穿刺直後の息苦しさ―鎖骨下静脈穿刺で「出る所見」と「出ない所見」
第108回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
鎖骨下静脈穿刺後に,患者が息苦しさを訴えた。 手技の合併症と関連のない身体所見はどれか。
- a.皮下気腫
- b.頸静脈怒張
- c.胸部の鼓音
- d.呼吸音減弱
- e.汎〈全〉収縮期心雑音
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
鎖骨下静脈は肺尖部の胸膜に近接しているため、穿刺後に呼吸困難を訴えた場合はまず気胸を疑います。気胸では患側の呼吸音減弱と打診での鼓音がみられ、漏れた空気が皮下に及ぶと握雪感を伴う皮下気腫を生じます。一方弁機序で緊張性気胸に進展すると、静脈還流障害により頸静脈怒張、低血圧、頻脈をきたし、画像を待たずに直ちに脱気が必要です。これに対し汎収縮期心雑音は僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症などの心内逆流・短絡を反映する所見で、穿刺の合併症とは関連しません。手技の解剖学的背景から合併症を予測し、身体所見と結び付けて考えることは、超音波ガイド下穿刺や穿刺後の確認といった安全な手技の実践に直結します。
解答・解説
正解はeです
【状況の整理】鎖骨下静脈穿刺は、中心静脈カテーテルを留置する際の代表的な穿刺部位の一つである。鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を走行し、そのすぐ背側から下方には鎖骨下動脈と肺尖部の胸膜が近接している。そのため、穿刺針が深く入りすぎたり角度が不適切だったりすると、壁側胸膜と肺を貫いて気胸を起こしやすい。穿刺直後に息苦しさを訴えた場合、まず疑うべき合併症は気胸である。
気胸で生じる身体所見の考え方
・胸腔内に空気が貯留し肺が虚脱するため、患側の呼吸音が減弱し、打診では空気を反映した鼓音となる。 ・胸腔から漏れた空気が穿刺経路や縦隔を通って皮下組織に入り込むと、皮下気腫(触診で握雪感)を生じる。 ・胸膜の損傷部が一方弁(チェックバルブ)として働くと、吸気ごとに空気が胸腔内に入り続けて胸腔内圧が陽圧となる緊張性気胸へ進展する。縦隔が健側へ偏位し、上・下大静脈が圧排されて静脈還流が障害されるため、頸静脈怒張、低血圧、頻脈を呈し、閉塞性ショックに至る。 【設問の考え方】したがって、気胸(および緊張性気胸)で説明できる所見と、心臓の弁や中隔の構造異常を反映する所見とを区別すればよい。汎収縮期心雑音は後者に属し、本手技の合併症とは結び付かない。
選択肢考察
- ×a. 皮下気腫
手技の合併症と関連する所見である。気胸で胸腔内に漏れた空気が、穿刺経路や損傷した胸膜・縦隔を経て皮下組織に広がると皮下気腫を生じる。前胸部から頸部にかけての腫脹として現れ、触れると雪を握るような感触(握雪感)がある。
- ×b. 頸静脈怒張
手技の合併症と関連する所見である。気胸が緊張性気胸に進展すると、胸腔内圧が陽圧となって縦隔が健側に偏位し、大静脈が圧排されて右心系への静脈還流が妨げられる。その結果、頸静脈が怒張し、心拍出量が低下して血圧低下・頻脈などの閉塞性ショックに至る。緊張性気胸は画像検査を待たず、身体所見から診断して直ちに胸腔穿刺による脱気や胸腔ドレナージを行うべき緊急病態である。
- ×c. 胸部の鼓音
手技の合併症と関連する所見である。気胸では胸腔内に空気がたまるため、患側胸部を打診すると正常の清音よりも高く響く鼓音(過共鳴音)となる。
- ×d. 呼吸音減弱
手技の合併症と関連する所見である。気胸では肺が虚脱し、さらに胸腔内の空気が音の伝達を妨げるため、患側の呼吸音が減弱ないし消失する。声音振盪(胸壁に伝わる声の振動)も減弱する。
- ○e. 汎〈全〉収縮期心雑音
手技の合併症と関連しない所見である。汎収縮期心雑音は、収縮期の全体にわたって、I音からII音まで一定の強さで聴取される逆流性の雑音である。僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症など、収縮期に高圧腔から低圧腔へ血液が逆流・短絡する疾患で生じる。鎖骨下静脈穿刺による気胸・血胸・動脈誤穿刺などではこのような心内の逆流は起こらないため、本手技の合併症とは関連しない。
鎖骨下静脈穿刺の主な合併症
・気胸: 肺尖部の胸膜が近接するため起こりやすい。内頸静脈穿刺や大腿静脈穿刺よりも頻度が高い。 ・血胸: 鎖骨下動静脈の損傷により胸腔内へ出血する。 ・鎖骨下動脈誤穿刺: 鎖骨があるため圧迫止血が難しい点が問題となる。 ・空気塞栓: カテーテル挿入時に静脈内へ空気が引き込まれる。頭低位で穿刺・操作して予防する。 ・その他: 不整脈(ガイドワイヤーの心内刺激)、腕神経叢損傷、胸管損傷(左側)、カテーテル関連血流感染、血栓症。 合併症を減らすため、現在は超音波ガイド下での穿刺が推奨されており、穿刺後には胸部エックス線写真でカテーテル先端位置と気胸の有無を確認する。
緊張性気胸の身体所見
患側: 呼吸音減弱、鼓音、胸郭の膨隆・呼吸性運動の低下 全身: 頸静脈怒張、低血圧、頻脈、チアノーゼ、気管の健側偏位(後期の所見) 対応: 画像を待たずに胸腔穿刺(脱気)または胸腔ドレナージを行う。
汎収縮期雑音をきたす代表疾患
僧帽弁閉鎖不全症(心尖部、腋窩へ放散)、三尖弁閉鎖不全症(胸骨左縁下部、吸気で増強:Rivero-Carvallo徴候)、心室中隔欠損症(胸骨左縁第3〜4肋間)。
POINT
・鎖骨下静脈穿刺後の呼吸困難では、まず気胸を疑う。 ・気胸の所見: 患側呼吸音減弱、打診で鼓音、皮下気腫。 ・緊張性気胸では静脈還流障害により頸静脈怒張・低血圧をきたし、身体所見のみで診断して直ちに脱気する。 ・汎収縮期心雑音は僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症などの心内逆流・短絡を示し、気胸とは無関係である。
