StudyMed医師国家試験

草むらから来た8本脚の吸血者―マダニが運ぶウイルスとSFTSの脅威

第109回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第13問

動物の写真を別に示す。  正しいのはどれか。

第109回 A問題 第13問の問題画像
  1. a.性行為で感染する。
  2. b.毛包内に寄生する。
  3. c.施設内で集団発生する。
  4. d.ウイルス性疾患を媒介する。
  5. e.咬まれていたら叩いてつぶす。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は写真に写った節足動物を同定し、その生態と媒介する病気を問う問題だ。皮膚科や感染症で出てくる「虫」はたくさんいるけれど、それぞれ感染経路や寄生部位がまったく違う。まずは写真の動物が何者なのかを決めるところから始めよう。脚の数と体の形に注目してみて。
医学生医学生
脚が8本あって、胴体が丸く袋みたいに膨らんでいます。8本脚ならダニかクモの仲間でしょうか。
ドクタードクター
いいね。昆虫なら脚は3対6本、ダニはクモ綱だから4対8本。そして頭・胸・腹の区別がはっきりせず、体がパンパンに膨らんでいるのは吸血後のマダニの典型的な姿なんだ。
医学生医学生
ダニって肉眼ではほとんど見えないイメージでした。寄生虫学の実習で疥癬のヒゼンダニを顕微鏡で見た記憶があります。
ドクタードクター
そこがマダニとほかのダニとの大きな違いだね。ヒゼンダニやニキビダニは0.3〜0.4mm程度で肉眼ではほぼ見えない。一方マダニは吸血前でも数mmあり、皮膚に口器を刺し込んで数日から10日ほど吸血を続けると、体重が100倍以上になって1cmを超えることもある。だから写真のように目で見てはっきりわかる大きさになるんだ。
医学生医学生
ということは、選択肢にはほかのダニやシラミの特徴が混ざっているんですね。
ドクタードクター
その通り。この問題は「各特徴がどの節足動物の話か」を対応させれば解ける。正解はウイルス性疾患を媒介する、だ。代表は重症熱性血小板減少症候群、つまりSFTS。わが国では2013年に初めて患者が報告されて大きく注目された。
医学生医学生
SFTSは感染症の講義で聞きました。血小板と白血球が下がるんですよね。
ドクタードクター
そう。主に西日本で春から秋に多く、発熱、嘔吐や下痢などの消化器症状、血小板減少、白血球減少が特徴で、致死率はわが国で10〜30%程度と高い。マダニはほかに、北海道で報告のあるダニ媒介脳炎というウイルス感染症も媒介するよ。では、性行為で感染するという選択肢はどうかな。
医学生医学生
性行為でうつる虫といえばケジラミだと思います。泌尿器科か皮膚科で習った気がします。
ドクタードクター
正解。ケジラミは昆虫だから脚は6本、陰毛の根元に寄生して吸血し、強いかゆみを起こす。マダニは野山や草むらで人に取り付くもので、人から人へ性行為でうつることはない。次は毛包内に寄生する、だ。
医学生医学生
毛包に住んでいるのはニキビダニですね。健康な人の顔にもいると聞いて驚きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ニキビダニは毛包や脂腺に常在していて、増えすぎると酒皶様の皮膚炎の原因になることがある。マダニは皮膚の表面に口器を刺すだけで、毛包の中には入らない。では施設内で集団発生する、は?
医学生医学生
臨床実習で皮膚科を回ったとき、高齢者施設で疥癬が広がったという話を聞きました。だからヒゼンダニだと思います。
ドクタードクター
その通り。ヒゼンダニは角層に疥癬トンネルを掘って寄生し、夜間に強まるかゆみを起こす。皮膚や寝具を介した接触で広がり、特に角化型疥癬は虫体数が非常に多くて感染力が強い。マダニは人から人へうつらないから集団発生の原因にはならないんだ。
医学生医学生
最後の、咬まれていたら叩いてつぶす、は直感的にまずそうですね。
ドクタードクター
絶対に避けるべき対応だね。つぶすとマダニの体液が傷口から押し込まれて、病原体に感染する危険が高まる。しかもマダニは口器を深く刺し込んでセメント様の物質で固着しているから、無理に引っ張ると口器が皮膚内に残って異物反応や感染の原因になる。医療機関で口器ごと除去し、必要なら周囲の皮膚ごと切除するんだ。
医学生医学生
取ったあとも安心できないということですか。
ドクタードクター
そう。除去後も数週間は発熱などの症状が出ないか経過を見る必要がある。ここで発展知識をまとめておこう。マダニが媒介するのはウイルスだけじゃない。リケッチアによる日本紅斑熱、スピロヘータのボレリアによるLyme病もマダニ媒介だ。Lyme病は遊走性紅斑が特徴だね。
医学生医学生
つつが虫病もダニでしたよね。マダニの仲間ですか。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。つつが虫病を媒介するのはツツガムシという別のダニの幼虫で、マダニではない。ただ、日本紅斑熱とつつが虫病はどちらも発熱・発疹・刺し口が三徴で、テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択という共通点があるから、セットで覚えておくといい。
医学生医学生
SFTSは人から人にはうつらないんでしょうか。
ドクタードクター
主な感染経路はマダニの咬傷だけれど、発症したネコやイヌからの感染や、患者の血液・体液を介した感染も報告されているから、診療では標準予防策をしっかり守る必要がある。4類感染症なので診断したら直ちに届出が必要だ。治療は長く対症療法が中心だったが、2024年に抗ウイルス薬のファビピラビルがSFTSに対して国内で承認された。予防としては、野外活動時に長袖・長ズボンで肌の露出を減らし、虫よけ剤を使い、帰宅後に体を確認することが大切だよ。

