StudyMed医師国家試験

形は正常、でも動かない―声帯の「動き」から見抜く左声帯麻痺

第108回医師国家試験 I問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第5問

嗄声を訴える60歳女性の安静呼吸時と発声時の喉頭内視鏡像(A)(B)を別に示す。  考えられるのはどれか。

第108回 I問題 第5問の問題画像
  1. a.右声帯癌
  2. b.右声帯結節
  3. c.右声帯ポリープ
  4. d.左声帯麻痺
  5. e.左ポリープ様声帯

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は嗄声の原因を喉頭内視鏡像から読み解く問題だ。安静呼吸時と発声時の2枚が示されていることに意味がある。声帯の「形」と「動き」を分けて評価すること、これが着眼点だよ。
医学生医学生
嗄声というと、まず声帯に何かできものがないかを探してしまいます。
ドクタードクター
それも大切な視点だね。嗄声の原因は大きく2つに分けられる。声帯そのものに腫瘤や浮腫などの形の異常がある器質的疾患と、形は正常なのに動きが悪い運動障害だ。今回の画像では、両側の声帯表面は平滑で、腫瘤や白色病変、浮腫状の腫れは見当たらない。
医学生医学生
形に異常がないなら、動きのほうを見るわけですね。呼吸時と発声時の両方が出されているのはそのためでしょうか。
ドクタードクター
その通り。正常なら、呼吸時は両側の声帯が外側に開いて声門が左右対称の三角形になり、発声時は両側が正中でぴったり接して声門が閉じる。今回は呼吸時に左声帯が外転せず正中寄りにとどまっていて、声門が左右非対称。発声時には声帯同士が接しきらず、隙間が残っている。
医学生医学生
片側だけが動いていない……つまり左声帯麻痺ですね。
ドクタードクター
正解。形態は保たれているのに一側の声帯の運動が障害され、声門閉鎖不全がある。これが声帯麻痺の典型像だ。閉じきらない声門から息が漏れるので、息の混じった気息性嗄声になり、最長発声持続時間も短くなる。嚥下時にも声門が閉じにくいので誤嚥を伴うこともあるんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。声帯癌は喫煙歴のある高齢男性に多いと講義で習いましたが、進行すると声帯が動かなくなることもありますよね。
ドクタードクター
よく知っているね。声帯癌でも深く浸潤すれば可動性が落ちることはある。ただその場合は、表面の不整な隆起や白色病変、潰瘍といった腫瘍性病変が必ず見えるはずだ。今回は表面が平滑だから考えにくい。
医学生医学生
声帯結節と声帯ポリープは、どちらも声の使いすぎで起こるんでしたよね。違いがあいまいです。
ドクタードクター
区別のポイントは分布と形だ。声帯結節は歌手や教師、よく叫ぶ子どもに多く、声帯の前1/3と中1/3の境界に、通常は両側対称に小さな隆起ができる。声帯ポリープは粘膜下の出血や浮腫からできる良性腫瘤で、多くは一側の遊離縁に表面平滑な半球状の腫瘤として見える。どちらも形の異常なので、今回のような運動障害は説明できない。
医学生医学生
ポリープ様声帯は名前が似ていてまぎらわしいです。
ドクタードクター
ポリープ様声帯はReinke浮腫とも呼ばれ、声帯粘膜直下のReinke腔に浮腫が起きて、声帯全長が水ぶくれのように腫れる。多くは両側性で、喫煙との関連が強く、中年以降の女性で声が低くなるのが特徴だ。これも浮腫状の腫れが見えるはずなので今回は当てはまらない。
医学生医学生
器質的病変があれば形でわかる、形が正常で動きがおかしければ麻痺、という整理ですね。
ドクタードクター
そう。ここからが臨床で本当に大事なところだ。声帯の運動を担うのはどの神経だったかな。
医学生医学生
迷走神経の枝の反回神経です。CBTの勉強で、左は大動脈弓を回ると覚えました。
ドクタードクター
その知識がそのまま臨床につながる。反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋をすべて支配していて、声帯を開く唯一の筋である後輪状披裂筋も含まれる。右は鎖骨下動脈を回るが、左は大動脈弓の下をくぐって胸腔内を長く走るから、胸部の病変で障害されやすいんだ。
医学生医学生
ということは、左声帯麻痺を見たら胸の中に原因を探さないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。胸部大動脈瘤、肺癌の縦隔リンパ節転移、食道癌、縦隔腫瘍、甲状腺癌などを念頭に、頸部から縦隔までCTで原因を検索する。甲状腺や食道、心臓大血管の手術後や気管挿管後に起こることもあるし、原因が特定できない特発性のものもある。嗄声を「ただの声がれ」で済ませず、重大な病気のサインとして扱う姿勢が大切だ。
医学生医学生
両側が麻痺したらどうなりますか。
ドクタードクター
一側麻痺では呼吸困難は通常起こらないが、両側の声帯が正中寄りに固定すると、声は比較的保たれる一方で声門が狭くなり、吸気性喘鳴や呼吸困難を来す。気管切開などの気道確保が必要になることもあるから要注意だ。一側麻痺の治療は、自然回復を半年ほど待ちながら音声治療を行い、改善がなければ声帯を正中に寄せる手術、たとえば甲状軟骨形成術Ⅰ型や披裂軟骨内転術、声帯内注入術などを検討するよ。

