チューブの先端はどこにある?―ICUのポータブル写真で見抜く片肺挿管
第108回医師国家試験 G問題 第21問
国試問題にチャレンジ
集中治療室で撮影されたポータブル胸部エックス線写真を別に示す。 認められるのはどれか。

- a.右側に気胸がある。
- b.胃管の留置位置が深い。
- c.左下葉に無気肺がある。
- d.気管チューブの留置位置が深い。
- e.中心静脈カテーテルの留置位置が深い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
ICUのポータブル胸部エックス線写真では、肺野の評価に先立って、気管チューブ・中心静脈カテーテル・胃管などの先端位置を確認することが重要です。本問では気管チューブ先端が気管分岐部を越えて右主気管支に入っており、右片肺挿管と判断できます。右主気管支は太く走行が垂直に近いため深い挿管で右に入りやすく、放置すると非換気側の無気肺や低酸素血症、換気側の過膨張・気胸を招きます。適正位置の目安は、気管チューブが分岐部の約3〜5cm上、中心静脈カテーテルが上大静脈下部、胃管が胃内です。デバイス位置の系統的な確認は、集中治療や麻酔の現場で患者の安全を守る基本的な読影技術です。
解答・解説
正解はdです
集中治療室(ICU)で撮影されるポータブル胸部エックス線写真は、肺野や心陰影の評価だけでなく、体内に留置されたチューブやカテーテルの先端位置を確認する目的で頻繁に用いられる。本問ではこの「デバイスの位置確認」がテーマである。
読影の手順
ICUの写真では、まず写っている人工物をすべて拾い上げ、それぞれの先端がどこにあるかを確認し、そのうえで肺野・縦隔・胸膜腔・横隔膜下を系統的に見る。
本画像の所見
・気管チューブ:頸部から気管内を下行する太いチューブが見られるが、その先端は気管分岐部を越えて右主気管支の中まで進んでいる。適正位置(分岐部より数cm上)よりも明らかに深く、右主気管支への片肺挿管の状態である。 ・中心静脈カテーテル:右側から挿入され、先端は上大静脈内にあり、右心房まで達してはいない。 ・胃管:左上腹部の胃泡の領域に先端があり、胃内に留置されている。 ・肺野・胸膜腔:両肺とも透過性は保たれ、虚脱した肺の辺縁線(臓側胸膜線)や、無気肺を示す透過性低下・シルエットサインは認めない。 したがって、異常として指摘できるのは気管チューブの位置が深すぎることである。右主気管支は左主気管支に比べて太く、気管からの分岐角度が小さい(より垂直に近い)ため、チューブを深く進めすぎると右側に入りやすい。片肺挿管のまま換気を続けると、換気されない左肺の無気肺と低酸素血症、換気が集中する右肺の過膨張・圧損傷(気胸)を招くため、チューブを引き抜いて位置を修正する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 右側に気胸がある。
気胸では胸膜腔に空気がたまり、虚脱した肺の辺縁が細い線(臓側胸膜線)として見え、その外側には肺紋理(血管影)のない透過性の高い領域が広がる。本画像の右肺は末梢まで肺紋理が追え、胸膜線も確認できないため、気胸は認めない。なお、臥位で撮影されるポータブル写真では空気が前胸部や肋骨横隔膜角に集まりやすく、肋骨横隔膜角が深く明るく見える所見(deep sulcus sign)が手がかりとなることがある。
- ×b. 胃管の留置位置が深い。
胃管(経鼻胃管)の先端は、食道胃接合部を十分越えて胃内にあることが求められる。本画像では先端が左上腹部の胃泡の領域にあり、適切に胃内に留置されている。胃管で問題になりやすいのはむしろ「浅すぎる」場合(先端や側孔が食道内にあり、注入物の逆流・誤嚥を招く)や、誤って気管・気管支に入った場合である。挿入長は、鼻尖から耳朶を経て剣状突起までの距離を目安とし、挿入後はエックス線写真で先端位置を確認する。
