「切る」か「当てる」か―根治照射が主役になる癌、ならない癌
第108回医師国家試験 G問題 第27問
国試問題にチャレンジ
根治目的の放射線治療の対象とならないのはどれか。
- a.病期Ⅲの上咽頭癌
- b.病期Ⅰの喉頭声門癌
- c.病期Ⅰの手術不能な非小細胞肺癌
- d.病期Ⅰの大腸癌
- e.病期Bの前立腺癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
根治目的の放射線治療が選ばれるのは、放射線感受性が高い、手術が解剖学的に難しい、手術で失う機能が大きい、全身状態から手術ができない、といった条件を満たす局所の癌です。上咽頭癌は局所進行例でも同時化学放射線療法で根治を目指し、早期声門癌は放射線単独で発声機能を保ちながら高い局所制御が得られ、手術不能な病期Ⅰ非小細胞肺癌には定位放射線治療、限局性前立腺癌には外部照射や小線源療法が根治治療となります。一方、病期Ⅰの大腸癌は内視鏡的切除や外科的切除で高い治癒率が得られ、結腸は動きやすく小腸が隣接するため根治照射の対象にはなりません。直腸癌の術前化学放射線療法は主に局所進行例が対象で、緩和照射は骨転移や脊髄圧迫などの症状緩和に用いられます。「なぜその癌に放射線を選ぶのか」を理由とともに理解しておくと、各癌の標準治療を体系的に整理でき、集学的治療の方針決定にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
テーマ
放射線治療には、癌を治しきることを目指す根治照射と、痛みや出血、神経症状などの症状を和らげることを目的とする緩和照射がある。根治照射が選ばれるのは、おおむね次のような場合である。 ・腫瘍が放射線によく反応し(放射線感受性が高い)、照射で局所制御が十分に期待できる。 ・解剖学的に手術が難しい、または手術で失われる機能(発声、嚥下、排尿・性機能など)が大きく、照射で臓器や機能を温存できる。 ・患者の全身状態や合併症のために手術ができない。 ・病変が局所・領域リンパ節にとどまり、照射範囲に収まる。
正解を導く考え方
各選択肢の癌について、標準治療のなかで放射線治療が根治的な手段として位置づけられているかを考える。上咽頭癌、早期の声門癌、手術不能な早期非小細胞肺癌、限局性前立腺癌は、いずれも放射線治療(単独または化学療法・内分泌療法との併用)で根治を目指せる代表的な癌である。一方、早期の大腸癌(結腸癌)は内視鏡的切除や外科的切除で高い治癒率が得られ、放射線治療が根治目的で選ばれることはない。本問は「対象とならないもの」を選ぶ問題であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. 病期Ⅲの上咽頭癌
上咽頭は頭蓋底に接した深部にあり、周囲に脳神経や大血管が走るため、原発巣の外科的切除は困難である。一方、上咽頭癌は多くが低分化〜未分化の扁平上皮癌で、放射線や抗癌薬への感受性が高い。このため根治治療の中心は放射線治療であり、病期Ⅲのような局所進行例では、シスプラチンなどを併用する同時化学放射線療法が標準治療となる。根治目的の放射線治療の対象である。
- ×b. 病期Ⅰの喉頭声門癌
声門癌は声帯に発生し、早期から嗄声が出るため発見されやすい。また声門部はリンパ流が乏しく、リンパ節転移を起こしにくい。病期Ⅰでは放射線単独の外部照射で約90%前後の高い局所制御率が得られ、手術と違って声帯を温存し発声機能を保てるため、根治的放射線治療が標準的な選択肢となっている(喉頭温存を目的に、症例により経口的な喉頭部分切除が選ばれることもある)。
- ×c. 病期Ⅰの手術不能な非小細胞肺癌
