクタードクター
まさにそれが思考制止だね。考えが浮かばず、思考の進みが遅くなったり止まったりする。精神運動制止の一部として現れる、うつ病に特徴的な症状だ。では自生思考はどうかな。
医学生医学生
自分の意図と関係なく考えが勝手に浮かんでくる体験で、統合失調症でしたっけ。
ドクタードクター
正解。統合失調症の初期、前駆期にみられやすい症状として知られている。進むと「考えを吹き込まれる」思考吹入や、「操られる」作為体験といった自我障害へ発展することがある。内因性の、統合失調症の側に分類しておこう。
医学生医学生
情動麻痺は名前から想像すると、感情が動かなくなる状態でしょうか。
ドクタードクター
そう。災害や事故、暴力などの強烈な恐怖体験の直後に、状況はわかっているのに感情が湧かず、ぼうぜんと無感動になる状態だ。急性ストレス反応やPTSDなど、心因性のストレス関連障害でみられる。
医学生医学生
そうすると残るのは保続で、これが器質性ということですね。でも保続って具体的にどういう症状なんでしょう。
ドクタードクター
いったん出てきた言葉や観念、動作が、質問や状況が変わっても繰り返し出てきて、新しい課題へ切り替えられない現象だ。例えば年齢を答えたあとに住所を聞かれても、また年齢を答えてしまう。図形を模写させると同じ線を何度も描き続ける、という形でも現れる。
医学生医学生
脳神経内科を回ったとき、脳梗塞後の患者さんが前の質問の答えを何度も言っていたのを見ました。あれが保続だったんですね。
ドクタードクター
きっとそうだね。思考の切り替え、いわゆるセットの転換を担う前頭葉の機能が障害されると起こりやすいと考えられている。前頭葉障害、認知症、脳血管障害の後遺症、頭部外傷などで出現する、器質性精神障害の代表的な症状だ。
医学生医学生
前頭葉機能の検査でも評価できるんですか。
ドクタードクター
できるよ。Wisconsinカード分類テストでは、分類の規則が途中で変わっても前の規則で分類し続ける「保続性の誤り」として評価する。神経心理検査の講義で出てきたはずだ。ほかにも器質性精神障害の症状として、急性期には意識障害やせん妄、慢性期には認知症、記銘力障害と作話を伴うKorsakoff症候群、脱抑制や無関心といった人格変化、さらに失語・失行・失認などの巣症状を押さえておきたい。
医学生医学生
器質性なら意識・記憶・認知の障害や巣症状、気分障害なら観念奔逸と思考制止、統合失調症なら自生思考や作為体験、心因性なら情動麻痺や解離、という対応ですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床では、精神症状を見たときにまず器質的な原因が隠れていないかを確認するのが鉄則。脳腫瘍や脳炎が精神症状で発症することもあるから、保続や意識の変動、巣症状があれば頭部画像や脳波で器質疾患を除外しにいく姿勢が大切だよ。

まとめ

保続とは、いったん生じた言葉や動作が状況が変わっても繰り返され、新しい課題へ切り替えられない現象で、前頭葉障害や認知症、脳血管障害、頭部外傷などの器質性精神障害に特徴的です。観念奔逸は躁状態、思考制止はうつ状態、自生思考は統合失調症の初期、情動麻痺は急性ストレス反応やPTSDなどの心因性障害でみられます。器質性精神障害ではほかに意識障害・せん妄、記憶障害、人格変化、失語・失行・失認などの巣症状が重要で、保続はWisconsinカード分類テストの保続性の誤りとしても評価されます。症状を「外因(器質)性・内因性・心因性」の枠組みで整理しておくと、鑑別の見通しが立ちやすく、精神症状の背後にある器質疾患を見逃さない臨床姿勢にもつながります。

解答・解説

正解はaです

精神症状と、それが典型的にみられる疾患との対応を問う問題である。 器質性精神障害とは、脳そのものに形態的・病理的な変化(脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎などの感染症、神経変性疾患など)があり、それが原因となって生じる精神障害をいう。これに対し、統合失調症や気分障害(うつ病・双極性障害)は、明らかな脳の構造的病変を指摘できない、いわゆる「内因性」の精神障害として扱われてきた。また、PTSDなどは心理的な体験が発症に関与する「心因性」の障害に分類される。 精神症状を考える際には、この「外因(器質)性・内因性・心因性」という伝統的な枠組みにあてはめて整理すると理解しやすい。 ・器質性:意識障害、記憶障害、認知機能障害、保続、失語・失行・失認などの巣症状、人格変化 ・内因性(気分障害):躁状態の観念奔逸、うつ状態の思考制止 ・内因性(統合失調症):自生思考、作為体験、幻聴、思考化声など ・心因性(ストレス関連障害):情動麻痺、解離症状、フラッシュバックなど 本問では、脳の器質的な損傷、特に前頭葉の障害や広範な脳機能の低下で出現する「保続」が器質性精神障害に特徴的な所見である。

