「肺を守るために締める」―肺動脈絞扼術が選ばれる先天性心疾患
第108回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
肺動脈絞扼術が適応となる疾患はどれか。2つ選べ。
- a.Fallot四徴症
- b.動脈管開存症
- c.心房中隔欠損症
- d.完全大血管転位症
- e.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肺動脈絞扼術は主肺動脈を締めて肺血流と肺動脈圧を下げる姑息手術で、大きな左右短絡による心不全と肺血管病変(Eisenmenger化)を防ぎながら根治術の時期を待つ目的で行われます。適応は心室中隔欠損を伴う完全大血管転位症や完全型房室中隔欠損症など、肺血流が増加していてすぐには根治できない疾患で、完全大血管転位症では左室トレーニングの目的でも用いられます。Fallot四徴症のような肺血流減少型では禁忌で、逆にBlalock-Taussig短絡術が選ばれます。動脈管開存症は短絡が絞扼部より遠位にあるため効果がなく、心房中隔欠損症は直接閉鎖で根治できるため適応になりません。「肺血流を増やすのか減らすのか」「短絡はどこか」で姑息術を整理しておくと、先天性心疾患の治療戦略全体が見通しやすくなります。
解答・解説
正解はd, eです
肺動脈絞扼術とは
肺動脈絞扼術(pulmonary artery banding:PAB)は、主肺動脈(肺動脈幹)の周囲にテープを巻いて締め、人工的な狭窄をつくる姑息手術である。右心室(または肺動脈につながる心室)から肺へ流れる血液量と肺動脈圧を下げることが目的である。
どのような病態に行うか
心室中隔欠損などの心室レベル・大血管レベルの大きな左右短絡があると、体循環より抵抗の低い肺へ大量の血液が流れ込み(肺血流増加)、乳児期早期から心不全をきたす。この状態が続くと肺血管壁が肥厚・硬化し、不可逆的な肺高血圧(肺血管閉塞性病変、最終的にはEisenmenger化)に至り、根治手術ができなくなる。 本来は早期の根治手術(心内修復術)が望ましいが、低出生体重、全身状態不良、解剖学的に新生児・早期乳児期の修復が難しい場合などには、まず肺動脈絞扼術で肺血流を制限して心不全を抑え、肺血管を守りながら成長を待ち、のちに根治手術を行う(二期的手術)。
設問の考え方
したがって適応は「肺血流が増加し、肺高血圧の進行を防ぐ必要があるが、すぐには根治できない疾患」である。逆に、肺血流がもともと少ない疾患(チアノーゼ性で肺血流減少型)では禁忌であり、短絡部位が絞扼部より遠位にある疾患や、単独で閉鎖術が容易な疾患では適応とならない。この観点から、完全大血管転位症(特に心室中隔欠損を伴うもの)と房室中隔欠損症が該当する。
選択肢考察
- ×a. Fallot四徴症
Fallot四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大を特徴とするチアノーゼ性心疾患である。右室流出路狭窄のため肺血流はむしろ減少しており、心室中隔欠損を通って静脈血が大動脈へ流れ込む(右左短絡)。ここに肺動脈絞扼術を加えると肺血流がさらに減り、チアノーゼや低酸素発作を悪化させるため禁忌である。肺血流を増やす姑息術としては、逆にBlalock-Taussig短絡術(体肺動脈短絡術)が行われ、根治術は心内修復術である。
- ×b. 動脈管開存症
動脈管は、大動脈(下行大動脈の起始部付近)と肺動脈の遠位部(左右肺動脈の分岐部付近、左肺動脈起始部)をつなぐ血管である。肺動脈絞扼術で締めるのは主肺動脈であり、短絡の流入部より上流(心臓側)になるため、動脈管からの短絡血流を減らすことはできない。治療は動脈管そのものの閉鎖であり、未熟児ではインドメタシンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害薬、外科的な結紮・切離、カテーテルによるコイルや閉鎖栓での閉鎖が行われる。