病期Ⅰの非小細胞肺癌の標準治療は手術(肺葉切除など)であるが、高齢や心肺機能の低下などで手術ができない場合には、放射線治療が根治的な代替手段となる。とくに定位放射線治療(SBRT: 多方向から腫瘍に線量を集中させ、少ない回数で大線量を照射する方法)では、手術に近い局所制御率が報告されている。早期例では原則として放射線単独で行い、化学療法の同時併用は局所進行例(病期Ⅲ)で行われる。いずれにせよ根治目的の放射線治療の対象である。
- ○d. 病期Ⅰの大腸癌
病期Ⅰの大腸癌(固有筋層までにとどまり、リンパ節転移や遠隔転移のないもの)は、内視鏡的切除や、リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下または開腹による外科的切除で高い治癒率が得られるため、切除が第一選択である。結腸は腸管の蠕動や呼吸で位置が大きく動き、周囲に放射線に弱い小腸が接しているため、結腸癌を根治目的に照射することはない。直腸癌では術前化学放射線療法が行われることがあるが、その対象は主に局所進行例(病期Ⅱ・Ⅲ)であり、病期Ⅰは手術が標準である。したがって根治目的の放射線治療の対象とならない。
- ×e. 病期Bの前立腺癌
病期B(Jewett-Whitmore分類で、癌が前立腺内に限局し直腸診で触知できるもの。TNM分類のT2におおむね相当)の前立腺癌は根治が期待できる段階であり、根治的前立腺全摘除術と並んで、強度変調放射線治療(IMRT)などの外部照射や、小線源療法(放射性物質を前立腺内に埋め込む組織内照射)が根治治療として用いられる。リスクに応じて内分泌療法を放射線治療と併用する。年齢や余命、リスク分類によっては、すぐには治療せず定期的に経過をみる監視療法(PSA監視療法)が選ばれることもある。根治目的の放射線治療の対象である。
根治照射が主役となる代表的な癌
・頭頸部癌: 上咽頭癌、早期喉頭癌(とくに声門癌)、中咽頭癌など。機能温存の利点が大きい。 ・子宮頸癌: 局所進行例では同時化学放射線療法が標準である。外部照射と腔内照射を組み合わせる。 ・食道癌: 手術と並ぶ根治治療として化学放射線療法が行われる。 ・肺癌: 手術不能の早期非小細胞肺癌には定位放射線治療、局所進行(病期Ⅲ)の非小細胞肺癌には同時化学放射線療法、限局型小細胞肺癌には化学放射線療法。 ・前立腺癌: 限局癌に対して外部照射(IMRTなど)や小線源療法。 ・悪性リンパ腫(限局期)、皮膚癌、膀胱癌の膀胱温存療法など。
大腸癌の治療と放射線
結腸癌は切除が中心で、放射線治療は根治目的には用いられない。直腸癌では、局所進行例(病期Ⅱ・Ⅲ)に対して局所再発を減らす目的で術前化学放射線療法が行われることがある。そのほか、骨転移の疼痛や骨盤内再発による症状に対する緩和照射が行われる。
緩和照射の主な対象
骨転移による疼痛・病的骨折の予防、脊髄圧迫、脳転移、腫瘍からの出血、上大静脈症候群などの圧迫症状。
前立腺癌の病期分類(Jewett-Whitmore分類)
A: 偶然発見された触知不能な癌、B: 前立腺内に限局し触知可能な癌、C: 前立腺被膜を越えて周囲に浸潤しているが転移のない癌、D: リンパ節転移や遠隔転移のある癌。現在はTNM分類とリスク分類(PSA値、Gleasonスコア、T分類)を組み合わせて治療法を決める。
POINT
・根治照射の対象: 放射線感受性が高い、手術困難、機能温存が重要、手術不能な全身状態のいずれかに当てはまる局所の癌。 ・上咽頭癌は手術困難で放射線感受性が高く、局所進行例は同時化学放射線療法が標準。 ・早期声門癌は放射線単独で高い制御率が得られ、発声機能を温存できる。 ・手術不能な病期Ⅰ非小細胞肺癌は定位放射線治療の適応。 ・限局性前立腺癌は手術と並んで外部照射・小線源療法が根治治療となる。 ・病期Ⅰの大腸癌は内視鏡的切除または外科的切除が第一選択で、根治照射の対象ではない。