まとめ

吸血して大きく膨らんだ8本脚の節足動物はマダニであり、肉眼で見える大きさになる点が微小なヒゼンダニやニキビダニとの違いです。マダニは重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やダニ媒介脳炎などのウイルス感染症に加え、日本紅斑熱やLyme病も媒介します。性行為で感染するのはケジラミ、毛包に寄生するのはニキビダニ、施設内で集団発生するのはヒゼンダニによる疥癬であり、つつが虫病はマダニではなくツツガムシが媒介します。吸着したマダニはつぶしたり無理に引き抜いたりせず医療機関で口器ごと除去し、その後も発熱などに注意して経過を観察します。節足動物ごとに感染経路と疾患を整理しておくことは、野外活動後の発熱患者や施設内のかゆみの訴えに適切に対応するための基礎になります。

解答・解説

正解はdです

写真の読み取り

写真の動物は、脚が4対(8本)あり、頭・胸・腹の区別がはっきりせず、胴体が袋状に丸く膨らんだ節足動物である。これは吸血後のマダニである。マダニは吸血前には数mm程度だが、皮膚に口器を刺し込んで数日〜10日ほど吸血を続け、体重が100倍以上になることもあり、1cmを超える大きさにまで膨らむ。肉眼で容易に見える大きさである点が、ヒゼンダニやニキビダニのような微小なダニ(肉眼ではほぼ見えない)との大きな違いである。

設問の考え方

皮膚科・感染症領域で扱われる節足動物(マダニ、ヒゼンダニ、ニキビダニ、ケジラミなど)は、それぞれ感染経路・寄生部位・起こす疾患が異なる。選択肢には他の節足動物の特徴が並べられているため、「写真の動物がマダニであること」と「各特徴がどの節足動物にあてはまるか」を対応させて判断する。 マダニは重症熱性血小板減少症候群〈SFTS〉をはじめとするウイルス感染症、日本紅斑熱などのリケッチア感染症、Lyme病などのスピロヘータ感染症を媒介する。本問は、国内で2013年に初めて患者が報告され注目されたSFTSを背景とした時事的な出題である。

選択肢考察

  1. ×a.  性行為で感染する。

    性行為(陰毛の接触)で感染するのはケジラミである。ケジラミは昆虫で脚は3対(6本)、体長1〜1.5mm程度で、陰毛の根元に寄生して吸血し、強いかゆみを起こす。マダニは野山や草むらなどの屋外環境で人に取り付くものであり、性行為で人から人へうつることはない。

  2. ×b.  毛包内に寄生する。

    毛包や脂腺に寄生するのはニキビダニ(Demodex)である。雌成虫で0.3〜0.4mm程度と非常に小さく、多くの健常人の顔面にも常在しているが、増殖すると酒皶様の皮膚炎(毛包虫症)の原因となることがある。マダニは皮膚表面に口器を刺し込んで吸血するのであり、毛包内に入り込むことはない。

  3. ×c.  施設内で集団発生する。

    高齢者施設や病院で集団発生するのはヒゼンダニ(疥癬虫)による疥癬である。ヒゼンダニは体長0.3〜0.4mm程度で、皮膚の角層にトンネル(疥癬トンネル)を掘って寄生し、夜間に強まるかゆみを起こす。皮膚や寝具を介した接触で感染が広がり、特に角化型疥癬(ノルウェー疥癬)は虫体数が非常に多く感染力が強い。マダニは人から人へうつらないので、施設内の集団発生の原因にはならない。

