StudyMed医師国家試験

その行為に「指示」は要る?―ALS在宅チームで読み解く多職種の役割と法的な線引き

第108回医師国家試験 G問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第20問

在宅人工呼吸器管理中の筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉患者の在宅支援チームによる活動のなかで,医師の指示が必要なのはどれか。

  1. a.看護師による清拭
  2. b.歯科医師による口腔内処置
  3. c.言語聴覚士による嚥下訓練
  4. d.介護福祉士による体位変換
  5. e.介護支援専門員によるケアプラン作成

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人工呼吸器をつけて在宅療養しているALS患者さんを支える多職種チームの問題だ。問われているのは医学知識というより、「どの職種のどの行為に医師の指示が必要か」という法制度の理解。判断の軸は、その行為が医療行為、つまり診療の補助にあたるかどうかだよ。
医学生医学生
医師の指示が必要なのは、医師以外の職種全部というわけではないんですか。
ドクタードクター
そこが最初のポイントだね。医療関係職種は大きく分けると、医師・歯科医師のように自らの判断で診療を行える職種と、看護師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のように診療の補助を医師(職種によっては歯科医師)の指示の下で行う職種がある。さらに介護福祉士や介護支援専門員は福祉・介護の職種で、日常生活の介助やサービス調整には医師の指示を前提としない。
医学生医学生
公衆衛生の講義で医療職の資格法を一通り習いましたが、職種ごとに覚えるのは大変そうです。
ドクタードクター
職種だけでなく「行為の性質」で考えると整理しやすいよ。同じ職種でも、行為によって指示の要否が変わるからね。まず看護師による清拭はどうかな。
医学生医学生
看護師さんは医師の指示で動くイメージがあるので、指示が必要だと思ってしまいました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。保健師助産師看護師法では、看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」の二本立てになっている。指示が必要なのは後者で、薬剤投与や吸引などがそれにあたる。清拭は体を拭いて清潔を保つケアだから療養上の世話で、看護師が自らの専門的判断で行えるんだ。
医学生医学生
なるほど、看護師の判断で行える領域があるんですね。病棟実習で看護師さんが患者さんの皮膚の状態を見ながら清拭の方法を工夫していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが看護の専門性だね。次に歯科医師による口腔内処置は?
医学生医学生
歯科医師は医師とは別の独立した資格なので、医師の指示は受けない、ですよね。
ドクタードクター
その通り。歯科医師は歯科領域の診断と処置を自らの判断で行う。在宅では訪問歯科診療という形で関わることが多いね。人工呼吸器を装着している患者さんでは、口腔内の衛生状態が人工呼吸器関連肺炎や誤嚥性肺炎に関わるから、歯科の役割はとても大きいんだ。
医学生医学生
では言語聴覚士による嚥下訓練が正解でしょうか。STさんがリハビリ室で嚥下造影を見ながら訓練内容を決めていたのを、リハビリテーション科の実習で見学しました。
ドクタードクター
正解だ。言語聴覚士は言語・聴覚・摂食嚥下の障害に対する訓練を担う職種だけれど、言語聴覚士法では嚥下訓練や人工内耳の調整などは医師または歯科医師の指示の下に行うと定められている。嚥下訓練は誤嚥や窒息の危険を伴う医療行為で、嚥下機能の評価と全身状態を踏まえた判断が欠かせないからだ。在宅で訪問リハビリとして行う場合も、医師の指示に基づいて実施する。
医学生医学生
「歯科医師の指示でもよい」というのは意外でした。口腔の機能に関わるからですね。
ドクタードクター
そう理解しておくといい。では介護福祉士による体位変換は?
医学生医学生
褥瘡予防のための日常の介護なので、指示は要らないと思います。
ドクタードクター
正しい。ただし注意点がある。一定の研修を修了した介護福祉士が行う喀痰吸引や経管栄養は医療的ケアに該当し、医師の指示の下で行う必要がある。人工呼吸器を装着したALS患者さんは吸引の機会が多いから、この区別は臨床でもとても大事なんだ。
医学生医学生
同じ介護福祉士でも、体位変換と吸引で扱いが変わるということですね。ケアマネジャーのケアプラン作成はどうでしょう。主治医意見書が関わるので少し迷います。
ドクタードクター
いい疑問だね。介護支援専門員は、本人の心身の状態や本人・家族の希望をもとに、介護サービスの種類や日程を組み立てたケアプランを作成する。これは介護保険制度に基づく調整業務で、医師の指示で行うものではない。訪問看護などの医療系サービスを組み込む際に主治医の意見を求めるのは、あくまで連携と情報共有なんだ。
医学生医学生
整理すると、医療行為、つまり診療の補助なら指示が必要、生活の支援や介護、独立した診療なら不要、という軸ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後にALSの在宅療養について補足しよう。ALSは上位・下位運動ニューロンが進行性に変性する疾患で、球麻痺による構音・嚥下障害を経て、最終的に呼吸筋麻痺に至る。胃瘻造設、非侵襲的陽圧換気、気管切開下陽圧換気へと段階的に移行する例が多い。眼球運動や感覚は比較的保たれやすいので、文字盤や視線入力装置でのコミュニケーションが支えになる。療養期間が長く医療と介護の両方が必要だから、多職種チームが欠かせないんだ。
医学生医学生
訪問看護も医師の訪問看護指示書に基づいて始まるんでしたよね。在宅医療の実習で、先生が指示書を書いているのを見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。在宅医は指示書や意見書を通じてチーム全体の動きを支える立場になる。それぞれの職種が何を自らの判断で行え、何に医師の指示が要るのかを知っておくことは、チームで安全に患者さんを支えるための基本なんだ。

