大盛り・間食・毎晩の酒―3日間の食事記録から読み解くメタボ指導の最優先事項
第108回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。会社の健康診断でメタボリックシンドロームを指摘され来院した。事務系の管理職でデスクワークがほとんどであり,仕事上の会食や飲酒の機会が多い。喫煙歴はなく,飲酒はほぼ毎日で,会食がある時は量が増える。運動はしない。父親が高血圧。身長172 cm,体重79 kg,腹囲89 cm。血圧142/90 mmHg。身体所見に異常を認めない。AST 33 IU/L,ALT 38 IU/L,γ-GTP 75 IU/L(基準8~50),空腹時血糖102 mg/dL,トリグリセリド185 mg/dL,HDLコレステロール68 mg/dL,LDLコレステロール148 mg/dL。食事内容を記載し再診した。3日分の食事内容を表に示す。 1日目 2日目 3日目 朝食 食パン 2枚 目玉焼き(卵 2個) 牛乳 250ml 1本 同左 同左 昼食 ラーメン大盛り 天丼 カレーライス大盛り おやつ 大福 1個 アイスクリーム どら焼き 1個 夕食 中華コース料理 ビール大瓶 2本 紹興酒 2合 ご飯 2杯,煮物,とんかつ, 味噌汁 ビール 500ml 2本 おでん 2皿,焼き鳥 10本, 煮物,焼きおにぎり 3個 ビール大瓶 1本 日本酒 2合 栄養指導として適切なのはどれか。
- a.「エネルギー摂取量を減らしましょう」
- b.「塩分はもう少し摂っても大丈夫です」
- c.「野菜の摂取もバランスがいいですね」
- d.「この程度のアルコールなら問題はありません」
- e.「蛋白質をもう少し摂取するようにしましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
メタボリックシンドロームは腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)を必須とし、脂質(トリグリセリド150mg/dL以上かつ/またはHDL-C 40mg/dL未満)、血圧(130/85mmHg以上)、空腹時血糖(110mg/dL以上)のうち2項目以上で診断され、LDLコレステロールは診断項目に含まれません。病態の中心は内臓脂肪の蓄積であり、治療の基本は食事療法と運動療法による内臓脂肪の減少で、栄養指導ではエネルギー摂取量の制限が最優先となります。あわせて、高血圧があれば食塩6g/日未満への減塩、純アルコール1日20g程度までの節酒、野菜の摂取増加を指導し、γ-GTP高値は多量飲酒の手がかりとして活用します。まず現体重の3%以上の減量を目標にするなど、患者が実行可能な目標を設定する視点は、生活習慣病の外来診療や特定保健指導の場で欠かせません。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・52歳男性、デスクワーク中心で運動習慣なし、会食と飲酒の機会が多い(ほぼ毎日飲酒)。喫煙歴なし。父親が高血圧。 ・身長172cm、体重79kg → BMI=79÷(1.72×1.72)≒26.7。日本の基準(BMI 25以上)で肥満(肥満1度)に当たる。 ・腹囲89cm:男性の基準85cm以上を満たし、内臓脂肪の蓄積が示唆される。 ・血圧142/90mmHg:高血圧の域にある。 ・トリグリセリド185mg/dL(高値)、HDLコレステロール68mg/dL(正常)、LDLコレステロール148mg/dL(高値、140mg/dL以上)。 ・空腹時血糖102mg/dL:正常高値(100〜109mg/dL)で、メタボリックシンドロームの血糖基準(110mg/dL以上)には達していない。 ・γ-GTP 75IU/L(高値)、ALT 38IU/Lとやや高め:習慣的な多量飲酒や脂肪肝を示唆する。 ・身体所見に異常がなく、満月様顔貌などCushing症候群を疑う所見や他の内分泌疾患を示す所見もないため、過食と運動不足による単純性肥満(内臓脂肪型肥満)と考えられる。
メタボリックシンドロームの判定
