抗菌薬が招いた下痢を抗菌薬で治す―偽膜性腸炎の「効く薬」と「起こす薬」
第108回医師国家試験 G問題 第35問
国試問題にチャレンジ
偽膜性腸炎の治療薬はどれか。2つ選べ。
- a.セフメタゾール
- b.バンコマイシン
- c.ミノサイクリン
- d.クリンダマイシン
- e.メトロニダゾール
対話形式の解説
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ドクターまとめ
偽膜性腸炎は、抗菌薬による菌交代現象でClostridioides difficileが増殖し、その毒素が大腸粘膜を傷害して偽膜を形成する疾患です。治療は原因抗菌薬の中止と補液に加え、腸管内で作用する経口バンコマイシン、メトロニダゾール、フィダキソマイシンを用い、現在は経口バンコマイシンやフィダキソマイシンが優先される傾向にあります。一方、クリンダマイシン、セフェム系、ペニシリン系、ニューキノロン系などは偽膜性腸炎の原因となりやすい薬剤で、治療薬にはなりません。止痢薬は巨大結腸症のリスクを高めるため避け、芽胞にはアルコールが効きにくいので石けんと流水による手洗いと環境消毒が重要です。同じ「抗菌薬」でも原因薬と治療薬を区別して理解することは、日常診療での安全な抗菌薬使用と院内感染対策の基盤になります。
解答・解説
正解はb, eです
偽膜性腸炎は、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile、旧名 Clostridium difficile)が産生する毒素(トキシンAおよびトキシンB)によって起こる大腸炎で、C. difficile感染症(CDI)の代表的な病型である。抗菌薬の投与によって腸内の正常細菌叢が乱れる(菌交代現象)と、もともと抗菌薬に抵抗性をもつC. difficileが異常に増殖し、毒素が大腸粘膜を傷害する。粘膜表面にはフィブリン・白血球・壊死した上皮などからなる黄白色の小隆起(偽膜)が形成される。 ほぼすべての抗菌薬が原因となりうるが、特にクリンダマイシン、セフェム系、ペニシリン系(アンピシリンなど)、ニューキノロン系が危険性の高い薬剤として知られる。投与方法は経口に限らず、注射でも発症する。抗菌薬投与中から中止後数週間の間に発症することが多い。 治療の原則は、原因となった抗菌薬をできるだけ中止し、脱水を補正したうえで、C. difficileに有効な薬剤を投与することである。有効な薬剤は、腸管内でC. difficileに作用できるバンコマイシン(経口)とメトロニダゾール、および近年登場したフィダキソマイシンである。本問では、この知識をもとに、C. difficileに有効な薬剤と、むしろ偽膜性腸炎の原因となりやすい薬剤を見分ければよい。
選択肢考察
- ×a. セフメタゾール
セフメタゾールは第2世代セフェム系に位置づけられるセファマイシン系抗菌薬で、主に注射で用いられる。グラム陰性桿菌や嫌気性菌(バクテロイデスなど)に抗菌力をもち、腹部手術の予防投与などに使われるが、C. difficileには無効である。むしろセフェム系は腸内細菌叢を乱し、偽膜性腸炎の原因となりやすい薬剤群であるため、治療薬として誤りである。
- ○b. バンコマイシン
バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬で、細胞壁合成を阻害し、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含むグラム陽性菌に強い抗菌力をもつ。グラム陽性桿菌であるC. difficileにも有効である。経口投与ではほとんど吸収されず、腸管内で高濃度が得られるため、偽膜性腸炎の治療には経口で用いる(通常1回125mgを1日4回、10日間)。重症例でも第一選択となる薬剤であり、正しい。なお、静注では腸管内腔に十分移行しないため、偽膜性腸炎の治療としては効果が期待できない。
- ×c. ミノサイクリン
ミノサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬で、リボソームの30Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害する。マイコプラズマ、クラミジア、リケッチアなど細胞内寄生菌を含む幅広い菌に用いられるが、偽膜性腸炎の治療薬ではない。広域スペクトルをもつため、使用によって菌交代現象を起こしうる側の薬剤である。誤りである。
- ×d. クリンダマイシン
クリンダマイシンはリンコマイシン系抗菌薬で、リボソームの50Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害する。抗菌スペクトルはマクロライド系に似ており、嫌気性菌やグラム陽性球菌に有効である。腸内の嫌気性菌叢を強く抑制するため、偽膜性腸炎を起こしやすい代表的な薬剤として古くから知られている。治療薬ではなく原因薬となるため誤りである。
- ○e. メトロニダゾール
メトロニダゾールはニトロイミダゾール系の薬剤で、嫌気性菌や原虫の細胞内で還元されて活性体となり、DNAを傷害して殺菌的に作用する。嫌気性菌であるC. difficileに有効で、偽膜性腸炎の治療に用いられる(通常1回500mgを1日3回、10日間の経口投与。経口投与が困難な場合は静注も可能)。したがって正しい。そのほか、トリコモナス症、細菌性腟症、アメーバ赤痢、ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)、ヘリコバクター・ピロリ除菌(二次除菌)にも用いられる。かつては非重症例の第一選択とされたが、現在は再発率や治療効果の点から経口バンコマイシンやフィダキソマイシンが優先される傾向にあり、メトロニダゾールは非重症例の選択肢の一つとして位置づけられている。
偽膜性腸炎(C. difficile感染症)の概要
危険因子:抗菌薬の使用、高齢、入院・長期療養施設入所、免疫抑制(ステロイド、抗腫瘍薬など)、プロトンポンプ阻害薬の使用、重篤な基礎疾患。 症状:水様性下痢、腹痛、腹部膨満、発熱。重症例では白血球増多、脱水、低アルブミン血症、腎機能障害をきたし、中毒性巨大結腸症や腸管穿孔に至ることがある。
診断
便中のC. difficile抗原(グルタミン酸脱水素酵素:GDH)と毒素の検出、または毒素遺伝子の核酸増幅検査で行う。下部消化管内視鏡では、直腸からS状結腸を中心に、円形〜卵円形の黄白色の小隆起(偽膜)が多発する像がみられる。
治療
1. 原因抗菌薬の中止(可能な限り) 2. 輸液による脱水・電解質の補正 3. C. difficileに対する薬物療法 ・非重症例:経口バンコマイシン、フィダキソマイシン、またはメトロニダゾール ・重症例:経口バンコマイシンまたはフィダキソマイシン ・劇症例(ショック、イレウス、巨大結腸症):高用量の経口(または経鼻胃管・注腸)バンコマイシンにメトロニダゾール静注を併用し、必要に応じて外科的に結腸切除を行う 4. 再発例:フィダキソマイシンやバンコマイシンの漸減・パルス療法、糞便微生物移植など 腸管蠕動を抑える止痢薬(ロペラミドなど)は毒素の排出を妨げ、中毒性巨大結腸症の危険を高めるため避ける。
感染対策
C. difficileは芽胞を形成し、アルコール消毒薬が効きにくい。流水と石けんによる手洗い、接触予防策、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒が重要である。
POINT
・偽膜性腸炎は抗菌薬による菌交代現象でC. difficileが増殖し、毒素により大腸炎を起こす疾患である。 ・治療は原因抗菌薬の中止と、経口バンコマイシンまたはメトロニダゾール(ほかにフィダキソマイシン)の投与である。 ・バンコマイシンは腸管から吸収されないため経口で用いる。 ・クリンダマイシン、セフェム系、ペニシリン系、ニューキノロン系は偽膜性腸炎の原因となりやすい。 ・止痢薬は禁忌的に避ける。芽胞にはアルコールが効きにくく、石けんと流水による手洗いが必要である。