- ×c. 左下葉に無気肺がある。
無気肺では含気が失われた肺葉が透過性の低下した領域として写り、容積減少に伴う縦隔や横隔膜の偏位を伴うことがある。左下葉の無気肺では、心陰影に重なる三角形の濃い影が見え、左横隔膜の輪郭(下行大動脈の輪郭も含む)が不鮮明になる(シルエットサイン陽性)。本画像では左横隔膜の輪郭は保たれ、心陰影の背後にも明らかな濃度上昇はない。ただし、右主気管支への片肺挿管を放置すれば、換気されない左肺全体に無気肺が生じうる点は押さえておきたい。
- ○d. 気管チューブの留置位置が深い。
気管チューブの先端は気管分岐部を越えて右主気管支内に入っており、深すぎる位置にある(右片肺挿管)。気管チューブの先端は、頸部の屈曲・伸展でチューブが数cm上下することを考慮し、気管分岐部より約3〜5 cm上(おおむね鎖骨内側端の高さ)に置くのが目安である。分岐部に近すぎると首の屈曲で片側主気管支に入り込み、浅すぎると首の伸展で抜けて声門付近に位置してしまう。門歯からの固定長は成人男性で約22〜23 cm、女性で約20〜21 cmが目安とされる。右主気管支は太く走行が垂直に近いため、深すぎる挿管は右側に入りやすい。挿管後は聴診による左右差の確認とエックス線写真による位置確認が必要である。
- ×e. 中心静脈カテーテルの留置位置が深い。
内頸静脈・鎖骨下静脈など上半身から挿入した中心静脈カテーテルは、先端を上大静脈の下部(右心房との接合部の手前)に置くのが基本である。胸部エックス線写真では気管分岐部の高さ付近が目安となる。先端が右心房内まで入ると不整脈や心壁の穿孔・心タンポナーデの原因となるため「深すぎる」状態は避ける。本画像のカテーテル先端は上大静脈内にとどまっており、適切な位置である。なお、大腿静脈から挿入する場合は先端を下大静脈に置く。
ICUのポータブル胸部エックス線写真で確認するデバイスと目安
・気管チューブ:先端は気管分岐部の約3〜5 cm上。深すぎると右主気管支への片肺挿管、浅すぎると事故抜管や声帯損傷の危険がある。頸部を屈曲するとチューブ先端は下がり、伸展すると上がる。 ・中心静脈カテーテル:上半身からの挿入では先端は上大静脈下部。右心房内は深すぎる。 ・胃管:先端は食道胃接合部を越えた胃内。気管内への誤挿入は重篤な合併症につながるため、栄養剤注入前に必ず位置を確認する。 ・その他:胸腔ドレーン、肺動脈カテーテル、ペースメーカリード、大動脈内バルーンパンピング(IABP、先端は左鎖骨下動脈分岐部の少し遠位の下行大動脈)なども位置確認の対象となる。
片肺挿管の臨床像
換気側の胸郭運動・呼吸音のみが聴取され、非換気側の呼吸音が減弱・消失する。気道内圧の上昇、酸素飽和度の低下をきたし、時間が経つと非換気側に無気肺が生じる。換気側では過膨張や圧損傷による気胸の危険がある。
ポータブル写真の特徴
多くは臥位または半座位の前後方向(AP)撮影であり、立位の後前方向(PA)撮影に比べて心陰影が拡大して見え、胸水や気胸は立位とは異なる分布をとるため、読影時に考慮する。
POINT
・ICUのポータブル胸部写真では、まず気管チューブ・中心静脈カテーテル・胃管などの先端位置を確認する。 ・気管チューブ先端の目安は気管分岐部の約3〜5 cm上。深すぎると右主気管支に入りやすい(右主気管支は太く走行が垂直に近い)。 ・片肺挿管を放置すると非換気側の無気肺・低酸素血症、換気側の過膨張・気胸を招く。 ・中心静脈カテーテル先端は上大静脈下部、胃管先端は胃内が適正位置。