まとめ

嗄声の原因は、声帯癌・声帯結節・声帯ポリープ・ポリープ様声帯などの器質的疾患と、形態は正常で運動が障害される声帯麻痺とに大別されます。喉頭内視鏡で声帯表面が平滑なのに、安静呼吸時に一側声帯が外転せず発声時に声門閉鎖不全が残れば、その側の声帯麻痺と判断でき、気息性嗄声や誤嚥を来します。声帯の運動を担う反回神経のうち、左は大動脈弓を回って胸腔内を長く走行するため、胸部大動脈瘤、肺癌、食道癌、縦隔腫瘍、甲状腺癌などで障害されやすく、頸部〜縦隔のCTによる原因検索が欠かせません。なお両側麻痺では声門が狭くなり呼吸困難を来すため、気道確保が必要になることがあります。「形」と「動き」を分けて観察し、麻痺を見たら神経の走行に沿って原因を探すという考え方は、嗄声診療の基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

60歳女性が嗄声(声がかすれる・がらがらする症状)を訴えている。示されているのは喉頭内視鏡(喉頭ファイバースコープ)像で、画面の上方に喉頭蓋、その奥に左右の声帯が見える。 ・安静呼吸時(A):正常であれば呼吸時には両側の声帯が外側へ開き(外転)、声門は左右対称な三角形になる。本例では一側の声帯は外転しているが、もう一側(左)の声帯は正中寄りの位置にとどまって外転しておらず、声門の形が左右非対称である。 ・発声時(B):正常であれば両側の声帯が正中で接して声門が閉鎖する。本例では声帯同士が十分に接しておらず、声門に隙間が残る(声門閉鎖不全)。 ・両側の声帯の表面は平滑で、腫瘤、隆起、白色病変、浮腫状の腫脹などの器質的病変は認めない。

診断へのプロセス

嗄声の原因は大きく、①声帯そのものに形の異常がある器質的疾患(声帯癌、声帯結節、声帯ポリープ、ポリープ様声帯など)と、②声帯の形は正常だが動きが悪い運動障害(声帯麻痺=反回神経麻痺など)に分けられる。本例では声帯に器質的病変がないため①は考えにくい。一方、安静呼吸時に一側声帯が外転せず、発声時にも声門が閉じきらないという所見は、その側の声帯の運動障害を示す。したがって左声帯麻痺が考えられる。 声帯麻痺では、閉じきらない声門から発声時に息が漏れるため、息の混じった気息性嗄声(かすれ声)となり、声が長く続かない(最長発声持続時間の短縮)。また嚥下時にも声門閉鎖が不十分となるため、誤嚥を伴うことがある。

臨床的な意義

左反回神経は大動脈弓を回って胸腔内を長く走行するため、胸部の病変で障害されやすい。左声帯麻痺をみたら、胸部大動脈瘤、肺癌(特に左肺門部・大動脈肺動脈窓のリンパ節転移)、食道癌、甲状腺癌、縦隔腫瘍などを念頭に置き、頸部から縦隔までの画像検査(CTなど)で原因を検索することが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  右声帯癌

    誤り。声帯癌(声門癌)は喉頭癌の中で最も多い亜型で、喫煙との関連が強く、高齢男性に多い。内視鏡では声帯表面の不整な隆起、白色病変(白板症様)、潰瘍などを示す。早期から嗄声が出るため比較的早期に発見されやすい。進行して声帯筋や披裂部に浸潤すると声帯の可動性が低下することもあるが、その場合も腫瘍性病変が見えるはずである。本例の声帯表面は平滑で腫瘤を認めず、声帯癌は考えにくい。

  2. ×b.  右声帯結節

    誤り。声帯結節は声の酷使(歌手、教師、よく叫ぶ小児など)によって、声帯の前1/3と中1/3の境界部(振動時に最も強く接触する部位)に生じる小さな隆起で、通常は両側に左右対称に生じる。声の衛生指導や音声治療で軽快することが多い。本例では声帯に結節性の隆起を認めず、また声帯の運動障害は結節では説明できない。

  3. ×c.  右声帯ポリープ

    誤り。声帯ポリープは、声の酷使などで声帯粘膜下に出血・浮腫が起こって生じる良性の腫瘤で、通常は一側性である。声帯の遊離縁に、有茎性または広基性で表面平滑な半球状の腫瘤として観察され、赤みを帯びた出血性のものもある。治療は喉頭微細手術による切除が中心である。本例ではそのような腫瘤を認めない。

