せん妄は「3つの因子」で読み解く―肺炎・薬・カテーテルと、無関係な喫煙
第111回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
せん妄のリスクファクターでないのはどれか。
- a.肺炎
- b.喫煙
- c.低ナトリウム血症
- d.尿道カテーテル留置
- e.ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
せん妄は身体疾患や薬剤を背景に急性に生じる意識障害で、注意障害を中核とし、日内変動や夜間の増悪を特徴とします。発症要因は、高齢や認知症などの準備因子、肺炎などの感染症・低ナトリウム血症などの電解質異常・ベンゾジアゼピン系薬などの薬剤といった直接因子、尿道カテーテル留置や身体拘束・環境変化などの促進因子の3つに分けると整理しやすく、喫煙習慣はいずれにも含まれません。ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を誘発するため原則避けますが、アルコール離脱せん妄だけは例外的に治療薬となります。対応は直接因子の治療と促進因子の除去、見当識の補助や早期離床などの非薬物的介入が基本で、薬物療法は対症的に限定します。入院高齢者の多くが経験しうるせん妄を3つの因子で捉える視点は、予防と早期発見に直結する実践的な知識です。
解答・解説
正解はbです
せん妄(delirium)は、身体疾患や薬物などを背景に急性に生じる軽度〜中等度の意識障害で、注意の障害(注意を向ける・維持する・切り替えることが困難)を中核とし、見当識障害、幻覚(特に幻視)、錯覚、興奮や不穏、睡眠覚醒リズムの乱れなどを伴う。数時間〜数日の経過で発症し、1日のうちでも症状が変動し、夕方から夜間に悪化しやすい(夕暮れ症候群)のが特徴である。 せん妄の発症要因は、次の3つに分けて考えると整理しやすい。 ・準備因子:もともとの脆弱性。高齢、認知症、脳血管障害の既往、せん妄の既往など。 ・直接因子:脳機能を直接障害する原因。感染症(肺炎、尿路感染症など)、電解質異常(低ナトリウム血症、高カルシウム血症など)、脱水、低酸素血症、低血糖、肝不全・腎不全、手術侵襲、薬剤(ベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬、オピオイド、ステロイドなど)、アルコール離脱など。 ・促進(誘発)因子:環境や身体的拘束などによるストレス。入院による環境変化、身体拘束、尿道カテーテルや点滴ラインなどによる行動制限、疼痛、不眠、感覚遮断(眼鏡や補聴器がない)など。 本問では、選択肢のうちどれがこの枠組みに当てはまらないかを考える。肺炎・低ナトリウム血症・ベンゾジアゼピン系薬は直接因子、尿道カテーテル留置は促進因子であり、喫煙習慣そのものはせん妄の危険因子として位置づけられていない。
選択肢考察
- ×a. 肺炎
リスクファクターである。肺炎などの感染症は、発熱、炎症性サイトカインの放出、低酸素血症、脱水などを通じて脳機能を障害し、せん妄の代表的な直接因子となる。特に高齢者では、肺炎の初発症状が咳や発熱よりも「急に様子がおかしくなった」というせん妄として現れることがある。
- ○b. 喫煙
リスクファクターではないため、これが正解である。喫煙習慣は心血管疾患や肺疾患などの危険因子ではあるが、それ自体がせん妄の準備因子・直接因子・促進因子として挙げられることはない。なお、重度喫煙者が入院を機に急に喫煙できなくなるとニコチン離脱による不安やいらいらが生じることはあるが、これは喫煙習慣をせん妄の危険因子とみなす根拠にはならない。
- ×c. 低ナトリウム血症
リスクファクターである。低ナトリウム血症では血漿浸透圧が低下し、水が脳細胞内へ移動して脳浮腫を生じるため、倦怠感や頭痛から、せん妄、けいれん、昏睡まで多彩な中枢神経症状をきたす。高齢者では利尿薬、抗うつ薬(SSRIなど)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などで起こりやすい。電解質異常は代表的な直接因子である。
- ×d. 尿道カテーテル留置
リスクファクターである。尿道カテーテルは患者の体動を制限し(いわば身体拘束に近い不動化をもたらす)、違和感や不快感、自己抜去への不安などのストレスにもなるため、せん妄の促進因子とされる。入院高齢者を対象とした研究でも、身体拘束、低栄養、短期間での薬剤追加などと並んで、膀胱カテーテルの使用がせん妄発症を予測する因子として報告されている。さらにカテーテル関連尿路感染症を起こせば、感染症という直接因子にもなる。
- ×e. ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬
リスクファクターである。ベンゾジアゼピン系薬はGABA-A受容体の作用を増強して中枢神経を抑制し、特に高齢者では意識の清明度を低下させてせん妄を誘発・悪化させやすい。そのため、不眠を訴えるせん妄ハイリスク患者に安易に投与することは避けるべきである(アルコール離脱せん妄は例外で、ベンゾジアゼピン系薬が治療に用いられる)。抗コリン薬、オピオイド、ステロイド、H2受容体拮抗薬なども薬剤性せん妄の原因となる。
せん妄と認知症の違い
・発症:せん妄は急性(数時間〜数日)、認知症は緩徐(月〜年単位)。 ・意識:せん妄は意識障害(注意障害)がある。認知症は原則として意識清明。 ・経過:せん妄は日内変動が大きく、原因の除去で多くは改善する(可逆的)。認知症は持続・進行性。 ・ただし認知症はせん妄の最大の準備因子であり、両者はしばしば合併する。
せん妄の病型
・過活動型:興奮、不穏、幻覚などが目立つ。 ・低活動型:活動性低下、無表情、傾眠など。うつ病と誤認されやすく見逃されやすい。 ・混合型:両者が混在・交代する。
対応
1)原因(直接因子)の検索と治療:感染症、電解質異常、脱水、低酸素、低血糖、薬剤の見直しなど。 2)促進因子の除去と非薬物的介入:昼夜のリズムを整える、時計・カレンダーなどで見当識を補う、眼鏡・補聴器の使用、早期離床、不要なカテーテル・ライン・身体拘束をできるだけ避ける、疼痛の緩和、家族の面会など。 3)薬物療法は対症的に限定して行う:興奮が強く危険な場合に、抗精神病薬(ハロペリドール、クエチアピン、リスペリドンなど)を少量用いる。ベンゾジアゼピン系薬は原則として避ける(アルコール離脱せん妄を除く)。
POINT
・せん妄の要因は準備因子(高齢、認知症など)、直接因子(感染症、電解質異常、低酸素、薬剤など)、促進因子(環境変化、身体拘束、カテーテル留置、疼痛、不眠など)に分けて整理する。 ・ベンゾジアゼピン系薬や抗コリン薬はせん妄を誘発する。アルコール離脱せん妄だけは例外的にベンゾジアゼピン系薬で治療する。 ・尿道カテーテル留置は不動化をもたらす促進因子である。 ・喫煙習慣はせん妄のリスクファクターとはされない。
