黒く浮かぶ臓器のまわり―妊娠18週の胎児超音波で腹水を読み解く
第109回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。妊娠18週の妊婦健康診査のため受診した。胎児超音波像を別に示す。 胎児に認められる所見はどれか。

- a.水頭症
- b.肺低形成
- c.腹水貯留
- d.消化管拡張
- e.臍帯ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
超音波では液体は無エコー(黒)に写るため、胎児の体内に黒い領域を見つけたら、それが臓器の内腔か、腹腔などの体腔かを区別することが読影の基本です。胎児腹部で肝臓や腸管の外側を無エコー域が取り囲み、臓器が浮いて見えれば腹水貯留と判断できます。消化管拡張は輪郭をもつ袋状・管状の像、臍帯ヘルニアは膜に覆われた腹壁外腫瘤、水頭症は横断面での側脳室拡大、肺低形成はベル状の狭小胸郭で判断します。腹水を認めたら胸水・心嚢液・皮下浮腫の有無を確認して胎児水腫かを評価し、胎児貧血や心疾患、染色体異常、感染、胎便性腹膜炎などの原因検索へ進みます。画像所見を正確に言語化する力は、胎児診断から周産期管理の方針決定までを支える土台になります。
解答・解説
正解はcです
画像の読み取り
提示された胎児超音波像は、胎児をほぼ縦方向(矢状断)に描出したものである。画面左側に頭部、右下に胎盤があり、脊柱が画面上方に沿って並んでいる。注目すべきは胎児の腹部で、肝臓や腸管と思われる臓器の周囲を、黒く抜けた(無エコーの)領域がぐるりと取り囲んでいる。超音波では液体は音波をよく通して反射しないため黒く写る。したがって、この無エコー域は胎児の腹腔内にたまった液体、すなわち腹水と判断できる。腹腔内臓器が液体の中に浮かんでいるように見えるのが典型像である。
鑑別の考え方
選択肢の病態がそれぞれ超音波でどう見えるかを思い浮かべ、画像と照合する。 ・頭部に脳室拡大を示す大きな無エコー域があるか → 本画像では頭部の大きさは体幹に比して不自然でなく、明らかな拡大はない。 ・胸郭の形や胸腔内の異常 → 本画像で目立つ異常はない。 ・腸管が拡張して個々に袋状・管状の無エコー像として見えるか → 本画像の液体は臓器の外側を取り巻いており、腸管内腔の拡張ではない。 ・腹壁から臓器が脱出して膜に包まれた腫瘤があるか → 腹壁の連続性は保たれて見え、腹壁外の腫瘤はない。 以上より、本画像の所見は腹水貯留である。
臨床的な意味
胎児腹水を認めた場合は、それが単独の所見なのか、胎児水腫(胎児の2か所以上の体腔や皮下に液体が貯留した状態)の一部なのかを評価する。胸水・心嚢液・皮下浮腫の有無を確認し、さらに原因検索(胎児貧血、心疾患、染色体異常、先天感染、消化管穿孔による胎便性腹膜炎、尿路閉塞など)へと進む。本問はあくまで画像から所見を読み取ることを問うている。
選択肢考察
- ×a. 水頭症
水頭症では脳脊髄液が過剰にたまり、脳室が拡大する。超音波では側脳室の拡大(側脳室後角の幅が10 mm以上で脳室拡大、15 mm程度以上で高度拡大とされる)や、頭部が体幹に比べて大きく見えることが手がかりになる。脳室径の評価は頭部の横断面で行うのが基本であり、本画像のような矢状断だけでは厳密な計測はできない。少なくとも本画像では頭部の大きさは体幹との比率で不自然ではなく、頭蓋内に目立つ無エコー域の拡大もないため、水頭症を示す所見とはいえない。
- ×b. 肺低形成