  4. ○d.  左声帯麻痺

    正しい。声帯に器質的病変がなく、安静呼吸時に左声帯が外転せず正中寄りに固定し、発声時には声門が閉じきらないという所見は、左声帯の運動障害、すなわち左声帯麻痺を示す。声帯の運動は、内喉頭筋のうち輪状甲状筋を除くすべてを支配する反回神経(迷走神経の枝)が担っている。左反回神経は大動脈弓の下を前から後ろへくぐって上行するため、右側(鎖骨下動脈を回る)より走行が長く、胸部大動脈瘤、肺癌、食道癌、縦隔腫瘍、甲状腺癌、心臓・大血管や甲状腺・食道の手術、気管挿管などで障害されやすい。原因の特定できない特発性のものやウイルス感染によると考えられるものもある。一側麻痺の主症状は気息性嗄声と誤嚥であり、麻痺側の声帯が外側に固定するほど声門間隙が大きくなり、嗄声は高度になる。

  5. ×e.  左ポリープ様声帯

    誤り。ポリープ様声帯(Reinke浮腫)は、声帯粘膜直下のReinke腔に浮腫が生じ、声帯の全長にわたって水ぶくれのように腫脹する疾患で、多くは両側性である。喫煙と強い関連があり、中年以降の喫煙者(特に女性)に多く、声が低くなる(女性で男性のような低い声になる)のが特徴である。本例では声帯に浮腫状の腫脹は認めない。

反回神経の走行と麻痺の原因

・反回神経は迷走神経の枝で、右は右鎖骨下動脈を、左は大動脈弓(動脈管索の外側)を前方から後方へ回って反転し、気管食道溝を上行して喉頭に入る。 ・左は胸腔内を長く走行するため、右よりも麻痺を起こしやすい。 ・主な原因:  胸部病変:胸部大動脈瘤、肺癌(リンパ節転移を含む)、食道癌、縦隔腫瘍、僧帽弁狭窄症による左房拡大(Ortner症候群)  頸部病変:甲状腺癌、頸部リンパ節転移  医原性:甲状腺・食道・心臓大血管の手術、気管挿管  その他:頭蓋底・脳幹の病変(迷走神経の障害)、ウイルス感染、特発性

喉頭の神経支配

・上喉頭神経(外枝):輪状甲状筋を支配し、声帯を緊張させて声を高くする。 ・上喉頭神経(内枝):声門より上の喉頭粘膜の感覚を担う。 ・反回神経:輪状甲状筋以外のすべての内喉頭筋(声帯を開く唯一の筋である後輪状披裂筋、声帯を閉じる外側輪状披裂筋・披裂筋、声帯筋など)を支配し、声門下の感覚も担う。

一側麻痺と両側麻痺

・一側麻痺:気息性嗄声、誤嚥、最長発声持続時間の短縮。呼吸困難は通常起こらない。 ・両側麻痺:両声帯が正中寄りに固定すると、声は比較的保たれるが声門が狭くなり、吸気性喘鳴や呼吸困難を来す。気管切開などの気道確保が必要となることがある。

検査と治療

・喉頭内視鏡で声帯の位置と可動性を評価し、原因検索として頸部〜胸部のCTを行う。 ・一側麻痺では自然回復を待つ期間(半年程度)を置くことが多く、その間に音声治療を行う。改善しない場合は、声帯を正中へ寄せて声門閉鎖を改善する手術(甲状軟骨形成術Ⅰ型、披裂軟骨内転術、声帯内注入術など)を行う。

嗄声を来す主な喉頭疾患の内視鏡所見の比較

・声帯結節:両側の前1/3と中1/3の境界に対称性の小隆起 ・声帯ポリープ:一側の遊離縁に表面平滑な半球状腫瘤 ・ポリープ様声帯:両側声帯の全長にわたる浮腫状腫脹 ・声帯癌:表面不整な隆起、白色病変、潰瘍 ・声帯麻痺:形態は正常だが一側(または両側)の声帯の運動障害、発声時の声門閉鎖不全

POINT

・声帯に器質的病変がなく、呼吸時に一側声帯が外転せず、発声時に声門閉鎖不全がある→その側の声帯麻痺(反回神経麻痺)。 ・左反回神経は大動脈弓を回るため走行が長く障害されやすい。胸部大動脈瘤、肺癌、食道癌、縦隔腫瘍、甲状腺癌を検索する。 ・一側麻痺は気息性嗄声と誤嚥、両側麻痺は呼吸困難が問題となる。 ・声帯結節は両側対称性、声帯ポリープは一側性の腫瘤、ポリープ様声帯は両側のびまん性浮腫で喫煙と関連。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。