  4. ○d.  ウイルス性疾患を媒介する。

    マダニはウイルス性疾患を媒介する。代表的なのが重症熱性血小板減少症候群〈SFTS〉で、原因のSFTSウイルスはフタトゲチマダニなどから分離されている。SFTSは2011年に中国で病原ウイルスが報告され、わが国では2013年に初めて患者(死亡例)が確認された。主に西日本で春〜秋に多く、発熱、消化器症状(嘔吐・下痢)、血小板減少、白血球減少を特徴とし、致死率が高い(わが国で10〜30%程度)。このほか、ダニ媒介脳炎(北海道で報告あり)もマダニが媒介するウイルス感染症である。

  5. ×e.  咬まれていたら叩いてつぶす。

    吸着しているマダニを叩きつぶしたり、無理に引き抜いたりしてはならない。つぶすとマダニの体液が傷口から体内に押し込まれ、ウイルスやリケッチアなどの病原体に感染する危険が高まる。また、マダニは口器を皮膚に深く刺し込みセメント様物質で固着しているため、無理に引っ張ると口器が皮膚内に残り、異物反応や感染の原因となる。医療機関(皮膚科など)で口器ごと除去し、必要に応じて周囲の皮膚ごと切除する。除去後も数週間は発熱などの症状の出現に注意して経過を観察する。

マダニの特徴

・クモ綱ダニ目に属し、成虫の脚は4対(8本)である(昆虫は3対)。 ・山林や草むら、畑などに生息し、通過する動物や人に取り付いて吸血する。 ・吸血は数日から1週間以上続き、飽血すると大きく膨らむ(1cm以上になることもある)。 ・咬着に気づきにくく、痛みやかゆみが乏しいことも多い。

マダニが媒介する主な感染症

・ウイルス:重症熱性血小板減少症候群〈SFTS〉、ダニ媒介脳炎 ・リケッチア:日本紅斑熱(Rickettsia japonica) ・スピロヘータ:Lyme病(Borrelia属、遊走性紅斑が特徴)、回帰熱(ボレリア属の一部) ・細菌:野兎病(主に保菌動物との接触によるが、マダニも媒介しうる) なお、つつが虫病はツツガムシ(ツツガムシ科のダニの幼虫)が媒介するものであり、マダニではない。日本紅斑熱とつつが虫病はいずれも発熱・発疹・刺し口を三徴とし、テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択である。

SFTSの要点

・病原体:SFTSウイルス(ブニヤウイルス目に属するRNAウイルス) ・感染経路:マダニの咬傷が主であるが、発症したネコやイヌからの感染、患者の血液・体液を介したヒトからヒトへの感染も報告されている。 ・症状・検査所見:発熱、消化器症状、意識障害などの神経症状、出血傾向、リンパ節腫脹。血小板減少、白血球減少、AST・ALT・LDH・CKの上昇。 ・感染症法で4類感染症に指定されており、診断後直ちに届出が必要である。 ・治療は対症療法が中心であったが、わが国では2024年に抗ウイルス薬ファビピラビルがSFTSに対して承認された。

予防

野外活動時は長袖・長ズボンで肌の露出を少なくし、虫よけ剤を使用する。帰宅後は入浴時などにマダニが付着していないか確認する。

皮膚に寄生・関与する節足動物のまとめ

・マダニ:大型(吸血後1cm以上)、SFTS・日本紅斑熱・Lyme病を媒介 ・ヒゼンダニ:疥癬、施設内集団発生、疥癬トンネル ・ニキビダニ:毛包・脂腺に寄生 ・ケジラミ:陰毛に寄生、性行為で感染 ・ツツガムシ:つつが虫病を媒介

POINT

・吸血して大きく膨らんだ8本脚の節足動物=マダニ。 ・マダニはSFTS(ウイルス)、日本紅斑熱(リケッチア)、Lyme病(ボレリア)を媒介する。 ・SFTSは発熱、消化器症状、血小板減少・白血球減少を呈し、致死率が高い。4類感染症。 ・吸着したマダニは叩きつぶしたり無理に引き抜いたりせず、医療機関で口器ごと除去する。 ・性行為感染=ケジラミ、毛包寄生=ニキビダニ、施設内集団発生=ヒゼンダニ(疥癬)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。