- ×c. 心房中隔欠損症
心房中隔欠損症は心房レベルの左右短絡で、肺血流は増加するものの、心房間の圧較差は小さく、乳幼児期に重い心不全や高度の肺高血圧を起こすことはまれである。症状が乏しいまま学童期以降に発見されることも多い。治療は欠損孔の閉鎖(外科的パッチ閉鎖、またはカテーテルによる閉鎖栓留置)という根治術が直接行えるため、肺動脈絞扼術のような姑息術を挟む必要はなく、適応とならない。
- ○d. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始するチアノーゼ性心疾患である。心室中隔欠損を伴う型では、肺血流が大量に増えて心不全と早期からの肺高血圧を生じやすい。根治術である大血管スイッチ手術(Jatene手術)を早期に行えない場合、肺動脈絞扼術で肺血流を制限し肺高血圧の進行を防ぐ。また、心室中隔欠損のない型で新生児期を過ぎてしまった場合には、低圧の肺循環を担ってきた左心室が体循環を支えられなくなっているため、肺動脈絞扼術で左心室に圧負荷をかけて鍛え(左室トレーニング)、その後にスイッチ手術を行うこともある。いずれの目的でも適応となる。
- ○e. 房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)は、心内膜床の発生異常により心房中隔下部・心室中隔流入部の欠損と房室弁の形成異常をきたす疾患である。完全型では心房・心室両レベルの大きな左右短絡に房室弁逆流が加わり、乳児期早期から重い心不全と肺高血圧を生じる。Down症候群に多く合併し、肺高血圧が早く進行しやすい。根治術(心内修復術)は通常乳児期に行うが、体重が小さい、全身状態が悪い、左右心室の大きさの不均衡があるなど早期の修復が難しい場合には、肺動脈絞扼術で短絡血流を減らし、肺高血圧を予防しながら根治術の時期を待つ。
先天性心疾患の姑息手術の整理
・肺血流を減らす手術:肺動脈絞扼術。肺血流増加型(大きな心室中隔欠損、完全型房室中隔欠損、心室中隔欠損を伴う完全大血管転位症、肺動脈狭窄のない単心室、総動脈幹症など)で、根治術まで肺血管を守る目的で行う。 ・肺血流を増やす手術:Blalock-Taussig短絡術(鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管などでつなぐ体肺動脈短絡術)。肺血流減少型(Fallot四徴症、肺動脈閉鎖、三尖弁閉鎖症の一部など)で行う。 ・心房間の血液の混合を増やす手技:バルーン心房中隔裂開術(BAS)。心室中隔欠損のない完全大血管転位症などで、新生児期に行う。
左右短絡疾患と肺高血圧
大量の左右短絡が続くと、肺血管に高い圧と流量の負荷がかかり、肺小動脈の中膜肥厚・内膜増殖が起こって肺血管抵抗が上昇する。肺血管抵抗が体血管抵抗を上回ると短絡が右左に逆転してチアノーゼが出現する(Eisenmenger症候群)。この段階では短絡閉鎖術は禁忌となるため、それ以前に短絡を閉じるか、肺動脈絞扼術で肺血管を保護することが重要である。
短絡部位と肺動脈絞扼術
絞扼するのは主肺動脈であるため、効果があるのは短絡が絞扼部より上流(心房・心室レベル)で起こる場合である。動脈管や体肺動脈側副血行路のように絞扼部より遠位の肺動脈へ流れ込む短絡には効かない。
POINT
・肺動脈絞扼術は、肺血流増加型の先天性心疾患で、根治術までのあいだ心不全を抑え肺高血圧(肺血管病変)を予防するための姑息術である。 ・適応例:大きな心室中隔欠損、完全型房室中隔欠損症(Down症候群に多い)、心室中隔欠損を伴う完全大血管転位症、単心室など。完全大血管転位症では左室トレーニングの目的でも行う。 ・Fallot四徴症などの肺血流減少型では禁忌であり、逆にBlalock-Taussig短絡術を行う。 ・動脈管開存症は短絡が絞扼部より遠位のため無効。心房中隔欠損症は直接閉鎖術を行う。