まとめ

在宅療養を支える多職種チームでは、行為が医療行為(診療の補助)にあたるか、生活の支援・介護や独立した診療にあたるかで医師の指示の要否が決まります。言語聴覚士の嚥下訓練は誤嚥や窒息の危険を伴う医療行為であり、言語聴覚士法により医師または歯科医師の指示の下で行うと定められています。一方、看護師の清拭は「療養上の世話」、介護福祉士の体位変換は日常の介護、ケアマネジャーのケアプラン作成は介護保険上の調整業務であり、歯科医師は独立した診療資格のため、いずれも医師の指示は不要です。ただし介護福祉士の喀痰吸引・経管栄養や看護師の吸引・与薬などは医師の指示が必要で、人工呼吸器を装着したALS患者のケアでは特に重要な区別となります。各職種の法的な役割を理解することは、在宅医療で安全なチームケアを実践する土台になります。

解答・解説

正解はcです

在宅療養を支える多職種チームの中で、どの職種のどの行為に医師の指示が必要かを、それぞれの資格法の規定から判断する問題である。

考え方

医療関係職種は大きく二つに分けられる。一つは医師・歯科医師のように自らの判断で診療を行える職種、もう一つは看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのように、医療行為(診療の補助)を医師(職種によっては歯科医師)の指示の下で行う職種である。さらに介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)は福祉・介護の職種であり、日常生活の介助やサービス調整は医師の指示を前提としない。 注意したいのは、同じ職種でも「行為の性質」によって指示の要否が変わる点である。例えば看護師の業務は保健師助産師看護師法で「療養上の世話」と「診療の補助」に分けられ、医師の指示が必要なのは後者である。介護福祉士も、日常の介護には指示は不要だが、喀痰吸引や経管栄養を行う場合は医師の指示が必要となる。したがって、各選択肢の行為が「医療行為(診療の補助)」にあたるか、「生活の支援・介護」や「独立した診療」にあたるかを見極めればよい。 嚥下訓練は、嚥下機能を評価したうえで誤嚥のリスクを管理しながら行うリハビリテーション(医療行為)であり、言語聴覚士法で医師または歯科医師の指示の下に行うと定められている。これが正解である。

選択肢考察

  1. ×a.  看護師による清拭

    清拭は、入浴が難しい患者の身体を拭いて清潔を保つケアであり、看護師業務のうち「療養上の世話」に分類される。療養上の世話は看護師が自らの専門的判断で行える業務で、医師の指示は要しない。一方、薬剤投与や吸引などの「診療の補助」は医師の指示が必要である(保健師助産師看護師法)。人工呼吸器を装着したALS患者では浴槽での入浴が難しいことが多く、清拭は在宅での重要な清潔ケアとなるが、指示の要否とは別問題である。