日本の診断基準は、腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)を必須項目とし、さらに①脂質異常(トリグリセリド150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満)、②血圧高値(収縮期130mmHg以上 かつ/または 拡張期85mmHg以上)、③空腹時高血糖(110mg/dL以上)の3項目のうち2項目以上を満たすものである。本例は腹囲に加えて①(トリグリセリド)と②(血圧)の2項目が該当し、診断基準を満たす。
食事内容の評価
・エネルギー:朝食に食パン2枚・卵2個・牛乳、昼食はラーメン大盛り・天丼・カレーライス大盛りといった高エネルギーの一品料理、毎日の間食に和菓子やアイスクリーム、夕食は中華のコース料理やとんかつ、おでん・焼き鳥・焼きおにぎり3個と量が多く、さらに多量のアルコールが加わる。明らかな過剰摂取である。 ・食塩:ラーメン、味噌汁、煮物、おでん、焼き鳥、中華料理など塩分の多い料理が毎日並ぶ。 ・野菜:煮物以外に野菜料理がほとんどない。 ・蛋白質:卵、牛乳、肉料理、焼き鳥などで既に十分に摂取している。 ・アルコール:1日目はビール大瓶2本と紹興酒2合、2日目はビール500mL 2本、3日目はビール大瓶1本と日本酒2合で、純アルコール量はいずれの日も適量の目安(1日平均約20g)を大きく超え、およそ40〜100g/日に相当する。
指導の方向性
メタボリックシンドロームの中心にある病態は内臓脂肪の蓄積であり、治療の基本は食事療法と運動療法による内臓脂肪の減少である。内臓脂肪は皮下脂肪よりも減量に反応しやすく、数%の体重減少でも血圧・脂質・血糖が改善する。本例ではまずエネルギー摂取量を減らすことが最も重要であり、あわせて減塩、節酒、野菜の摂取、運動習慣づくりを指導する。
選択肢考察
- ○a. 「エネルギー摂取量を減らしましょう」
正しい。本例の食事は、大盛りの主食や揚げ物、毎日の間食、会食時のコース料理、さらに多量の飲酒が重なり、デスクワーク中心で運動もしない生活と比べて明らかにエネルギー過剰である。BMI 26.7、腹囲89cmの内臓脂肪型肥満が、高血圧やトリグリセリド高値の土台となっている。エネルギー摂取量を減らして内臓脂肪を減らすことは、血圧・脂質・肝機能をまとめて改善させる、最も基本的で優先度の高い指導である。目安として、目標体重(BMI 22なら約65kg)1kgあたり25kcal程度を上限とした摂取量を目指し、まずは3〜6か月で現体重の3%以上の減量を目標にする。
- ×b. 「塩分はもう少し摂っても大丈夫です」
誤り。本例は血圧142/90mmHgと高血圧の域にあり、父親も高血圧で、本態性高血圧の素因が疑われる。食事にはラーメン、味噌汁、煮物、おでん、焼き鳥、中華料理など塩分の多い料理が目立ち、すでに食塩を多く摂っていると考えられる。高血圧の治療では減塩(目標は食塩6g/日未満)が基本であり、塩分摂取を増やしてよいという指導は不適切である。
- ×c. 「野菜の摂取もバランスがいいですね」
誤り。3日間の食事には煮物以外にほとんど野菜料理がなく、野菜不足は明らかである。野菜は食物繊維、カリウム、ビタミン類の供給源であり、食物繊維は満腹感を得やすくして過食を防ぎ、食後の血糖上昇やコレステロールの吸収を抑える。カリウムはナトリウムの排泄を促して血圧を下げる方向に働く。野菜の摂取を増やすよう勧めるのが適切で、バランスがよいと評価するのは誤りである。
- ×d. 「この程度のアルコールなら問題はありません」
誤り。節度ある適度な飲酒量は純アルコールで1日平均約20g(ビール中瓶または500mL缶1本、日本酒1合程度)とされ、男性で1日平均40g以上は生活習慣病のリスクを高める飲酒とされる。本例はほぼ毎日飲酒しており、ビール大瓶2本と紹興酒2合、ビール500mL 2本、ビール大瓶1本と日本酒2合など、この目安を大きく上回っている。γ-GTP高値(75IU/L)も習慣的な多量飲酒を反映していると考えられる。アルコールは1gあたり約7kcalとエネルギーが高く、トリグリセリドの上昇、血圧の上昇、脂肪肝の原因にもなるため、節酒の指導が必要である。
