血圧は低いのに首の静脈が張る―中心静脈圧で見抜く閉塞性ショック
第108回医師国家試験 G問題 第34問
国試問題にチャレンジ
ショックを呈する病態で早期から中心静脈圧が上昇するのはどれか。2つ選べ。
- a.敗血症
- b.緊張性気胸
- c.食道静脈瘤破裂
- d.心タンポナーデ
- e.アナフィラキシー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
中心静脈圧は右心への静脈還流と右心の受け入れ能力のバランスを反映し、ショックの病態把握に役立ちます。心タンポナーデや緊張性気胸、肺血栓塞栓症といった閉塞性ショックでは右心への流入や右心からの流出が物理的に妨げられ、早期からCVPが上昇して頸静脈怒張がみられます。一方、出血による循環血液量減少性ショックや、敗血症・アナフィラキシーによる血液分布異常性ショックでは静脈還流が減りCVPは低下します。「低血圧+頸静脈怒張」は閉塞性(または右心不全を伴う心原性)ショックを示唆し、心嚢穿刺や胸腔ドレナージなど原因の解除を最優先すべきサインです。ショックの4分類と血行動態を結びつけて理解することは、救急現場での迅速な鑑別と治療選択の基盤となります。
解答・解説
正解はb, dです
ショックとは、組織への酸素供給が需要に見合わなくなり、細胞・臓器の機能障害が生じる急性の循環不全である。原因となる血行動態の異常によって、循環血液量減少性ショック、心原性ショック、閉塞性ショック、血液分布異常性ショックの4つに分類される。 中心静脈圧(CVP)は上大静脈から右心房付近の圧で、右心系への血液の戻り(静脈還流)と右心の受け入れ能力のバランスを反映する。正常値はおおむね5〜10cmH2O程度である。循環血液量が減ったり血管が拡張して血液が末梢にたまったりすると、右心に戻る血液が減ってCVPは低下する。反対に、心臓のポンプ機能が落ちたり、心臓の拡張や右心からの血液の流出が物理的に妨げられたりすると、戻ってきた血液が右心房の手前で渋滞し、CVPは上昇する。 したがって本問では、各病態がショックのどの分類に属するかを判断すればよい。閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症)は発症早期から静脈血の流入障害・うっ滞を起こし、CVPが上昇する。臨床的には頸静脈怒張として観察され、低血圧があるのに頸静脈が張っていることが、循環血液量減少性や血液分布異常性ショックとの鑑別点になる。
選択肢考察
- ×a. 敗血症
敗血症性ショックは血液分布異常性ショックに分類される。感染に対する過剰な炎症反応によって一酸化窒素などの血管拡張物質が放出され、末梢血管が拡張して全身血管抵抗が低下する。さらに血管透過性亢進により血漿が血管外へ漏出するため、有効な循環血液量が減り、静脈還流が低下してCVPは低下する。初期には心拍出量が増加して四肢が温かいウォームショックを呈することが多い。治療は十分な輸液、ノルアドレナリンなどの血管収縮薬、早期の抗菌薬投与と感染源の制御である。早期からCVPが上昇する病態ではないため誤りである。
- ○b. 緊張性気胸
緊張性気胸は、胸膜の損傷部が一方向弁のように働き、吸気ごとに胸腔内に空気がたまり続けて胸腔内圧が著しく陽圧となる病態である。縦隔が健側に偏位し、大静脈が圧迫・屈曲されるとともに、胸腔内圧の上昇で右心房への静脈還流が妨げられる。その結果、右心へ流入できない血液が静脈系にうっ滞してCVPが上昇し(頸静脈怒張)、心拍出量が低下して閉塞性ショックに陥る。患側の呼吸音減弱、打診での鼓音、気管の健側偏位が特徴で、画像検査を待たず臨床所見で診断し、直ちに胸腔穿刺による脱気と胸腔ドレナージを行う。よって正しい。
- ×c. 食道静脈瘤破裂
食道静脈瘤破裂では大量の吐血・下血が起こり、循環血液量減少性(出血性)ショックとなる。循環血液量そのものが失われるため静脈還流が減少し、CVPは低下する。代償として交感神経が緊張し、頻脈と末梢血管収縮(全身血管抵抗の上昇)、皮膚の蒼白・冷感がみられる。治療は輸液・輸血による循環の回復と、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や硬化療法などによる止血である。CVPが上昇する病態ではないため誤りである。