  2. ×b.  歯科医師による口腔内処置

    歯科医師は医師と同様に独立して診療を行う資格であり、歯科領域の診断・処置は自らの判断で行う。医師の指示を受ける立場にはない。在宅では、家族やケアマネジャーの依頼を受けて訪問歯科診療が行われるのが一般的である。なお、人工呼吸器装着患者では口腔内の衛生状態が人工呼吸器関連肺炎(VAP)や誤嚥性肺炎の発生に関わるため、口腔ケア・歯科処置の意義は大きい。

  3. ○c.  言語聴覚士による嚥下訓練

    言語聴覚士(ST)は、言語・聴覚・摂食嚥下の障害に対する訓練を担う職種である。言語聴覚士法では、嚥下訓練や人工内耳の調整などは医師または歯科医師の指示の下に行うと規定されている。嚥下訓練は誤嚥や窒息の危険を伴う医療行為であり、嚥下機能の評価と全身状態を踏まえた判断が必要だからである。在宅で訪問リハビリテーションとして行う場合も、医師がリハビリテーションの指示書(処方)を作成し、それに基づいて実施する。

  4. ×d.  介護福祉士による体位変換

    体位変換は褥瘡予防などを目的とした日常生活上の介護であり、医療行為ではないため医師の指示は不要である。介護福祉士は施設だけでなく訪問介護として在宅でも活動する。ただし、一定の研修を修了した介護福祉士が行う喀痰吸引や経管栄養は医療的ケアに該当し、医師の指示の下で行う必要がある。人工呼吸器装着中のALS患者では吸引の機会が多いので、この区別は押さえておきたい。

  5. ×e.  介護支援専門員によるケアプラン作成

    介護支援専門員(ケアマネジャー)は、要介護認定を受けた人の心身の状態や本人・家族の希望をもとに、利用する介護サービスの種類・内容・日程を組み立てたケアプラン(居宅サービス計画)を作成する。これは介護保険制度に基づく調整業務であり、医師の指示で行うものではない。訪問看護など医療系のサービスを計画に組み込む際には主治医の意見を求めるが、これは連携・情報共有であって、ケアプラン作成そのものが医師の指示を要するわけではない。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の在宅療養

ALSは上位・下位運動ニューロンが進行性に変性する疾患である。四肢の筋力低下や球麻痺(構音障害・嚥下障害)が進み、最終的には呼吸筋麻痺に至る。経過中に胃瘻造設、非侵襲的陽圧換気(NPPV)、気管切開下陽圧換気(TPPV)へと移行する例が多い。眼球運動や感覚、膀胱直腸機能は比較的保たれやすく、文字盤や視線入力装置でのコミュニケーションが用いられる。療養期間が長く、医療と介護の双方が必要なため、在宅では多職種によるチームケアが不可欠となる。なおALSは指定難病であり、医療費助成の対象である。

在宅支援チームの主な職種と医師の指示

・医師:訪問診療、各種指示書(訪問看護指示書、リハビリテーション指示など)の発行 ・歯科医師:独立して訪問歯科診療を行う(医師の指示は不要) ・看護師:療養上の世話は指示不要、診療の補助(吸引、人工呼吸器管理、与薬など)は医師の指示が必要。訪問看護は医師の訪問看護指示書に基づいて開始される ・理学療法士・作業療法士:医師の指示の下で理学療法・作業療法を行う ・言語聴覚士:嚥下訓練・人工内耳の調整などは医師または歯科医師の指示の下で行う ・介護福祉士・訪問介護員:日常生活の介護は指示不要。喀痰吸引・経管栄養は医師の指示が必要 ・介護支援専門員:ケアプラン作成・サービス調整(医師の指示は不要)

POINT

・医療行為(診療の補助)は医師の指示が必要、生活の支援・介護は不要という区別で判断する。 ・言語聴覚士の嚥下訓練は、医師または歯科医師の指示の下で行う。 ・看護師の清拭は「療養上の世話」であり指示不要。 ・歯科医師は独立した診療資格で、医師の指示は受けない。 ・介護福祉士の体位変換、ケアマネジャーのケアプラン作成は指示不要(ただし介護福祉士の喀痰吸引・経管栄養は指示が必要)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。