「ノロが先、ロタが後」―白い下痢と季節で読み解くロタウイルス胃腸炎
第108回医師国家試験 I問題 第14問
国試問題にチャレンジ
ロタウイルス感染症で正しいのはどれか。
- a.発熱は伴わない。
- b.多くは血便を伴う。
- c.初冬から早春に多い。
- d.有効な予防接種はない。
- e.好発年齢は10歳ころである。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
ロタウイルス胃腸炎は乳幼児の急性胃腸炎の代表で、発熱と嘔吐で始まり、続いて白色〜淡黄色の水様下痢が数日〜1週間ほど続きます。小腸絨毛上皮の障害による吸収不良と分泌亢進が病態であり、粘膜の出血を起こさないため血便は原則みられず、血便があれば細菌性腸炎を考えます。日本ではノロウイルスに続いて初冬から早春にかけて流行し、好発年齢は生後6か月〜2歳です。経口弱毒生ワクチンが定期接種となっており、腸重積症に注意しつつ生後早期に接種を始めます。治療は経口補水療法や輸液による脱水の補正が中心で、季節・年齢・便の性状を組み合わせて判断する力は、小児の胃腸炎診療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
ロタウイルス感染症は、乳幼児の急性胃腸炎(いわゆる嘔吐下痢症)の代表的な原因である。本問では、臨床像(発熱の有無、便の性状)、流行する季節、好発年齢、予防接種という基本的な疫学・臨床的特徴が問われている。 典型的な経過は次のとおりである。潜伏期はおよそ1〜3日で、まず発熱と嘔吐で発症し、1〜2日遅れて頻回の水様下痢が始まる。便は米のとぎ汁様〜クリーム色の白っぽい色調を呈することが多く、「白色便性下痢症(白痢)」と呼ばれてきた。粘膜を破壊して出血させるタイプの腸炎ではないため、血便はまれである。多くは1週間前後で自然に軽快するが、嘔吐と下痢が重なるため脱水に陥りやすく、乳幼児の胃腸炎入院の主要な原因となっている。 日本では、ノロウイルス胃腸炎が晩秋から冬(11〜1月ころ)に流行したあと、それに続くかたちで冬から春先(おおむね1〜4月ころ)にロタウイルス胃腸炎が流行する。この「ノロが先、ロタが後」という季節のずれを押さえておけば、流行時期を問う選択肢は判断しやすい。 好発年齢は生後6か月〜2歳ころの乳幼児である。感染を繰り返すうちに免疫が付き、年長児や成人では軽症または不顕性感染となることが多い。この性質を利用して開発されたのが経口弱毒生ワクチンであり、日本でも使用されている。
選択肢考察
- ×a. 発熱は伴わない。
誤り。ロタウイルス胃腸炎は発熱と嘔吐で始まることが多く、その後に水様下痢が続くのが典型的な経過である。発熱は主要症状の一つであり、「伴わない」とする記述は誤りである。
- ×b. 多くは血便を伴う。
誤り。ロタウイルスは小腸絨毛の上皮細胞に感染して吸収障害と分泌亢進を起こし、水様下痢をもたらす。粘膜の潰瘍や出血を起こす病態ではないため、血便は原則として伴わない。便は白色〜淡黄色の水様便となることが多く、「白色便性下痢症」と呼ばれる。血便を伴う腸炎としては、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌などの細菌性腸炎を考える。
- ○c. 初冬から早春に多い。
正しい。日本ではロタウイルス胃腸炎は冬季から春先にかけて流行し、年末ころから患者が増え始めて春先にピークを迎える。ノロウイルス胃腸炎の流行ピーク(晩秋〜初冬)より遅れて流行するのが特徴である。したがって「初冬から早春に多い」という記述は流行時期として適切である。
- ×d. 有効な予防接種はない。
誤り。ロタウイルスには経口弱毒生ワクチンがあり、重症化(脱水による入院など)の予防に有効である。日本では、ヒトロタウイルスを弱毒化した1価ワクチン(2回接種)が2011年に、ヒト-ウシ再集合体ロタウイルスによる5価ワクチン(3回接種)が2012年に承認された。2020年10月からは定期接種に組み込まれている。腸重積症のリスクを考慮し、初回接種は生後14週6日までに行うことが推奨されている。
- ×e. 好発年齢は10歳ころである。
誤り。好発年齢は乳幼児期、特に生後6か月〜2歳ころである。ヒトに感染するロタウイルスは主にA群とC群で、最も頻度の高いA群では患者の7割以上が2歳以下である。C群はやや年長の小児にもみられるが、それでも多くは9歳以下である。感染を繰り返して免疫を獲得するため、年長児や成人では軽症・不顕性感染となりやすい。
病原体と感染経路
ロタウイルスはレオウイルス科に属する、エンベロープをもたない二本鎖RNAウイルスである。エンベロープがないためアルコール消毒に比較的強く、環境中で長く生存する。糞口感染で広がり、ごく少量のウイルスでも感染が成立するため、保育園や家庭内で集団発生しやすい。消毒には次亜塩素酸ナトリウムが用いられる。
病態
小腸絨毛の先端部の上皮細胞に感染し、絨毛の萎縮と二糖類分解酵素の減少による吸収不良、さらにウイルス由来の非構造蛋白NSP4(エンテロトキシン様に働く)による分泌性下痢を起こす。
臨床像と合併症
発熱・嘔吐で発症し、続いて白色〜淡黄色の水様下痢が数日〜1週間程度続く。主な合併症は脱水であり、低ナトリウム血症・高ナトリウム血症、代謝性アシドーシスを伴うことがある。そのほか、胃腸炎に伴う無熱性けいれん(軽症胃腸炎関連けいれん)や、まれに急性脳症を合併することが知られている。
診断
便を検体とした迅速抗原検査(イムノクロマト法)で診断できる。
治療
特異的な抗ウイルス薬はなく、治療は対症療法である。軽症〜中等症の脱水には経口補水療法(ORS: oral rehydration solution)が第一選択で、経口摂取が困難な場合や重度脱水では輸液を行う。
ロタウイルスとノロウイルスの比較
ロタウイルス:乳幼児に多い、冬〜春先に流行、白色水様便、ワクチンあり。 ノロウイルス:全年齢にみられる、晩秋〜冬に流行、食中毒(カキなどの二枚貝)や集団感染の原因、ワクチンなし。
POINT
・ロタウイルス胃腸炎は発熱・嘔吐で始まり、白色水様下痢が続く。血便はまれ。 ・流行は冬〜春先で、ノロウイルス(晩秋〜冬)より遅い。 ・好発年齢は生後6か月〜2歳の乳幼児。年長児・成人は軽症や不顕性感染が多い。 ・経口弱毒生ワクチンがあり、2020年10月から定期接種。副反応として腸重積症に注意。 ・治療は対症療法で、脱水の補正(経口補水療法、輸液)が中心。
