3万人の時代が終わるとき―数字で読み解く日本の自殺統計
第109回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
過去5年(平成20~24年)の自殺の動向で正しいのはどれか。
- a.総数は増加し続けている。
- b.40歳代女性の死因の第1位である。
- c.男性の自殺数は女性の5倍を超える。
- d.自殺率は40歳以降,年齢とともに単調に増加する。
- e.判明した自殺者の動機で最も多いのは健康問題である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
わが国の自殺者数は平成10年から14年間3万人を超えていましたが、平成21年以降は減少に転じ、平成24年に3万人を下回りました。男性は女性の約2倍強で、男性の自殺死亡率は50歳代前後に山があるため年齢とともに単調に増加するわけではなく、自殺は15〜39歳の死因第1位である一方、40歳代以降の第1位は悪性新生物です。警察庁の統計で動機が判明した自殺者では健康問題が最も多く、その内訳ではうつ病が最多で、経済・生活問題、家庭問題が続きます。自殺未遂歴や精神疾患などの危険因子を理解し、医療者がゲートキーパーとして気づき、支援につなげる視点を持つことは、統計の暗記を超えて日常診療で患者を守ることにつながります。
解答・解説
正解はeです
わが国の自殺の統計的な特徴を問う一般問題である。自殺に関する主な統計は2種類あり、厚生労働省の人口動態統計(日本における日本人を対象とし、死亡診断書・死体検案書に基づく)と、警察庁の自殺統計(日本における外国人も含み、発見地・発見日ベースで集計し、動機などの情報も持つ)である。自殺者数そのものは両者でやや異なるが、傾向は一致している。 本問で押さえるべき特徴は次のとおりである。 ・総数の推移:平成10(1998)年に急増して年間3万人を超え、その状態が14年間続いた。平成21(2009)年以降は減少傾向に転じ、平成24(2012)年に3万人を下回った。 ・性差:男性は女性の約2倍強(おおむね2.1〜2.3倍)であり、5倍という大差ではない。 ・年齢別の自殺死亡率(人口10万対):男性では中高年(50歳代前後)に山があり、高齢層でも高い。女性は中高年以降あまり大きく変わらない。したがって「単調に増加」とはいえない。 ・死因順位:自殺は若年層(おおむね15〜39歳)で死因の第1位であるが、40歳代以降は悪性新生物が第1位となる。 ・動機:警察庁の統計で動機が特定できた例のうち、最も多いのは健康問題(うつ病などの精神疾患や身体疾患)であり、次いで経済・生活問題、家庭問題の順である。 これらの知識と照らし合わせると、各選択肢の正誤が判断できる。
選択肢考察
- ×a. 総数は増加し続けている。
誤り。自殺者数は平成15(2003)年頃をピークに3万人台で高止まりしていたが、平成21(2009)年の約3.3万人(警察庁統計で32,845人)から毎年減少し、平成24(2012)年には3万人を割り込んだ。平成25(2013)年には27,283人となっている。したがって平成20〜24年の5年間は「増加し続けている」のではなく、減少傾向にある。背景には景気の持ち直しや、自殺対策基本法(平成18年)と自殺総合対策大綱に基づく取り組みがあると考えられている。
- ×b. 40歳代女性の死因の第1位である。
誤り。40歳代女性の死因の第1位は悪性新生物(とくに乳癌、子宮癌、大腸癌など)である。自殺が死因の第1位となるのはおおむね15〜39歳の若年層であり(男女とも)、40歳代では悪性新生物に次ぐ上位の死因ではあるものの第1位ではない。若年層の死因第1位が自殺であることは先進国の中でも日本の特徴とされる。
- ×c. 男性の自殺数は女性の5倍を超える。
誤り。男性の自殺数は女性のおよそ2倍強である。例えば平成25(2013)年の人口動態統計では男性18,158人・女性7,905人、警察庁統計では男性18,787人・女性8,496人であり、いずれも比は約2.2〜2.3倍にとどまる。自殺は男性に多いが、5倍を超えるほどの差はない。
- ×d. 自殺率は40歳以降,年齢とともに単調に増加する。
誤り。男性の自殺死亡率は50歳代前後で大きな山を形成し、60〜70歳代でいったん低下したのち80歳以上で再び高くなるパターンをとる。女性では40歳代以降の自殺死亡率は高齢まで大きな変化がなく、ほぼ横ばいである。いずれも40歳以降に年齢とともに単調に上昇するという形ではない。
- ○e. 判明した自殺者の動機で最も多いのは健康問題である。
正しい。警察庁の自殺統計では、遺書などから動機が特定できた自殺者について原因・動機を1人につき最大3つまで計上しており、その中で最も多いのが健康問題である。例えば平成25(2013)年では、動機が特定できた20,256人のうち健康問題を動機に含む者が13,680人であった。健康問題の内訳ではうつ病が最多で、ほかに統合失調症などの精神疾患や身体疾患の悩みが含まれる。健康問題に次いで経済・生活問題、家庭問題、勤務問題などが続く。
自殺統計の2つの情報源
・人口動態統計(厚生労働省):日本における日本人が対象。死亡診断書(死体検案書)に基づき、住所地・死亡時点で集計する。死因順位や自殺死亡率の算出に用いられる。 ・自殺統計(警察庁):日本における外国人も含む。発見地・発見時点で集計し、原因・動機、職業、手段などの詳細情報をもつ。 両者で人数は若干異なるが、総数の推移・性差・動機の傾向は同じである。
自殺者数の推移の概略
・平成10(1998)年に前年から約8千人増加して3万人を超え、以後14年連続で3万人台が続いた。 ・平成21(2009)年以降減少し、平成24(2012)年に3万人を下回った。その後も減少が続き、令和元(2019)年には約2万人まで低下した。 ・令和2(2020)年には新型コロナウイルス感染症流行下で女性や若年者の自殺が増え、11年ぶりに増加に転じた。以降はおおむね2万人強で推移している。 ・小中高生の自殺は近年増加傾向で、若年層の自殺対策が課題となっている。
自殺対策の制度
・自殺対策基本法(平成18年施行、平成28年改正):自殺を個人の問題ではなく社会の問題として位置づけ、国・地方公共団体の責務を定めた。改正により都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられた。 ・自殺総合対策大綱:自殺対策基本法に基づく政府の指針で、おおむね5年ごとに見直される。 ・ゲートキーパー:悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る役割の人をいう。
自殺の危険因子
自殺未遂歴(最も強い予測因子)、精神疾患(うつ病、アルコール使用障害、統合失調症など)、身体疾患、失業・経済的困窮、社会的孤立、家族の自殺歴、男性、高齢などが挙げられる。
POINT
・自殺者数は平成10年から14年間3万人超、平成21年以降減少し平成24年に3万人を割った。 ・男性は女性の約2倍強(5倍ではない)。 ・自殺は15〜39歳の死因第1位。40歳代以降の第1位は悪性新生物。 ・男性の自殺死亡率は50歳代前後に山があり、単調増加ではない。女性は中高年以降ほぼ横ばい。 ・動機で最も多いのは健康問題(うつ病が最多)、次いで経済・生活問題、家庭問題。