肺低形成は、羊水過少(腎無形成、前期破水など)や胸腔内の占拠性病変(横隔膜ヘルニア、大量胸水など)によって肺の発育が妨げられる病態である。超音波では胸郭が小さく腹部に比べて細いベル状の形を示すこと、胸郭周囲長や肺の面積が小さいことなどで疑う。本画像では胸郭の明らかな狭小化や胸腔内の異常は読み取れず、肺低形成を示唆する所見はない。
- ○c. 腹水貯留
胎児腹部で、肝臓や腸管などの腹腔内臓器の外側を取り囲むように無エコー域が広がっている。液体は超音波を反射しないため黒く描出されるので、これは腹腔内に貯留した液体、すなわち腹水である。臓器が液体の中に浮いて見えることがポイントで、腸管の内腔が拡張した像(管状・袋状の無エコー像が多数並ぶ)とは分布が異なる。
- ×d. 消化管拡張
消化管拡張は、十二指腸閉鎖(胃と十二指腸球部の拡張によるダブルバブルサイン)、小腸閉鎖(多数の拡張腸管)などで見られる。拡張した消化管は、それぞれ輪郭をもつ袋状・管状の無エコー像として描出される。本画像の液体は臓器の外側に広がり、腸管自体の内腔が膨らんだ像ではないため、消化管拡張とは判断できない。
- ×e. 臍帯ヘルニア
臍帯ヘルニアは、臍帯付着部の腹壁欠損から腸管や肝臓などが脱出し、羊膜と腹膜からなるヘルニア嚢に覆われた状態である。超音波では腹壁の前方に突出した、膜に包まれた腫瘤として見え、臍帯はその腫瘤に付着する。染色体異常(18トリソミーなど)の合併が多い。本画像では腹壁の外に突出する腫瘤は認められず、臍帯ヘルニアの所見はない。
胎児超音波で液体貯留を読むコツ
超音波では、液体は無エコー(黒)、骨や石灰化は高エコー(白)に描出される。胎児体内の無エコー域を見つけたら、それが「臓器の内腔」(胃、膀胱、脳室、腸管など)なのか、「体腔」(腹腔・胸腔・心嚢)や「皮下」なのかを区別することが重要である。腹水では臓器の外側を液体が取り囲み、肝臓の輪郭や腸管が浮いて見える。
胎児腹水と胎児水腫
胎児水腫は、胎児の腹水・胸水・心嚢液・皮下浮腫のうち2か所以上に液体貯留を認める状態をいう。腹水が単独でみられることもあるため、腹水を見たら他部位の液体貯留の有無を必ず確認する。 ・免疫性胎児水腫:母体の赤血球抗体(抗D抗体など)による胎児溶血性貧血が原因となる。 ・非免疫性胎児水腫:心疾患・不整脈、染色体異常(ターナー症候群、21トリソミーなど)、胎児貧血(パルボウイルスB19感染、α-サラセミアなど)、双胎間輸血症候群、胸腔内病変、感染症などが原因となる。 ・腹水が単独の場合には、胎便性腹膜炎(腸管穿孔による)、尿路閉塞による尿性腹水、先天感染なども考える。 原因検索として、中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)による胎児貧血の評価、胎児心エコー、染色体検査、母体の感染症・不規則抗体の検査などが行われる。
選択肢の病態の超音波像まとめ
・水頭症:側脳室の拡大(横断面で後角幅を計測) ・肺低形成:胸郭の狭小化(ベル状胸郭) ・消化管拡張:ダブルバブルサイン(十二指腸閉鎖)など、拡張腸管の袋状像 ・臍帯ヘルニア:膜に覆われた腹壁外腫瘤、臍帯が腫瘤に付着 ・腹壁破裂(参考):臍の右側の腹壁欠損から膜に覆われない腸管が羊水中に浮遊
POINT
・超音波で液体は無エコー(黒)に写る。 ・胎児腹部で臓器の外側を無エコー域が取り囲み、臓器が浮いて見えれば腹水である。 ・腹水を見たら胸水・心嚢液・皮下浮腫を確認し、胎児水腫(2か所以上の液体貯留)かどうか評価する。 ・水頭症は横断面での脳室拡大、臍帯ヘルニアは膜に包まれた腹壁外腫瘤で判断する。