- ×e. 「蛋白質をもう少し摂取するようにしましょう」
誤り。朝食の卵2個と牛乳、中華料理、とんかつ、焼き鳥10本などから、蛋白質はすでに十分、むしろ過剰に摂取している。肉料理や揚げ物を増やせば脂質やエネルギーの摂取も増え、減量の妨げになる。また、肉類やビールに多いプリン体の過剰摂取は高尿酸血症・痛風のリスクを高め、これらはメタボリックシンドロームに合併しやすい。蛋白質の増量を勧める理由はない。
メタボリックシンドロームの概念
内臓脂肪の蓄積を基盤として、脂質異常、血圧高値、高血糖といった動脈硬化の危険因子が一人に重なって現れる病態である。個々の値は軽度の異常にとどまっていても、集積することで心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の危険性が大きく高まる。内臓脂肪組織からは、インスリン抵抗性を悪化させるTNF-αや遊離脂肪酸、血圧を上げるアンジオテンシノーゲン、血栓を作りやすくするPAI-1などが分泌される一方、動脈硬化を防ぐアディポネクチンの分泌は低下する。
日本の診断基準(2005年)
必須項目:腹囲(臍の高さのウエスト周囲径)男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm²以上に相当) 以下のうち2項目以上: ①トリグリセリド150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満 ②収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上 ③空腹時血糖110mg/dL以上 ※LDLコレステロールは診断項目に含まれない。本例のLDLコレステロール148mg/dLは、メタボリックシンドロームとは別に、脂質異常症(高LDLコレステロール血症、140mg/dL以上)として評価・管理が必要である。
特定健康診査・特定保健指導
40〜74歳を対象とした、メタボリックシンドロームに着目した健診と保健指導の制度である。腹囲や危険因子の数に応じて、動機付け支援や積極的支援が行われる。
生活習慣改善の要点
・食事:適正なエネルギー量(目標体重×25kcal程度を目安)、食塩6g/日未満(高血圧がある場合)、野菜・海藻・きのこ類など食物繊維の多い食品を増やす、飽和脂肪酸や単純糖質(菓子・清涼飲料)を控える。 ・飲酒:純アルコールで1日平均20g程度まで。休肝日を設ける。純アルコール量=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8(アルコールの比重)で計算する。 ・運動:ウォーキングなどの有酸素運動を中心に、1日30分以上・週150分以上を目安に行う。 ・減量目標:まず現体重の3%以上の減量を目指す。わずかな減量でも血圧・脂質・血糖が改善することが知られている。
二次性肥満の除外
肥満をみたら、Cushing症候群、甲状腺機能低下症、インスリノーマ、視床下部性肥満、薬剤性肥満(副腎皮質ステロイドなど)などの二次性肥満を念頭に置く。本例では身体所見に異常がなく、これらを示す病歴や検査値もないため、単純性肥満と考えてよい。
POINT
・メタボリックシンドロームの診断:腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)が必須+①脂質(TG 150mg/dL以上 かつ/または HDL-C 40mg/dL未満)②血圧(130/85mmHg以上)③空腹時血糖(110mg/dL以上)のうち2項目以上。LDLコレステロールは含まれない。 ・治療の基本は食事療法と運動療法による内臓脂肪の減少で、最優先はエネルギー摂取量の制限。 ・高血圧を伴えば減塩(6g/日未満)、飲酒量が多ければ節酒(純アルコール約20g/日まで)、野菜の摂取を増やす。 ・γ-GTP高値は習慣的な多量飲酒の手がかり。 ・BMI=体重(kg)÷身長(m)²、25以上が日本の肥満の基準。