選択肢考察

  1. ○a.  保続

    保続とは、いったん生じた言葉・観念・動作が、状況や質問が変わってもその後も繰り返し出てきて、新しい課題へ切り替えられない現象である。例えば、年齢を答えた後に住所を聞かれても同じ年齢を答え続ける、図形を模写させると同じ線を何度も描き続ける、といった形で現れる。前頭葉障害や認知症、脳血管障害後遺症、頭部外傷など、脳の器質的障害で出現する代表的な症状であり、器質性精神障害に特徴的である。思考の切り替え(セットの転換)を担う前頭葉機能が障害されることで生じると考えられている。

  2. ×b.  観念奔逸

    観念奔逸は思考過程の異常の一つで、次々と考えが湧き出し、音の響きや表面的な連想(音連合など)によって話題が移り変わり、話がわき道にそれて最終的な目標に到達しない状態である。個々の考えの間には連想上のつながりが保たれている点で、統合失調症の連合弛緩とは区別される。躁状態(双極性障害の躁病エピソード)に特徴的な症状であり、器質性精神障害に特徴的とはいえない。

  3. ×c.  思考制止

    思考制止(思考抑制)は、考えが浮かばず思考の進み方が遅くなる、あるいは止まってしまう状態で、本人は「頭が働かない」「考えがまとまらない」と訴える。うつ状態(うつ病の抑うつエピソード)に特徴的な症状で、精神運動制止の一部として現れる。器質性精神障害に特徴的な所見ではない。

  4. ×d.  自生思考

    自生思考は、自分の意図とは無関係に、とりとめのない考えやイメージが勝手に次々と浮かんでくる体験である。統合失調症の初期(前駆期)にみられやすい症状として知られる。さらに進むと、考えが他者から吹き込まれる(思考吹入)、他者に操られる(作為体験)といった自我障害へ発展することがある。器質性精神障害に特徴的な所見ではない。

  5. ×e.  情動麻痺

    情動麻痺は、災害・事故・暴力など強烈な恐怖体験の直後に、状況は認識できているにもかかわらず感情が湧かず、ぼうぜんとして無感動になる状態である。急性ストレス反応や心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉など、心因性のストレス関連障害でみられる。器質性精神障害に特徴的な所見ではない。

器質性精神障害の主な症状

・急性期:意識障害(意識混濁、せん妄)。せん妄では注意障害、見当識障害、幻視、症状の日内変動(夜間に悪化)がみられる。 ・慢性期:認知症(記憶障害・見当識障害・判断力低下)、健忘症候群(Korsakoff症候群:記銘力障害・見当識障害・作話)、人格変化(前頭葉障害による脱抑制・無関心など)。 ・巣症状:失語、失行、失認など障害部位に対応した症状。 ・保続:前頭葉障害で目立つ。Wisconsinカード分類テスト(WCST)では、分類規則が変わっても前の規則で分類し続ける「保続性の誤り」として評価される。

思考の障害の分類

・思考過程(形式)の障害:観念奔逸(躁)、思考制止(うつ)、連合弛緩・滅裂思考(統合失調症)、迂遠(てんかん・知的障害・認知症など)、保続(器質性) ・思考内容の障害:妄想、強迫観念、支配観念 ・思考の体験様式の障害(自我障害):自生思考、思考吹入、思考奪取、思考伝播、作為体験(統合失調症)

ストレス関連障害の症状

急性ストレス反応では情動麻痺、茫然自失、解離症状が生じる。PTSDでは侵入症状(フラッシュバック、悪夢)、回避、認知と気分の陰性変化(感情の麻痺・疎隔を含む)、過覚醒が1か月以上持続する。

POINT

・保続:前頭葉障害などの器質性精神障害に特徴的。 ・観念奔逸:躁状態。思考制止:うつ状態。 ・自生思考:統合失調症の初期症状。 ・情動麻痺:急性ストレス反応・PTSDなどの強い心的外傷体験後。 ・「症状 → 疾患」の対応を外因(器質)性・内因性・心因性の枠組みで整理しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。