- ○d. 心タンポナーデ
心タンポナーデは、心膜腔に血液や滲出液が急速に貯留して心膜腔内圧が上昇し、心臓、特に壁の薄い右心系が拡張期に十分広がれなくなる病態である。右心房・右心室への血液流入が障害されるため、静脈系に血液がうっ滞してCVPが早期から上昇し、心室充満の低下によって心拍出量が減少して閉塞性ショックとなる。低血圧・頸静脈怒張・心音減弱のベックの三徴や、吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下する奇脈が特徴である。心エコーで心嚢液貯留と右心系の拡張期虚脱を確認し、心嚢穿刺による排液を行う。よって正しい。
- ×e. アナフィラキシー
アナフィラキシーショックは血液分布異常性ショックに分類される。肥満細胞や好塩基球から放出されるヒスタミンなどの化学伝達物質によって、末梢血管の拡張と血管透過性の亢進が急激に起こる。血管床が広がるうえに血漿が血管外へ漏出するため、静脈還流が減ってCVPは低下する。治療の第一選択はアドレナリンの筋肉内注射で、α作用による血管収縮とβ作用による気管支拡張・心収縮力増強を期待する。あわせて気道確保、酸素投与、大量輸液を行う。CVPが上昇する病態ではないため誤りである。
ショックの4分類と血行動態
1. 循環血液量減少性ショック CVP↓、心拍出量↓、全身血管抵抗↑ 原因:出血(外傷、消化管出血など)、高度脱水、広範囲熱傷 治療:輸液・輸血、出血源の止血 2. 心原性ショック 肺動脈楔入圧↑、心拍出量↓、全身血管抵抗↑(右心不全を伴えばCVP↑) 原因:急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎、心筋症、弁膜症 治療:強心薬・昇圧薬、血行再建、大動脈内バルーンパンピング(IABP)や補助人工心臓などの補助循環 3. 閉塞性ショック CVP↑、心拍出量↓、全身血管抵抗↑ 原因:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症 治療:原因の解除が最優先(心嚢穿刺、胸腔穿刺・ドレナージ、血栓溶解療法や血栓除去) 4. 血液分布異常性ショック CVP↓、全身血管抵抗↓(敗血症の初期は心拍出量↑のことが多い) 原因:敗血症、アナフィラキシー、神経原性ショック(脊髄損傷など) 治療:輸液と血管収縮薬(敗血症ではノルアドレナリン、アナフィラキシーではアドレナリン筋注)。神経原性ショックでは交感神経が遮断されるため徐脈を伴いやすく、輸液・血管収縮薬に加え、徐脈にはアトロピンを用いる。
補足
肺血栓塞栓症では右心系の流出路が閉塞するためCVPは上昇するが、左心への血液流入はむしろ減るため肺動脈楔入圧は正常〜低下する。心タンポナーデや緊張性気胸と同じく閉塞性ショックでも、左心側の圧の動きは病態によって異なる。
身体所見での見分け方
低血圧+頸静脈怒張:閉塞性ショック、心原性ショック(右心不全を伴う場合) 低血圧+頸静脈虚脱:循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショック 皮膚が温かい:敗血症初期、神経原性ショック 皮膚が冷たく湿潤:出血性、心原性、閉塞性ショック
POINT
・早期からCVPが上昇するショックは閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症)である。心原性ショックでも上昇しうる。 ・循環血液量減少性ショック(出血、脱水)と血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性)ではCVPは低下する。 ・低血圧に頸静脈怒張を伴えば閉塞性ショックを疑い、原因の解除(心嚢穿刺、胸腔ドレナージ)を最優先する。 ・心タンポナーデのベックの三徴:低血圧、頸静脈怒張、心音減弱。
